4部
「なん、で……ここに?」
真は激しく鳴り響く動機を必死に抑えて、信二に尋ねた。
「何でって、ハッ……。そりゃお前を心配して来たに決まってんだろ?」
「……心配?」
「あぁ、心配だ。流石に俺もあれはやり過ぎたと思ってる」
嘘だ。
信二が素直に謝っている。
顔は見えないが言葉からは反省の色が見える。
だがそう思うのと同時、真の心情は穏やかではなかった。
嘘だ。
許そうか?
いや許さない。
(僕にあれだけのことをしたんだ。謝るだけじゃ許さない)
そうそれは火山が噴火するためにゆっくりと準備しているように……。
(そうだ、ただ謝るだけじゃ許されないんだ)
じわじわと。
粘り強く。
(こいつは僕をこんなに苦しめたんだ……!!)
時間をかけて。
そうだこいつにも僕と同じ事をさせよう。
そして爆発する。
真は喉から搾りだすように声を発した。
「……そんな事で許される分けないだろう?」
「は?」
「何が、は?だ。何だその口の利き方は。誠意が足りない。謝るならせめてもっと気持ちを込めろよ!許さないよ!?」
一度流れ出したら止まらない。
厚く燃え滾る炎は真をさらに突き動かす。
「第一!何で、お前だけが謝りに来るんだ。謝るなら全員で来いよ!!」
「俺が代表で来たからだ」
「そんなの関係ない!悪いと思っているんなら全員で来いよっ!?」
「だから、他のメンツは用事があって来れないから俺が来た」
「どうせ、ゲーセンで遊んでいるだけだろ!?そんなことでよく用事だなんて言えたなっ!!」
「───っ!」
トビラの向こうでわずかに動揺した様な気配がした。
「ほら、見ろ。今、図星だっただろ。今日はもう帰れよ。今度は全員で来い、分かったな?」
真はそう吐き捨てると、ベットに横になり、床に就こうとした。
真を先ほどまで襲っていた、悪寒や喉は大声を上げて痛かったがすっきりとしていた。
だが、
バァン!!
激しい打撃音が真の部屋に反響する。
真はその原因であるトビラを青ざめた顔で見つめた。
真が見てみるとトビラは、どんな風にすればいいのか。
少しの間振動していた。
トビラの向こう側では、めんどくさいといった表情を隠そうともせず、トビラを蹴った足を摩りながら応えた。
「お前、ちょっと調子にノってネェか?」
真は背筋を冷たい何かが駆け抜けたような気がした。部屋は締め切っていて風などが無いのに悪寒がする。
それは虐めにあっている中、ずっと聞き続けていた不条理と暴力を兼ねそろえた真が最も嫌いな冷たい声。
「少し下手にでてりゃぁ、散々言いやがって。俺だってメンドくせぇなか、ここまで足を運んでやってんだぜ?こっちが感謝して欲しいくらいだ」
「それはそっちが悪──っ」
『悪いから』という言葉は繋がらなかった。
「黙れ薄汚れた……いや、汚らしい便器が。おい、部屋ん中の異臭が廊下まで漏れ出してんぞ?どうした、漏らしたか?」
真が抗議しようとした声に割り込み、ハハハッと高笑いをする。
何分かそうしていて気が済んだのか。
今だ、閉められている”トビラ”を見つめる。
「と、に、か、く。俺はお前に謝った。だから、学校側には許しましたって言えよ?」
「なん、だよ……それ……」
真の目じりに熱い何かが込み上げて来る。
「お前が許すって言わない限り、学校行けねぇんだよ」
「そんな……理由……で?」
「あったりまえだ。んで、てめぇみてぇな気持ち悪いやつに謝らきゃぁならなんだ」
真の口から赤い雫が滴り落ち、絨毯に吸い込まれて言った。
限界まで歯を食いしばり、トビラを睨みつける。
信二はその様子に気がつかない。
なぜなら”トビラ”は閉じられているのだから。
「さっさと俺は学校に戻りたいんだよ」
真は次第に”トビラ”に近づいていく。
トビラの向こうにいる屑を殴り飛ばすしたいという感情が高まってくる。
「ハッ!テメェはさっさと死にぁいいんだよ、たくめんどくせぇ。んじゃなクソ野郎」
信二はそういうと手をひらひらと振ってトビラから離れようとした。
真は限界だった。
真は”トビラ”の鍵を開け、外に出ようとした。
だがその行為はある言葉によって遮られる。
「誰が……クソ野郎だって?」
それはトビラの向こうからでも分かるくらいに怒気が含まれていた。
だが不思議と真は恐怖を覚えない。
逆にその声を聞くと安心する。
「クソ野郎はお前だってンだよ、信二」
今までどんな時にも助けてくれた親友─堺 友真─がそこにいた。