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第87話 革命指導者たちによる宣言

 王都の中央広場は、まるで大きな祭典でも始まるかのように多くの人々が詰めかけていた。戦火に荒れた市街地の痛々しさは残るものの、民衆の表情には晴れやかな期待が混じっている。王太子フィリップが捕縛され、王家の威光が完全に崩れたという知らせが一気に広まったのだ。


 広場の簡易壇上へ、レオンやセシリア、イザベル姫、そして同盟貴族や民衆代表が集う。市街地の混乱を収拾するため、まずは市民に向けて新しい国の方針を示す必要があった。とくに、長きにわたり王政と貴族の支配を受けてきた民衆にとって、これから自分たちがどんな道を歩むのかをはっきり聞きたいと思うのは当然だろう。


「皆さま、お静かに! これより、新体制に関する重要なお知らせがあります!」


 革命軍の兵士が声を張り上げ、広場を見渡して呼びかける。ざわついていた人波が次第に音を潜め、大勢の視線が壇上へ集中した。そこで、レオンがゆっくりと一歩前へ進む。多少の負傷を抱えてはいるものの、その表情は決意に満ちている。


「皆……お疲れのところ、集まってくれてありがとう。俺は、クリフォード領のレオン・クリフォードだ。――つい先ほど、王太子フィリップは捕えられ、王家の支配は終わりを迎えた」


 このひと言で、大きなどよめきと歓声が広場を揺らす。拍手や割れんばかりの喝采が飛び交い、中には涙を浮かべて「やった!」と抱き合う者たちもいる。長らく圧政に苦しめられてきた人々にとって、王政崩壊の報せはまさに歴史的瞬間なのだ。


 レオンは手をかざして落ち着かせ、澄んだ声で続ける。


「だが、これで終わりではない。王家が崩れ、王政が形骸化しても、俺たちは新しい体制を築かねばならない。王の代わりに誰かが全権を握るだけでは、また同じ悲劇が繰り返されるかもしれないからだ。そこで……俺たちは、王や貴族だけが支配する社会を廃し、皆で選び、皆で支える“共和国”という新しい政治体制を目指したいと思う」


 再び歓声が起こるが、今度は戸惑いも混じっているようだ。これまで王政と貴族制度に慣れ親しんできた民衆にとって、共和国という言葉は未知の響きかもしれない。そこをフォローするように、セシリアが壇上へ進む。


「少し補足するわ。わたしはセシリア・ローゼンブルク。かつては高位貴族の家柄だったけれど、今は王家がなくてもやっていける国を作るために、ここまで戦ってきた。……“共和国”といっても、いきなりすべてが変わるわけじゃない。けれど、この国を貴族だけが牛耳るのでなく、すべての人が自分の意思を示せる仕組みを作りたいの。皆が代表を選び、その代表が政治を動かす形を試験的に始めるのよ」


 セシリアの落ち着いた声に、民衆は耳を傾ける。「代表を選ぶ?」「まさか俺たちが投票できるのか?」とざわつく声が飛び交い、壇上ではイザベル姫が小さく微笑んで立ち上がる。王族の彼女がどういう立場をとるのか、周囲は固唾を飲んで見守る。


「わたしはイザベル・ラグランジュ。兄フィリップが犯してきた数々の暴政を止めるため、この場に立ちました。……今後、王族としての特権は放棄し、ただの一人の人間として、この国を支える一員でありたいと思います。ラグランジュ王家は、ここに名実ともに廃されるのです」


 姫の静かな宣言に、人々の驚きが広場を駆け抜ける。「王家が自ら廃されるなんて……」「もう本当に王は存在しなくなるんだ……」と口々にささやき合う。これこそ、王政を完全に廃する歴史的瞬間だ。イザベルがどこか悲しげな表情を浮かべながら、それでも微笑んで頭を下げると、大きな拍手が巻き起こる。


「……殿下がやってきたことを思えば、これが最良の選択だわ。わたしも皆と同じように生きたい。どうか、受け入れてください」


 拍手がさらに大きくなり、歓声や感嘆の声が広場を包み込む。イザベルを中心に同盟貴族らも市民に向かって頭を垂れ、「新たな政治体制へ力を尽くす」と誓いを立てる。


 その光景を見守っていたレオンが再度前へ進む。彼は傷ついた体を押しながらも、情熱に満ちた声を張り上げた。


「今日から、俺たちは王に従うだけの民ではなくなる。この国をどうするかを、自分たちの手で考え、選択し、そして責任を持って運営していく。……それは、とても大変なことだ。すべて貴族に任せていた方が楽かもしれない。だけど、もう他人の手で運命を決められる時代は終わりにしたいんだ」


 彼の言葉に呼応するように、セシリアがうなずき、壇上で民衆を見渡す。周囲の顔が緊張と期待に満ちているのが分かる。


「わたしたちも、初めての試みで戸惑うかもしれない。でも、それが大切なの。貴族や王族だけが決めるのではなく、皆で学び、皆で意見を交わして、より良い仕組みを作り上げる。これからは、昔みたいに貴族が特権を振りかざす世界ではなく、あなたたち一人ひとりが主役になれるよう、制度を整備していきます。――どうか、わたしたちを信じてほしいわ」


 セシリアが語りかけると、「おお……」「そうか、みんなで国を作るんだ!」という希望に満ちた声が湧き上がる。「できるかな……でも、やってみたい!」と青年が叫び、周囲の農民や町人が一斉にうなずく光景があちこちに見受けられる。


 イザベル姫はそんな様子を確認すると、再び声を張る。


「これより、ラグランジュ王家による支配は終わります。王政は廃止され、代わって新しい組織――わたしは“共和国”と呼ぶべきものだと聞きましたが――が樹立されます。今後は代表を選出し、それぞれの地域が協力し合って政治を動かす仕組みを目指すのです」


 大きな拍手と歓声が絶え間なく続き、広場全体が祝祭のような熱気に包まれた。倒れた仲間を抱える兵たちも涙を流しながら、「こんな日が来るなんて……」とささやき合う。


 そうした熱気を感じながら、レオンが最後の仕上げに壇の端へ進む。少し照れたように頬をかきながら、彼は声を張り上げた。


「……これまで血を流してきた人々に、俺たちは報いる義務がある。すぐに完璧な制度が作れるわけじゃないが、なるべく多くの人が参与できる政治を目指す。その一歩が、今日ここで始まるんだ。王家がなくても、貴族の特権がなくても、俺たちはやっていける。……みんなの力があれば、必ず」


 その言葉に、市民たちから「やったぞ!」「万歳!」という叫びが上がる。どこかで太鼓のようなものが打ち鳴らされ、子どもたちが笑顔で跳ね回る姿も見受けられた。王都はまだ決して平穏とは言えないが、戦の惨禍に打ちひしがれた人々の心に、小さな光がともったのだろう。


 セシリアとイザベルが顔を見合わせ、小さく微笑む。ウォルフォード卿ら同盟貴族も「これからが本番だな」と肩を叩き合い、皆が一瞬だけ開放感に浸る。王家が失墜して、共和国が立ち上がる――その日のうちに、何千もの悲喜こもごもが渦巻くだろうが、まずはこの大きな第一歩を讃え合う瞬間だ。


「――王はもういない。……だが、それは決して悲しむべきことじゃない。民が自分の力を信じられる社会が始まるのだから」


 セシリアが小声でつぶやき、レオンがその隣で「そうだな」と答える。二人の姿を見て、周囲の兵や市民がさらに盛り上がりの声を上げる。


 こうして王政崩壊が公式に宣言され、共和国樹立に向けた一歩が堂々と踏み出された。玉座の間の惨劇を乗り越えた戦士たちと、王都の民衆が一体となって迎える歴史的瞬間。ここに新たな物語が刻まれるのだ――自由と責任を持つ国を目指す、まだ見ぬ未来への大いなる旅立ちが始まろうとしていた。

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