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姫野呪忌夜でございます  作者: 山本洋子
2/11

内臓がおかしいと、世界もおかしくなる

※観覧注意。ペットロスの話が始まります。

 一日一善。今日も一日お疲れさまです。


 いつも通りに過ごせて、本当に良かったなって。私はかなり浮かれていた。学校の放課後。今日一日を振り返ったら、あんまりあわてる事もなかったし、とってもきちんと過ごすことが出来ていた。絶対に優等生だったと思う。まじりっけのない気持ちでそう思えていたから、ウキウキしながら、鼻歌交じりに浮かれて、幸せな廊下を余裕の足どりで歩いていた。


 ゆるみきっている私は、この時間が大好き。なぜなら一番自分らしくいられる時間だから。ゆるみきっていて、鼻歌の音程も外れていて、解放感に包まれていて、雰囲気に流されるまま、なんの心構えも出来ていなかったけど、ほとんど気にならなかった。だって今は、そうしても良い自由だから。それに、楽しみが待っているって分かっているから。


 感じ方は違うかも知れないけど、きっとみんなも同じように思っているはず。一日の授業が終わった生徒たちの、「この後どうしようか」という問いかけが、あちらでもこちらでも繰り広げられていて、それで学校があふれちゃうくらいに、起こっているんだなって。ぷらぷら歩きながら私は、そういうふうに感じていた。


 校内放送だったり、先生の注意事項だったり、この後のクラブ活動だったり、自分の予定を思い返したり、教室に響き渡るような大きな声で友達に確認したりする。


 私は運動が苦手だから、廊下を走ったり、校庭のグラウンドでスポーツしたりするのは、あんまりやりたくないけど。でも、空気をかき回すような自由と、元気と、ちょっとのんびりとした夕暮れ前の雰囲気が混ざり合うような、こういう一体感は好き。それを肌で感じて、昨日と変わらないなって、しみじみと思っているのも好き。たぶん、そういうのが大人目線というやつなんだと思う。せっかくだから今のうちに、ちょっと言っておこう。


「こういう日常も悪くないかもなー」


 やった。よし、今のは絶対に、大人目線だった。大人になると、とぼけた事を言うようになる。とぼけたことを言っていられる今のこの時間は、外せないチャンスだ。日進月歩だ。がんばろう。


 なんだったら、近所のお姉さんに教えてもらった、自己解釈の進化論を身近な日常と照らし合わせて、自由にのびのびと繰り広げる……。あと何だっけ?


 えーと。とにかく承認欲求に浸って、とにかく、機嫌良くしている。そういう余裕があるのが大事。お姉さんは、私にそれを教えてくれた時に、とても厳しい顔でそう言ってた。真面目で賢い人はやっぱり、色々な苦労があるんだなって、思わずきちんとした姿勢で聞いて、私はお姉さんを尊敬した。


 大学に入学して1人で過ごす時間を、とにかくそれで乗り越えるとか……、途中から難しくて、何を言ってるのか良く分からなかったけど。でも、お姉さんがとても凄い人なんだなっていうのは分かった。大学生なんて凄い大人なのに、ちゃんと私と向き合ってくれるし、変な事を言っても怒らない。根気よく説明してくれる。それって凄い事だと思う。


 私も、お姉さんみたいな大人になりたいなって思った。だから威厳のある顔をして、ご機嫌な昇降口について、ランドセルを背負った同い年くらいの子たちを眺めながら、私も下駄箱にある靴にはきかえた。まわりをよく観察するのが大事だから。みんなと同じように、校舎を出て校門の方に歩いていく。


 でも行き先は一緒だけど、私はまだ帰らない。校門の近くの石垣で囲まれたため池に行って、亀と鯉の様子を見にいくのが目的だったから。


 ほとんど毎日の、いつも通りの習慣。相変わらずの一日。たぶんそういう、いつも通りというのに馴れすぎてたんだと思う。こういう時こそ、気を付けないといけないのに。私はまた油断してたんだ……。


「呪忌夜、大丈夫?」


 緑ちゃんの声で自分が、目的地の池の前で、呆然と立ち尽くしているのが分かった。緑ちゃんは同じクラスの私の親友で、静かな声でいつも私を気遣ってくれる。


 特別仲良しなはずなのに、緑ちゃんの事をこうして、あらためて思い出さないといけなくなっている。私はそれくらいショックを受けていたんだ。自覚したのをきっかけに、何があったのかも、はっきりと分かった。


「チーちゃんが……」


 池を覗き込んだら、大好きな亀が死んでいた。衝撃が強すぎて、何も考えられなくなっていた。今になってようやく、私の中に、悲しいという気持ちがやって来た。なんで私は浮かれていたんだろう。全部、遅すぎたのに。


「呪忌夜がそこまで、思い入れがあると思わなかった」


 ひどい。


「チーちゃんの代わりはいないの!」

「ごめん。失言だった」


 申し訳なさそうにする緑ちゃん。うつむいたその顔を見て私は、とんでもない八つ当たりをしてしまったって分かった。罪悪感を感じた。はっきりいって八つ当たりだった。でも考えがまとまらなくて、どうすれば良いか分からない。


「チーちゃんは私の中で、亀の代表だったの」

「亀の代表?」

「チーちゃんは、特別なの」

「特別?」


 緑ちゃんの気持ちを考えないで、自分の喋りたいようにしか話せない。余裕がない。お腹の調子まで悪くなってきた。私はもう訳が分からなかった。

 

「チーちゃんの存在を感じて私は、安心していたのに」


 お腹をさすりながら、思っていることを口にする。この世界は亀とゾウによって支えられている。でもきっと私が願ったから、チーちゃんは……。


 ──地球が壊れて、世界が崩壊すれば良い。


「このままだと、世界はきっと、支えを失ってしまうんだ」

「そうなの?」

「そうなんだよ」


 いつものんびりしてると見せかけて、私が池のそばにいるのに気づくと「早くエサをくれ!」って感じで、私を見上げるチーちゃん。生徒がエサやりをするのは禁止されているのに毎回、けっきょく貰えないのに同じ反応をする。私を信じきった眼差しで。


「もうダメだ……」

「大切に思っていた亀に心が支えられていたよね。そういう事もあるよね」


 励ましてくれながら、緑ちゃんが頭を撫でてくれる。優しい。色々と調子の悪い私は今、温もりが欲しい。せっかくだから抱きつこう。


「はいストップ。このままだとチーちゃんが可愛そうだから、先生に聞いてからどうにかしようね」

「……うん」


 気配を感じたみたいで、やる前に途中で止められてしまった。緑ちゃんは直感が凄い。でも、ぎゅってしてほしかった。気持ちの切りかえって難しい。今は緑ちゃんの方が正しいと思うから、素直に聞いて、職員室に向かうことにした。


 その途中で、今の時期になると見かけるアオジという鳥の姿が目にはいった。そのとたん、私の中で優しい気持ちが少し沸いてきた。草が生えていたり、小さな枝が散らばっていたりする土の上で、一生懸命に跳び跳ねて、食べられそうなものを探している。スズメに似た鳥で、ほのかにお腹が黄色い、そしてスズメより少しだけ大きい。


 全てのアオジという鳥がそうなのかは分からない。けど、私がたまに見かけるこの子は警戒心がちょっと変で、他の鳥ならとっくに飛び立っているだろうなって距離に近づいても、相変わらず「チッチ」と控えめで独特な声で鳴いている。地面の食べられそうなものをたんねんに探して、ちょこちょことジャンプを繰り返している。


 今はキョロキョロと辺りをうかがっている。野生の生き物として警戒心が凄い。でも私たちの存在は曖昧になっている。なぜかこの子は、外敵は警戒しているのに、人の姿はスルーしてしまうことが多い。よっぽど近づかないと気付かない。だから、ゆっくり観察することができる。


 一生懸命に生きていて、絶えず周囲をうかがっていて、自分の生存に注意している。両足でピョンピョン跳ねて、時々きょろきょろして、小さく鳴いた。凄く可愛い。


 鳥が両足同時に地面を蹴って移動するのを、ホッピングという。図鑑を調べたら書いてあった。


 カラスは、ホッピングと左右交互の足の動きがどちらも出来る。地面にいる時は、その時の気分で使い分けているように見える。それがなんだか、次のいたずらを考えながらズル賢い移動をしている、そういう姿に見える。カラスがギョロっと見てきた時、目が合うと少し怖い。


 道路とか駐車場とか、色々なところで見かけるセキレイは、尾羽をぴんと伸ばして、チョチョチョチョチョチョチョーとスポーツ選手のように、地面を走っている。あの走り方は何て言うんだろう? それから、キョトンと首をかしげる仕草が可愛い。


 ムクドリはたくさんの仲間といつも一緒にいるのに、臆病ですぐ逃げる。パタパタ、たまにスパーって。色々な羽の使い方で電線とかに、ずらーって並んで止まって、一休みしている姿をよく見かける。


 それから、ヒヨドリは鳴き声がうるさい。一日の始まりにまずニワトリが夜明けを告げる。それから、しばらくして現れたヒヨドリが「ヒヨー!」と鳴きながら、興奮した勢いでヒヨドリ同士だったり他の鳥とだったり、にぎやかな縄張り争いを繰り広げている。


 そして朝の憂鬱な雰囲気の中で、果たしてこの鳴き声はカワラバトでしょうか? それともキジバトの鳴き声でしょうか? そういうクイズを出題するように、どちらか分からないけど鳴き始める。


 スズメやカラスや他の鳥たちが、それぞれの回答を鳴き声で伝える。自由に生きていている様子。確か北風と太陽? いやこの場合、ぜんぜん違うかも知れない。でもなんでも良いや。私は鳥が好きだ。


 もしかしたらこの先、嫌になることもあるかも知れない。でも少なくとも今は、自由な存在が好き。そしてもちろんアオジも好き。いつも頑張っていて、でもどこか要領が悪そうな感じがして、「チッチ」と可愛らしく控えめに鳴いている。


 私は心の中で親しみを込めて、チッチというあだ名で読んでいる。目立つ鳥ではないけど私は、言葉に言い表せないほどの愛着を感じている。


 チッチは注意深く、外敵と食べ物を確認している。そのことで頭が一杯だ。私たちの事情になんて構ってられない。存在を確認しているかどうかも怪しい。その様子がとても可愛い。色々な生き物と友達になれた気がする。


 緑ちゃんに紹介しようと思った。でも近付きすぎたみたいで、チッチは飛び立ってしまった。残念。


 今日も一生懸命。


 私も一生懸命。


 強く生きるんだ。


 がんばるんだ。


 校舎に入って、色々と考え事をしたり、緑ちゃんと話をしたりしながら校内を歩いていって、そして職員室に到着した。


 ドアを横に開いてから二人で、「失礼します」って言って中には入る。職員室を見渡すと、都合よく先生の姿がいつもいる席に見えた。そこにいって事情を話した。そうしたら「裏庭にでも埋めといて」と言われた。そんなんで良いのだろうか?


 お仕事で頭がいっぱいだったのかな。そう思いながら引き返して、「失礼しました」って言って職員室を出た。私と緑ちゃんはまた池に戻ることにした。チーちゃんをお墓にいれてあげないといけない。


 でも、それから試行錯誤が続いた。


 また池についた。池の真ん中くらいにいくつかある、大きな石の上に、チーちゃんはいる。また悲しくなってきた。とりあえず手を伸ばして、なんとかしようとした。でも私は失敗した。チーちゃんとの距離がちょっとあって、手が届かなかったからだ。それにチーちゃんは思ったより大きい。池に落ちるかと思って、こりゃいかんと思って、だったらどうしようと、頭をひねりながら緑ちゃんと、他の作戦を考えた。


 虫取網を取りに行った。それを使って頑張れば上手くいくかも知れない。でも失敗した。距離は届くけど、チーちゃんは思ったより大きかった。ちゃんと出来なくて私は悲しくなってきた。


 私が泣きそうになって緑ちゃんに慰められたり、本当に色々と苦労した。でも、どうにかチーちゃんを丁重に引き上げる事ができた。思ったより池が浅いって気づいた私は、靴と靴下を脱いで、ざぶざぶと池の中を進んでいって、チーちゃんを抱えて戻る作戦をやった。これが大成功だった。


 驚いた鯉があわてた様子で、泳いで逃げたけど、そのたびに謝りながら作戦任務を成功させた。最後は勢いだった。やっぱり勢いは大事だって思った。作戦成功の母は勢い! 私たちの作戦は大成功だった!


 でも喜んでばかりいられない。今度は裏庭に行かないといけない。足が濡れちゃって、びしょびょだけど、かまわず靴下と靴を履いた。そして、チーちゃんを大切に抱えた。


「よし。裏庭に行こう!」

「……うん」


 緑ちゃんにびっくりされたけど、次の作戦が待っている。だから、少しくらいの事は気にしない。私は裏庭に向かって、勢い良く歩きだした。


 作戦隊長の緑ちゃんの提案で、途中でスコップを用意した。裏庭に着いたらそこで、黒くて日の当たらない、ジメジメした硬い土を掘る作業をした。こうしてる間も、当たり前だけど時間は流れていく。また悲しくなってきた。


 チーちゃんを掘った穴に埋めて、その上から土をかける。板に『チーズかまぼこの墓』と書いた墓標を指しておいた。緑ちゃんが用意してくれた。


「チーちゃん、どうか安らかに眠ってね」


 手を合わせて、最後に言葉を掛けた。悲しい。生き物はなんで死んでしまうんだろう?


 緑ちゃんに慰めてもらいながら、私たちは一度、教室に戻ることにした。その途中で、虫取網とスコップを片付けたり、手を洗ったりした。校庭でサッカーをしている、元気な男の子たちの声が聞こえていた。なんだか分からないけど、タロット占いがやりたくなった。


 私が今より小さい子供の頃に、近所のお姉さんに教えてもらって、それからタロット占いが好きになった。凄く調子の良い日には、カードに込められている情報が、分かるのが当たり前というふうに感じられて、それでますます夢中になった。


 集中力が上がってくると、色々な事の、その先を見通せるようになる。そういう全能感を覚えることがある。めったにない事だし、それに感覚の話だから、安定して出来ないのが残念。


 変な失敗をする事もある。カードに示された意図に従って、インターネットの通販サイトで、「ヤギの頭骨」とか「ダチョウの睾丸」というワードで検索して、喜びに浸った。あの時の私は、どうかしていた。今思い出すと、とんでもなく恥ずかしい体験だったなあ。ふへへ……。


 カードが示す意図はあまりにも自由過ぎた。我に返って購入は諦めたのだから、私は悪くない。欲求だったんだ。全部、欲求だったんだ!


 すぐに熱が冷めて、動物の頭蓋骨とか睾丸が「お届けものですー」って言って、私の生活に届くことはなかった。いつも欲求に流されっぱなしだし、本当に危ないところだった。でも、この世界の法則に挑戦するというのは、とても大切だ。私は今日も信じる道を行くぞ。常識と非常識は紙一重なんだ!


「あなたは今朝、お味噌汁と目玉焼きとサラダとトースト。あと海鮮丼をカスタマイズしたインドカレー。それからカニクリームコロッケを食べました……」

「凄い、なんで分かったの!」


 ふふん。というか緑ちゃん、朝からすごいなあ。それになんだ、海鮮丼をカスタマイズしたインドカレーって?


 机の上にならんだ、タロットカード。向かい合わせに座った、私と緑ちゃん。肩の下くらいの長さの黒髪、整った顔立ち、少し驚いた表情。もう何度もやっている事なのに、緑ちゃんは私の占いに、いつも新鮮な反応をしてくれる。


「呪忌夜の占いは良く当たるね。まさかそこまで分かるなんて」


 感心した様子で言ってくれた。実は私もびっくりしていた。流石に今回のは違うんじゃないかなって、半分くらいしか自信がなかったから。だから純粋に褒めてくれて、良かった。気持ちがウキウキしてきた。


「カードの絵柄とか、内容を確認している時に、なんとなく分かるの」


 浮かれた気持ちで話していた。私は小さい子供の頃から、変なタイミングで、直感が良く働いた。脳にビビっときて、それが確信に結び付いていく感じ。その感じがけっこう好きだった。


 夕陽の差し込むいつもの見慣れた教室が、なんだかとても価値のある場所に思えた。


「占いに集中していると、ある瞬間から、この世界が色々な記号の集まりのように思えてくるの」


 調子に乗って私は思い浮かぶ事をそのまま喋った。


「記号?」


 少し眉をしかめた、よく分からないという顔で緑ちゃんが言う。肩の下まで伸びた髪に指を絡ませている。思い通りにならない時や、難しい事を考えている時に、そうして髪に触っている事が多い。


「分からないけど分かるの」


 緑ちゃんの疑問に私が答えると、ますます難しそうな顔をする。無意識なんだろうけど、指の仕草が少し忙しくなった。綺麗な女の子だなって、あらためて思った。言葉にするのが難しい複雑なもの、それはとても繊細で、味わい深いものなんだと感じられる。上手に表現するためには……。


「深淵を覗くものはまた、深淵からも覗かれる」

「あー、聞いたことあるかも」

「うん。私もその話を初めて聞いた時に、「ヤッホー♪」って、そういう感じで見てるんだろうなって思ったの」

「ヤッホー?」

「うん。深淵が「ヤッホー♪」って、言ってるんだろうなあって。手を振りながら」


 とてもフレンドリーに。


「深淵なんていってもよく分からないよ。呪忌夜は怖くないの? 深淵から覗かれているなんて、きっとホラーだよ」


 緑ちゃんが不安になっている。そんな気がする。表情はあまり変わってないけど、声がそういう感じだった。こういう話は苦手なのかな? 同じ気持ちになれなくて、ごめんねって思う。


「あんまり怖くないんだよね」


 私がそう答えると、緑ちゃんが少しだけ驚いた顔をする。そんなに意外かな? 足りない気がしたから付け足してみる。


「よく分からないけどきっと、存在を認めたら、出会うべくして出会うんだと思うの」

「そうなんだ」


 今度は、なんだか、つまらなそうにうつむいちゃった。私は何か間違えたのかな? 気になって見つめると。


「それって素敵な事だね」


 緑ちゃんがそう言って、私を見た。目が合った。小さめの口で、ふんわりとやわらかく笑った。夕陽の色に染められた笑顔は綺麗だった。すぐにふにゃりと表情を変えて、緑ちゃんはまるで、打ち明け話をするように口の横に手を当てた。


「帰りに寄りたいところがあるんだ」

「どこ?」

「実はね……」


 二人でひそひそと話して、まるで内緒話をしているみたいだった。


「少し良いなって思うところを見つけたんだ」

「良いところ?」

「行ってからのお楽しみです」

「気になる」

「行ってからのお楽しみ」


 いつもは落ちついてるけど、なんだか今の緑ちゃんはとっても、表情が豊かだ。私もなんだか、少し恥ずかしくて、なのに大胆な気持ちになれる。日常生活の中で知らず知らず拾い集めて、そして大切に抱え込んでいた常識が、ゆっくりとこぼれ落ちていく。きっとこういうのが自由なんだろうな。


 これからも一緒にこういう時間を過ごしたい。緑ちゃんと一緒に。だから──


「緑ちゃん」

「何?」

「これからもズッ友だよ!」

「うん!」


 ズッ友だよ!

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