三月三一日(日)朝一〇時
翌日、姉は夕方サンライズ出雲に乗って帰るという男を置いて、朝一人で岡山に向かった。男が姉を起こしてくれた。姉は自分が布団からほとんど飛び出して下着だけでベッドの上に寝ているのに気が付き、慌てて服を着た。「石見銀山の銀貨」はスマートフォンにつけるにしては大きすぎて、ズボンのポケットにはいったままだった。岡山から博多に向かう新幹線はさくらという名前だった。変な時間だったので、弁当を買い忘れ、姉は博多駅でご飯を食べることにした。
姉は遅い昼ごはんを食べながら母に電話した。
『なんしょうと。元気にしとるね。』
「うん。今から家帰る。」
『そう。気をつけてね。』
「お父さんは?」
『お父さんは今日、会議』
「いつも会議じゃない?」
『そうね。』
母は黙った。姉は話題を変えてみる事にした。
「妹は?」
『まだ寝とる。』
「そっか。何の病気か分かったの?」
『ううん。お医者さんが言うには疲れたけん、寝とるんかもしれんって。そんなもう三日も寝続けることって、ないよねえ。』
最後の方はため息と混ざってよく聞き取れなかった。母は妹のそばにいて、疲れているのかもしれない。
『そう言えば、お父さんが博多駅おるけん、迎えにいっちゃるってよ。』
二〇分後、父が車で迎えに来た。車は家ではなく、妹のいる病院に向かった。
姉は車の中で父を見た。姉が上京した三年前より髪が黒くなっていた。やっと白髪を染めたのだろう。しかしそれはシワの刻まれた顔と合っていなかった。父は余計に老けたように見えた。
「お父さん、今日は何してたの?」
と姉は聞いた。父は少し間をおいて、
「会議だよ。最近、忙しくてね。」
と答えた。姉はそれ以上何も聞かなかった。




