伊達の黒武者
「切り裂け!立ち止まるな」
「歯向かえぬ、弱い民しか相手に出来ぬような頼長の軍など、恐れる事は無い!」
「織田の兵とは言え、頼長の寄せ集めた兵などに、負けるものか!」
「民を逃がせぇ!民を守れぇ!」
「茶色の鎧には、気を付けよ!織田の正規兵には、一人で立ち向かうな!」
「連弩戦車の正面には、出るな!」
「民よ!此処から逃げるのじゃ!城に逃げ込め!」
「固まるな!大砲戦車は近づけば、使えぬ!」
「正規兵が持つ、連発銃には、気をつけろ!鉄盾を有効に使え!」
伊達の兵が、叫びながら、頼長軍を翻弄する。
「シクシク、、、」
「何をしておる、早く、早く逃げよ!」
「、、、えっ」
黒い鎧を着た伊達の騎馬武者が、親とはぐれて泣いている幼い子供に、声をかける。
「急げ!・・・(パンッパンッ)グッ、、、(カランッ)」
「おじちゃん!血がっ、、、」
幼い子供を庇い、銃弾を受け、手に持っていた槍を、落としてしまう伊達兵。
「良い、、、気にするな・・・逃げよ」
「そんな・・・」
「お主達が居れば、わし等は、力を出し切れぬ・・・いけ」
「、、、ありがとう、おじちゃん」
「・・・それで良い」
伊達兵が、子供の頭を優しく撫でると、子供は涙を拭いて、その場から逃げていく。その後姿を見詰めながら、呟く。
「我は伊達忠宗様の付き人!津田頼康じゃ!軟弱な頼長の兵よ!かかってこい!」
地面に落とした槍を拾い、握りしめると、頼長軍の人ごみに向かって、叫び頼長軍に突っ込んでいく。
「何じゃ!この体たらくは!天下の織田の兵が、あのような少数の兵に、押されるとは!」
織田頼長は、怒りに震えていた。
「頼長様、伊達の襲撃は、民を害する行為を行った、我が軍の処罰に対する行いで御座いましょう。伊達忠宗様は、織田裁判機関内治安部将です!伊達の兵は少数とは言え、精強です。民の被害もあります、一時お引きなされて、話し合いをされた方が良いかと」
最後尾に居た十兵衛は、頼長軍の略奪を聞き、頼長に直訴しようと考えて、向かっていた矢先に、伊達の襲撃を受けたのである。
「柳生三厳か!織田陸軍正規兵を伊達に当てろ!わしの付き人達の援護せよ!」
「なっ!治安部将の忠宗様の軍を討つと仰せか」
「わし等は、上様の勅命で動く軍ぞ!治安部如きに、とやかく言われる筋合いは無いわ!」
顔を赤くして、叫ぶ頼長。
「織田の軍が、織田の法を破るなど、民の信用を無くす行いですぞ!」
「喧しい!しれ者がっ!、、、(シュッ・・・キィンィ)なっ!」
「その様な、無様な斬撃で、この十兵衛を斬れると、思っておられるのか?」
頼長の放った斬撃を、鉄扇で軽々と受け止め、睨みつける十兵衛。
「クッ!もう良い、お主には頼まぬ!下がれ!」
「下がりませぬ」
「三厳、下がれ。頼長様、わしが対処しましょう」
「森殿」
「おおっ忠政か、伊達を潰せ!」
「はっお任せあれ」
忠政は頼長の命を受け、動き出すと、十兵衛は静かに、その場を去るのであった。
その頃、市は単騎で、伊賀に向かい、山中を駆け抜けながら、冷静に今後の動きを分析していた。
姜子牙の奴、最悪な動きをしてくる、策を巡らせたら天下一と言ったところか。
民の被害が少なくとも、出てしまえば、噂が噂を呼び、民の心が織田から、離れる。
完全に後手に回ってしまった、近衛衆に守られながら、安土まで、強行突破をすれば、民にちょっかいかけるような真似なんか出来ずに、俺を狙っていただろうに・・・この様に誘い出されてしまった。
しかし、この誘い受けなければ、民の織田に対する信頼は失墜する。
一刻も早く、頼長の軍にぶつからねば、被害が広がっていく。
織田治安部が動く事は無いだろうしな。
幸村達は九度山、直孝達は岐阜、俺が伊賀に着くまでには、間に合わない。
残るは、大和に向かわせてる宗矩達が、一番近いけど、数十人の兵じゃ時間稼ぎにもならん、無駄死にさせるだけ・・・。
「くっ・・・」
手詰まりになっている事に、顔を歪め、下唇を強く噛み締める市。
(お市様・・・)
「んっ・・・(念話?)」
(はい、お市様の頭に、直接語りかけております)
(玉ですか?)
(そうです、お市様の心配は、伊達様が動いて、払拭されております)
(えっ、伊達・・・まさか、忠宗が動いたのですか!)
(百騎にも満たぬ兵を率いて、頼長軍と交戦しております)
(正宗の仕業ね、時間稼ぎに・・・伊達を捨て駒にしたわね)
憤怒のような顔を浮かべる市。
(伊達軍は頼長軍の注意を、完全に引き付けながら、移動して、民の被害を防いでおられます)
「・・・捨て奸か」
玉の報告を聞き、伊達軍が頼長軍に使っているであろう戦法を、口に出して呟く市。
(どうなさいますか?お市様)
(あたしが、伊賀に向かうよりも、安土に向かう方が、正解なのでしょうけど、それをすれば、確実に伊達は、全滅することになるわね。見捨てる事は、出来そうも無いわ)
(あっ、そうでした!言い忘れておりました、伊賀百地衆の忍びが、表立って動いてはいませんが、伊達の支援に動いています)
(えっ、五右衛門が動いたのね、でも伊達の全滅は防げない)
(それに大和の兵が、伊賀に入りました)
(通まで・・・)
(はい、信幸様と共に、お通様が兵を率いて、伊達の救援に、向かわれております)
(そう言えば、忠宗の嫁は通達の子、伏姫だったわね。流石は通ね、あたしよりも先を見てるわ)
(では、如何なさいますか?)
(幸村達もそれなら間に合うだろうし、通が動いてるとなれば、伊達は大丈夫かもしれないわね。それに敵の目は、伊賀に向いている・・・ならば、当初の予定通り、安土に向かうわ)
(はい、安土迄の道中は、私がお守り致します)
「玉の護衛ならば、安心ね」
微笑みながら、安土に進路を変えて、馬を駆けさせるのであった。