黒箱
それから父様は私に数々の能力を手取り足取り、せかせかと教えてくれる。
「天子や、お主・・・不器用じゃな」
「うっ、、、」
父様が苦笑いを浮かべながら、私に呟く。
父様の教え方は今までに、味わった事が無い程、親切で分かりやすく、それでいて優しく的確に教えてくれる。
それでも、出来ない私。
不器用の域を遥かに超える物覚えの悪さ・・・恥ずかしくて死にたい。
あっ!もう死んでたわ!てへっぺろ。
「ふむ、怨霊呪は殆ど使えぬな。天子や、お主本当に人の世を怨んで死んだのか?少なくとも縛呪位使えるはずなのじゃが?」
首を傾げながら、呟く父様。
「・・・多分」
よく考えたら、怨んではいないのかもしれない。
怨むというよりは、絶望し、諦めた死に様のような気がする。
「天子や、お前は優しいのう・・・お主のような人生ならば、恨み、怨んで生きておっても、怨霊となれる環境であってであろうに、、、あっすまぬ、記憶を覗いてしまった」
父様は私が思っている事を読んだのだろう、顔色が悪い。
まっ大怨霊様だから、元々顔色悪いんだけどね。
子供が悪い事しちゃった、みたいな顔をしてるから・・・。
「別に、父様のせいじゃないし、自分で命絶っちゃった事は突発的で、でもね・・・」
「でもね?なんじゃ?」
あたしが言い淀むと父様が首を傾げながら、問いかけてくる。
「此処に来れて良かった、父様に生んで貰えてあたし・・・嬉しい」
こんなに親身に優しくされる事が、今までなかった。
そう思うとつい、感謝の言葉を父様に伝えてしまい、顔を真っ赤にしながら、父様の顔が見れず、思わず背ける。
「うっ、そんな他人行儀な事は申すな・・・泣いてしまうではないか」
「もう泣いてる」
「みっみるでない、儂の威厳が、、、」
私を思い、泣いている父様を見て、何故か嬉しさを感じて、微笑んでしまう。
「天子の笑顔は、天女のようじゃな。流石、わが娘!」
「もう、知らない、、、」
そんな親馬鹿振りを最大限に押し出してくる父様に押されながら、指導を受けると、なんとなくではあるがコツを感じ始めてくる。
「ふぅこんな感じかな・・・えいっ!」
「おおっ!怨火が出たか!すごいぞ、すごいぞ!天子!」
子供のように、はしゃぎ喜ぶ父様。
「そんなオーバーな・・・父様が出した怨火と全然違う」
あたしが出した怨火は手の平サイズの今にも消えそうな火の玉で、速度もノロノロしてて、とてもではないが、父様が調子に乗って出した見本は半端無くデカく、威力もオシッコちびリそうな程だったのに、あたしの怨火は、父様の出した怨火の片鱗すら感じられん。
「そうではない、体現させられた事が重要なのじゃ。これで最低でも、敵を攻撃する術は覚えたと言える」
「敵?敵なんているの?」
「おるぞ、神仏に仕える者や同業者も敵対すれば、滅の対象になる。滅せられたくなければ、倒すほかない」
「同業者・・・」
「我と考える事が違う怨霊や妖怪、鬼が同業者じゃな。少し前までは、儂に逆らう者など、将門や九尾位であったが・・・今は儂の元を離れ、自由気ままに生きている者もおるな」
キタ━(゜∀゜)━!将門、九尾、超有名な方々じゃん。
「強いの・・・」
恐る恐る聞いてみる。
「強いのう、将門は儂が全盛期の時で五分、九尾は少し我に劣っておったが、今なら簡単に負けるじゃろうな」
笑いながら話す父様、笑い事じゃないし・・・。
「あ奴らは、理由もなく動いたりはせぬから、安心しろ」
あたしの不安を感じたのか、優しげに話しかけてくれる父様。
「あたしって、どのくらいの強さなのかな?」
興味本位で聞いてみた。
「んっ?天子か、そうじゃのう。新米の陰陽師に一撃で滅せられちゃうかな?」
「それって、ダメじゃん・・・」
笑いながら、とんでもない事を言う父様。
「ふむ、仕方ないのう。手の平を開けて、両手を前に出しなさい」
父様の言われた通り、手を前に出す私。
「こっこれは?」
手の平に小さな四角い箱が現れる。
「それはな、黒箱と言う禁器じゃ」
「黒箱・・・禁器」
「願えば、その者が求めたかなり強力な武防具が現れる。ただし現世ならば、一日二回までじゃ。三回目は・・・よからぬものが出る」
「よからぬもの?」
「儂が封印したダイダラボッチが解放される」
「ダイタラボッチ・・・」
「異能の伝承では日の本を作ったと言われる大男じゃ。まっ山は作っておる所は見たことがあるがな」
「大男、、、父様より大きい?」
恐る恐る聞いてみる。
「ほむ、デカイな。今の儂ならば、儂が赤子でダイダラボッチが大きな大人ぐらいかのう」
あかん、それあかんやつじゃん・・・ちねる。
「儂も全盛期の時に滅せる事が出来なくて、苦労して封印したからな・・・出すなよ」
真剣な顔をして、ねんを押す父様。
「もしもだよ、、、もしも出しちゃったら・・・」
「んっ、出しちゃったら?出しちゃった人しか、その箱で再封印は出来ないからな。その箱は一個しか無いから、頑張って封印するしかなかろう」
「頑張れなかったら・・・」
「頑張れなければ、天子はダイタラボッチに滅せられて、封印された事による怒りの捌け口に、目に映るもの全てに、、、八つ当たりするじゃろうな。あやつなら・・・」
遠い目をしながら、話す父様。
手にした黒箱がカタカタと震える。
あかん、これもあかんやつじゃん。
出来るだけ、この箱は使うまい。
怨呪を覚えたらいいんだから・・・頑張れあたし!
それから暫く、怨呪の修行に明け暮れる天子であった。