3部
そして現在。
真は学校へ行こうとするとトイレの件が砂嵐の様に真の脳内を掠め、それだけで胃の中の物を全て吐き出してしまう体になってしまった。
以来、不登校になり学校にも行っていない。
虐めグループはこのことがキッカケで、全員停学になったらしい。
(いいザマだ)
空気が抜けるように小さく笑う。
だがまだ足りない。
そんな位じゃ気がすまない。
真は手の平に爪が食い込むのも気にせず握り締める。
それほどまでに許されざる行いだったのだ。
その時、小さくーーコンコンーーとトビラがノックされた。
もちろんトビラも鍵が掛かっている。
誰も勝手に入れないし、真から出ることも無い。
「……なに?」
真は不機嫌な声を隠そうともせずぶっきら棒に返答した。
「あのね?お友達が見えてるんだけど?」
トビラのの向こうから、女性が声を発した。
控えめなノックの通り、女性の唇から紡がれる言葉は優しさに包まれており、暖かさを感じた。
彼女は真の母親、伊ノ原 優香だ。
「誰?」
「え~とね~、確かぁ……今井 信二君だったかしら」
「!?」
一真はその名前を聞いた途端、動揺で2、3歩後退りした。
「な……な……」
今井 信二。
真を虐めていた虐めグループのリーダー。
最初に携帯の写メを見せたのも信二。
虐めを考えていたのは信二。
指示をしていたのは信二。
無抵抗な信二を無理やり便器に突っ込ませたのも信二。
なぜ信二が此処に?
汗で服が背中に張り付いて気持ち悪い。
体が火照ってくる。
熱い。
服の胸元をパタパタと中に風を送る。
落ち着け。
そう言い聞かせる。
(大丈夫だ、家に上がらせなければいい……まだ、玄関の所にいるだろう。お母さんに言って帰ってもらおう。てか、帰れ)
「お母さん、残念だけど、誰とも会いたくないんだ。今井には帰ってもらって」
「そう?ん~、わかったわ。今日は帰ってもらうわね」
「うん、そうして」
「それじゃ、伝えてくるわね」
そういって、優香がトビラから離れていく気配がした。
さっきまで耳元で五月蝿く鳴っていた鐘の音はだんだんと収まっていく。
だが
「申し訳ありませんが、勝手に上がらせていただきました」
表面上は礼儀正しく装っているが、この声は忘れるはずが無い。
また耳元で五月蝿く鐘がなる。
言葉を紡ごうとしても上手く言葉にならない。
「真君が心配で……」
嘘だ。
何を勝手に上がっているんだ。
此処は人の家だぞ。
心の中で文句をいう。
だが言えない。
言おうとしても、喉がカラカラでかすれた声になる。
「そう?それじゃ、少しだけでもお話してあげて」
「はい、もちろんです」
(待って!行かないで!)
だが無常にも、優香の気配は遠のいていく。
トビラの向こうから感じる気配は一つ……。
「さぁて、久しぶりだなぁ……便器」
今井 信二、本人がトビラの前に立った。