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Eternal Illusion  作者: 七塚 蓮
第一章 新時代到来
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1-6 『彼女の腹はミンコフスキー時空』

「いやーなんという珍味。まさかモヤシと豚肉からこんな逸品が生まれてくるなんて想像もしていなかったぞ! 一体全体どうやったらこんな物ができるのか? 教えてくれ!」

「まぁ、数種類の調味料と肉とモヤシの比率を見極めて作ればいけるぞ。あと炒め方も少し工夫しているな」 


 時刻は日本時刻で午後七時半ぐらいといったところだ。空はすっかり暗くなり、昔より少し大きく見えるようになった月がこの森の中で数少ない明かりといったところだ。

 パキパキと真っ赤に燃える炎が零と少女の顔を赤く照らす中、零は薪の中に放り込んでいたサツマイモを木の枝で突きながら、今から数時間前の事を思い出していた。



……少女が飯を作れと言ってきて数分後。

地面が溶けるほどの暑さの中、汗を滝のように流しながら森の中を歩いて、どこか休憩場所が良いかと探していると、零の後ろを付いて来た少女がふと訪ねて来た。


「ところでお前、名前はなんと言うのだ?」

「あぁ、そういえば言っていなかったな。俺の名は……レイだ。普通にレイでいいぞ」


 あえて名前しか名乗らなかったのは、何となくだ。漢字表記、言い換えるなら日本語表記だと、今後、名前が他と違うなどの支障を起こす可能性があると思い、取りあえず片仮名表記で答えておくことにした。一応名前に入っているから後々バレても多少の言い訳は聞くはずだ。

 勿論そんな事情を知らない少女は零、改めレイの言っていることを鵜呑みした。


「レイか。私の名は……私の名は……私の名は、何だっけ? てか私は何故こんな所に居るんだっけ? そもそも私とは誰だ?」

「え。」


 まさかこいつも記憶喪失なのか? 俺みたいな部分的な物ではなく、全体的な記憶消失なのか? と驚いた顔をしてしまったレイ。ただそれだと不自然な点がある。能力らしき物を使えた理由だ。昔、レイは心理学の資料を読んだことがあって、そこに脳と能力の関係についての資料があった。


「(確か、『能力に必要な条件の一つである演算は、記憶の種類のうち、慣れや感作の非連合学習と技能や習慣の手続き記憶、記述記憶に分類される意味記憶とエピソード記憶を使っている』)」


「(『これらは全て長期記憶に入るため、記憶を消去することによって前までの能力を捨て、新しい能力を手に入れようとしても、論理上、長期記憶は消しても記憶した記録、コンピュータでいう履歴が残ってしまうので不可能である』)」


「(『しかしながら能力の使用方法は忘れてしまうため、もう一度覚え直す必要がある』……だったか。もしこれがすべて正しいかったら、こいつが使っているのは能力ではないな。いやでも、もう一度覚え直した可能性も捨てきれないか。ただ、後者は限りなくないと考えた方がいかもしれないけど)」


 後者の可能性が無いのは、少女はこの世界の事をあまり知らない事と、精神が幼いように感じるからだ。

 考え方が単純という事は、先の戦闘で解り切っている。この世界についての無知もそうだ。

 そんな事を考えていると、先ほどまで唸りながら思い出そうとしていた少女は、近場の巨木(直径三メートル、高さ三十メートル)を全力で殴ると、木はメキメキと悲鳴を上げながら倒れていった。


「   。」


 もはや点すら言えなくなってしまったレイは、ただただ倒れていった巨木を見つめていると、少女はどこかすっきりした顔をして、こう一言。


「うむ! そんな事は後で考えればいいや。レイ。私の名前を付けろ!」

「すまんツッコミどころがありすぎて、どこからツッコめば良いのか分からん! そして名前を付けろなんて重たい使命を押し付けてくるな!」


 けどまぁ、ここで拒否したら真っ先に殺されるだろうなと悟ってしまったので、ここはツッコミを入れるのを我慢して、今は名前を考える事だけに専念した。

 レリシーが気を配ってか、いくつもの名前候補リストをウインドウに表示させていく。主に外国系の名前が多いのは、ライトノベルやゲームが影響されているだろう。レイとレリシーは昔からその手の本はよく読んでいたので、思わずそうゆう答えを導き出してしまうのも仕方がないのかもしれない。

 けどレイは、それらを見ても何故かしっくりこなかった。しっくりこなかったというよりかは、言ってみたい名前があるけど、その名前を思い出せないのだ。

 だが、これ以上待たせるのも相手に悪いとレイは思い、目の前に広がっていたウインドウを全部消して、小鳥が泣くような小さな声で呟いた。


「……リンカ(・・・)。リンカなんてどうだ? 特に意味は無いけど」

「おお! 良いではないか! 気に入ったぞ」


 正体不明の少女、改めリンカは、自分の名前を歌を歌うように連呼していた。レイはそれを聞いて何となく恥ずかしくなった。勝手に決めた名前を喜んで連呼していたあら恥ずかしくなってくるのも当たり前だろう。親が生まれてきた子供に名前を付ける気分が、ほんの少しだけ理解できたような気がしたレイであった。



 そして今に至る。


「(あー恥ずかしい。本ッ当に恥ずかしい! 勝手に決めてしまった名前をこうも喜ばれると何も言えないけど、本当にあれでよかったのか? たかが名前を付けるのがこんなに恥ずかしいものだとは……)」


 と、少し顔を少し赤くしながら小声で呟いてしまうレイ。もっとマシな名前があったのにな……と少しばかり後悔していた。


「? どうしたのだレイ。 先ほどからだんまりして。腹でも壊したか?」

「腹は大丈夫だよ。ただ、いろんな意味で壊れそうだけどね……」

「『ピー』が無くなったのか?」

「はいそれアウト! もしこれがアニメ化されたら完全にアウトでしょ!」

「レイ、アニメとは何だ?」

「はっ!? はめられた、だと?」


 そんな茶番劇を繰り広げながら、レイはパキパキと赤く燃え上がる焚火を見つめて、タイミングよくサツマイモ取り出す。

 リンカが興味深そうに見つめてくる中、二度三度、手のひらでリズムよくバウンドさせて熱を冷まして、アルミホイル(これはレイが物質生成能力を使って出した)を手際よく外していく。途中何度か火傷しかけたが、どうにか外すことに成功し、予め用意していた布で包んでリンカに渡した。


「ほらよ。熱いからゆっくりく――」

「はむッ!!」


 リンカはレイの話を最後まで聞かずに、可愛らしい声を出しながら熱を冷まさず一口で食べた。

レイの手も一緒に。


「……ギャァァァァァァァァァ!?!?」

「もふ(あれ)? ももふもふふもふもふ(手も一緒に食べてしまった)?」

「いっ、いいから噛むのを止めろ! 俺の手も一緒に食べる気かー!?」


 リンカは器用に俺の手だけを出して再び食おうとするが、もちろん熱くておもわず吐き出しそうになる……が、食べ物は粗末にしない主義なのか、暑いのを我慢して一生懸命に食べようとしている。サツマイモを一口で食べるだけで大変なのに、さらに熱さまでもが加わると、食べるのは困難を極める。


「……あーもう! お前は猿か!?」


 それでもなお食べようとする姿を見て、レイは少し呆れた顔をしながら、焚火を使って沸騰し、綺麗にしておいた近場の川の水を、木を彫って作ったコップに入れて飲ませてあげた。


「はいこれ水。まったく、人の話は最後まで聞けよな」

むーむむむーむ(すまん! 助かった)!」


 リンカは一気に水を飲んで口の中にあったサツマイモを無理やり喉に通して、どうにかやり過ごしたようだ。さらりと流したが、サツマイモ丸々一本を飲み込むことができる人間って、いったいどんな口と喉を持っているのやら、レイは化け物の口を見たかのような錯覚を少ししてしまった。

 するとリンカはレイの方を、具体的に言うのであればレイが持っているもう一つのサツマイモをじーっと欲しそうな眼差しを向けていた。


「……何だよ。もしかして俺のサツマイモを狙っているのか?」


 リンカは顔をコクコクと上下に動かして、そうだとアピールをする。喋っていないのは、どうやらまだ完全に飲み込んではいないようだ。


「え? いやお前、さっきまでモヤシ炒めを食べただろ。それも軽く十人前! まだまだ入るなんてお前の腹はブラックホールかミンコフスキー時空か!?」

「うむ! あと百人分ぐらいは食べれるぞ」

「すまんお前を平凡な俺のものさしで測ったのが悪かった」


 平均的なモヤシ炒めの重さは、一人前で約二百グラム。十人前で二キロはあるのに、あと百人前だと合計二十二キロ、質量にして七千七百立方センチメートルになる(レイ調べによると)。そして、だいたい人の胃の最大容量は約五リットルなので常人の四倍は軽く超すことになる。もしこんな人間が四千万年前にいたら、食糧難により人類絶滅の期間が早まっていただろう。

 レイはしばしば呆れた顔をしながら、今だ喉つまりが解消されずにお爺さんみたいにせき込んでいるリンカを見つめていた。


「……だめか?」


 リンカは目を今にも泣きそうと言わんばかりに涙腺が崩壊しており、頬も少し膨らませて赤みを持っていた。

正直言って、可愛い。可愛すぎる。

どこか幼さを持っており、同じくらいの高校生の様なすらりとした細い足に、軽く握ってしまったら簡単に折れてしまいそうな腕、括れた腹に平均より大きい胸を持っているのに、幼女や少女の様な幼さが持つ可愛らしい顔をしていた。

 こんな顔を見てしまった断るわけにはいかない……ッ!!

 男の感がそう叫んでしまったのを無視できず、レイはサツマイモを半分に折って分けると、「んまあ、少しゆっくり食いながらお前の事を聞かせてくれ」と言いながらサツマイモを渡した。


「ありがハム!」

「だから俺の手も一緒に食べるなぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 以下カット。


 数秒後、というかレイが再び自らの手を取り戻せた直後。


「はぁはぁはぁ……。と、ところで、お前はいったい何者なんだ? そしてお前が使っているその力はいったい何なんだ?」

「ムシャムシャごくっ。うーん、何と言われても……。先ほども言ったように、私にはここ最近の記憶が無いから何者と言われて答えようがないのだ」

「では言い方を変えよう。さっきの戦闘で使った防御壁は一体どの様に使ったんだ?」


 何者かは取りあえず横に置いておくことにして、重要なのは先ほどの謎の力の方だ。

 演算を使っているならレイと同じ人間、違うなら新人類の可能性が極めて高い。ただ、新人類が同じ能力を使っている可能性もあるので、確実とは言えないのも事実なのだが。そして第三の答え、そのどちらにも属さない、オカルト用語から用いるなら『魔導』と言う可能性がある。

 正直言って、この第三の可能性、『魔導』があるとは、科学オンリーのレイとしては考えたくはなかった。

 魔導とはつまり、科学とは違う物という事だ。

 一見、新しい発見という事になるだろうが、そんな簡単に済むものではない。

 例えばの話をしよう。

現時点において、完璧な永久機関は存在しないことは、エネルギー保存の法則によって証明されている。半永続動力変化装置が代表的な例である。だがもし、完璧な永久機関が開発されたとしよう。もちろん、最初は疑い、この事実を証明しようと何度も実験して、結果としてこの事実が本当だと判明した、といった設定にしよう。

この場合、新技術が発見されたと大々的に報道され、世界中が大騒ぎになることだが、それ以前に、世界の適用が追いつかない可能性が高い。

この場合では、エネルギーの枯渇化が無くなるが、それ以上に恐ろしい事が起こる可能性がある。

即ち、世界を滅ぼしかねない戦争だ。

もしこの技術が小型化されてしまって、兵器に搭載可能になってしまった場合、例えば戦闘機などが一番わかりやすい例だが、戦闘機単機で世界中を無制限なく飛ぶ事になってしまう。

考えてもらいたい。もしもユーラシア大陸全土を補給なしに満遍なく爆撃できてしまったら。

もしそんな技術が、テロリストに渡ってしまったら、世界のパワーバランスが崩壊しかねない。

つまり今、その様な事態が起こっているのだ。

新技術、いや、新しい可能性と言うべきか。

その様な物が、最悪の場合、この世界、つまり今の時代が崩壊しかねないのだ。

いや実際、リンカが使っている技術が、今の時代に浸透しているなら問題ない。その時点でレイの考えている最悪の事態は免れる。

だが、浸透している可能性は無いと考えた方が妥当かもしれない。

新人類と交戦したときの反応が、まるで悪魔の所業でも見ているような、畏怖したような顔をしていたのだから。


「(もし、第三の力が存在するのであれば、無理やりでもリンカの力を閉じ込めないと、後々大変な事になってくるぞ。二度目の世界の崩壊。それだけは何としても阻止しないと)」


 思わず唾を飲み込みながら、リンカの返答を待つ。

 リンカは首をひねって何やら思い出そうとして、やがてゆっくりと口を開いた。


「うーん。何と言うか、自分がこうしたいと思ったら世界が勝手にそうなっていくというか……。この前の戦闘で、やつらの攻撃を防いだのも、その攻撃を止めたいと思ったら、勝手に止まったからな……」

「ッ!? おいちょっと待て。思ったこと(・・・・・)が現実に再現された(・・・・・・・・・)? それはつまり一種の願いが実現されたってことなのか?」

「だいたいそうだけど、少し違うかな。無意識にっていうか、反射的に思ったことだけが起きる、って言えばいいのかな」


 まずいなと、レイは正直にそう思った。

 これで確定だ。信じられないが、リンカが使っている物は科学では証明できない物、魔導の類であることは間違いない。

 世界を壊しかねない力。その力が目の前に在るのを初めて自覚したレイの肌にはおびただしい数の鳥肌が立っていた。

 レイは自分が襲われるか解らないこの暗黙の状態で、恐る恐るある交渉を試みた。


「……なあリンカ。当分の間俺と一緒に行動しないか? その方が襲われる心配も少なくなるし」


 答えは速攻で帰って来た。


「何を今更。私はお前と行動するつもりだったぞ」

「へ? ドユコト?」



 正直言ってありがたい事だが、理由も解らずに一緒に行動するのはあまりよろしくない。言ってしまえば、いつ暴れるか解らない闘牛のようなものだ。

 リンカの場合、どちらかというと怪獣だが、どちらにしろ、手綱をしっかり握っていないと気が気でないのだ。


「ちょ、ちょっと待て。何でお前が俺に付いて行こうとするんだ? べ、別にお前の力だったら俺無しでも過ごせるんじゃあ……」


 あまりにも驚きすぎて、さりげなく今までのセリフとは矛盾した事を言ってしまったが、レイはもうこの際どうなってもいいやと若干自分を馬鹿らしく思ってしまい、少し泣きそうになっていた。

 しかし、運が良い事にリンカはその矛盾には気がついてはおらず、さぞ当たり前の様な顔をしながら答えた。


「私はもう、レイ無しでは生きてはいけなくなってしまったからな。その……迷惑か?」

「…………………………………………ッ!?!?(リアクションに困る顔)」


 もちろん願ってもいない事だ。こちらとしては限りなく助かることだけど……だけど……ッ!


「な、何ですかその卑猥すぎる発言は!? いや! ちゃんと言いたいことは解るが、とらえ方を一歩でも間違えたらその発言は完全にアウトだぞ……ッ!!」

「む? 卑猥とはどうゆう意味なのだ?」

「よかったこの子が純粋で汚れていなくて!」


 何とか自分のペースを取り戻すことができたレイは、コホンと咳き込んで意識を切り替えた。

 だからこそ気づいた。

 すぐ近くまで新人類が近づいていたことを。

 レイはすぐさま立ち上がって、新手の新人類とリンカの間に入るように割り込み、右手のAECを操作してすぐに能力を発動できるようにしておいた。

 が、直後その行動が無駄だと分かった。

 そりゃそうだろ。

 新人類が焼夷弾を軽く十個投げてきたら……ッ!?

 いやもちろん、こんな攻撃は簡単に防ぐことはできるが、問題はそこではない。

 問題なのは、ここが森の(・・・・・)中だという事だ(・・・・・・・)

 焼夷弾とは、攻撃対象を焼き払うために使用する物、つまり、


「ちょ、このおバカ! 森の中でこんなもの使ったら―――ッ!?」


 レイはAECの操作パネルを素早く操作し、焼夷弾の周りの空気、酸素を炭素と化合し、二酸化炭素に変換した。

 が、ここで少しミスが発生した。

 新人類が投げて来たものは、複数種類があるうちのひとつ、焼玉式焼夷弾という古典的な物だった。この焼玉式焼夷弾というのは、球を高温まで加熱して発射し、着弾した際にその熱で周りを熱して燃やすものだ。つまり、酸素を無くしたところで砲弾の威力自体(・・・・・・)はまだ残っているのだ。


「あ」


 砲弾がレイたちの付近に着弾して、その衝撃で吹き飛ばされたのであった。


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