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三月二九日(金)夜〇時二分
「妹が…妹が目を覚まさないのよ」
電話に出るなり、母は静かに言った。それはもうひとしきり泣いた後、声が出なくなってしまったような声だった。
「今病院におるんよ。死んだごとなって。でも死んどらんのよ。今検査したり、点滴を打ったりしよる。脳の障害かもってお医者さんが言いよるけど。」
私は母が言っていることがよくわからなくなってきた。耳の鼓膜が音を拒否している。耳鳴りがしている。わけがわからない。
「だって妹は来週入学式じゃない。」
だって、と言っても世は非情なのだから、晴れ舞台だからといって幸せという保証はどこにもない。そんなことは姉もよく分かっていた。
母は電話口で泣き始めた。出す息より吸う息のほうが大きく甲高い、狂ったような泣き方だった。




