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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不幸な私と、残念なご主人様

作者: はにゃか

※軽くですが死の表現がありますので、苦手な方はお戻り下さい。

今朝出た彼氏のマンションに忘れ物をしたことに気づき、取りに行ったことで彼氏が浮気している事が発覚した。

というか、私が浮気相手だったらしく女性から罵声を浴び、彼氏からは冷たい視線を浴びた。

駆け込んで我が家に帰った途端、涙が溢れてきて一日中泣きはらした。

女性と彼氏の裸の記憶が薄れ、涙が枯れ果てた真夜中にやっとノロノロと動き出し、今日2回目の食事をとった。

幾分か落ち着きを取り戻した私がお風呂に入ろうと扉を開け放った瞬間に白い光りを浴びた。

眩しさが落ち着いて目を開けると、そこは異世界だった。

石畳がひかれた少し冷気が漂っているその部屋には中世に似た服を着た人と、見慣れたお姉様系ファッションで着飾っている美しい日本女性が立っていた。

私と日本女性が呆然と立っていると一番豪華な服を着て偉そうなこれまた美形な男性が日本女性の前に歩みを進め、何と求婚し始めた。

『君が余の花嫁だ』とか『何て美しいのだろう』とか口説きに口説かれている日本女性は満更でもなさそうに頬を染めていた。

絶対にあれは男受けをわかっているな、と冷静な目で見ていた私の所にはフードを深々と被った人がやってきて、一緒に近づいてきた剣を携えた騎士っぽい人が私の両手に枷をはめた。

日本女性と男性が甘い空気を放っているすぐ横を私は引きづられるように歩かされ、ジメジメとした牢屋のような部屋へと連れて行かれた。

そこで聞いた説明によると、この国で暴れている怪物を鎮めるために生贄になってくれとのことだった。

どうやらこの国で行われた召喚は『王妃』と『生贄』を呼び出す為だったらしい。

流石に命を奪われるとなると私も抵抗に抵抗を重ねた。

だが、その甲斐もなく、私は一週間後に怪物の生贄となり、胃の中に納められて、人生を終えた。

ただ一つ幸運だったのは怪物の一噛みで絶命したので、痛みがほどんどなかったことだと言えよう。


・・・と私の生前の記録を見た裁判官(以後めんどくさいのでAと呼ぶ)らしき人がおいおいと泣きながら申し訳ないと土下座してきたので少し引いた。

ちなみに現在は、所謂死後の世界にいて、私は何処へいくべきかという判決待ちだった。

まるでチワワのように裁判官が目をうるうるとさせているのは置いといて、実は私の存在は異例のことらしい。

私は異世界の人間なので、私の管轄の裁判官(やっぱりめんどくさいので以後Bと呼ぶ)が急遽呼ばれることとなった。

生前の記録を見終わって、眉間にしわがよったBがAに詰め寄っていた。

私の人生には起こることが決められていなかった『異世界召喚』と『生贄による死』を引き起こしたこの世界に対し、ネチネチと怒っているBを横目に、長い(一方的な)話し合いにうとうとと船をこぎ始めた時、突然私の身体が引っ張られるような感覚に襲われた。

私に珍しく「ぎゃあ!」と色気もくそもない悲鳴を上げたことで、ヒートアップしていた(一方的な)話し合いの参加者が私の異変に気がついたが、時既に遅し。

遠慮のないくらいの力強さに勝てるはずもなく、グンと引っ張られた私の意識は真っ白になった。



「ふむ、これは使えそうだ」

永い眠りから覚めたような酷い頭痛に眩暈がする中、聞こえてきた声はとても滑らかで耳障りが良かった。

どうにか目を開けようと瞼を動かそうにも鉛がはいっているのかと思うくらいの重さでビクともしない。

「おや、なんと・・・!あぁ、自分で自分の才能が恐ろしくなってしまった」

言っている言葉とは裏腹に自惚れた声でそう喋る人物は私の身体を持ち上げたらしく、突然の浮遊感に驚いて目が少しだけ開いた。

「無理はするでないぞ、お前は蘇ったばかりなのだからな」

優しくそう諭す声に身を任せて・・・というか頭が痛すぎるので私はまた意識を手放すことにした。


次に目覚めた時、私はベッドの中に横たわっていた。

今度はしっかりと目も身体も動くようなので、私は起き上がって部屋の中を観察する。

必要最低限のものしかないが、私が住んでいた8畳マンションよりも広い部屋。

外を見ようとベッドから降りてカーテンを開けた途端、様々な色が混ざり合ったようなマーブル色が目に入ってきて、自然とまたカーテンを閉めた。

何度か同じ動作を繰り返して、深いため息をついた時、ドアが開けられた。

「どうやら目が覚めたらしいな」

入ってきた人物の声は意識がなくなる前に聞いた声だった。

そっと振り返ってみて、その行動を後悔した。

そこに立っていた人物は彫刻のような、いや架空の人物並みのウルトラハイパー美形で、どんなに美を誇る美女さえも自分の自惚れに羞恥するほどの美をたずさえていた。

「・・・ふむ、ギリギリ私と会話することを認めよう。本当にギリギリにだがな」

今度はその美形と話さなければいけないことに後悔した。

洗練され、自分がどのような行動をとれば美しく見えるのか計算された動きをする目の前の人物に嫌気がさしてきた。

ナルシストだ。断言できる。これは私が苦手とする分類のナルシストだ。

どうしようと思っている間に、ナルシスト(仮)はソファに座り込んでいて、思わずため息が出た。

「そうだろう。ため息が出るくらい私は美しいだろう」とか何とかほざいて・・・言っているのは放って置いて、今は現状確認が一番だ。

「あの、いくつか伺いたい点があるんですが」

「うむ、許す」

何だこの偉そうな態度、と思っても顔には出さない。あとがめんどそうだからだ。

「私は死んだはずなんですけど」

「私の手に掛かればこのようなこと、造作も無い。何せ私はあのグレンハルト・フォン・ヴィアスなのだからな!」

「・・・すみません、グレンハルト・フォン・ビアスという名前は聞いたことありません」

「なんと!!私の名前を知らないなど、ふざけているのか!?ちなみにビアスではなくヴィアスだ」

「(細かいな・・・)はぁ、すみません」

「まぁ、良い。“至極美のネクロマンサー”という二つ名ならば子どもでも知っているだろう」

「(何かダサい二つ名だな)それも存じてませんが」

「なに!?貴様ふざけているのか!・・・いや、私のあまりの美しさに照れているのだな。うん、そうに違いない」

「いや、それは全くないです」

中身が残念過ぎて、という言葉を紡ぐ前に口を閉じる。

「それより、ネクロマンサー?というのはどういう意味なのですか?」

「ネクロマンサーさえも知らないとは!・・・どんな辺境の地で育ったのだ」

そういうってソファから立ち上がったナルシスト(仮)が突然私の頭を鷲づかみにしてきたので流石に驚いた。

やめて下さい!と振り払う前に何か頷きながら手を離したナルシスト(仮)と初めて目を合わせた気がする。

「異世界人か」

綺麗なアメジスト色の瞳だなと観察していた私はその言葉にまた驚いた。

「貴様の頭の中を覗いてやったわ!私に不可能はないからな」

高笑いしながら自画自賛しているナルシスト(仮)に冷たい視線を向ける。

デリカシーというものが一切なさそうなこの人物は冷たい視線を向けられてもビクともしないので、かなり図太いのだろう。

「しかし、なるほどな。それなら表にいる奴らの説明がつく」

ぽつりと呟いたナルシスト(仮)は立ち上がると部屋を出て行ったかと思うと、数十分後には戻ってきて私を連れて部屋を出た。

長い廊下を歩いてたどり着いた両開きの部屋に入ると中には私が死後の世界で見たこの世界の裁判官(A)と私の世界の裁判官(B)が二人で座っていた。

「本当に困りますよ。勝手なことをされると」

ほとほと困り果ててますという顔をしたAの額には汗が光っている。

「先ほど申し上げた通り、彼女の魂は元の世界に連れて帰りますので出来るだけ素早く術を解いてください」

クイッとシルバーフレームの眼鏡を直すBは、ほとんど無表情に近い顔に迷惑ですと書いてあった。

「それは無理な話だな。魂持ちの死人の術解除など例がない。まぁ、私ならば不可能ではないが」

高笑いしながらまさに矛盾したことをいうナルシスト(仮)にイラッとしたのは不可抗力だ。

というか、どうやら話がわかっていないのは私だけのようで、完璧に置いてけぼりになっている。

当事者が理解できてないぞ。誰か説明しろ。

じと目で三人を見つめていると、どうやらBが察知したらしく「失礼」と他の二人に声を掛けた。

「まずは彼女に現状の説明が必要かと思いますが」

「あっ、そうですよね。彼女にはわけがわからないことでしょうし」

そういって説明されたことをまとめると、どうやらここは魔法ありのファンタジーな世界らしい。

人間の他に魔族がいて、希少だがエルフなんかもいるそうだ。びっくり。

当たり前に魔法が定着していて、その中でも今回私に関係するのがネクロマンサーと呼ばれるもの。

ネクロマンサーとは死人を支配下に置き、自在に操る魔術を使うもののことを指す。

どうやらこのナルシスト(仮)はネクロマンサーで、偶然にも私の骨を拾い、魔術を使ったらしい。

普通であれば肉体のみの再生になるが、何の不幸か私の魂は引っ張られて再生された自分の肉体に定着してしまったとのこと。

「つまり一度死んだけど、また生き返ったということでしょうか」

「平たく言えばそういうことです」

何だラッキーじゃないか、と思うことなかれ。

この魔術だと私は私のものではなく、魔力を注ぎ、肉体を復活させたナルシスト(仮)の支配下になる。

それは絶対に嫌だ。苦手な分類の人物の支配下になんて絶対なりたくない。

「確かに今回の件は前例のない例外中の例外。あなた一人の力では術を解くことは不可能でしょうけど、私達の力を合わせれば不可能ではありません。・・・たぶん」

たぶんって何だ、たぶんって。小声で言うんじゃない。

「何をいう。魂持ちの死人など、私の才能あってのこと。あー、本当に自分の才能が恐い。これは私が偉大な才能の持ち主である証拠。つまり、術は解除しない!」

「何度も申し上げましたけれど、彼女はこちらの不幸な事故に巻き込まれた被害者で、元々私の管轄です。彼女の魂は私が回収して帰ります」

「これは私のものだ」

「いいえ、私の管轄です」

ヒートアップしてきた私のもの宣言(ていうか私は誰のものでもないのだが)にイライラし始めた時、慌てたようにAが二人の間に入ってきた。

「ちょっと、止めてください!お二人の意見はわかりましたから!ただ重要なのは彼女がどうしたいかですよね!・・・あなたはどうしたいのですか?」

突然振られた質問に驚きを隠せない。

「その言い方だと私には何かの選択肢がある、ということなんでしょうか」

「そう、ですね。本来ならばありえませんが、今回は例外中の例外。私どもでも予想だに出来なかった事態に巻き込まれた被害者ですからね」

「では、元の生活に戻りたいと言ったら」

「それは不可能です。あなたは一度亡くなっている。それは覆せない事実ですから」

Bがそういうのだから無理なのだろう。

「どんな選択肢がありますか」

「一つは魂を私が回収し、元の世界に持って帰って本来のあるべき事柄に戻す。もう一つは魂持ちの死人として彼が亡くなるまで過ごす。もちろん後者の場合でも、解放された魂は私が回収しますし、回収後も殺人等の罪を犯していなければ何のデメリットもなくあるべき事柄に戻します」

選択肢は二つだけなのだ。いや、二つもあるのだ。

前者だと“私”は“私”の記憶をなくし、後者だとナルシスト(仮)に支配される。

本音を言えばどちらも嫌だ。

私は死ぬ予定ではなかったというなら、私として平凡に生きていきたかった。

当り散らしそうになるのをグッと耐える為、下唇を噛む。

どうして私は巻き込まれたのだろう。不幸な事故。それだけで片付けられるほど、私の未来は軽くないはずだ。

だけど、私は死んでしまった。これもどうしようもない事実だ。

私はまだ生きていきたかった。

私はまだ恋も仕事も結婚も出産もしたかった。

私は、まだ私としての未来を諦めきれなかった。

だから私の選択は。

「私はこのまま肉体が朽ちるまで、生きていきます」

私の言葉にナルシスト(仮)だけがしたり顔で笑い、AとBは答えがわかっていたように頷いた。

「ただし、条件をつけたいのですが、それは可能ですか?」

それは予想していなかったようで、AとBは驚いたように目を見開いている。

「そうですね、条件によっては可能です」

「あなたは完全なる被害者ですから、管理者としては責任を果たします」

その言葉に頷いて、私はナルシスト(仮)を振り返った。

「グレンハルトさん、でしたよね。あなたが私に魔術をかけた目的を教えてください」

「む。召使なのだからご主人様だろ」

「・・・」

ほんとこの馬鹿どうしよう、と思った。

罵倒しそうになるのを押さえて、咳払いでそれを誤魔化した。

「・・・召使として私を使いたいのですね」

「うむ。人は手先が器用だからな。身の回りを世話するものが欲しかったのだ」

「それならば、私と雇用契約しましょう」

そういって提示した事柄は色々あったが、簡単にまとめると私が嫌がることをしたらさようなら(管理人に魂の回収をしてもらう)、私が嫌になってもさようなら(以下同文)ということ。

ナルシスト(仮)の魔力で私の肉体を維持しているらしいので、最低限のことだけを条件として提示した。

つまりギブ&テイクということで、AとBは特に問題ないと頷いた。

ナルシスト(仮)は少しだけ考えたようだが、「よかろう」と偉そうに返事をした。

丸く収まったということでAとBが帰るといったので、玄関まで送って行く。

「そういえば気づいていると思いますが、彼は魔族です。しかも神にも近いほどの魔力を持つ魔族なので、一応気をつけてくださいね」

何を気をつけるんですか、と口をする前にAとBはマーブル色の中に消えた。

もしかして、とんでもない選択をしてしまったのだろうか。

「喜べ。私自ら服を用意してやったぞ!」

部屋に戻った途端、シンプルな裾の長いメイド服をふんぞり返って差し出してくるナルシスト(仮)もといご主人様(棒読み)に頭を抱えてしまったのはしょうがないと思う。

こうして平凡だったはずの私とナルシストなご主人様(棒読み)の物語が始まった。




おまけ

「そういえば、どうして家の外がマーブル色なのでしょうか」

「む?そんなものここが異次元だからに決まっているだろう」

「・・・どうして異次元に家が建っているのですか」

「私が作った異次元に私の家が建っているのは当たり前だろう。何故なら私は孤高の天才なのだからな!」

「・・・アハハ、流石デス(馬鹿だ。どんなに力が凄くてもウルトラ馬鹿だ)」

未熟で拙い物語を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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