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第71話 革命軍の本格的編成

 クリフォード領の平原に、これまで見たことのない規模の野営地が広がっていた。そこかしこに張られたテントの群れ、立ち並ぶ荷車や馬車、行き交う人の多さに思わず圧倒されそうになる。先日まで散発的に動いていた蜂起勢力や同盟貴族が、続々と合流してきたのだ。


 俺は小高い丘の上から、その野営地を見下ろしつつ深呼吸をする。数百を軽く超え、下手をすれば千を超える人間が今、ここに集っている。中には顔を泥や煤で汚した民衆兵もいれば、きらびやかな装備を身につけた領主家の騎士らしき者もいる。背後ではセシリアが書類と地図を抱えながら、俺に声をかけた。


「すごい人数になったわね。あちこちから来ているから、まとめるだけでも一苦労だわ。後方支援と情報管理、うまくやらないと混乱しそう」

「ああ。でもこれだけの勢力が集まれば、王太子軍と正面でぶつからずとも、十分な圧力になるはずだ。王都を取り戻すためにも、各地の蜂起を一つに束ねて正解だったと思う」


 俺はそう言いながら、少し離れた場所で指揮を執っているデニスの姿を見やる。簡易の訓練場が設けられ、まだ戦いに不慣れな民衆兵が槍や剣の扱いを学んでいる最中だ。大声で指示を出すデニスの口調がやけに厳しく響くが、それも必要なことだろう。


「そこだ、もっと足を踏ん張れ! 槍は突くばかりじゃないぞ、相手の武器を払う感覚もつかむんだ!」

「す、すみません、慣れなくて……」

「繰り返せば体が覚える! こっちだ、次は防御の姿勢を練習する!」


 荒削りな兵たちが汗を流しながら懸命に学んでいるのを見て、俺も胸が熱くなる。彼らは王太子の横暴を見て立ち上がった者たちだ。専門の軍人ではないけれど、意志の強さは感じられる。


 セシリアがテント群の方を向き、「こっちも食料の分配や連絡網の整備が急務ね。何しろ慣れないメンバーだらけだから、物資や情報が行き届かなければ士気が下がるわ」とつぶやく。


「まったくだ。アイリーンの商人ネットワークがなければ、物資の調達はもっと苦労していたと思う。まだまだ不足だけど、最低限は間に合いそうか?」

「ええ。彼女が奔走しているからね。あとは各同盟貴族や蜂起グループのリーダーからも少しずつ援助を受けられるはず。あちこちで協力体制を築いてくれてるわ」


 ここ数日の展開は激流のようだった。各地の蜂起を支援するために小さな使者隊を送り、同盟貴族とは文通や密会で連携を結ぶ。周辺の農民や商人に呼びかけて、物資をかき集める――こんな慌ただしさのなか、いつの間にか革命軍は思った以上の勢力を築き上げつつある。


 テントが並ぶ通路を歩きながら、俺はいくつもの顔と挨拶を交わす。初対面の人もいれば、以前からの仲間もいる。どこからともなく「レオン様、こんにちは!」と声が飛び、笑顔を返せば「王太子を倒して、新しい時代を作りましょう!」という熱い言葉が返ってきたりもする。


「……これだけの人が、王太子の圧政に耐えかねているんだな。正直、もっとバラバラかと思っていたけど、意外と意思がまとまっていて驚いてる」

「憎しみや恐怖が共通しているからじゃないかしら。王太子のやり方は、同じ国民を苦しめるものだもの。たとえ領主や出身地が違っても、みんな痛みを共有できるのよ」


 セシリアの言葉にうなずき、ふと周囲を見渡す。外見も装備もまちまちな人々が入り混じり、それでも「革命軍だ」という意識が芽生えているのが伝わってくる。


 ある大きめのテントの前で足を止めると、そこには各グループの代表らしき者たちが待っていた。俺は軽く深呼吸してから、彼らに語りかける。


「皆さん、来てくれてありがとう。これからの方針について、簡単に話したい。王太子軍はまだ多数の兵力を擁しているけど、王都に詰めている正規軍すべてを動かすのは簡単じゃないはずだ。各地の蜂起が発生しているからな」

「そうですね。逆に言えば、俺たちがここに集結しすぎると、王太子軍が大挙して襲いかかる可能性も高い。どう動くかが重要になってきます」


 ある農民出身の隊長が慎重な口調で答えた。確かに、大軍同士の正面衝突は避けたいところだ。今は物資や統率も整いきっていないから、こちらが一方的に押しつぶされる危険がある。


 そこで、俺はまず大きな目的を告げる。


「目的は一つだ。王都に進軍し、王太子の独裁を終わらせる。……ただし、いきなり突撃するんじゃない。兵站と周辺国との情勢も見極めつつ、じわじわと王都に近づき、殿下を追い詰めたい」

「なるほど。こちらからすぐに大隊を送るより、周辺の小領地や都市を解放して進むのが安全ですね。民衆の支持も得られそうです」


 リーダー格が声を合わせてうなずく。セシリアが隣から地図を広げ、指でポイントを示した。


「王都周辺の地域には、王太子への不満を抱える商人や民衆も多いはず。そこに呼びかけて、革命軍の存在を宣伝しましょう。私たちが“新しい国”を目指していると知れば、味方になる人は増えると思う」

「みんなの協力を得れば、補給線も強化できるはずだ。王太子軍は傭兵を多用しているから、長期戦になれば資金面で厳しくなるかもしれない。俺たちは辛抱強く、ゆっくりと包囲網を狭めるのが理想だ」


 会話が弾むにつれ、幾人もの兵士や代表が静かに興奮を膨らませているのがわかる。今までは逃げ腰だった人も、「これなら勝機があるかもしれない」と思い始めている様子だ。


 ふと、デニスが訓練を中断してこちらに合流する。彼も息を切らしながら「民兵たちはすぐにでも動けるぞ」と笑みを見せた。


「レオン様、そろそろ挨拶がわりの演説でもしてみてはどうです? 皆の士気が高まるいい機会ですから」

「確かに……じゃあ、少し言葉をかけておこうか」


 俺は野営地の中央へ足を運び、大きな篝火の前に立つ。そこにいた人々が「おお、レオン様だ」「クリフォード領主だ!」と口々にささやき合い、やがて静かに輪ができていく。セシリアも背後で微笑んで見守ってくれている。


 少し緊張を感じながら、俺はみんなの顔を見渡し、腹の底から声を張り上げた。


「集まってくれてありがとう。皆も知ってのとおり、ここは“革命軍”の拠点になりつつある。王太子に反抗し、新しい国を築こうという志を持つ者なら、誰でも歓迎だ。俺たちの目的は王都を解放し、王太子の暴政を終わらせること。そこから、貴族や王族が好き勝手する時代を変えたいんだ!」


 ざわめく人々の中には、興奮で拳を握りしめる者もいれば、真剣なまなざしを向ける者もいる。俺はさらに言葉を続ける。


「いまはまだ訓練不足で、物資も足りない。けれど、皆の意志がある限り、俺たちは絶対に諦めない。王太子は強大な軍を持っているが、民衆の思いを束ねれば、それを超える力を生み出せるはずだと俺は信じてる!」

「おおお……!」


 自然と歓声が沸き上がる。セシリアやデニス、アイリーン、グレイス、それぞれが満足げに笑い合っている姿が視界の隅に見える。


 俺は篝火(かがりび)の熱を背に感じながら、最後に一際大きな声で宣言した。


「さあ、目標は王都だ。だが焦らず、周囲を固めながら前進しよう。この地には俺たちの仲間がたくさんいる。一人じゃない。必ず勝てると信じてくれ。俺たちが――新しい時代を切り開こう!」


 歓声が一段と大きくなり、夜空にまで響き渡る。こうして革命軍は本格的に編成され、王都を目指す第一歩を踏み出すことになった。王太子の徹底追及と新国家の建設、それが俺たちの掲げる大義であり、夢でもある。


 幾多の困難が待つだろうが、もう誰も後戻りするつもりはない。燃え盛る篝火の明かりを背に、俺は心の奥で静かな決意を固めた――王太子の圧政を打倒し、民衆が安心して暮らせる未来をつかみ取る。そのためなら、どんな苦難も受け止めてみせると。

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