1部
そこは一つの箱。
一つの扉からしか出ることのできない、暗く熱によってじめっとした箱。
逃げることはしない。
なぜなら少年は自らこの箱に入ったのだから……。
薄暗い部屋に規則的にカタカタカタと静かにキーを叩く音が響く。
その部屋の片隅。
パソコンが置いてある机に少年ー伊ノ原 真ーがいた。
真の無気力な瞳に移るのはパソコンに流れる一つの掲示板。
『苛められたの?相談にのるよ?』
『カワイソスw』
『元気出せスレ主!死ぬんじゃないぞw』
『被害者ぶるなよ、部屋から出たら?自宅警備員さんw』
流れていくのは、三者三様の反応。
真を応援したいのか、貶したいのかわからないどっちつかずの文字が並んでいた。
「クソッ、勝手な事ばかりいいやがって!」
そう言って真はバンッと机を叩いた。
その一瞬、重力から外された机上のものなどがふわりと浮かんだが、特に何か床に落ちたということも無く低位置に戻った。
もちろん物体が浮くほどの力で机を叩いたのだ。
真の手の平は紅葉の様に真っ赤に染まりあがっていた。
「あぁ、ちくしょう。イテェ。なんなんだよっくそ!」
真はヒリヒリと傷む手の平を摩りながらも、マウスを操作しシャットダウンをした。
ボタンを押すと機械的な音が流れ、しばらくすると画面はなにも写さないただの画面になった。
電源が切れたことを確認すると真は、椅子の背もたれに体重を預けた。
時刻は、平日の午後3時。
学生ならまだ学校で授業を受けている時間だ。
だが真は自宅……それも自室にいた。
だが真の自室は少し変わっていた。
部屋は窓を全て閉め切られ、カーテンは薄いものに厚いものと何十にも重ねられていた。
お陰で部屋にこもった熱は外に逃げ出せず、部屋の中は蒸し蒸しとしていた。
カーテンも外から入ってくる光を全て遮断し、部屋を照らすのはさっきまで点いていたパソコンから漏れる明かりだけだった。
というのも、窓も締め切っている。
カーテンも何十にも重ねている。
その条件に加えて、真は電気さえも点けていないのだ。
おかげで昼頃だというのに部屋の中は、暗闇に包まれている。
慎重に動かなければ、何かに躓いてしまいそうだ。