表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

三月二八日(木)朝十時 

妹は四月一日から佐賀大学医学部医学科の大学生になることについて思いを馳せる。

 マンションの下のフロアにあるケーキ屋さんのケーキを買ってきて、家で紅茶を入れて、飲む。妹は来週から大学生だ。それも医学生。家族は誉めそやしてくれた。鼻が高い。窓の外には桜が満開に咲き誇り、小学生がかけてゆく声が聞こえる。希望に満ち溢れえている。幸せとはこういうことを言うのかもしれない。

 紅茶が出来上がったので、妹はティーバックを捨て、ケーキを一口かじる。佐賀産のいちごの酸味と独特の香りが舌から鼻に立ち上った。大まか期待通りの味がした。

 たった一人でLDKの部屋のソファーに座っているのはなんだか不思議な気がした。妹はふーっと紅茶を吹いてみた。フーという音はKからLに向かって吹き抜けていった。姉に電話したいな、と思い、しかし思いとどまった。

 それが一人暮らしってことよ。慣れよ。

 姉の言葉が目に見えた。そして少し悲しくなった。私も姉のように寂しさに慣れれば彼氏を一年に一回交換したりしてもなにも思わなくなるのだろうか、と妹は思った。

 まだ時計は午後三時を指していた。しかし残念なことに大学は来週からで、妹にはまだ家の近くに気軽に話せるような友達は居ない。引越しもまだ完全に終わっていなかった。部屋にはまだ、ベッドと机しかなかった。明日母が来て、引越しを手伝ってくれるらしい。

 妹はソファーに向かうと、その上にかかっていたソファーのカバーを丁寧に外し、ソファーに寝て、自分の体の上にカバーを掛けた。そしてソファーの手すりを枕にして、目を閉じた。

 昔姉と一緒にお風呂に入った時、それは確か、一昨年だ。姉が上京したばかりの時、妹はふと、聞きたいことを聞いてみたことがある。

「一人のお部屋でやることがない時、どうするの?」

姉はちょっと考えてから、一言、

「寝る。」

と言った。当時はかなり姉を馬鹿にしたものだが、今その気持は良く分かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ