表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

 面倒だ。ただ只管に面倒だ。よもやこんな事になろうとは。


 塀を越えて屋根伝いに駆けつつ質屋を探し、冒険者ぎるどなる大通りに面した大きな建物に当たりを付け入ってみたはいいが、「何故畜生が此処に居るのか。質屋かと思っておったが、違ったか」


 「ンダトォッ!!」


 「………靑、声に出していたか?」


 「えぇ、はい。私も理解出来るとは思っていませんでしたが」


 「…そうか」


 声に出していたか。これからはもう少し気を付けるようにするか。このような面倒は此れ切りにしたい。

 畜生は先程よりも更に顔を赤くし、面白い程に歪めながら大声で喚き散らす。やれ指導してやる、やれぱーてぃーを組めと喧しい他ない。そも、此処に来たのは換金のためでしかない。だというのに指導だぱーてぃーだの、煩わしいほかない。これ以上時を掛ける必要もないだろう。何より腹が減った。

 目の前の畜生の声を聞き流し、手綱を緩める。


 「白、やれ」


 返答は無い。代わりに、破砕音が響き渡る。余程腹に据えかえていたのだろう、畜生の頭はほとんど潰れていた。倒れるよりも先に解けて光へと溶けていく方が早かった。残されたのは、異様な程の沈黙だけ。


 「靑、交渉は任せた」


 「承知しました。今暫くお待ちください」


 「お待ちください。ここであのようなことをされては困ります」


 面倒が増えた。思わず溜息が零れそうになる。


 「知らぬ、存ぜぬ。喧しい畜生を一匹殺しただけであろう、何を気にする必要がある。そも何もせんかったのは其方であろうに。今更言われたところで、なあ」


 「それでもです。ここで争いを起こされてはかないません。今回は止めに入らなかったこちらに非がありますが、これ以降は控えてください」


 「……止めが入れば控えておこう。入らねば殺すまでよ」


 「………それで構いません。それで、買取ですか?ならば私が請け負います。こちらにいらしてください」


 意外や意外、存外話が分かるらしい。白を宥めつつ靑に続いて案内された奥の部屋へと歩みを進める。

 部屋の中は真ん中に大きな机がある広めの部屋だった。促されるが儘に机の上に乱雑に毛皮や牙を出していく。如何なっているのかは分からぬが、袖の中に全て収まっているようだ。重さは感じないのだがな。


 「…これらを、どこで?」


 「この町より未申の方に広がる森ですが。何か不都合でも?」


 「いえ、不都合などはございません。ただ、驚いたものですから。数日中にこの町に来るだろうとお祖母様から聞いておりましたが、こんなにも早くいらっしゃるとは」


 「………あぁ。何か覚えがあると思えば、其方あの椿の者か。となると其方の言うお祖母様とやらは、寒椿の隠居のことか?」


 「えぇ、その通りです。寒椿の直系にあたります」


 「そうか。ならば隠居に今度訪ねると伝えておいてくれ」


 「分かりました。お祖母様もお喜びになられることでしょう」


 よもやこのような所であの隠居の縁者と会おうとは。不思議なことよ、あの出不精とは正反対ではないか。


 「なぁ靑。寒椿の隠居ってェと、どれだ?」


 「そのままですよ。椿の分家筋の方ではなく、寒椿本家の御隠居です。そう言えば分かりますか、白」


 「あぁ、あの隠居か。出不精の引き籠りの」


 「その覚え方は如何かと思いますよ。事実ではありますが」


 そうは言ってもなぁ、とぼやく白。まぁそれも致し方無い事ではあるのだが。


 「えぇと、靑さん、でよろしいでしょうか。一先ず査定が終わりましたので交渉の方へと移りたいのですが、宜しいですか?」


 「此方は問題ありませんよ。交渉へ移りましょうか」


 彼方は特に問題無かろう。必要があれば聞いてくるだろうが、他は上手くやるだろう。






 それから暫く、どうやら買取の方は恙無く終わったらしい。二人して得物の手入れをしていた手を止め、此方に歩いてくる姿を眺める。どうやらそこそこの金には化けたらしい。夕餉の分程度なら足りるだろう。もう酉の刻も過ぎたところだ、丁度いい頃合いでもある。


 「此方は終わりました。どうやら滅多に出回らない物のようで、結構な金に化けましたよ」


 「私達としましてもいい取引をさせて頂きました。出来ればこれからもお願いしたいのですが、それは贅沢が過ぎるというものですかね」


 「ご苦労、靑。そうさな、余り狩り過ぎても良い事にはならんだろうよ。時機を見て度々持って来るようにはしよう」


 「ありがとうございます。そうしてくださると助かります」


 賢明なことよ。可笑しな欲をかくよりは遥かによかろう。やはり孫か、隠居に似ておる。

 さて、路銀の調達も出来たことだ。夕餉にしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ