邂逅
「やはり、物の怪の類か・・・」
市が冷たく呟く。
「ううっ、、、(ポロポロ)」
天子の傍で、泣きながら、手を握り締める小市。
「離れなさい、小市・・・その奴は、物の怪ぞ」
「ちがうもん、、、」
首を左右に振りながら、否定する小市。
「貴方の部屋に対して、張ってある結界が反応したの・・・それも、その結界で消滅できない程の力を持った物の怪よ」
冷たく言い放つ市。
「ちがう・・・てんこ!あたしのはじめてのおともだち、、、」
「・・・っ」
泣きながら、強い意思を持った目で、市を見つめる小市。
その姿に、市が怯む。
「めっめがきれい、てんこは、わるいひとじゃない」
涙を止めて市に立ち向かう、小市。
「・・・ババも歳を取りすぎたようね、性急な行為をしてしまったわ」
「おおばばさま、、、」
市は小市から目を逸らすと、天子を抱えて、庭に出ると、懐から三枚の札を取り出し、それぞれの頭に札を貼り付ける。
「だめぇ!てんこ、ころしちゃだめぇ!」
それを見た小市が叫び、今まで晴れ渡っていた空が、一瞬で変化する。
辺りに暗雲が立ち込め、市の周りに、雷が次々と落ちる。
「落ち着きなさい小市、この札は逆札よ・・・お友達はこれで、元気になるはずだわ」
市は慌てる事もなく、冷静な顔をして、小市に話しかける。
「えっ・・・げんき?」
目を金色に変えて、怒りで体を震わせていた小市が、市の言葉を聞き、呆気に取られた顔をする。
「そう、元気になるはずよ」
「、、、うっ」
市が小市に諭すと、天子が呻き声の様な声を出して、動き出す。
「天子とやら、気が付きましたか?」
「てんこぉ!」
市は真剣な表情で天子を見つめ、小市は天子に泣きながら、抱きつく。
「うっ、さっ、さっきのは、なんだったの、、、」
朦朧とした意識の中、天子は呟くように話し出す。
「あれは、この子を守る為に用意した結界が、貴方に反応したのよ」
「そんな結界が・・・何故?」
冷静に話す市に向かって、天子はキョトンとした顔をする。
「そうね、この子は少し、特別なのよ」
「特別・・・」
よろよろと立ち上がり、呟く天子。
「貴方、怨霊の類でしょ?しかも高位の部類に入るほどの力がある」
「なっ!」
「えっ!」
「・・・!」
二匹の鴉が思わず、声を出し、驚いた表情を浮かべるが、天子は何も語らない。
「やはり、その二匹も物の怪ね。予想すれば、鴉天狗辺りかしら?それに貴方、面白い存在ね、邪悪さを感じられないわ。恨んで怨み尽くしたから、怨霊になるはずよね?何故、貴方から邪悪さを感じないのか?不思議だわ」
市が首を傾げながら、天子を見つめる。
「何故だ、この姿で見破られるとは・・・」
「なんで分かったの、何者なの」
「・・・・・・」
「ふふふっ、貴方、今、戸惑ってるでしょ?何故、滅せられていないのか。簡単な事よ、滅せる事など・・・すぐに出来るからよ」
「「!・・・」」
「貴方が、第六天魔王・・・市様なのね」
「殆ど正解よ、でもまだ魔王にはなってないわ。それも、時間の問題でしょうけどね」
悲しげな顔をして、市の目が冷たく光る。
「そんな・・・この世界が消えるの?」
天子が思わず、口にする。
「あら、そんな事を知ってるとは・・・貴方何者かしら?」
首を傾げながら、呟く市。
「あたしは、崇徳大天狗の身より生まれた娘・・・天子」
「ほう、あの崇徳のね・・・ならば、この子に近づいたのは、崇徳の差金かしら?」
「差金?えっ!クッ、、、!」
市は視線を強くして、天子を睨みつける。
「やめて、おおばばさま・・・」
泣きながら、市の服を引っ張る小市。
「少し、威圧しただけよ」
「・・・・・・」
膝を付き、蹲る天子。
「でも、貴方何も知らずに、小市の元にいたようね。小市は崇徳と仲の悪い者の血を受け継いでるわ、それでもいいのかしら?」
「!・・・それは、どういう事」
苦しげに、顔を上げて、市に問いかける天子。
「それは、」
「お市様、追っ手が参ります」
いきなり現れた佐助が、市に話しかける。
「あらっ、不味いわね・・・小市が力を使ったせいで、気付かれちゃったわね。この話の続きは、また今度ね、今は追っ手から逃げるわ」
右手を上げながら、天子に向かい語ると、佐助と違う男が馬を連れてくる。
「ありがとう才蔵、じゃまたね。貴方達もすぐお逃げなさい、織田の追っ手がここに向かってるわ。見つかれば、問答無用に滅せられちゃうわよ」
「ああっ、てんこぉ~」
馬を連れてきた才蔵に声をかけた後、馬に小市を抱えて乗ると直様、馬を走らせる。
連れられた小市が天子に向かって、手を伸ばし、叫ぶ。
「小市っ・・・」
よろよろと体を動かしながら、呟き、遠ざかる小市を見つめるだけであった。
織田の追っ手がたどり着く前に、天子達は、その場を離れ、少し離れた場所にあった、朽ち果てた廃屋に逃げ込む。
「天子様ぁ、暗いです・・・」
「そんなに気を落とされますな」
「・・・・・・」
「私達がこちらに来るまでに、何かあったのですかねぇ?」
「そう考えるのが、妥当であろう」
「・・・・・・」
「その様に考え込んでも、今は情報が少なすぎます」
「そうだ!鬼一様ならば、分かるかも・・・」
「確かに、鬼一様は人の世に常に居られたからな、状況は知っておられる可能性が高い、それに鬼一様の元であれば、崇徳様に連絡も取れる」
「そうね、、、それしかないわね。ところでさ、迦楼羅は鬼一様の元に転移出来る?」
「先程から、試してはいるのですが、出来ませぬ。どうやら、この日の本全体に結界が張られているようです。余程の力がなければ、転移など出来ないかと・・・」
「風子も出来ません」
「うん、風子が出来ないのは、分かってる。でも迦楼羅が出来ないとはねぇ、あたしは鬼一様に会ったこと無いから、転移出来ないんだよね。こうなれば、鳥に変幻して、向かうしかないかな」
「あうっ・・・」
「それしかないかと、それに道すがら、詳しい事情は無理でしょうが、参考になるような情報が、手に入るやもしれませぬ」
こうして、天子達は鞍馬山に住む鬼一の元に向かうのであった。