13 シャトレー族の攻撃
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コージィがコナー家の隠密を使い、ペルティエ卿を拉致してくれた。
「逆さ吊りにしたら、あっさり答えました。マリオン君は北部国境地帯の砦にいます」
「感謝する」
やっとマリオンの居場所が分かった。奪還計画をコージィに練らせつつ、ヴィクターは定例の御前会議に出席した。父に気づかれないように、不機嫌な顔はそのままにする。
今日の議題は、着々と北方部族を平定し、勢力を拡大しているシャトレー族への対応だ。
「放っておけば、必ず帝国の脅威となる!人質を出さぬなら制圧すべきだ!」
という強硬派と、
「いやいや。北方の蛮族は、まとまっていた方がありがたい。いっそシャトレー王国を建てさせ、その後見となるべきです」
という穏健派に別れた。ヴィクターは後者に賛成だ。広すぎる版図を維持するより、後見という名目で干渉する方が良い。だが領地が欲しい貴族子弟と、武勲が欲しい軍人達の盟主、ダロワイユ太公はやはり強硬策を推した。
「先日もデメル王国の再興を押し切られた。周辺諸国に弱腰と見られたのでは?」
などとヴィクターの功績に難癖をつけてきた。父は何も言わずに聞いていたが、臣下達の発言が終わると、決定を下した。
「帝国の宥和政策に変更は無い。シャトレー族を盟友として迎える。皇太子、全権大使に任ずる」
「承りました」
ヴィクターは立ち上がり、一礼した。すると皇弟の特権を振りかざし、太公が口を挟んできた。
「恐れながら。陛下」
「何だ?」
「大軍を率いては、蛮族どもが誤解するでしょう。護衛の数を最低限に絞るべきです」
ざわめきが広がり、ヴィクターに近しい者達が抗議の声を上げようと立ち上がる。しかし太公は手を上げてそれを押し留めた。
「今、皇太子殿下について良からぬ噂が流れております。正々堂々と赴き、戦う事なくシャトレー族を従えれば、そんな流言など消え失せましょう」
◆
「また太公にしてやられたな。ステラ嬢はこの布石だったか」
「ごめんなさい。私が間違えました。メリーとピエールを結婚させるべきでした」
「その場合、ステラ嬢の怨念はどこへ向かったかな」
「やはりマリオン王子ですわね。はあ」
ヴィクターの目の前では、両親が項垂れて反省会をしている。父は向かいに座る息子に心配そうに訊いた。
「道中、暗殺者だらけだよ。行けそう?」
「少数精鋭で行きます。…申し訳ありません。私の不徳です」
太公がここまであからさまな攻撃をしてきたことは無かった。その隙を与えたのは、他ならぬヴィクター自身だ。責任を取らねばならない。
「奴の派閥を潰すには、まだ証拠が足りない。もうマリオン王子の居場所、分かったよね?シャトレー族に最も近い砦だ。ペルティエ家の三男が司令官をしてたっけ。奴ら、何を企んでるのかな。ヴィクターの目の前で蛮族に王子を殺させるとか?で、彼が奇跡的に生き返る?コージィの小説みたいな展開だな…」
「あなた。お心の声が漏れていますよ」
ブツブツと呟く父を母が嗜める。息子は、昨日の一件がもう知られていた事に驚いた。
「ご存知でしたか」
「コナー家の隠密なんか、ウチの足元にも及ばない。何とかシャトレー族の族長を帝都に連れて来なさい。生きたままで。あと、マリオン王子も。私が預かる。いいね?リーファ」
「ええ。お願いいたします」
母は頷いて了承した。皇帝の庇護下に入れば、彼の安全は保証される。だがヴィクターには会わせないだろう。それでも死ぬよりは良い。両手を握りしめて下を向く息子に、父は厳命した。
「とにかく、無事に戻ったら乙女の宮へ行きなさい」
◇
北の砦にも春が近づいていた。暖かい陽の光に洗濯物を干していると、表が騒がしい。マリオンは空の籠を持って様子を見に行った。すると、門はぴたりと閉められ、兵達もいつもより慌ただしく動き回っていた。顔見知りの兵に何かあったのかと尋ねると、
「お前らは食堂棟から出るな」
と命じられた。下働きは全員、言われた通り食堂に集まった。やがて軍属を束ねる官吏がやってきて、シャトレー族の大群がこちらに向かっていると教えてくれた。
「こういうのって、よくあるんですか?」
驚いたマリオンはお婆さんに訊いた。
「無いよ。50年いるけど、初めてだね」
お婆さんはせっせと芋を剥いている。非常事態でも食事は必要だ。マリオン達は大量の携帯食を作り、兵舎に届けた。鎧を着け、武器を持った兵士と馬に乗った騎士達が、どんどん砦から出ていく。残ったのは守備兵と民間人だけだった。
◇
事態はどんどん深刻さを増していく。翌日には多くの負傷兵が運び込まれ、マリオンらも看護に駆り出された。鈍器で殴られたような骨折が多かった。
「デカいんだ。2メートル以上の大男ばっかりで、棍棒で手足を狙いやがる」
負傷兵によると、騎士らは馬を奪われて捕虜になったらしい。命からがら逃げた兵士が砦に戻ってきたが、歩哨が足りず、マリオンら雑役夫は鎧を着けて防壁の上に立てと命じられた。
三日目の朝、とうとう敵が姿を現した。距離があるので正確な大きさは分からないが、確かに屈強な男達だ。顔に描かれた模様がいかにも蛮族だな、と考えていたら、凄い衝撃を受けて後ろに吹っ飛ばされた。マリオンの兜に矢が貫通していた。
あまりの恐怖で悲鳴も出ない。たちまち雨のように矢が降り注いだ。




