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恋愛魔法はじめました。  作者: 奈屋一郎
恋愛魔法であいました。
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1-4 恋愛魔法とつくし

 絶体絶命の中、不知火が裏ポケットからパンツを取り出した理由を知るには、十年ほど時を遡る必要があるだろう。


 不知火つくしには十歳違いの春日あさひという従姉がいた。

 十年前。それは恋愛魔法がオカルトではなく人間の能力のひとつと認られた最初の年。

 その頃、万葉高校に通っていたあさひは、万葉高校で初めて恋愛魔法使いとして最高ランクのSを認定された。

 当時の日本では数えるほどしかいないその名誉に輝いたあさひは、マスコミなどに取り上げられ、その恋愛魔法という能力を日本に広めることに尽力し、 恋愛魔法使いの第一人者となった。


 あさひは優れた恋愛魔法使いだが、それだけでテレビなどのマスコミへの露出が激しくなったわけではない。当時Sランクの恋愛魔法使いはあさひを除けば五人はいた。しかしあさひほどのエンタテイメント性はなかった。

 マスコミが視聴率、注目を集められると頼ったあさひの能力が感知魔法に特化していたからだった。

 あさにの得意な主な感知魔法は、他人からの好感度を数値化することや、他人の恋愛的弱点(好きな性格など)を判別するものだった。

 その能力がテレビではエセ恋愛ドキュメンタリーやバラエティ番組などで重宝され、雑誌等では恋愛アドバイスのコラムを書いたり、占いのようなものを書いたり、恋愛魔法入門といった恋愛魔法関連の本の執筆や監修を行ったりするなどし、『日本の恋にあさひがのぼる』という恋愛コラム本は三十万部を売上げ、日本に恋愛魔法ブームを起こすほどだった。


 普通の優しいお姉さんだったあさひがどんどんと有名人のようになっていく姿をみて、つくしは恋愛魔法に強い興味を示した。普通の人がたくさんの人から頼りにされるその力とは、一体どういったものなのか。

 まずは図書室にある子供向けの恋愛魔法の解説本を読むことから始めた。

 そこで恋愛魔法の基礎的な知識を得た。


 恋愛魔法は十二歳頃から十六歳頃から使えるようになり、生涯の相手を見つけたときに失う。

 およそ男は千人に一人、女性は百人に一人がその素質を持つ。

 恋愛魔法の才能は遺伝によるもの、もしくは環境によるものとされている。

 その環境とは、恋愛したいという感情を押え付けるものとされているが、例外も多くこれは一例に過ぎない。

 男は生涯の相手を養っていかなくてはならないのだから、必ず失う恋愛魔法を学ばずに将来のために失うことのない知識を学ぶ道を選んだ方が好ましい。


 恋愛魔法は外見、内面、感知、戦闘と大きく四つの種類に分けることが出来る。


 人の外見に作用する魔法は外見恋愛魔法とされ、略してアピアランス、Aやら外見魔法に外魔とも呼ばれている。

 これは主に、自分の容姿を変え、魅力的に見せるように錯覚させるものだ。

 一重なら二重に、唇が薄いなら厚くさせ、肌が荒れていればきめ細やかに見せることなどもできる。その整形範囲が広く、錯覚対象者が多く、整形方法が複雑化すればそれだけ高度な魔法と大量の魔力が必要になる。


 次に内面に作用する魔法だが内面恋愛魔法と言い、パーソナリティーもしくはP、内面魔法や内魔とも呼ばれている。

 これは所謂オーラ、雰囲気を変える作用を持っている。

 嫌なことをしても憎めない雰囲気を出すことや、なんてことない一言なのに胸を響かせることや、威圧感を出すことなども出来る。その相手の人数、そして感情を動かす幅を大きくすればするだけ、高度な魔法と大量の魔力が必要になる。


 続いて感知だが、他人が抱く感情、居場所を読み取る魔法などを感知恋愛魔法といい、フィーリングもしくはF、感知魔法や感魔とも呼ばれている。

 これは相手の見せていない感情をひきだせばひきだすほど高度な魔法と魔力が必要となる。


 最後に戦闘は、恋愛魔法同士が恋愛対象者を取り合う為に生まれた攻撃的な魔法を戦闘恋愛魔法と言い、バトルもしくはB、戦闘魔法や戦魔とも呼ばれている。

 これは恋愛魔法使い同士にしか出せない念波で攻撃しあうのだが、物理的な攻撃力ではなく精神的なダメージを与え、恋愛対象者から身を引かすように仕向ける、いわば威嚇のようなものだ。


 最初は家族に隠れながら本を読んでいたつくしだが、学校の先生からチクられてしまい、恋愛魔法に興味があることを知られてしまう。しかし両親は、将来つくしが変な恋愛魔法使いに引っかからない為の知識を得ることならば悪くないと考え、学校の成績さえ良ければとつくしの興味を尊重させた。

 そんなこんなで十歳までになんとなく恋愛魔法を理解できたつくしだが、男が恋愛魔法を使ってはいけないことに疑問視していて、それに見合う答えというものを見出せないでいた。

 それは従姉のあさひが十歳の誕生日にくれた『恋愛魔法指南書(大丈夫、春日あさひの認定書だよ)』を読んでも納得出来ないでいた。

 世間では当たり前のように恋愛魔法を使う男性をバッシングする報道があり風潮があって、つくしもなんとなくそういうものなのかと思っていた。

 そしてあさひが恋愛魔法ブームを起こしてから二年、大学生となったあさひはというと、人気は落ちついていてテレビ出演などの露出はほどほどにし、ほとんどを日本初の恋愛魔法の教員を目指すための勉強にあてていた。

 教員を目指す従姉だからこそ、つくしは訊ねてみた。

 十歳の誕生日会の後、布団の中でプレゼントされた恋愛魔法指南書を読んでもらいながら。

「あさひちゃん。どうして男は恋愛魔法使っちゃダメなの? 僕もあさひちゃんみたいになりたい」

 あさひは拗ねたつくしをみて、くすりと笑った。彼女の微笑は上品で、バカにしているような感じはない。こういった品の良さが、人気のひとつにあったのかもしれない。

「つくしは私になりたいの? 恋愛魔法使いになりたいの?」

「それは……どっちも」

「欲張りだねえ。つくしは好きな子いるの? もしかして私じゃないよね」

「ちっ、違うよ。あさひちゃんは好きだけど恋愛の好きじゃない」

「おお。さすが恋愛魔法を勉強してるだけあるね。ませたこと言うじゃない。じゃあさ、その子の事を思い浮かべて」

 つくしは眼を閉じてじっと高倉美香紗のことを思い浮かべた。

 幼稚園からの幼なじみの高倉は勉強も運動も苦手で更に友達を作ることも苦手としていた。幼稚園の頃から毎日遊んでいた友達をひとりぼっちにさせるのは嫌だったつくしは、学校で高倉と出来る限り一緒にいることにした。

 放課後につくしが男友達と遊ぶこときにもついてきて、ただただ無言でその遊びを眺めるだけだったが、それでもつくしは高倉が懐いてくれていることをうれしく思い、それを受け入れた。周りの友達もただいるだけで害のない高倉に文句を言うことはなかった。

 そんな高倉に対してつくしは守ってあげなければ、という感情から徐々に恋心を育んでいった。

「その女の子に好かれる為につくしは何をどうすればいい?」

 目を瞑りながら困った顔を作る。

 どうやって友達の一線を越えればいいのかその方法がわからないでいた。その年齢でそのような色恋を想像することは難しいし、つくしは恋愛魔法の勉強ばかりをしてきたのだから、尚更わからなかった。

「わからない。でも恋愛魔法を使えればどうにかなるかも」

「じゃあ、使えるっていうルールにしようか」

「本当? じゃあね、じゃあね」

 男が恋愛魔法を使ってはならないというタブーがあるから、もちろんその想像もしてはいけないと否定されると思っていたけれどあさひはしなかった。

 つくしはこの二年間、学んだ知識を集結させた。妄想をひけらかすのはわくわくするし恥ずかしくもある。

「まず感知魔法で美香紗の好きな顔をわかって、それから外見魔法でその顔を作るでしょ。で美香紗は話すのが得意じゃないから話しやすい内面魔法で雰囲気を作るんだ。それで感知魔法で美香紗を楽しませるような話ばかりしてから告白するんだ」

「それだけ複雑な魔法をさらに一日中使い続けるとクタクタね。私にだって難しいわ」

「だってそれは想定だし、それに僕が恋愛魔法使いになれば頑張ってすごい魔力つけるように特訓するし」

「じゃあ恋愛魔法の先輩としてアドバイスするわ。最高と最低と通常のプランを考えておくべきよ。つくしの思い通りに進む保証はないんだから」

 あさひがそう言うと、つくしはベッドから飛び出して机の上に座ってノートにその言葉を書き留めた。

「勉強熱心だね、つくしはえらいよ。でもさ、その魔法で好きになってもらって、美香紗ちゃんと一生一緒にいると決めると魔法は使えなくなってしまうわ。そうすると美香紗ちゃんはどう思う?」

「嫌いになるかもーーってどうして美香紗って知ってるの?」

 夢中になって妄想を話していたせいでつい美香紗の名前を出してしまったようで、つくしの頬は赤く染まる。その様子を見たあさひは小さく声を出して笑った。

「つくしは素直でいいわね。本当は言いたくなかったけれどつくしには恋愛魔法の才能があるの」

「本当? あさひちゃん、それって冗談じゃないよね?」

 嬉しさを爆発させたつくしは椅子から勢い良くベッドに向かってあさひの元に駆け寄る。

「私は指折りの感知魔法使いよ。間違いない。私よりも才能はあるわ。でもそれがどれだけ大きくてどういったものかはハッキリしない。こんな感覚は初めて」

「あさひちゃん。男だけど恋愛魔法使いになっていいかな?」

「おすすめはしないわ。女の人のフリをして生きていくより辛いことよ。それに恋が実って魔法が使えなくなったとする。でも何かが原因で好きな人と別れてしまった。そのときつくしには本当に何もなくなってしまう。何年も恋愛魔法の勉強をしたのに無駄になってしまう」

「そんなの絶対やだ。でもさ、女の人はどうして魔法がなくなっても好きでいてもらえるの?」

「まだつくしはわからないだろうけど、好きでいてもらってはいないわ。それは男の責任という風潮があるからよ。男の人は好きになった女性のことを一生守らないといけないのよ。それがこの国の風潮なの」

「この国から出て行けば使ってもいいよね?」

「他の国はもっとややこしいのよ。宗教とか風習、色々あって恋愛魔法自体を禁止している国も多いから。だからつくしがもし本当に恋愛魔法使いになりたいなら、美香紗ちゃんに好きって伝えないで恋愛魔法を使い続けるか、両想いになって恋愛魔法が使えなくなったあと、嫌われる可能性を覚悟できるか。選ぶとすればそのどちらかよ」

 悲しそうな顔をしてあさひは弱々しく言った。

「もしかしてあさひちゃんは恋愛魔法が嫌いなの?」

「まさか。トクベツな力のおかげで普通じゃ知れない人、普通じゃ知れない世界に触れることが出来たからそれはすごくいいことだったわ。でも力を失ったときの怖さ、その怖さを拭ってくれるくらい好きな人に出会えるのかなって不安はある。ねぇつくし?」

 あさひは思い詰めた顔でジッとつくしを見つめた。その顔を悲しく冷たく怖く感じたけれど、目をそらすとそこからあさひの姿が消えてしまうような気がしてそらすことは出来なかった。

「つくしはもし私が魔法使えなくなっても、今と同じように接してくれる?」

 本当のことを言えばつくしには想像ができなかった。けれどそれを否定するとあさひが悲しい顔をするのはわかりきっていたので、つくしは生まれて初めて作り笑いをした。

「もちろん。あさひちゃんはあさひちゃんだよ」

 それを聞いたあさひの安心した表情は一生心から消えることはないだろうと、十歳ながらにつくしは感じた。

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