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市公記~外伝~  作者: 女々しい男
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それぞれの状況

大和国、多聞山城に一人の忍びが現れる。

「信幸様、ご無沙汰を致しております」

忍びが、織田信幸に話しかける。

「ほう、佐助ではないか。久しぶりじゃのう、幸村からの言伝か?」

「いえ、お人払いを・・・」

人の気配を感じ取った佐助が、信幸に頼み込む。

「・・・分かった」

深刻な顔をして、右手を上げると近習の者が、その場から退出する。

「これで良いか?」

「その襖の裏に人の気配が・・・」

信幸の後ろに位置する場所にある襖を、見つめる佐助。

「誰じゃ、下がれ」

佐助が見つめる襖に向かって言葉を発する信幸。

すると襖が開き、一人の女子が姿を現す。

「お通ではないか!どうして、そのような場所に居ったのじゃ」

「佐助殿が話す話が聞きたくて、聞き耳を立てておりましたが、流石は佐助殿ですね」

少し、微笑みながら話す通。

「くっ、佐助が人払いを申し出たのじゃ。お主であろうとも罷り成らぬ、下がっておれ」

「いえ、下がりませぬ。佐助は母上様の使いで、来られたのでしょう?」

「なに!お市様じゃと」

通の言葉に驚く信幸。

「あなた、声がおおきゅう御座います」

「あっ、すまぬ」

「流石は、お通様に御座いますな。信幸様には、過ぎたるお方ですな」

「なんじゃと!言うたな佐助」

怒る信幸に対して、二人は笑い合う。

「して、急いでおるのでしょう?佐助」

「はっ、お通様のお察しされた通り、お市様の居場所が織田家に発覚し、現在、織田の追っ手から、逃られておられます」

「おかしいと思っておったわ!お市様が行方不明と織田本家より、発表され、お市様の近衛衆解散など、明らかにおかしいと思っておった。何故じゃ、何があった」

「それはまだ、お答え出来ません」

「くっ・・・しかし、お市様は宰相ぞ!誰の指示じゃ!秀信様か!政宗殿か!そのような事が、出来る者など限られておるからな!兵を集めよ!お市様をお助けに参るぞ!」

「あなた、その様に怒鳴られますな。それに兵等集めたら、母上様がお怒りになられますよ」

「何故じゃ!この様な事、許される行為ではなかろう!」

「母上様がこの様な事を甘んじて、受けいれてる事が、答えではないでしょうか?もし戦も視野に入れてらしたら、もう動いておられましょう。」

「・・・・・・」

「それに、あなたが動かずとも、あの激動の乱世を無敗で乗り越え、この日の本を作り上げた母上様ですよ。今の織田家等、母上様がやる気を出されたら、敵では御座いますまい」

「・・・確かに、そうだな」

「でも、やる気が出せない現状があるのでしょうね・・・母上様がお困りなのでしょう?佐助」

通が、佐助を真剣な目で見つめ、話しかける。

「はい、織田の追っ手が思いのほか、手強い様で、大和軍政長官である信幸様に、迷惑をかけるかもしれないが、大和の通過許可をお願いしたいとの事」

「あらっ、三成と吉継が動いたのね」

「はい」

「なるほど、戦を視野に入れなければ・・・詰んでしまってるでしょうね」

「・・・・・・」

「ところで、母上様はどちらに向かってらっしゃるのかしら?」

「そっそれは、、、」

「高野山でしょ?」

言い淀む、佐助を見て、微笑みながら呟くように話す通。

「なっ!何故、お分かりに!」

「ふふふっ、昔ね、母上様から聞いた事があるのよ。物の怪の話・・・まっいいわ、その内、分かるのでしょうから、あなたどうなさいます?母上様の頼みを飲まれますか?断りますか?」

「その様な事を言われたら、断れる訳がなかろう・・・」

「あらっ?良いのですか?織田本家は疎か、市本家の政宗からも睨まれますよ?」

微笑みながら、困った顔を浮かべる信幸を見つめる通。

「お市様の行動を支持する、責は儂が取る」

力強く話す信幸。

「流石はあたしが選んだ旦那様ですわ」

見つめ合う二人を冷めた目で、見つめる佐助が一人佇んでいた。


「しかし、良かったのか」

「何がだ」

「何がとは、お市様に追っ手の手配など・・・」

「役目だ」

「役目ではあるがな、もう少し何とかならなかったのか」

「何ともならん」

「三成、お主は、行政幕僚長であろうが!」

「それを言うなら、吉継、お前は軍部幕僚長であろう」

安土の一室で、苦痛の表情を浮かべた二人の男が、向かい合い、言い合いを続ける。

「もう良い、最早、お市様を保護するのも、時間の問題だ」

「しかしな、あのお市様が理由も無く、この様な行為をされるのだろうか?」

「それは、保護した後、明らかになろう」

「そうなのだが、我らの行為は・・・お市様にとって不都合が、有るのではないだろうか」

「あるだろうな」

「なに!」

「今の織田政権は、秀信様を支える派閥とお市様を支える派閥が出来ておる」

「うむ」

「お市様が、野に下られ、行方を眩ませた事で、一発触発であった派閥の動きが、おかしくなった。お市様を支える派閥が、鳴りを潜め、筆頭格であった政宗様が、秀信様を支える側に回られた事が決め手であろう」

「まっそれもあるかもしれぬが、お市様は左様な事を、気にされる方では無いだろう」

「では何だ」

「それが分からぬのだ、此処まで必死に逃げる意味が分からぬ」

「意味か」

「上様や政宗様が、お市様が戻らぬと言えば、殺めても良いとの許可まで、出した事が、不審に思うのじゃ」

「それは・・・儂も感じた」

「身分の低かった我らが、この様な要職に付ける体制を考えられたのは・・・民を大事にされるお市様じゃ」

「そうだな」

「そのお陰で、お市様のお側近くで、学ばせて貰えた」

「・・・・・・」

「恩を仇で返さねば良いのだが・・・」

二人は、暗い表情を浮かべ、南西の方角を見つめるのであった。

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