三月三一日(日)一六時五五分
姉は妹の横顔を見つめる。
姉は一人で病室の横の簡易なパイプベッドに腰掛けていた。持ってきていた本も読み終わってしまったし、聴きたかった音楽もほとんど聞いてしまった。音楽を聞きながら本を集中して読むと、読み終わった頃に妹はひょっこり目をさますのではないかという気が姉にはした。だが相変わらず妹は呑気に眠り続けていた。他の患者も眠ってしまったようだった。病室の壁に張り付いている時計だけがカチカチ時を刻んでいた。
母は三時間前に帰り、父は一時間前に会議があると言って帰っていった。
日曜日に会議があるなんて絶対におかしい。
「本当に会議なの?」
と姉は聞いた。父は振り返るとまっすぐ姉を見た。姉は父の黒目が揺れるのを見逃さなかった。
「そうだ。本当なんだ。今日が最後かもしれない。大変なんだ。」
そう言う父の顔は今まで見たことがないくらい硬かった。突然思い出した母の白髪、病室のなんとなくやわらかな声で喋らなくてはならないような空気、それらはそれ以上姉が父を問い詰めるのを妨げた。
姉は自分に気がある男にでもメールしてみようかな、と思い立った。私の見た目が好きなだけでも、とぼそぼそと言いながら、スマートフォンを探した。寂しかった。しかし鞄の中にも、ポケット中にも見つからなかった。病室の時計は午後五時をカチッと指した。その瞬間、妹の携帯電話がけたたましくアラームを鳴らした。




