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辺境の冴えない下級貴族の俺が“断罪された令嬢”を庇ったら、恋も革命も始まりました!?  作者: ぱる子
第1部:暁光のレオン

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第16話 不安を抱えるレオン

 宿の部屋に戻った途端、どっと疲れが押し寄せてきた。


 夜会の余韻、特にあの修羅場が脳裏から離れない。王太子フィリップ殿下に逆らった結果、どれだけの災難が待っているか想像するだけで頭が痛い。


「はあ……」


 ため息をついて、ベッドの端に腰を下ろす。グレイスはすぐそばに立っていて、「レオン様、大丈夫ですか?」と心配そうにこちらを覗き込んでくる。


 デニスは部屋の隅で鎧の一部を外しながら、真剣な面持ちでこちらを見ていた。


「……平気じゃないかもしれない。けど、やるしかないよな」

「それでもレオン様は、あの場でセシリア様をかばったんです。わたし、正直感動しちゃいました! あの王太子殿下にあそこまで言えるなんて……!」

「うん……勢いでやってしまった部分も大きいし、結果的に領地にも迷惑かけるかもしれない。それが怖い」


 正直、クリフォード領の財政はギリギリだ。王太子のご機嫌を損ねれば、いつどう締め付けられてもおかしくない。俺だけじゃなく、父や領民たちをも巻き込む可能性があると思うと、もう胃がキリキリする。


 そんな俺の心情を察してか、デニスが低い声でアドバイスをくれた。


「レオン様、今はまず情報を集めるべきですよ。夜会を急に飛び出したから、残りの様子もわかりませんし、セシリア嬢がどうなるかも不透明です。下手に動いても空回りするかと」

「……そうだよな。殿下の怒りがどれほどのものか、実際にどう処分が下るのかは、俺たちが勝手に想像しても仕方ない。だけど……」

「セシリア様のことが気になりますよね?」


 グレイスの言葉に、俺はうなずく。あのまま王太子に断罪され、何も弁明できない形で放り出されるのか。それとも、別の政治的思惑があるのか……あの場ではまったくわからなかった。


 ただ、セシリアは自分の身を守るためか、あえて口を閉ざしていたようにも見えた。あの毅然とした態度が印象的で、頭から離れない。


「俺なんかが関わっていいのか疑問だけど、でも放っておけないんだ。俺のせいで彼女の立場がさらに悪化したらどうしよう、って思いもあるし」

「わたし、レオン様は間違ってなかったと思います! あのまま、誰もセシリア様を守らなければ、本当に酷い処遇を受けていたかも……」

「グレイスの言う通りですね。ただ、これからどう動くかは慎重に考えないと。レオン様だけでなく、領地に影響が及ぶ可能性が高いですから」


 俺は髪をかき上げて天井を見つめる。分かってはいるんだ。王太子の逆鱗に触れたのだから、下手に動けば“叛逆者”扱いされかねない。


 グレイスがフォローしてくれるが、彼女のドジが今後どう絡むかと思うと、苦笑せざるを得ない。なんだかコメディみたいに軽く考えられる問題じゃなくなってるのが現状だ。


「……さて、ここで俺が何か大きく動くわけにもいかない。デニスが言う通り、しばらくは王都で情報を集めよう。セシリアがどうなるか、王太子の出方がどうか」

「はい。変に動いて、さらに殿下に睨まれるのはまずいですもんね」

「そうだな。でも、もしセシリアがこのまま過酷な処分を受けるなら、どうにか手を差し伸べたい……無謀かもしれないけど」


 自分でも分かってる。あれは愚かな願望かもしれない。けれど、一方的に断罪される人を見捨てるほど強い心臓は持っていない。


「レオン様、そんなに思い詰めないでくださいね。わたしたちがいますし、領地のことも大事ですが、急いで結論を出さなくても……」

「そうだよな。焦っても仕方ない。無用な行動は逆効果になるだけだ」


 デニスの表情は真面目そのもの。こういうとき、彼がいてくれるのは心強い。グレイスも、ドジながら俺を励ましてくれる。


 王太子に逆らった重みは確かに大きい。でも、ここで折れるわけにはいかない。クリフォード領にも帰れず、セシリアにも顔向けできないなんて、情けなさすぎる。


「……領地へはまだ戻れないな。父上にも申し訳ないが、今のまま帰ったら何も打開できない。ここで情報を集めて、なんらかの策を考えないと」

「ええ、そうですね。殿下がどれだけ本気で怒っているか、セシリア嬢がどうなるか、それらが分からないまま領地へ帰っても対策しようがありませんし」

「わたしも賛成です! きっとレオン様なら、いい情報をつかんで何とかできますよ!」


 グレイスの言葉が、ちょっと無根拠な励ましに聞こえるが、気持ちは嬉しい。


 さっそく明日から、王都に住む知り合いの商人や、中立的な貴族を当たってみよう。アイリーンとの連絡も視野に入れる必要がある。


 もちろん、夜会の余波が大きすぎて簡単には動けないだろうが、何もしないままでは埒があかない。


「それにしても……セシリア。今ごろ、どうしてるんだろうか」


 ふとつぶやいた自分の声が、やけに静かに部屋に響いた。


 あんなにも気高く、堂々と立っていた彼女だが、内心はどうなのか。王太子の発言からすると、処分は確実に下されるはず。それが追放なのか、もっと重いものなのか……。


 あの凛とした瞳を思い出すと、胸がきゅっとなる。まるで吐き出せない感情が渦巻いているような、不思議な苦しさだ。


「……レオン様、セシリア様のこと、そんなに気になります?」

「え? あ、いや、別に……困ってる人を放っておけないだけ、っていうか……」

「へえ~、なるほど。ふふっ、わたしは応援しますよ」

「おい、グレイス、何を言って――」


 彼女はなんだかニヤニヤしているが、別に俺は恋愛感情どうこうじゃなくて……ただ、助けたいっていうか、それも変な言い方だが。


 こっちが赤面していると、デニスが咳払いして空気を戻してくれる。


「ま、まあ、優先すべきは領地の安全です。王太子に目をつけられた以上、どんな圧力が来るかもわかりません。わたしは情報収集を手伝いますし、グレイスさんはレオン様のサポートを頼みますね」

「は、はいっ! わたし、頑張ります!」

「助かる、二人とも。じゃあ、明日から行動開始だ」


 俺はそう宣言すると、改めて深呼吸して気持ちを落ち着ける。


 ドジながらも健気なグレイスと、冷静なデニスの存在が心強い。まだ未来は暗闇だが、仲間と一緒なら光を見つけられるかもしれない。


 そして、セシリア・ローゼンブルクを救う手立てがあるなら、できるだけ動きたいという気持ちが募る。


 ただ、それがどんな困難を呼び起こすかは、今の俺にわかるはずもない。王太子の怒り……国の権力……下級貴族としてはあまりに高い壁。だが、守りたいものを守るため、俺にできることを探すしかない。


「……よし。今夜はもう休もう。正直クタクタだ。頭を冷やして、明日から考えよう」

「はいっ! おやすみなさい、レオン様。わたしも応援してますから!」

「わたしも見回りがてら、明朝から動きやすいように準備しておきます」


 こんな風に前向きな仲間がいるだけで、少しは救われる。俺は暗く沈む気持ちを押し込めて、室内のランプを落とす。


 ベッドに身体を沈めながら瞼を閉じると、すぐにセシリアの姿が脳裏をよぎる。彼女の瞳、整った横顔、そしてあの毅然とした態度。王太子との激突……。


(セシリア……今、君はどこで、何を思っているんだ……)


 そんな問いかけを心中で繰り返しながら、俺は深い闇の中へ落ちるように眠りにつくことしかできなかった。

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