不慮の戦
この世界は、私が知ってる世界ではない。
いや、こんな過去の歴史が有る訳が無い。
鬼一から聞いた黒幕の正体、そして道教と言えば、中国の信仰だったと思う。
道教の神か・・・良くは分からんが、封神演技とかに、出て来てた神様とかなのかな?
鬼一曰く、神は民の信仰で、力の強弱が出るらしい。
お祈りを一杯捧げる人が多いほど、強くなり、捧げる人がいなくなったら、消滅するとの事だ。
つまり、忘れ去られた神は、消えると言う事だろう。
道教は明で信仰されてるけど、明の滅亡=神の消滅とは、本来ならば考えなくても良いらしい。
明が滅亡しても、民は滅亡しないからだ。
でも、それを破壊する人物が出てきて、話が変わったらしい。
その人物が、お市様なのだという・・・あの人の人気は、日の本だけに留まっていないらしい。
遥か離れた大陸の隅々にまで、お市様の話が、浸透し始めているらしい。
それに慌てだしたのが、道教の神達と言う事だ。
それを滅亡の秒読み段階に入っていた明の皇帝が、利用したと言う事らしい。
あたしの常識が、パンクしそうな話が飛び交いすぎて、呆気に取られまくってしまった。
神が存在するなんて・・・でも私も、人ならざる者。
この先が、どうなるのかも分からない。
でも、やらなきゃ成らない事は、なんとなく分かる。
あたしが守りたい者を守れば良いのだと、あたしの中の何かが呟く。
その為に、私はこの世界に来たのだと・・・。
「天子様、この様な所に居たんですかぁ?」
「風子か、ちょっと風を浴びたくてね・・・」
私の後ろから、声をかけてきた風子の顔を見ないまま、答える。
「小市様の事を、考えていらっしゃるんですかぁ?」
「ええっ、初めて会った時に見せた顔や、話した言葉の意味が、やっと分かったわ。あんなに小さいのに・・・あの子は、人に祝福されて、生きれない事を理解してる。辛いだろうなと思ってね」
小市を思い、唇を噛み締める天子。
「そうでしょうかぁ?少なくともぉ、天子様は小市様を好きであればぁ、良いと思いますよぉ」
「えっ?」
思わず、振り向き、風子の顔を見つめる天子。
「風子は馬鹿なのでぇ、上手く言葉に出来ませんがぁ、天子様が小市様を思っているようにぃ、あたしも天子様を思ってますからぁ、天子様の悲しい顔はぁ、見たくは無いですぅ」
「・・・ふふふっ」
「どうしてぇ、笑うんですかぁ?元気になったのですかぁ?」
「そうね、有難う風子、貴方を選んで連れてきて、本当に良かったわ」
「分からないですけどぉ、元気出たならぁ、風子も嬉しいですぅ」
人であった頃のあたしとは、決別しなきゃね。
ウジウジ悩んでても、何も変わらない!物の怪でも良いじゃない!半妖でもいいじゃない、あたしは小市のお友達。
あの子の最初の友達はあたしで、あたしにとっても、生涯で最初の友達は、小市なんだもん。
天子は素早く立ち上がると、足早に駆け出す。
「てっ天子様ぁ~何処いくですぅ?」
風子は、駆け出した天子の後姿に向かって、叫ぶ。
「鬼一にリベンジして、強くなってやるわぁ!守りたい者を、守れるようにね!」
高野山に向かう通り道に位置する、九度山に複数の武士が集まり始めていた。
「幸村様、おひさしゅう御座いますな。宮本武蔵玄信、宮本伊織貞次、佐々木巖流小次郎共にお市様の危機を知り、近衛衆の義務を果たす為に、参上致しました」
「おおっ来たか、武蔵に伊織・・・んっ?小次郎も一緒か?珍しい組み合わせだな」
「不本意ながら、数日前に出会ってしまい、向かう先が一緒ですからね、仕方なく」
「はっはっはっ、相変わらずだな、お前達は」
「それで、皆はもうこちらに集まっておるのですか?」
「宝蔵院胤舜とその配下30名と、吉岡達は来ておる」
「しかし、200名も居ないですね」
「井伊直孝様や赤揃えの者達、鈴木重次様と雑賀衆も居ないな?どうやら別行動のようだな」
「柳生宗矩様や市家柳生一門の方も、見当たりません」
三人は辺りに居る武士達を見つめながら、呟く様に話す。
「別行動だ、我らはお市様を安土迄、守り通せれば良い。命を差し出してもらう事になるが、良いか?」
「「「はっ!」」」
「我らの命、お市様の物にて、不服など御座らん!」
「感謝する」
幸村の前で肩膝を付き、頭を下げて、了承の言葉を発する三人。
「伝令!幸村様、鈴木重次様が雑賀衆を引き連れ、配置についたの事」
「うぬ」
「伝令!井伊直孝様が、信松尼様、織田茶々様、織田五郎八様を保護し、岐阜城に入城したとの事」
「間に合ったか、我らが、どのような事になろうとも、動くなと伝えよ。岐阜城は、お市様が考案し、改良を重ねた少数でも、守り通せる城故、立てこもれば、織田正規兵が万の軍を率いても、三月は落とせまい・・・それと、岐阜にいらっしゃるであろう、政宗様と氏郷様に、絶対動くなと伝えよ!良いな」
「はっ!」
「伝令!織田信幸様の率いる大和兵千名が、国境付近に展開しております。どうやら、お市様討伐軍を迎え撃つ様です」
「くっ、兄上では無かろう。宗矩殿は間に合わなかったか、義姉上が動いたな、拙いな・・・早々に決着を付けられかねぬ」
苦笑いを浮かべる幸村。
「幸村様、皆を馬に乗せ、伊賀に急げと、お市様からの言伝で御座います」
「んっ?佐助か、どうした・・・何かあったな」
幸村の前に焦るように、報告する佐助。
「織田頼長の率いる軍が、行く先々で略奪行為を行い、民に被害が・・・」
「なんだと!まさか!その様な暴挙をするとは・・・(はっ!)お市様はどうした!」
「柳生宗章様達の制止を振り切り、単騎で向かわれました」
「戦略も戦術も無いな、一刻の猶予も無い!皆急ぎ駆けよ!急げぇ!」
「げへへっ、おめえ、良い女子じゃな・・・わしが可愛がってやろう」
「いやぁ、やめてください、、、たすけてぇ」
「おい、もってる銭全部持って来い!わし等は織田の軍ぞ!逆らうなら根切りじゃ!」
「そんなぁ、、、」
「おめえらの持ってる食料を差し出せ!酒だ!酒持って来い!」
「もう、これ以上はありませ、、、」
「じゃ、死ねよ(ザシュ)」
「ぎゃぁ、、、(ドサッ)」
軍としての機能を成していない、無頼の集まりと化したお市討伐軍に対して、織田の治安部隊は機能せず、民に被害が際限なく広がる。
頼長はそんな状態を、恍惚した表情で見つめる。
「頼長様!この様な事を許せば、織田の名声、地に落ちます!御対処を!」
「これよ、この圧倒的強者・・・これが武士よ!織田のあるべき姿よ!はっはっはっ!」
「なっ・・・狂ってる」
「なんじゃと?お前、わしを侮辱するか・・・(ザシュ)」
「えっ、、、(ドサッ)」
伊賀では、市が懸念した事態となっていた。
そんな時、黒い武具を身に纏った100名弱の兵が現れる。
「お前達、血の色は赤いのか?」
「なんだおめぇ?織田の援軍か(ドスッ)へっ、、、(ドサッ)」
「やはり、赤いのか、残念だ」
黒武者が、討伐軍に属していた男に、槍を突き立てる。
その行為を見ていた討伐軍の兵が集まり、黒武者達を取り囲む。
「なにしやがる!上様の勅命を頂いた織田頼長様の軍と知っての行為か!」
「そうだな、知っててやった。某は伊達成実、不服あれば、かかって来い!」
「なにぃ!伊達だと!織田政宗が再興させた、あの伊達か!」
「如何にも、わしは伊達忠宗、この様な行為・・・伊達家当主として見過ごせん!討ち滅ぼしてやろうぞぉ!」
男の問いに、馬を前に進め、叫ぶように話す忠宗。
「なんだと!そんな少ない兵で、わし等に敵うと思っているのか!こっちは1万じゃぞぉ!」
「この片倉景綱が、兵の大小で戦局が覆る事を教えて差し上げましょうか?重長行きますよ!突撃ぃ!」
お市の思惑とは違う形で、伊賀の地にて、戦端はひらかれてしまうのであった。




