明日は連休明け
「本当に不甲斐ないです」
丸めた頭がこちらに向けられる。
そんな様子を視界に収めながら大録はため息を吐く。
「今回は俺が相手の戦力と作戦を見誤っていた。大規模系の異能持ちがいるとも思ってなかったし、その対価を払えるとも思っていなかった」
ザンマ自身の判断ミスだと彼は言う。
異能と言うのは持っているだけで強力な力を出せるわけではない。
強い力こそ対価が必要となるのが常だ。
それに当てはまらないのは、六大組織内にいるものくらいだろう。
「ただ、まあ、ルカ殿が気にも留めていなかったからよかったがな」
シロサヤ伝ではあるが、特に気にしていないと言う報告を聞いた大録は胸を降ろしていた。
そもそも、挽回の意を込めて無理を聞いてもらった結果だ。
それを相打ちでしたは効かないだろう。
ただ、今は好意に甘える事しかできなかった。
◆
財布探しに奔走したゴールデンウィーク最終日。
よくわからない奇妙な現象に襲われつつも俺は何とか財布を発見した。
え?どこで見つけたかって?
……昨日着ていた服の中のポケットに入っていた。
昼間で散々探し回って、トボトボと帰って来てツムギちゃんが声をかけて来たから聞いたらポケットに入ってたよって渡してくれた。
結果的に良かったと思うように努力しつつ、それでもなんだか無駄にしたような気分は良くない。
仕方ないので気を取り直して、有意義に残りの時間を過ごせるように頭を捻った。
◆
抗争に敗れた異能者の処遇は様々だ。
上手く逃げおうせて潜伏し、力をつける者。
他の異能組織に吸収される者たち。
そして、多くの場合、異能対策治安維持組織による拘束が行われる。
危険人物と判断された場合、彼らを無力化し拘束しておくのはコストがかかる。
故に、治安維持組織に回収させるのである。
そして今回もザンマとイグナイトは治安維持組織に拘束され、移送されていた。
「ああ、どうもザンマさん」
しかし、移送車は襲撃され、動転していた。
そして、ザンマは衝撃に曖昧な意識を保ちながら、その顔を見た。
「食々会」のアジトにいた布塚と言う男。
その男が延焼する車の前に立っていた。
無論ザンマは喋れる状態にはない。
ただ、その男を睨むことしかできない。
そして、その場に中牧の顔を見つける。
決着の後逃げおうせて食々会に戻っていたのだろう。
「そう睨まないでくださいよ。ザンマさん。私どももあなたとの契約を果たしてもらうためにここに来たのですから」
悠長に布塚は話す。
それにザンマが反応する前に向こうから甲高い声が響く。
「もう、そんなのどうでもいいでしょ。救援来ないうちに早く逃げよ」
真っ赤な髪をツインテールにした少女。
少女の全身白い服装はやはり彼らの仲間だと主張する。
その声に、布塚は笑みを深くした。
「ええ、ええ。そうですね。ではザンマさん。どうか私たちの糧に」
布塚はそう言った。
◆
「マダ、イテモイイノカ?」
「うん。だって、行く場所無いでしょ」
突然、出ていくような雰囲気を醸し出したアナに対して俺は思わずそう言った。
何が起因してこの家から出て行こうとしているのかは知らないが、彼女のここに居て困ることはない。
これがもし、新居を見つけたと言うのならば止めはしないけれど、どうにもそうではないと言う。
ならば追い出すのは酷と言うものだろう。
それに連休最終日だ。
自由にできる時間だってそう大きくないから、アナの出ていくにあたっての手伝いだってままならない。
「と言う事は、私ももう少しいてもいいってこと?」
「うん。……うん?うん」
そう言えば、何でツムギちゃんも一緒に住むことになったんだっけと思い返せば、アナの面倒を見れるかどうか不安であったためだった。
ただ、ここ数日一緒に住んでみれば、アナは相当に自立しているように見えた。
まあ、ツムギちゃんも少しの間に大分俺の生活に欠かせない人物になりつつあるのでありがたくもある。
多少なりとも、及第点に届かないくらいのギリギリアウトなあたりの家事を自分でしていたが、ツムギちゃんが最近全部やってくれているので元の生活に戻れそうもない。
とは言っても、俺だって手伝う。その絵面が休日に母親の家事の手伝いをしている娘みたいになっているのは笑えないけれど。
まあいいか。
平穏な日々が続く今日この頃ではあるけれど、ツムギちゃんやアナと一緒に居るのは楽しいし。




