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第80話 市街地での混戦

 鋭い金属音が耳をつんざき、続いて砕けた瓦礫が路地を転がる。ひしめき合う建物が立ち並ぶ王都の市街地へ、俺たち革命軍はついに足を踏み入れた。


「よし、前進を続けろ! 民家を傷つけないよう注意しろ!」


 声を張り上げながら、狭い通りを駆け抜ける。先ほどまで門が閉ざされていたはずの王都だが、内部協力者が門を開いてくれたおかげで、大半の部隊が城壁を越え、街中へと入ることに成功した。正面の激戦で消耗した苦労が、ようやく報われる瞬間だ。


 もっとも、王太子軍も黙ってはいない。市街地の至るところに配備された兵士たちが、交差点や広場を守る形で抵抗を始めた。さらに、慌てて崩れた隊列を再編し、あちこちから攻撃を仕掛けてくる。


「うわあっ!」


 細い路地の角を曲がったところで、仲間の兵が矢を受けて膝をつく。即座に援護に入った別の兵が盾を構え、俺も咄嗟(とっさ)に路地裏へ飛び込み、敵兵を正面から迎え撃つ。


「こんなところで下がってなるものか! お前たちは逃げ道がなくなったんだぞ!」


 王太子軍の兵士が挑発気味に叫びながら槍を突き出す。狭い通りではこちらも大人数は動きづらいが、俺は剣を素早く振り上げ、槍の軌道を逸らす。金属同士が火花を散らし、次の瞬間には切り返した剣先が相手の肩を裂いた。


「す、すまん……! 撤退させてくれ!」


 敵兵が苦しそうに後ずさり、路地の奥へ消えていく。どうやら、大局が厳しいと感じているのだろう。無駄に命を捨てたくないのは向こうも同じに違いない。俺は深呼吸し、ひとまず味方の兵を助け起こす。


「大丈夫か、傷は浅いか?」

「あ、ああ……何とか……」


 仲間の兵が少し血を流しているが、意識ははっきりしている。医療班が追いつくまで応急処置でしのげば、後で本格的に治療できるだろう。


 周囲を見渡せば、通りの両脇には市民の家が並んでいる。窓が閉まっている家や店が大半だが、隙間からこちらを覗いている人の姿がちらほら見える。革命軍を歓迎しているのか、あるいは戦いへの恐怖から閉じこもっているのか――反応はさまざまだ。


「が、頑張って……王太子の兵を追い払ってください!」


 そう叫ぶ男性の声が、二階の窓から聞こえた。突如として飛び出してきた数個のパンが、ポトリと地面に落ちる。


 兵の一人が驚きつつそれを拾うと、「これって……差し入れ?」と呆気にとられる。上の窓からもう一度声がかかる。


「おまえたち……革命軍だろう? 殿下の暴虐を止めてくれるんだな! パンくらいしかないけど、食ってくれ!」


 俺たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。市街地全体が歓迎ムードではないかもしれないが、こうして支援してくれる人がいるのは心強い。


「ありがとう! 必ず……王太子を止めてみせる!」


 俺が叫ぶと、窓の向こうで小さく手が振られる。同時に、路地の先から「うわああっ!」という悲鳴が響き、視線を戻すと、別の味方部隊が王太子軍と衝突しているのが見えた。


 通りの先には大きな広場があり、その先に王宮へ続くメインストリートが存在する。そこを制圧しなければ王宮へ到達する道は開けない。俺はうなずき合った仲間とともに、再び前へ走り出す。


 途中、店が半壊している通りに差しかかると、王太子軍がバリケードを築いて火矢を放ってきていた。木製の屋台や道具が炎を上げ、煙が立ちこめる。周囲には市民が怯えて逃げ惑い、悲鳴や怒声が混じっている。


「伏せろ! 火矢に当たるぞ!」


 近衛の兵が警告する。俺たちは盾を構えながら前進を続けるが、燃え盛る屋台が崩れ落ちるたび、火の粉が舞って目を刺す。


「くそ、こんな狭い場所で火を使うなんて……市民も巻き込まれるじゃないか!」

「やつらにはそんなことを考える余裕がないのか、あるいは殿下の命令に従って無茶をしているのか……」


 声を交わすうちに、俺たちは慎重にバリケードへ近づく。火矢の大半は乱れ撃ちで狙いが定まっておらず、盾と連携すれば進行は不可能ではない。たまたま周囲の民衆を巻き込まないよう、盾持ちの部隊が彼らを保護しながら避難を誘導する。


「おい、こっちだ! 巻き込まれるぞ!」

「は、はい! ありがとう……あなたたち、こんなところまで……」


 民衆の中には、幼い子を抱えた母親もいる。その姿を目にするたび、俺たちの士気は逆に高まっていく。守るべきものがあるからこそ、王太子の不条理を許せない。


 叫び声と煙の中、俺は剣を握り直してバリケードに取りついた。王太子軍の数名が慌てて槍を突き出すが、こちらも機先を制して盾で受け止める。周りの兵が援護してくれたおかげで、一気に打ち破ることに成功した。


「バリケード突破! 広場へ出るぞ!」

「おう、続けー!」


 仲間たちが熱い声を上げながら道を切り開き、バリケードを崩す。火の粉がぱちぱちと弾け、視界が悪いが、どうやら敵の抵抗は思ったほど強くない。そもそも彼らも混乱しているようで、組織的な防衛ができていない。


 やがて広場へ飛び込むと、王太子軍が散らばっており、指示を求める声があちこちで上がっていた。強いリーダーシップがないのか、あるいは指揮系統がすでに乱れているのかもしれない。


「こいつら、やっぱりライナスの傭兵隊が抜けたこともあってか、士気があんまり高くなさそうだぞ」

「チャンスだな。どんどん押しこむんだ!」


 後方から合流してきた別の革命軍部隊も広場に到着し、包囲する形で王太子兵を追い詰め始める。逃げ場を失った兵が「あっちだ!」と指を差すが、既に通路は塞がれていて逃げ道が限られていた。


 市民の中には革命軍を見て「こっちが正義の味方だ」とばかりに手を振る人がいるし、逆に恐怖から隠れ込む者もいる。いずれにせよ、革命軍の大群が街中で行軍する光景は衝撃的だろう。


「ここを抑えれば、王宮へのメインストリートが見えるはずだ。皆、怪我人を看護しながら進め! 焦って市民を巻き込むな!」


 俺は大声で指示しながら、血気盛んな者が暴走しないよう注意を払う。革命軍の名を汚さぬよう、略奪や暴行は一切許さないという命令を行き渡らせているが、混戦の最中、あらゆるトラブルが起きやすいのも事実だ。


 それでも多くの兵は「王太子を倒す」という大義のため、秩序を保ちつつ戦ってくれている。その姿を見ると、誇らしささえ湧いてくる。


「敵の主力はまだ王宮周辺に固まっているのか? それとも門前で再結集してるのか?」

「一部は門前に布陣してるみたいです。だが、内部工作で裏門や横門も揺らいでいるとかで、完全に封鎖しきれてないそうです!」


 部下がそう報告してくる。宮廷内部の協力者の活躍もあるのだろう。王太子軍は市街地での混乱に加え、王宮内でも統制が取れなくなりつつある。


 ここまでの流れを一気に加速させるべく、俺は広場の中央に立って指揮を執る。あちこちから駆け寄ってきた兵士が息を切らしながら集まってきた。


「よし、ひとまずここの制圧は成功だ。まだ敵は完全には崩れてないが、市街地の半分は我々の支配下に入ったも同然。次は王宮へ続くメインストリートを確保し、王宮を目指すぞ!」


 皆が「おうっ!」と拳を突き上げる。緊張感はあるが、士気は高い。周囲の市民からも拍手や歓声が少しずつ聞こえ始めており、革命軍への支持がそこかしこに芽生えているのがわかる。


 路地の奥で兵が「見ろ! 子どもが隠れてるぞ!」と叫び、すぐに民兵が保護する。「大丈夫だ、怖がらなくていい。もう王太子兵はいないからな」と声をかける。そんな光景を目にすると、俺の胸がさらに奮い立つ。


「さあ、最後の大一番だ。王宮へ突入して殿下を退け、新しい国を作る! 俺たちの革命は、ここで決着をつけるんだ!」


 一斉に響く歓声と、突き上げられる武器。その熱量は、もう誰にも止められない。王太子軍の残党がまだ街のあちこちに潜んでいるだろうが、革命軍の勢いを止めるのは容易じゃない。


 泥まみれになりながら、血と汗を流し、ここまでたどり着いた仲間たちと共に、俺は先頭に立ってメインストリートへ向かう。市民の視線が背中に刺さるようだが、それは応援と期待のまなざしだと信じたい。


「よし……行くぞ。王宮に殴り込む!」


 俺たちは再び走り出す。兵士が絶叫を上げ、武器の金属音が街にこだまする。周囲では市民が道を避けてくれたり、小声で「頑張れ」「王太子を追い払ってくれ」と激励の言葉を送ったりしている。


 こうして市街地での混戦を制した革命軍は、ついに王宮への道を切り開くことに成功する。あとは王太子の親衛隊をどう崩し、王宮内部に踏み込むか。次なる課題を抱えつつも、今この瞬間の士気は最高潮だ。


 王太子兵に怯えるか、あるいは王太子を恐れないか――民衆の心も分断されている。でも、この街で戦ってみせた姿が、新しい時代への期待を少しでも広げてくれたかもしれない。残るは最後の砦、王宮だ。


 流れる汗を拭い、剣を握り直して、俺は前方を見据える。あそこに王太子がいるなら、もう逃げ場はない。俺たちの革命を受け止めてもらう。市街地を抜けた先に、壮大な王宮の外観がかすんで見えた。これが最後の決戦へ向けた一歩となる。


「さあ、決着をつけよう、王太子――!」

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