モーグの奇襲
翌日、午前中の見回りに出ていた戦士が、泡を吹かせて村に飛び込んできた。
「敵襲! 敵襲です! モーグの奇襲と思われる部隊が崖下に!」
長のマグ・エパーヤに詰めていたアルジャーは怒鳴り返した。
「それだけでわかるか! 数と進行方向は?!」
「数は不明! 少数に分かれて複数の経路を取っていると思われます。現在、崖下に沿って移動しています。村の南側にある登坂口に達するのも時間の問題かと!」
「村に残っている全戦力を招集! 登坂口に近い集落に狼煙だ!」
今回、先に仕掛けてきたモーグ支族の戦士の数は千。モーグならばまだ戦力は残っているが、モーグの長は戦に自ら出陣することはない。そのため、戦中でも一定数の戦力は必ず村に残されているはずだった。それを踏まえた上で、今回は最大と思われる戦力を出してきたと誰もが思っていたたのだが、その上さらに別動隊を派遣してきたという。
モーグが、未だかつてない攻撃を仕掛けてきている。
「あの用心深いモーグが、村が手薄になるほどの戦力をつぎ込むとは考えられねえが。どういうつもりだ、あの小僧……」
アルジャーは呟いた。
歴代の誰よりも臆病で戦いに意義を持たないモーグの長エゥモウの、突然の奇襲に納得がいかない。
昨日以上に騒然となるマグ・エパーヤに、また一人、戦士が駆け込んだ
「報告します! 現在、崖下のモーグと我が方の戦士が接触しました!」
「駆けつけたにしちゃ早えな」
「敵の部隊を率いているのはモーグの長エゥモウ!」
「どういうこった! あの小僧は戦場にいるんじゃねえのか!」
さらに、戦士がもどかしげに叫ぶ。
「先陣を切ったのは闘神殿です!」
「なんだと?!」
アルジャーは腰を浮かして仰天した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は少し遡る。
早朝、風の双子とシャムシーを含む数人の戦士と共に、シャンテは哨戒に出ていた。昨日と同じ方向を見回っていた。
最初に気づいたのは風の双子だ。
哨戒からの帰り道。石の舞台がある草原の入り口まで来た時だ。そこはちょうど道が狭く、右手を急峻な山に遮られ、左手が崖になっていた。
「なにか……」
「変な音がしませんか?」
フーロウでもとりわけ耳の良い彼女たちは、吹き付ける風の音が変だと言った。シャンテにもシャムシーたちにも風の音の違いはわからなかった。
しかし、二人が風の名の通り、風に敏感なことを昔から知っているシャンテは、すぐに風の元を探った。
風は谷から山へ吹き上げている。馬を近くの木に留めて、音を立てないように崖際から下を覗き込む。昨日と同じ景色を、目を凝らして隈無く探査する。
二十メートル下の木立の中に、異質物がちらつく。ルマナ族の鎧だ。鎧と言っても、動物の皮を使って作られており、堅くて軽いものだ。支族ごとに使われる皮も形も異なる。そして今ちらついている鎧は、オルムトの物ではなかった。
同じように崖下を確認したシャムシーが表情を険しくした。
「あれはモーグですね。長たちが戦っているはずでは……」
「戦いの形跡が見当たらない。おそらく別動隊だろう」
「別の? あのモーグがですか!」
シャムシーが驚愕の声を上げる。
モーグの戦士は少人数ずつに別れ、崖下の森の中を歩いて進んでいるようだ。オルムトの見張りへの対策だろう。
ここまで近づかれていることに気づかなかったのだ。ラウラとルルウが音を聞きつけねば、オルムトは最悪の奇襲を受けていただろう。
シャムシーはすぐさま伝令を送った。
シャンテは慎重に戻ると、馬に飛び乗った。
「闘神殿! 何をされるつもりですか!」
崖下に気を取られて小声でシャムシーが叫ぶ。
「あれの侵攻を止める。このままでは不意打ちになってしまうからな。どのような対策を取るにせよ、アルジャー殿も、少しでも時間があればやりやすいだろう」
「ですがあなたは……」
シャンテは最後まで聞かなかった。
今は一刻も争う。崖下のモーグの戦士たちに気づかれるかもしれないことを承知で、馬を全速力で走らせる。
「姫様!」
「我らも!」
ラウラとルルウが後に続く。
そんな二人に、シャンテは冷徹な態度で言った。
「二人とも無理に攻めるな。自分たちの身を守りなさい。そして、私に近づくな」
「はい!」
さらにその後ろから、シャムシーと戦士たちが追走する。
「あなた方だけで行かせたら、長と祖父と従弟たちに殺されてしまいますよ!」
「アルジャー殿が来るまでに戦力を増せるか?」
「近隣の集落に先に伝令を送ります!」
シャムシーの合図で、戦士が二人離れていく。
これで総勢六人。
たったこれだけでモーグ支族の侵攻を止めることは、まず不可能だ。
脇目もせずにオルムトの守り神の巨木を駆け抜け、村を通り過ぎる。村の南側にある下り坂を一気に下った。
「おお! 闘神殿!」
崖下に出た所で、モーグの戦士たちとは反対側から猛然と駆けてきたオルムトの戦士たちと合流した。
数日前に風の双子が結婚するきっかけとなった合同試合で、シャンテに絡んできた別の集落の代表の男だ。
双子の結婚式の翌日、シャンテと火の双子の立ち回りを見ていた野次馬の中にもいて、そのためか呼びかけた声には安堵が混じっている。
全員徒歩である。シャンテたちと同じく、侵攻するモーグの戦士を見つけ、戦える者は全員引き連れてきたという。さして長くもない距離なら、馬よりも自分の足で走った方が速い。
数は三十人。壮年から老人までの男女だが、老いや怪我、病で引退した者たちがほとんどだった。シャンテと同じように片腕の者もいる。若い者は全員アルシードの元に派遣していた。しかし覇気に衰えはない。
「これからモーグの侵攻を止める! ご助力いただけるか!」
「無論! この先に開けた土地と川がある! そこがよかろう! 移動中ならば罠を仕掛ける時間もあるまい!」
「承知した!」
その言葉通り、森を抜けると広い場所に出た。アルシードの集落がある崖上から流れる浅い川が森を両断している。川の両側には、膝ほどの石から身の丈ほどもある巨大な岩まで、大小様々な岩が転がっていた。
開けた場所に出る手前、敵から姿を見られにくい木立の中に隠れて様子を窺う。
やがて、川の向こうの森から、モーグの戦士たちが姿を現した。少人数ではなく、一隊としてまとまっている。シャンテたちが発見した地点からここに来るまでの間に集合したのだろう。元々そのつもりだったのか、あるいはシャンテたちに気づいて急遽編成を変えたのか。
その人数をざっと数えて、オルムトの戦士たちがざわめいた。
「お、多い……」
「百、二百、いや、もっと出てくるぞ……」
「なぜこれほどの数がここに……」
増え続ける敵を見据えて、シャンテは平然とした声を上げた。
「なに。話は簡単だ。一人につき五人やれば敵は潰走する」
オルムトの戦士たちは唖然とした。
シャムシーがおずおずと言う。
「で、ですが敵は軽く見積もっても三百はいますよ。それでは半分ほどしか倒せません」
「私が百やる。それで問題ない」
シャンテは大胆不敵に言い放った。
「三百の内二百もやれば、敵は敗北を感じて勝手に逃げ出す。それに、知らせを受けてアルジャー殿も早々に駆けつけるだろう。私たちの役目は、それまで敵をここに食い止めることだ」
戦士たちが再び絶句する中、ラウラとルルウが元気よく手を上げる。
「姫様、お任せください!」
「姫様、ご安心ください!」
「我ら二人で!」
「五十人は切り伏せて見せましょう!」
シャンテも笑って答える。
「それは頼もしいな」
「お待ちください闘神殿!」
シャムシーが叫んだ。
「我らは長アルシードに鍛えられたオルムトの戦士。この三人だけで百はやって見せましょう」
日頃温和なシャムシーまでもが、微笑みを浮かべて張り合っていた。
「では六人で二百五十か。ならば他の戦士たちは二人でいいな」
「シャムシー殿、言いますね!」
「シャムシー殿、なかなか大胆ですね!」
すぐ目の前には、わずか三十数名からすれば圧倒的な数の敵が待ち構えているというのに、シャンテたちは和気藹々と言い合う。
初めは正気を疑い呆気に取られていた戦士たちも、終いには笑い出してしまった。
状況は誰が見ても絶望的。それなのに、なんとかなるかもしれないと思ってしまう。それが闘神の醸し出す雰囲気であることに、皆気づいていた。
ここに戦神はいない。オルムトに勝利をもたらす戦神はいない。
彼らと共にいるのは闘神だ。
闘神が味方として共に戦ったことはなくとも、戦神と唯一同等の力を持つ闘神が傍にいることに、戦士たちの安心感と高揚感が奮い立つ。
老戦士が豪快に笑う。
「闘神殿と娘御にそれだけの活躍をされてはオルムトの戦士の名折れというものよ! 皆、一人十人は仕留めろ!」
「おお!」
戦士たちの気迫が変わった。
それを見て、シャンテは馬を前に進めた。
木立から抜け出し、敵の前に姿を現す。その後ろに、風の双子と戦士たちが続く。
モーグの戦士たちは、シャンテたちが姿を見せると、臨戦態勢をとった。だがすぐに仕掛けてくる様子はない。
シャンテは一度深呼吸をした。胸に空気を吸い込み、声を張り上げた。
「我はオルムトの闘神シャンテ! 我が剣と誇りにかけて、この先へ行かんとする者は一人残らず斬る!」
凜とした声が渓谷に響き渡る。
闘神と聞いて、モーグの戦士たちの間に動揺が走った。だが、それで引く者は一人もいない。
その代わり、戦士たちを割って出てきた者がいた。金をふんだんに使ったきらびやかな御輿の上に、同じく金で着飾った男。
間違いない。モーグ支族の長、エゥモウだ。
「モーグの長はアルシードの戦場にいるのではなかったか?」
シャンテは小声で呟く。
「わかりません。どちらが本物か……。誤報という可能性もあります」
「すぐにアルジャー殿に知らせてくれ」
シャムシーに伝令を送ってもらい、シャンテは再び敵将を注視する。
前へ進み出たエゥモウは御輿の上から呼びかけてきた。
「フーロウの闘神よ! よくオルムトから出てきてくれた! そなたの思いは私にはよくわかっている!」
川の向こうから切れ切れに飛んでくる声は、金切り声のようにきんきんとして耳障りであった。
その声を聞くだけで、鳥肌の立つような感情がなぜだか無性にわき上がってくる。それをぐっと堪えて、シャンテは腹に力を込めてモーグの長へ問う。
「モーグの長エゥモウ殿。ここへ来た目的は、オルムトへの奇襲、と受け取ってよろしいか」
「それは目的の一つに過ぎん 私はそなたをオルムトの長から救いに参ったのだ!」
シャンテは眉をひそめた。この男の言っている意味がわからない。オルムトの戦士たちも顔をしかめ、風の双子は早くも怒り心頭だ。
「あやつは馬鹿ですか?!」
「あやつは阿呆ですか?!」
「二人とも、静かに」
幸い、二人の声は川向こうまで届かなかったようだ。すぐに返答しなかったのをどう捉えたのか、再びエゥモウは朗々と語り出した。
「此度のそなたとオルムトの長の婚姻は、そなたにとって不本意極まりないことであった。そなたにとって最大の悲劇であっただろう。あの日、そなたとオルムトの長の婚礼の席で、そなたは悲壮な顔で私に助けを求めていた! 私はそなたを幼い頃より知る数少ない者として、心から同情していたのだ。望まぬ婚姻で、そなたの一生をあの傲慢なオルムトの長に縛り付けられるなど、何人たりとも許されぬ事だ。故に! 私がそなたをオルムトの長から救い出してやろう! 自らの保身のために売ったフーロウの長の元へ戻る必要もない。我がモーグ支族の元で、そなたの自由と幸福を、私が存分に与えると約束しよう。我が妻となり、私の隣に座り、モーグに繁栄をもたらすことこそが、そなたの運命なのだ!」
熱に浮かされた金切り声が谷間に響く。
オルムトの戦士たちは、御輿の上の男を穴の開くほど凝視した。全員の感想は一つ。「この男の頭は大丈夫か?」
「まさかあの男。この戦をそんな馬鹿げた目的のためだけに起こしたのか……?」
老戦士がうめいた。
ルマナにとって戦い自体が神聖なもの。それを、モーグの長は真剣に聞くのも馬鹿馬鹿しい理由で始めたと言ったのだ。オルムトの戦士にとって、いやルマナの戦士にとってこれ以上ない侮辱だ。
モーグの戦士たちは自分たちの長の言葉をどう思っているのか。ここからでは、額に鉢巻きを締めた彼らの顔を窺い知ることはできなかった。
オルムトの戦士たちからは罵声が飛び出す。
その中で、真っ先に怒り出すはずのラウラとルルウは、沈黙していた。沈痛な面持ちで主を窺っていた。
シャンテは無言だった。自分に対して語りかけられているのに、何も返そうとしない。
風の双子には痛いほどにわかっていた。シャンテが今、胸中どれほど怒り狂っているのか。
モーグの長はとんでもない過ちを犯した。
シャンテが敬愛し心酔して止まない兄ムートを、この男は罵ったのだ。それも最大級に。
風の双子はシャンテのアルシードに対する気持ちを知っていた。それ故に、アルシードを侮蔑したことも同様。
モーグの長の言葉すべてが、虎の尾を踏むに等しい行為であった。踏むどころではない。虎の頭を思い切り蹴ったようなものだ。
そのことを、この男はまったく気づいていない。
兄を侮辱されて怒りを爆発させたシャンテは、風の双子の比ではない。その暴走は誰にも止められない。シャンテの逆鱗に触れた者は、まず間違いなく首が飛ぶ。
風の双子は戦々恐々として、荒れ狂う嵐が吹き出す寸前の気配を漂わせる主から、そっと目をそらした。あまりの苛烈な気配に、直視していられない。
怯える双子の前で、シャンテは手綱を強く握りしめていた。そうでもしないと、今すぐに飛び出してしまいそうだった。
虫酸が走る。
その感情を、シャンテは生まれて初めて味わっていた。
シャンテは今、己の理性を総動員させて怒りを押し込めていた。
その不穏な空気は、近くにいるオルムトの戦士たちにも伝染していた。
よせばいいのに、エゥモウはまだ己の失態を重ね続けている。
「何も恐れることはない そなたはフーロウとオルムトの長を恐れて本心を言えぬのであろう。だがもう安心するが良い! 先程、我が軍と戦っていたオルムトは我が知略の前に敗走し、長アルシードは首を晒した! さらに、もうじき我が手の者がフーロウを壊滅させるだろう!」
ああ、と風の双子とオルムトの戦士たちは同時に嘆いた。
とうとうモーグの長は、最後の虎の背を踏みつけてしまった。
フーロウとオルムトの長を罵り、シャンテの戦士としての矜持までも踏みにじった。
もう、我慢できなかった。
「はっ、あはははははははは!!」
シャンテは高らかに笑った。
敵も味方も、ぎょっとして闘神を見る。
「ふっ……。失礼。あまりにも凄まじい妄言を生まれて初めて聞いたので、つい笑ってしまった」
笑いながら、シャンテはモーグの長を睨み据えた。艶やかな笑みとは裏腹に、その瞳は氷雪の如く凍てついていた。
怒れる闘神に睨まれて、御輿の上の男が喉を引きつらせる。
「さっきから黙っていれば、随分ふざけたことを言ってくれる。フーロウの長にして我が兄ムートは、ルマナ最高の知恵者。貴様の小石の如き頭と一緒にしないでもらおう」
「なっ、なにを……」
エゥモウの顔が一瞬で真っ赤になる。
それを、混じりけのない殺気で黙らせる。
「そして、戦神に拮抗する唯一無二の者は闘神のみ。私以外の誰が戦神の首を取れるというのか」
「そ、そなたは騙されているのだ。洗脳されているのだ! 私がそなたの目を覚まさせてやろう!」
「もう聞くに堪えないな。私はオルムトのために戦う。其の方もルマナの誇りが一欠片でもあるのなら、正々堂々と戦え!」
シャンテは剣を抜いて角英馬の腹を蹴った。
谷底に、鬨の声が響き渡った。
角英馬は猛烈な勢いで川を飛び越え、敵陣に切り込む。
そのすぐ後を風の双子が、そしてオルムトの戦士たちが続いた。
「闘神に続け!」
「傲慢無恥なモーグを叩き潰せ!」
シャムシーと老戦士が叫ぶ。オルムトの戦士たちは雄叫びを上げて突進した。
森から現れたモーグの戦士たちは四百に達しようとしている。
「行け! モーグの戦士たちよ! 闘神は絶対に生かして捕らえろ! 他は皆殺しだ! オルムトを蹂躙しろ!」
モーグの戦士たちも走り出す。
山を震わせるほどの地響きが起こった。
シャンテは最初の五人を一息に跳ね飛ばした。真っ先に狙われた馬が倒れる。跳んで逃れ、モーグの戦士たちの真ん中に、剣を振るいながら着地する。シャンテの周りで血飛沫が上がり、空白地帯が生まれた。
その後ろで、オルムトとモーグが激突した。
風の双子やシャムシーたちも早々に馬を降り、仲間と共に猛然と敵に立ち向かう。オルムトの戦士たちを視界の隅に置きながら、二人、三人と斬り進む。
フーロウとも幾度となく戦い、闘神の強さを知っているはずのモーグの戦士たちだが、愚直にもシャンテに殺到する。それを片端から斬り捨てる。
「怯むな! 敵を蹴散らせ!」
戦場となった川辺の森の際から、新たな鬨の声が上がる。
シャムシーの伝令で駆けつけたオルムトの集落の戦士たちだ。老戦士の集落と同じように、健全な体の若い戦士はいない。が、誰も彼もが恐れることなく戦場に突入した。
風の双子やシャムシーたちが必死に前へ出ようと奮戦するが、モーグの戦士たちの壁はなかなか崩れない。
それを目の端で確認して、シャンテはあえて奥へ進んだ。
これほど怒りに任せた戦いは初めてだった。
兄の悪口を言われてすぐに頭に血が上ることは自覚していた。だが、まさかアルシードのことで、ここまで怒りが高まるとは思ってもみなかった。
アルシードが、こんな男に負けるはずがない。
だが、今回のモーグはいつもと違う。もしかしたら、まだ何か隠し持っているのかもしれない。
過ぎる不安と迷いは敵の思うつぼだ。
敵を一薙ぎで屠るように、それらを両断する。
押し寄せるモーグの戦士たちのその先に、エゥモウの顔がちらつく。戦いが始まった途端に、その男を乗せた御輿は慌てて奥へ引っ込んでいた。その周りを戦士たちに守らせ、孤軍奮闘するシャンテを粘り着くような目で見ている。
鳥肌が立つというものではない。全身が総毛立つような悪寒が走る。
あの首を落とすまで、死ぬわけにはいかない。たとえ命尽きたとしても、食らいつき。
(噛み殺してやる)
凄絶な決意を胸に、隻腕の闘神は湧き出す敵を斬り続けた。




