表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

色塗り

作者:


 たとえば、たおれそうな木がそこにあるとするだろ?


 そこに、飢餓をかかえた、老人が通りかかるのよ


 老人は、へなへな、と、その木にもたれかかってたおれちまうのよ


 はあはあ、とくるしそうに息をはくのよ


 いのちがもれだしてるみてえに、


 息をはくのよ 絶え間なくな



 そうすると、そのたおれそうな木から、蜜がたまたまこぼれてきたのよ


 その飢餓を抱えた老人のぽっかり空けた口元にとろけながらおちてきたのよ


 老人は、おもわず、びっくりして、ごくりとのどをならして、蜜をすいこんだのよ


 そうするとな、


 すこし余裕ができたんだな


 その倒れそうな木が、くるしそうなことがわかっちまったんだ


 老人は思わず、その木になにかしてやりたくなったんだよ


 自分のいのちをほんのすこしのばしてくれた木に


 それは、木の意思ではなくて、ただただ、偶然の事柄だったとしても


 老人には、命をのばしてもらえたことのみが重要で、そうして、それがうれしかったんだな



 早速、よろよろとする身体を懸命にささえようとしながら、


 なんとかかんとか、その倒れそうな木にいくらかのつっかえ棒をしてやって、


 倒れないように木をささえてやったのよ



 そうして、そのまま力尽きて、老人は、たおれちまったのよ


 老人が、気がついたとき、あたりはすごい雨嵐でな


 けれども、老人はちーっとも、濡れてはいないのよ


 それどころか、ぽかぽか身体があったかくてな


 ふわふわ良いにおいが辺りをおおっとるのよ


 老人が辺りを見渡すと、そこは、緑のカーテンで覆われていたのよ


 なんとな、老人は、一月あまりも意識をうしなっておったのよ


 眠った状態にあったのよ



 上をみあげたまま、口をあけたまま、それでも、意識はないままに、嚥下は身体の反応のまま出来ていた老人は


 木から零れ落ちる花の蜜で、どうやらこうやら命をつないでおったのよ



 倒れそうな木は、老人に支えてもらったおかげでな、


 いのちを吹き返しておったのよ


 切られた枝から、幹から、まんまるのまりものように、枝葉を伸ばしてな、


 まるで、老人を守るように、緑のカーテンで、覆っていたのよ


 雨風、寒さもしのげたままに、


 老人は、無意識に木から零れ落ちる花の蜜から、命をつないでおったのよ



 ひと月後に見つめた世界は、そりゃあすごい恐ろしいものであったけれども、


 だからこそ、老人は眠った状態から息を吹き返せたのよ



 いのちの息吹を思い出したのよ



 世界は、へんてこで


 偶然の積み重ねで、


 世界は、ときに、不思議な関連性をもって


 まったくかかわりのないものを不思議に結び付けるけれども


 それらは、どのような選択の先であったとしても


 つながっているのならば、


 きっと、なにかしらの、未来と


 選択の結果をみせつけるのよ


 だれに?



 その選択を選んだ者に、な


 世界の選択はひとつではなく、


 偶然は、偶然にすぎないものだとしても、


 それを


 それが


 今の


 あなたの立つ地面を


 つくりあげているのよ


 積み上げていった先が


 きっと今であるのよ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 宮沢賢治みたい。 ……どうしてこんなものが書けるのでしょう。 じつは、最近は、思考をストレートに表した作品が多いなと思っていて、それだけ悩まれていたのだなとも思っていたのですが、 やっ…
[良い点] 語りかけるような調子が印象的な作品でした。 また、柔らかい雰囲気が漂っているところも良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ