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箱庭に雛  作者: 安宅
プロローグ
1/26

東雲嘉一

 高等部2年の夏休み第一週目、寮から帰省した東雲(しののめ)嘉一(きいち)は病院にいた。実家に着いた途端に崩れ落ちるように倒れ、玄関より中に入ることなく救急車で運ばれたのだ。

 目を覚ました嘉一は消毒液の臭いの染み付いた病室で、ストレスで倒れたのだろうと予想した。家族には話していないが、嘉一は学園でいじめに遭っていた。全寮制のため逃げ場のない陰湿なそれ。期間としては数ヶ月だが、身体と精神は限界を迎えたのだ、実家に着いた途端張り詰めた緊張の糸が切れたのだ、と。


 テレビドラマの知識を頼りに見つけたナースコールを鳴らすと、病室へ両親と担当医らしき医師が入ってきた。嘉一はストレスの原因、つまりいじめのことを両親に明かすべきか逡巡した。ごまかすか、ごまかせるのか、話すか、話して何が変わるのか。

 ぐるぐると脳内を巡る言い訳、葛藤。しかし医師の言葉は、それらを全て吹き飛ばした。





 東雲嘉一の身体は、ほとんど女性のそれである、と。










 嘉一は一貫教育の男子校へ、附属の幼稚園から通っている。勿論今も。今の今まで、自身の身体的な性別を否定されるどころか、疑問を持たれたことなぞない。



 医師曰く、嘉一の病名は『性分化疾患』。特定の症状はなく、染色体や生殖腺、または解剖学的に性の発達が先天的に非定型的である状態を指すのだという。嘉一の場合は染色体や内性器は女性のものだが、外性器のみ男性のものとして発達したらしい。母胎で外性器を形成する際の男性ホルモンの過多が原因らしいが、詳細は理解できなかった。


 大切なことは経緯ではなく結果。嘉一の場合は二つの選択肢が与えられた。

 外性器を女性のものに合わせて『女性』として生きるか、男性ホルモン投与により『男性』で現状維持するか。


 通常、本人の性自認、患者が『自分はどちらだと思っているか』に合わせて治療するそうだ。医師は、無理に身体に合わせる必要はない、と言った。嘉一が『男性』を選び取るならば、それも間違いではないと。


 実際、養育されてきた性別に合わせた方が、患者への負担は軽いだろう。

 嘉一はあまりに突然のことで、混乱の極みにいた。ぐちゃぐちゃに頭の中を掻き回す情報の中で、嘉一は一つの可能性に思い至る。



 今、『男性』としての東雲嘉一が否定されかかっている。




 ほとんど意識せずに、回答が唇から飛び出した。







「女にしてください」









 熟慮を勧める医師に首を横に振る。考える余地なぞない。

 鏡を見るまでもない。自身の表情は歓喜に満ち溢れているだろう。




 物心ついた頃から、嘉一の心は少女のそれだ。


 『男性』である身体の否定は、同時に『女性』である精神の肯定だった。

 性分化疾患については、一部こじつけです。ご容赦下さい。

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