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15 失敗した降伏

          ◇



 マリオンは身振り手振りで『降参します』と言ったが、シャトレー人には通じなかった。多分、白旗の意味も分かっていない。久しぶりに言葉の壁を感じた。


 しかも兵達は皆、2メートル近い大男ばかりで怖い。震えながら立ちすくんでいると、帝国語らしき言葉を話す男が来た。位が高そうな鎧を着けている。


「おんしゃが指揮官かえ?ほんまかのう。まっこと若いねや」


 ものすごく訛っている。でも分かる。マリオンは再度、降伏の意思を表明した。無条件というわけにはいかない。砦を明け渡す代わりに、怪我人と民間人を解放してほしいと頼んだ。しかし、男は呆れたように言った。


「アホか。おんしゃらは負けたがじゃ。生きちゅう奴らは奴隷ぜよ。死にかけは殺すき」


 そんな。青ざめたマリオンを押さえようと兵士が手を伸ばす。彼女は白旗を捨てて逃げようとした。だが取り囲まれ、逃げ場は無かった。


「見せしめになます切りじゃ。運が悪かったのう」


 無数の剣が逃げ回るマリオンを浅く斬った。軍服はたちまち血で染まる。蛮族の兵達は笑いながら獲物をなぶり続けた。砦の者達も降伏が失敗したのは分かっただろう。


(奴隷はダメ。ギリギリまで耐えて援軍を待つしかない)


 マリオンは身体強化で徐々に弱った風を装い、ついにばたりと倒れて死んだフリをした。そのまま立ち去ってくれたら…と祈っていたが、敵は甘くなかった。帝国語を話す男が何かを命じると、近づく足音が聞こえた。恐らく、『止めを刺せ』と言ったのだろう。


(終わった…)


 遺体はここで朽ちるのかしら。そう思ったら涙が出てきた。もう一度だけ故郷の山々が見たかった…。


「マリオン!!」


 その時、背の高い隠密さんの声が聞こえた。



          ◆



 残雪の森を抜けて砦にたどり着いた。攻撃は止んでおり、門の前でシャトレー族の兵が騒いでいる。ヴィクターら5人は少し様子を見ていたが、急にアオキが額に手を翳し、


「むっ。いかん。我らが注意を引く。殿下は門の前、50メートルへ!」


 と言って、突入した。ヴィクターとコージィは引き摺られるように後に続く。シャルパンティアとペルティエが前方の敵をなぎ倒すと、ヴィクターの目に倒れる白金の髪が飛び込んできた。


「マリオン!!」


 皇子は剣を突き刺そうとする兵士を切り捨てた。急いで馬を下り、血まみれのマリオンを抱き起こした。


「しっかりしろ!マリオン!」


 薄緑の瞳がヴィクターを見上げた。


「皇太子殿下?」


「身体強化が上手くなったな、マリオン殿!死んだフリは下手だが!」


 アオキは笑いながら、群がる敵に剣を振り下ろした。当たりもしないのに、数十人の兵が吹き飛ばされた。彼がいる限り、ヴィクターとマリオンには誰も近づけない。


 降り注ぐ矢はシャルパンティアが槍で弾く。ペルティエは大将と思しき大男を倒し、コージィも矢で援護する。結局、15分とかからずに、ほとんどの敵を戦闘不能に追い込んだ。だが殺してはいない。手加減をする余裕があるのが、本当に不思議だ。


「もう大丈夫だ」


 ヴィクターはマリオンを抱き上げ、急いで砦の中に運び込んだ。



          ◇



 皇太子殿下がマリオンを抱き上げている。アオキは細い目を下げてニコニコと笑い、アンリは物凄く不機嫌な顔で睨んでいた。


「うわっ!血がっ!マリオン君、大丈夫?」


「俺の軍服が〜!」


 コナー卿と司令官までいる。マリオンは頭が追いつかず、もしかして天国に来た?と首を傾げていたら、


「先に手当てを。治療室はどこだ?」


 と殿下が仰った。すると、お婆さんが声をかけてきた。


「すいませんね。治療室はいっぱいです。こっちに運んでくださいな」


 アオキとアンリが何か言おうとしたが、お婆さんと中年女性達は小さく頷いて、男たちを部屋から追い出した。


「知ってるよ。女の子だって。見りゃ分かるだろうに」


 お婆さんは笑顔で言った。バレていた。一緒に暮らしていれば当然か。下働きの女性達も気づいていたそうだ。


「ごめんねぇ。一人で怖かったろう」


「よく頑張った。あの外人たち、あんたの知り合いだろ?助かったよ」

 

 ようやく緊張が解け、マリオンは号泣した。殿下が砦を救ってくださった。皆、奴隷にならずに済んだ。本当に良かった。



          ◇



 その後、マリオンは改めてヴィクター殿下にお礼を言った。シャトレー族の侵攻を聞き、馬車で2週間の道のりをたった3日で駆けつけたそうだ。


「ありがとうございます。お陰で命拾いをいたしました」


「もう起きて良いのか?」


「はい」


 殿下は司令官の立派な椅子に座っている。その後ろにコナー卿が控えていた。司令官は役職に復帰して、捕虜の処遇を指示しているらしい。動ける兵が少ない為、アオキ達も手伝っていると聞いた。


「何故、門の外にいたんだ?」


 マリオンは簡単に説明した。降伏をしようとしたが、とても呑める条件ではなかった。見せしめで殺される寸前に、殿下達が現れた。


「私がもっと交渉術を学んでいたら、和睦できたかもしれません。すみません…」


 しょげていると、コナー卿が励ましてくれた。


「いーのいーの。常識通じないんだから。族長の身内っていうのを捕まえたし。これで1勝1敗。勝負はここからよ」


「で、殿下!」


 ノックもなく、司令官が部屋に飛び込んできた。すごく慌てている。


「どうした。ペルティエ卿」


「シャトレー族長率いる本隊が現れました!」


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