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或る夜

作者: 中谷 仁

 

 こんな夢をみた。私が部屋で横になっていると、猫がいる。真っ白な毛並みの、右が金、左が碧の瞳をした猫である。部屋は半ばあたりから外につながっていて、陽が出ているのがその明るさでわかった。猫は淡い色の花が満開になった樹の枝に坐って、こちらをじっと見つめている。いままでに見たのでいちばんきれいな猫だ、と私は思った。

 こちらが薄暗い部屋で寝ているので陽の光が眩しいくらいなのだが、あまりの美しさに私は瞬きもせず猫に見惚れていた。猫はにゃあと鳴くこともなく、私のほうを見つめるばかりで身動きひとつしない。逃げることもせず毛を逆立ててもいないから警戒しているのではないらしいが、猫を飼ったことはないからよくわからない。なんだか私のほうを窺っているようでもあった。

 猫が少しも動こうとしないものだから、こちらが動けばさっと逃げてしまうのではないかと私も動くに動けない。さてこれはどうしたものかと思案に暮れていたところではっと目が覚めた。

 私が目を開けると、眠りに就いたときと同様に同居人が隣で眠っている。部屋のあちらが明るいので朝かと思って目をやると、夢のなかと同じように向こうが外になっていた。立派な樹の枝に猫がちょこなんと坐っている。相変わらずこちらをじっと見つめていた。

 私は傍らの同居人を揺り起こした。同居人は半分眠っているようなようすでむくりと身を起こし、眩しさに気が付いてか光のほうへ顔を向ける。と、それまで毛のひとすじも動かそうとしなかった猫が少し、首を動かしたように見えた。私はおや、と思った。事態の呑み込めてないらしい同居人が、眠たげな目を細めつつ顔を猫のほうへくい、と動かして何度か瞬きをする。猫のほうもわれわれのほうへ首を曲げて二、三度きょとんとして人間じみた表情で瞬きをしてみせた。どうやらやつと猫とは見つめあっているようである。くい、くい、と互いに首を傾けたりなぞしている様は妙なおかしみがあって私はそれを黙って見ていたが、そうこうしているうちにある事実に気が付いた。同居人と猫がおんなじような動きをしているのである。正確にいえば、やつが首を右へ傾げると猫はこちらから見て左へ首を傾げているようである。私は同居人に目を遣った。

 と、そこにいたのは真っ白な毛並みの猫であった。右が碧、左が金の瞳をしたきれいなやつである。私はあっと声を上げたが、それは音にはならなかった。こんな夢を見た。



 

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