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3.出会い

 何で。

 何で。


(何でぇぇぇええええ!?)


 屋台の立ち並ぶ大通りを、ティムレは必死で駆けていた。


「待ちやがれぇええええ!!」

「ふざけんなぁああ!!」

「金返せぇえええ!」


 背後から怒りの形相で迫ってくる男たちから逃げるために。

 走りながらティムレは思う。


(何で私がこんな目にぃいいいい!?)




 ――遡ること、少し前。

 ティムレは大通りに並ぶ店を冷やかしつつ、周りの流れに乗って歩いていた。

 数軒見回って、次はどこの店を見ようかと、ふと視線を巡らせた――その時。

 ティムレは、大通りの向こうからこちらに駆けてくる少年と目が合った。


「っ、姉ちゃんパース!」


 ティムレよりも幼い姿の少年はいきなりそう叫んで、手に持っていた何かをティムレに投げた。

 それを――、

 パシッ。

 ティムレは、咄嗟にキャッチした。


「へ……?」


 ダダダダダダダッ。

 少年はそのまま減速することなく、ティムレの横を駆け抜けて行く。

 少年が横を通り抜ける瞬間、小さく「ごめん、後頼んだ」という声が聞こえた。


「……え?」


 その意味をティムレが理解するよりも前に、少年の姿は人混みの中に見えなくなった。


(何……今の)


 驚きながらも、たった今キャッチした物を見る。

 くたびれた革の財布だった。

 これは何なんだろう、と首を傾げかけた時、


「あー!」


 後方で声が上がった。

 ティムレの肩が、ビクッと跳ねる。

 驚いて振り返ると、大通りの中央を通行人を押しのけながらティムレのいる方へと走る三人の男たちが見えた。

 その中の一人が、ティムレの方を指で指している。


「今、ガキがそこの女に何か投げたぞ!」


 男が叫んだ。


「「なにぃ!?」」


 その声に他の二人も反応する。


「ひ……っ」


 三人がティムレを睨み、そのままティムレに向かって駆けてくる。

 その男たちの鬼気迫る形相に、思わずティムレは逃げ出した。


「逃げたぞ!」

「追え!」

「捕まえろ!」


 後ろから聞こえる男たちの声に、ティムレは半泣きになった。



 そして、今。

 ティムレはその男たちと必死の追いかけっこを繰り広げている。


(理不尽すぎる……!)


 よくは分からないが、後ろから聞こえる男たちの叫び声から考えるに、さっきの少年はあの三人から財布を盗んだのだろう。

 それがバレて逃げる途中で、たまたま目が合ったティムレに財布を投げて男たちの注意を逸らして姿をくらませた。

 で、男たちは少年に財布を投げ渡されたティムレを少年の仲間だと思い追いかけている、と。

 はっきり言って、とばっちりだ。

 ティムレはあの少年とは、何も関係がない。

 ティムレが追われる理由などないのだ。

 はた、とティムレは気が付いた。


(何か、迫ってくる表情が怖すぎて咄嗟に逃げちゃったけど、考えてみれば私が逃げる必要なんてないんだし、止まって事情を説明すれば分かってくれるんじゃ……?)


 そうだ。

 今からでも、遅くはない。


(私があの少年と全く関係ないことを伝えれば……)


 ティムレの走るスピードが僅かに減速する。

 そして、そのまま後ろを振り返ろうとして――、


「さっきのガキ共々、血祭りにしてやる……!」


(ひぃいいいいいーっ)


 背後からかすかに聞こえた地を這うような低音に、振り返りかけていた首を元に戻す。

 止まれない。

 止まったら、確実に()られる。


「女ァ!あのガキはどこだ!?」


 走るティムレに向かって、追いかけてくる男たちが叫ぶ。

 長時間に渡る追いかけっこに、男たちも痺れを切らしているようだ。


「し、知りませんー!てか、私、関係ないんですってばー!」


 後ろにいる男たちに向かって、ティムレは叫んだ。

 しかし。


「信じられるかぁああああ!」


 殺気立った男たちには、ティムレの訴えは届かない。


「いやぁあああああ!」


 大通りに、ティムレの悲痛な叫び声が響いた。




 走る。

 走る。

 ティムレは必死で走る。


「はぁ……、はっ」


 息が上がる。

 幸い、ティムレよりも俊敏性に優れている者がいないようで、今のところ追い付かれるに至っていないが、それも時間の問題だ。

 スタミナが持ちそうにない。


「待ちやがれー!」


 さっきよりも、後ろから聞こえる男たちの声が近くなっている。


「……っ」


 もう、ダメかもしれない。

 ティムレがそう思いかけた時――、


「誰が逃がすかってっと、ぅおわぁああ……!」

「「ちょ、ぎゃあ……ッ」」


 聞こえていた男たちの声が不自然に途切れ、奇声が上がった。


(え、何……?)


 背後でいきなり上がった奇声に、ティムレは振り返る。

 そして。


「……へ?」


 思わず、足を止めた。

 ティムレを追っていた男たちが、一斉に前方へとスライディングでもしたかのように地面へと倒れこんでいる。

 倒れこんでいる男たちの向こうには、一人の人物が立っていた。


「何すんだ、テメェ!」


 その人物は、黒のフード付きのマントを羽織っていた。

 顔は、フードを目深に被っていて分からない。

 マントの裾から、片足が突き出されている。

 そして、今の男の言葉から察するに、このマントの人物がティムレを追っていた男たちを足に引っ掛けたのだろう。


「聞いてんのか!」

「黙ってんじゃねぇぞ、コラァ!」


 起き上がった男たちが、マントの人物に詰め寄る。


「……女一人を寄ってたかって追いかけるのは、感心しないな」


 フードの中から聞こえる声は、低い。

 どうやら男のようだ。

 詰め寄ってくる男たちに怯える風もなく、マントの男はゆっくりと片腕を前に突き出した。


「あ?何するつもりだ?」


 そして――。


「《ウインド・ハンマー》」


 ポツリと響いた声をティムレが耳にした瞬間、ゴォッという唸りを上げて、大通りを風が通り抜けた。


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