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子どもに捧げる物語

僕の謎解き物語

作者: 椿野蒔琉

あまりにも子どもが本を読まないので、母は頑張りました。

僕は白井歩。友達が言うには、ちょっと静かな男子。両親が料理人。家で父さんはよく「材料の良い悪いはしっかり観察すること!」なんて言っているから、普段でも色々観察する癖がついちゃった。例えば学級図書の並び方が変わったとか、あの子が髪を切ったとか。


六時間目が終わり、掃除の時間になった。けたたましいチャイムの音と同時に、担任の田口先生の声が教室に響く。


「今から掃除の時間だからな!まじめにやれよー!」


剣道をやっていただけあって、先生の声は驚くほど大きい。パッと見は三十代半ばに見えるけれど、年齢を尋ねた女子たちに「男の年齢は聞いちゃ駄目だぜ」と爽やかな笑顔で返していた。別に減るものじゃないだろうに、と僕は内心思う。いや、年齢は減ったほうがいいのか?どうでもいいや。


理科室掃除の担当は、僕、由利みのり(ゆり みのり)、西田うみ(にしだ うみ)、佐伯海里さえき かいり井坂裕人いさか ゆうとの5人だ。


海里と裕人は、いつも二人でつるんでいて、先生にいたずらばかりしている。そしていつも田口先生に怒られてる。もう高学年なんだから、いい加減やめればいいのに。


「拭き掃除、僕やるよ。うみさんは棚の上、お願いできる?」


「……うん」


うみさんは静かに頷いた。彼女の家は電気屋さんで、電子工作にとても興味があるらしい。でも、学校ではそのことをあまり話さない。本当に大人しい子だ。図書室で「電気技師になるには」なんて本を借りているのを見つけて、僕は少し驚いた。


一方、みのりはピアノが得意で、音にとても敏感だ。実家は「リリー生花店」という花屋さんを営んでいる。お母さんはピアノの先生で、みのりも毎日練習しているんだとか。大変そうだなぁ。


そんなみのりが、理科室の戸棚を拭いていた、その時だった。

「あ!」

ガシャン――!

戸棚の上から何かが落ち、理科室の床にぶつかる鈍い音が響いた。


「わっ、何やったの?あーあ、壊れたんじゃね?」 


海里がニヤニヤしながら近づいてくる。


「キッチンタイマーか?変な音が鳴りそう。みのり、壊したんだー!いけないんだー!」


「うわー、おばけの呪いかもなー」


裕人もからかうように笑う。


「……うるさいなぁ。みのりさん、ケガない?」


僕は二人に構わず、床にしゃがんで壊れたタイマーを拾い上げた。画面が少し曇っている。


「ごめん……先生に言ってくる」


みのりは少し顔を赤くして、タイマーを持って職員室へと向かった。



次の日の掃除時間。理科室に入ると、"ピピッピピッ"という、かすかな電子音が聞こえてきた。


「え?今、なんか音しなかった?」 


みのりが首をかしげる。彼女の耳の良さはさすがだ。僕もうみも、一瞬聞き逃していた。


「ん?なんも聞こえなかったけど……?」


歩は耳をすませた。確かに、何かが静かに鳴っている。時計の音か?いや、もっと近い場所から聞こえる。床の方からだろうか。


「き、気味悪いな……なぁ、掃除なんてやめようぜ、裕人」


「お、おう……オレもそんな気がしてた」


海里と裕人は、顔を見合わせてさっさとほうきを放り出し、掃除をサボろうとする。二人のからかいは止まったものの、電子音はそれからすぐ止んだ。


それから2週間、掃除の時間になると、毎日その音がどこからともなく鳴り出した。しかも、音の高さやテンポが少しずつ変わっている。電子工作に詳しいはずのうみも、ただじっと床を見つめるだけで何も言わない。


ある日、音に敏感なみのりが、ぽつりと口にした。


「……最初の音と、違う。音の高さがずれてきてる」


その言葉に、僕は思わずうみのほうを見た。彼女は、まっすぐ理科室の床を見つめながら、ほんの少しだけ、唇を噛んでいた。何かを隠しているような、複雑な表情に見えた。


「先生に相談しようか」


僕がそう言うと、うみが急に顔を上げた。


「……ちょっと待って」


その一言のあと、翌日には音が鳴らなくなった。

僕は気になって、みのりが落としたキッチンタイマーをもう一度よく見てみた。すると、画面の奥にある液晶部分が、わずかに膨らんでいるような気がした。


「……これ、少しふくらんでる?」


手の中で、タイマーの中身が少しだけカタッと動いた。


――ピピピッ……!


短く電子音が鳴った。すぐに止まったけれど、その音は明らかに、壊れたキッチンタイマーの音ではない。


「これ、やっぱり先生に届けなきゃ」


僕がそう言ってタイマーを持ち上げたとき、


「私が行く!」


うみが突然そう言って、僕の手からキッチンタイマーをパッと取った。その勢いに驚き、僕はただ見送ることしかできなかった。廊下を走ると危ないよ、という言葉は、喉の奥で止まったままだった。



翌日。理科室にあったタイマーは、膨らみも音もなくなり、すっかり普通の形に戻っていた。

掃除の時間、海里と裕人はまたサボり気味だった。みのりが僕の耳元でそっとささやく。


「この前の音、100円ショップで売ってる腕時計の音に似てるかも」


「――!」


僕はハッとして、うみに向き合った。


「……ねえ、うみさん。これ、うみさんがやったんじゃない?」


うみは観念したように、小さく笑った。


「……どうして、わかったの?」


「タイマーの中、ふくらんでた。たぶん、基板を仕込んだんだよね?音がだんだん変わってきたのは、電池の残量のせいかなって」


うみはしばらく沈黙した後、小さな声で話し始めた。


「……海里くんと裕人くんが、みのりちゃんをからかったから。ちょっとおどかしてやりたかったの。電子部品いじってみたかったから、自分の腕時計の

アラームの基板を借りて、タイマーの中に隠してたのよ。電池の残量でピピッピピッっていうのがちょっとずつ音変わるの面白いなって思って」


僕は、その話を聞いて少しだけ笑った。


「でも、今はもう戻ってるし。先生に言う必要も、海里と裕人謝る必要もないんじゃないかな」


みのりもうなずいた。


「ありがと、うみちゃん」


するとうみはスッと立ち上がり、ニヤッと笑った。


「じゃあ、掃除サボってるふたり、先生に言ってくる!」


「えっ、それはやめてあげて!」


僕たちの笑い声が、理科室に明るく響いた。


息子からのリクエスト 小学生高学年向け推理もの 読んでくれてありがとう

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