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ある夫婦の物語  作者: OL
7/12

煮物

夫は何も言ってこない。

私の髪が白くなったあの日から。

何かを言いたげではあるが何も言わない。


私は夫に普段通りに接する。

おはようとあいさつし、お帰りと迎える。

そしていってらっしゃいと送り出す。

おっとの浮気相手がいる職場に。


変わったのは、私が夫にお弁当を作らなくなったことだけ。



カフェは予想外に評判になった。

ただ、客層が上品なためか、さほどうるさくなく落ち着く雰囲気は保っている。


今までは作品を購入に来る人が少しコーヒーを飲んで行くだけだったが、

いつの間にかカフェを目当てで来て、器に興味を持ち買っていくというのが定番になった。


私もオープン当初は忙しさに嫌になってしまったが、

オーナーが調理学校に通う学生をアルバイトに雇ったため

今はメニューを考えたり、盛り付けを楽しんだりする余裕がある。


調理学校に通う学生にも積極的にアイディアを出してもらっている。

そうこうしているうちに、実践に興味を持った学校側から、

学生をかなり安い値段で派遣してもらえるようになった。


その取り組みがさらに話題になり、と好循環をうんでいる。


私もひさびさに若い子たちとアイディアを出し合うことに喜びを感じている。

昔は娘とよくこうしていたが、残り少ない大学生活を謳歌する娘とはめっきり話をしなくなった。


もっとも、娘は敏感に親のいさかいに気が付いているのかもしれないが。

息子は暢気なもので、受験から解放されたこともあり、遊び歩いている。




夫とも、休日はよく料理をした。

一緒に御重にお弁当をつめ、近所の公園でピクニックをした。


ご飯を食べた後は、日帰りの入浴施設にで汗を流すのだ。


1年前だったろうか。

新プロジェクトが始まり事業部長になったとうれしそうに夫が話した。

私は夫と一緒に喜んで、心ばかりのごちそうを用意した。

コンスタントに成果を出していたが、派手な功績のない夫は

昇進の際によく悔しい思いをしたものだった。

それでも、夫は笑っていたのだが。


プロジェクトが始まり夫の帰りが遅くなった。

だが生き生きした表情だった。

普段と違う石鹸の香りに気がついたが、

体臭が気になるようになったから石鹸の香りがする香水を使ってると聞き、

そんなものかと信じ込んだ。


‐体臭が気になるなんて、あなたも年ね。

私も気をつけなきゃいけないかも。


自分の体のにおいをかぐふりをすると、夫は何とも言えない顔をした。

気に障ることを言ってしまったかもしれないと思ったが、

ご飯を食べ始めた夫にそれ以上何も言えなかった。


夫の出張が増えた。

名古屋での商談、中国での商談。

忙しくなる夫に、いつでも食べれるように工夫したおにぎりを作った。

パプリカのピクルスを持たせたり、野菜不足にならないように気を配った。


そのお弁当を夫は食べていなかったのかもしれない。

最近はそう思う。


好きな人ができたという告白から、夫は家にいつかなくなった。

そして、帰ってくるたびに離婚を切り出してくるようになった。


娘が寝てしまった深夜に帰ってきて、離婚の話をするのだ。


時には一晩中帰ってこなかった。

朝方帰ってきたことに気が付き、迎えようと寝室から出る。


ちょうどシャワーを浴び終えた夫がバスルームから出てきたとき、

私の心臓は鷲掴みにされたかのように悲鳴を上げた。


夫の胸元にあるキスマーク。


私がつけたものではないそれが私の心をひっかく。


夫はかくすでもなく、ただいま。という。

そして、こういうのだ。


‐離婚の決心をしてくれたかい?

 彼女が私と早く一緒になりたいと言っている。

 私たちは若くない。時間を無駄にしたくないんだよ。


私は、おかえりを言うのを忘れて夫が出たばかりのバスルームに入る。

シャワーを全開にして声を出す。


でも、涙は出ない。

しゃくりあげるような声が出るだけで、涙は出ないのだ。


私の心はしんじゃったのかもしれない。

25年間、私のすべてだった夫が私のものではなくなってしまった。


夫のために暮らしやすい家を整えた。

夫のために、夫の両親の介護をした。

夫のために、夫に似たかわいい子供を2人育て、

夫のために、栄養に気をつけた食事を作った。

夫のために、夫のために、夫のために。


服ごとびしょぬれになり、気持ち悪くなった。

廊下が濡れること身気にしないで寝室に戻った。


寝室でびしょぬれのパジャマを脱ぐ。

ベットマットが濡れると洗濯物がしんどくなる。

長年の主婦の血が、それだけはNGを出した。


どうしようにもなく、私は主婦なのだ。


そのまま倒れ込むように眠った。


朝起きると、髪が白くなっていた。



夫が家に帰ってくる。

私はいつも通り、おかえりを言う。

夫は私を見ないで、ただいまと言う。


「ご飯食べる?」

私は夫に作った煮物をレンジに入れながら質問する。


「食べてきた。いらない。」

そう答えが返ってくることを知っていながら。


いつもはそう言って寝室に向かってしまう夫だが、

今日は何かを言いたげに私を見ている。


久しぶりに離婚の話し合いをするのかもしれない。


唇をぐっと噛み、笑顔を作るとどうしたの?と夫に問いかける。


夫は何かをしばらくためらった後、ついに決意したようにこちらを向く。


「雑誌。見た。」


単語だけの会話。


「雑誌?ああ、カフェオープンの。かわいく写ってた?」

45歳のおばさんにかわいいも何も無かろうと思ったが、

あえて冗談のように返した。

そう、昔電話で楽しんだ軽口のように。


「楽しそうに見えたよ。」


夫はそれだけ言うと寝室に行ってしまった。


楽しそうに見えたよ。


だから、私のままごとのような結婚生活から解放してくれ。


私には、そう聞こえた。



さっき投稿したのは、本当に話が進まなかったから

もう一話一緒に投稿。


過去と今と行ったり来たりで分かりにくいなと思う。

でもようやく夫ともカギカッコで会話できるようになりましたとさ。


ずぅっとハイフンで会話してたから。


さて、これからラストに向かって走りますよぉ。


次の更新は土曜日か日曜日に。。。とか言って明日投稿しちゃうかも。

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