三月三〇日(土)午後一二時
姉と男は出雲大社の周りを観光する。
姉と男はひとしきり祈った後、折角だからということで出雲大社の見学をした。姉は境内で大きく「えんむすび」と書かれたお守りを、男は小さな鈴のついたお守りを買った。姉と男は出雲市駅に帰るバス停の近くの蕎麦屋に入った。
二人でこんなところに座っているなんて、と姉は思った。まるでカップルみたい。
「お前さ、さっき買った縁結びのお守り、どこにつけるわけ?露骨に出会い求めてて恥ずかしくない?」
「秘密。」
男は付き合っている時と変わらず、姉にずけずけと文句を言った。それはきっと姉を思ってのことだ。と姉はそう思いたかった。姉は黙って蕎麦はつるつるした、出汁の濃い、割子そばをすすった。姉は二段の蕎麦とぜんざいのセットを食べ、男は五段の割子そばとぜんざいを食べた。
「美味しかったね。」
「うんなかなかだったね。本場の蕎麦はね。」
男は本当に嬉しそうだった。姉はその顔を見るとなぜか目の下のほうが熱くなった。姉は目を細めてごまかした。姉のその顔はまるで微笑んでいるように見えた。
二人は帰りにおみやげ屋に立ち寄った。男はおもしろがって姉に「石見銀山の銀貨」と書かれた、どうみても鉄でできた小判の形をしたキーホルダーを買った。
「俺さ、新しい彼女できたんだ。」
と男は「石見銀山の銀貨」の金を支払いながら硬い顔で姉に言った。
「知ってる。」
姉は店の外の行き交う人を見ながら息を吐いた。男がいる。女がいる。子供が居る。関係性は様々だ。昔の彼女である私。新しい彼女を作った男。よくある話だ。
「でも俺さ、」
姉は男を見た。男もまっすぐ姉を見返した。さっきまでのへらへらとした笑顔が消え、真顔だった。
「お前のご飯美味しかったし、お前と勉強して成績も上がったし、感謝してるんだ。だから友達でいて。」
姉は男を見て目を細めた。男にはその顔はとても笑ったように見えた。姉の目の裏から、喉、胃、心臓まで、熱い液体が流れ落ちていった。感謝してる。友達でいて。
男の携帯が鳴ったのはその二〇分後、出雲市に戻る電車のホームでの事だった。




