色塗り
たとえば、たおれそうな木がそこにあるとするだろ?
そこに、飢餓をかかえた、老人が通りかかるのよ
老人は、へなへな、と、その木にもたれかかってたおれちまうのよ
はあはあ、とくるしそうに息をはくのよ
いのちがもれだしてるみてえに、
息をはくのよ 絶え間なくな
そうすると、そのたおれそうな木から、蜜がたまたまこぼれてきたのよ
その飢餓を抱えた老人のぽっかり空けた口元にとろけながらおちてきたのよ
老人は、おもわず、びっくりして、ごくりとのどをならして、蜜をすいこんだのよ
そうするとな、
すこし余裕ができたんだな
その倒れそうな木が、くるしそうなことがわかっちまったんだ
老人は思わず、その木になにかしてやりたくなったんだよ
自分のいのちをほんのすこしのばしてくれた木に
それは、木の意思ではなくて、ただただ、偶然の事柄だったとしても
老人には、命をのばしてもらえたことのみが重要で、そうして、それがうれしかったんだな
早速、よろよろとする身体を懸命にささえようとしながら、
なんとかかんとか、その倒れそうな木にいくらかのつっかえ棒をしてやって、
倒れないように木をささえてやったのよ
そうして、そのまま力尽きて、老人は、たおれちまったのよ
老人が、気がついたとき、あたりはすごい雨嵐でな
けれども、老人はちーっとも、濡れてはいないのよ
それどころか、ぽかぽか身体があったかくてな
ふわふわ良いにおいが辺りをおおっとるのよ
老人が辺りを見渡すと、そこは、緑のカーテンで覆われていたのよ
なんとな、老人は、一月あまりも意識をうしなっておったのよ
眠った状態にあったのよ
上をみあげたまま、口をあけたまま、それでも、意識はないままに、嚥下は身体の反応のまま出来ていた老人は
木から零れ落ちる花の蜜で、どうやらこうやら命をつないでおったのよ
倒れそうな木は、老人に支えてもらったおかげでな、
いのちを吹き返しておったのよ
切られた枝から、幹から、まんまるのまりものように、枝葉を伸ばしてな、
まるで、老人を守るように、緑のカーテンで、覆っていたのよ
雨風、寒さもしのげたままに、
老人は、無意識に木から零れ落ちる花の蜜から、命をつないでおったのよ
ひと月後に見つめた世界は、そりゃあすごい恐ろしいものであったけれども、
だからこそ、老人は眠った状態から息を吹き返せたのよ
いのちの息吹を思い出したのよ
世界は、へんてこで
偶然の積み重ねで、
世界は、ときに、不思議な関連性をもって
まったくかかわりのないものを不思議に結び付けるけれども
それらは、どのような選択の先であったとしても
つながっているのならば、
きっと、なにかしらの、未来と
選択の結果をみせつけるのよ
だれに?
その選択を選んだ者に、な
世界の選択はひとつではなく、
偶然は、偶然にすぎないものだとしても、
それを
それが
今の
あなたの立つ地面を
つくりあげているのよ
積み上げていった先が
きっと今であるのよ