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三月二八日(木) 姉は普通のデートをする。

国立駅から東京駅に向かう中央線の中で姉はまた夢を見た。正確には夢ではなく実際にあった卒業式の夜一緒に風呂に入った時のことを思い出してしまった。あの日以来、妹は姉の中で遠い存在になっていた。電話も全くかけていない。妹の声を聞く度に自分は本当に汚れているような気がしてならないからだ。


最近新しくなった東京駅は平日でも人で満ち溢れていた。会社員が多い。スーツ。スーツ。またスーツ

「やあ」

と斜め前から声をかけられた。私を好きな男が私を見ているのを感じた。

この時間はほとんど品定めのようだ、と思う。姉には魚市場に出品された冷凍マグロのようにじっとしてもじもじしながら、スカートの具合や、ファンデーションが崩れていないかを微調整するくらいしかできることはない。

「相変わらず可愛いね。」

男は姉を褒めた。可愛いのは私じゃなくて、この一万円のワンピースだよ、と本当は叫びたかった。しかしそれがばれた時、この関係はおそらく終了する。恋は見た目が非常に重要だ、ということを姉は過去二件の恋愛案件で学び取った。経験はムダにするべきではない。

姉は男の後について歩き始める。トップスインナースカートタイツネックレスイアリングショーツブラフレグランスそしてメイク。だいたい月々三万円で姉の品質は保たれている。

食後、姉は財布を出す主義だ。

正確には、主義だった。前の男と別れてから姉は考え方を改めた。結局男は可愛くない女と割り勘するより、可愛い女に奢ったほうがその女を愛するのだ。金と労力をかけることで、女に愛情を感じるのだ。だから今まで男と食事するために取っておいたお金は全部服と靴と美容室に使うことに決めた。そう決めてから、新しい男は面白いくらいすぐに見つかった。誰かに愛されるにはまず愛せなんて誰が言ったんだ?それじゃうまくいかないじゃないか。

見た目が大事なのだ。私の願い以上に。私の愛以上に。世界は私の考えとは全く関係なく回るのだ。私が誰を愛しているかなんてこの世界は全然気にもとめない。ならば思いっきり世界にとって都合のいい人間になってやる。綺麗になってやる。金を使って綺麗になって男に愛させてやる。

…こんな私は汚いの?


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