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三月二八日(木)午前十時二十分頃
妹は未だかつて、こんなに急速に眠ったことはなかった。大抵、目を閉じてしばらくは、眠るのに関係ないことを考えるために時間が必要だった。しかし、今日はなぜか目を閉じた瞬間に深く引き込まれ、足元にある、遠い黒い点に引きこまれていくのがわかった。夢にしては気持ち悪い浮遊感だった。自分の目があるのかないのか、わからないような感覚になって、まぶたを開けようにも開ける方法が分からなかった。
どれくらい下に落ちていくだろう。
夢の中でものを思い出したり、考えたりするのも初めてだった。夢とは思えないくらい頭のなかがクリアで理路整然としているのが感じられた。妹は落ちていく途中、引越しのことと、姉のことと、来週からの自分の大学生活のことを考えた。しかし、上手く繋がらなかった。
頭がつながらないまま、妹はいつの間にか底までたどり着いたような気がした。そして自分に目があるのを感じた。そこで目を開けてみた。