表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
市公記~外伝~  作者: 女々しい男
15/23

鬼一

高野山、山門の前で、旅支度をした幼い子供と男が、一人の女子が会話を交わしていた。

「小市を頼みましたよ、蔵人」

「はっ、我が命に代えましても、お守りいたします」

「大袈裟ね、危なくなるような事には・・・させないから」

「・・・お市様、御身を大切にしてくだされ」

蔵人が市の顔を見れずに、下を向き答える。

「もう十分、生きたわ」

「おおばばさま、、、」

市は小市の前で、しゃがみ込むと優しく頭を撫でる。

「もう行きなさい。もう時は、それほど残されていないのだから・・・」

素早く立ち上がると、二人に背を向ける市。

「では、お市様・・・御武運を」

「、、、おおばばさま・・・、こいちはおりこうにしてるから、、、しなないで、、、ぜったい!むかえにきてね!」

「・・・(小市っ元気で暮らすのですよ)」

市が蔵人に声をかけて、蔵人が答えた後、涙を浮かべながら、それでも気丈に振舞おうとする幼い子供の手をひいて、去っていく二人に背を向け、心で別れの言葉を思い浮かべる市。

「お市様の進まれる道は、常に辛い道ですな」

その場に立ち竦み、涙を静かに流していた市に、声をかける僧侶。

「・・・覗き見ですか?応其」

涙を止め、応其に対して、冷酷な顔をする市。

「見守っておっただけですよ・・・して如何なさるおつもりで?」

すました顔で、市に対面する応其。

「どうするも、こうするも無いわ。民の動きに対して、考え行動するだけよ」

「民の動きですか」

「今の織田に逆らってまで、自立しようとするか?昔の時代に逆行するのか?それによって考えるだけよ」

「どちらにせよ、遅かれ早かれ、多くの血が流れる事になりましょうな」

「・・・そうね」

悲しげな顔を浮かべる市。

「そして、お市様は魔王となりましょうな」

「仕方ないわ・・・定めなのだから」

「・・・・・・」

市の言葉に、沈黙してしまう応其。

そこに忍びが現れ、市の前に跪くと口を開く。

「お市様、織田本家が織田頼長を大将に掲げて、兵をこちらに差し向けました」

「そう、意外と早かったわね。ところで佐助、織田本家はどの位の兵力を動かしたのかしら?」

「はっ、総勢1万弱」

「1万なら、織田正規陸軍全軍の数ね。ならば民は、支配される事を望むのか・・・」

落胆した顔を浮かべて、呟く市。

「いえ、織田正規兵は極僅か、殆どが織田親族衆に、臨時で雇われた者達のようです」

佐助の言葉を聞き、応其が微笑みながら、話し出す。

「どうやら、お市様のお心を分かっておられる方が、織田には多く居られるようですな」

「・・・拙いわ」

顔色を悪くして、呟く市。

「へっ?何故で御座いますか?」

「織田の正規兵ならば、規律を重視するから、民に被害があまり出ないわ。でもね、臨時で雇われるような兵など・・・規律なんて無い、織田の威光を背にして、悪事を働くわ」

「それならば、織田治安部の面々が動きましょう」

「動けないわよ、秀信の命で動いている軍なんだから・・・織田に属した軍は機能しない。やってくれるわね・・・姜子牙」

「「!っ」」

驚きと共に、市を凝視する佐助、応其の二人に対して、市は静かに微笑むのであった。


小市達と別れ、急ぎ鞍馬山に向かう為、鳥に変化した天子達は、人々が賑わいを見せる町に寄り、体を休めながら、情報を集めていた。

(天子様、これはかなり拙い状況の様で、御座いますな。それに小市様が半妖とは・・・)

(拙いなんてもんじゃないわよ迦楼羅!お市様が物の怪(小市)に取り付かれたって言って、大騒ぎだし・・・そんな事無いのに!人の噂なんて、面白おかしく騒ぎ立てるんだから!あいつら!もう疾風で吹き飛ばしそうだったわ)

((それはお止めください!!!))

(でも、あのお市様を見たら、真だと思えるかも・・・凄い力だったし)

(確かにな、風子は漏らしておったしな)

(なっ、なっ、、、漏らしてないし、モラシテ)

(いいのよ風子、気にする事じゃないわ、、、あたしも同じよ)

(天子様ぁ・・・)

二羽の鴉が、お互いの羽に顔を埋め、その傍に居た片目の鴉が、空に向かい

「かぁ~っ!」

と鳴くのであった。

その後、色んな町に寄り、情報を仕入れようとするが、詳しい情報は得られなかった。

こうして、時を費やして、鬼一が居るであろう鞍馬山に到着すると、三羽の鴉は変化を解き、人の姿を変わる。

「ふぅ、やっぱこの姿が楽だわ」

「我らは、ちとなれませぬが・・・特に風子は、、、」

「・・・・・・」

迦楼羅はなんとか、30代後半の渋い男に変化出来ていたが、風子は見た目は5~6歳の幼児で有りながら・・・胸が恐ろしく膨らんだ巨乳幼女になっていた。

「何?風子、それはあたしに喧嘩売ってるの?・・・売ってるのよね!ええっ買ってあげるわよ!来なさいよ!ホラホラッ!!!」

「お止めください!天子様ぁ!山中で御座る!山中でぇ~」

「ああっ、、、ごめんなさい、ごめぇ」

真っ赤な顔をして、叫び、風子に飛び掛ろうとする天子と、それを止めようと天子に羽交い絞めをする迦楼羅。

逃げ惑い、蹲り、謝罪の言葉を口にする風子。

「お主ら、わしの山で、何をしておるのじゃ・・・騒々しい」

一人の翁が現れ、三人に冷たい視線と言葉をかける。

「何だ?爺・・・殺すぞっ」

「・・・なんじゃと?」

怒りに身を任せていた天子は、いきなり現れた翁に暴言を吐くと、翁の顔が段々と赤くなる。

「そっその声・・・げっ!きっ、鬼一様!」

天子を押さえていた迦楼羅は、翁の声を聞き、翁の顔を確認すると、恐怖の余り、天子の羽交い絞めを解除してしまう。

解き放たれた天子の怒りは、鬼一に向かう。

「しねぇ!じじぃ・・・・グハッ、、、」

天子が放つ右ストレートを掻い潜り、鬼一のクロスカウンターが、天子の顔面を直撃する。

「甘いわ・・・小娘」

天子は薄れる意識の中で、自分を見下し、蔑みながら微笑む鬼一の顔を、脳内に焼き付けてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ