あの頃のあたし
市公記とは、この世界で一番偉大な女性と人々に認知され、今尚、絶大な人気を誇る織田市の生涯を綴った正規書とされる。
太田牛一が書いたとされる信長の一代記、信長公記が作られた後に、作られたとされるが、作者は不明。
現存する資料、文献との類似点が多数ある為、信長公記と共にその時代を知る書としては、重要な一級書とされている。
そんな市公記の付属書でありながら、外道書として認可され、闇に葬られた書があった。
様々な架空の生き物が登場し、主人公である市が魔王であったり、お市死後も記載されてあり、市の曾孫にあたる、小市の生涯も鮮明に記載されてある為、小市公記とも呼ばれる。
しかし、市を神格化する考えが強い上層の人々の手により、人の目にふれられないようになっていく。
作られた時代から、今に至るまで、様々な学者、宗教家に忌み嫌われる禁書であり、今では、存在する事すら、分からなくなってしまった書物。
この書物が今、貴方の前に・・・。
貴方は、何を思い、感じるのか・・・
市公記~外伝~・・・開幕。
暗い・・・
暗い闇の中、私はただ浮かんでいた。
見える者は、私自身。
そう、私は死んだのだ。
この世に絶望し、自ら命を絶った。
後悔はしていない。
私は常に人に裏切られ続けてきた。
私は人と話すのが苦手だ、両親が違うのも理由になるかもしれない。
人とのコミュニケーションをとることを教わってはいなかった。
ただ、両親の不満の捌け口となり、家庭内で殴る蹴るの暴行は日常的で、学校でも同級生に同じ目に合わされていた。
私は何の為に生きてるのだろう・・・。
まだ十数年しか生きていないあたしが何を言っても、それは負け犬の遠吠えと言われる。
誰か、私を助けて・・・。
そう思い、今まで生きてきた。
でももう無理だ、このままではあたしはこの世を憎み生きていくことになる。
それは、私が嫌いだった者達になるということだ。
それだけは嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
私は手にしたナイフを首に刺していた。
喉の辺りから流れる血と共に、意識を取られながら思う。
生まれ変われるのならば・・・。
「やっぱ、地獄か」
私は周りを見ながら呟く。
「んっ?我が体よりいでし、わが娘よ。ここは地獄などではないぞ」
「でかっ・・・誰よあんた」
目の前に現れた山のような者が私に声をかけ、思わず本音が口から出る。
「儂か?名は顕仁・・・崇徳と言った方が分かり易いか?」
山のような者が首を傾げながら、私に語りかける。
「顕仁?崇徳?・・・そしてそのフォルム、、、まさか崇徳大怨霊!オワタ」
体を震わせて、ビビる私。
「ふむ、そうも呼ばれるな、でもな金色の大天狗とか言われちゃったりするぞ!」
胸を仰け反らせながら、私に話しかける崇徳さん。
「金色・・・真っ黒じゃん」
「ばっ!馬鹿!ちゃんと頑張れば・・・ふん!、、、でっできて、できて、、、おろ、、う」
「うん、、、出来てる?ね」
微かに光る体を生暖かい目で見てあげる、優しい私。
「分かれば良いのだ分かれば、してわが娘よ。今頃になって何故、私の元に生まれ出た?」
崇徳さんは首を傾げながら、私に問い掛ける。
「えっ?どういう事?あたしは崇徳さんから生まれたって?どういう事?」
私も意味が分からず、問い掛ける。
「ふむ、娘御にも分からぬのか、まっ理由なら分かる気もするが・・・」
「理由って何よ!」
「ふぬ、儂の願いが叶ったのよ。魔王様のおかげでな、それで我は子を宿す事が、出来るようになったのじゃろう」
高い鼻をこれでもかと天に掲げながら、話す崇徳。
「願い?魔王?」
「願いは天皇家を日の本の中枢から引きずり下ろす事。それが魔王様のお陰で叶う事となった、喜ばしい限りじゃ!その喜びと共に流れ出た涙・・・六百年以上、流れておらぬ涙と共に右目が落ちてな」
「えっ右目・・・」
私は思わず、自分の体を見る。
「ぎゃ~何よこれ!目ん玉じゃない!あたし目ん玉になってる・・・これじゃ、、、鬼○郎の、、、」
言うまい、心が凹む。
「んっ?目ん玉じゃが、もう儂の元から離れておる。その目ん玉はお前だ」
崇徳が笑いながら、目ん玉に、、、いや私に話しかける。
「こんな体で・・・何ができるのよ、、、シクシク」
「何を言っておる、自分の好きな姿になれるじゃろうが、まさか・・・分からぬのか?」
驚いたような顔をして、私を見つめる崇徳。
「出来るわけ無いでしょ!今も全然、理解不能なんだから・・・」
「そうかそうか、そうよな、生まれ出たばかり、分からぬのも無理はなかろう。思い浮かべるだけで良い、そうすればその姿になれよう。儂も六百年以上も子がいなかったのだ、子の育て方も忘れてしまったのかもしれぬ。すまぬ」
少し影を落として話す崇徳に、なんだか安心した気持ちになる。
「ごめんなさい、そんなつもりで言ったのではないの・・・ちっ父上様」
「おおっ!儂を父と呼んでくれるのか・・・こんな儂を、、、」
私は、恥ずかしい気持ちを抑えながら呟くと、涙を流しながら、微笑み喜ぶ崇徳。
それから、私は生前の姿を思い浮かべてみる。
「ほう、それがお主の姿か・・・可愛いの」
親馬鹿を発揮する崇徳。
「ちょっ、可愛いなんて言わないでよ!今まで言われたことないんだから!」
顔を真っ赤にして崇徳から顔を背ける私。
「すまぬすまぬ、わが娘だが、可愛いと思ったのは嘘偽りなどないぞ」
「もう・・・知らない」
両手を顔に当てて、蹲る私。
私はこうして、崇徳と出会い。
もう一つの時代を見る事になろうとは・・・思ってもいなかったんだ。