言いたい
若い女性三人が、夏休みにビーチにやってきた。
「あー、天気いいし、今日は暑過ぎないし、気持ちいいねー」
「ねえ、無礼講じゃないけど、言いたい言葉を言っていい?」
「言いたい言葉? なに? 別にいいけど」
「じゃあ、言うね。人として当たり前のことをしただけです」
「なに、それ」
「だから、一度言ってみたかったの。人として当たり前のことをしただけです」
「確かに、かっこよくて、いいね、それ。二回も言っちゃって」
「ユキも言っちゃいなよ、せっかくだからさ」
「えー、そうだなー……あ。じゃあ、言うよ。この店で一番値段が高いものをくれたまえ」
「いいじゃーん。『たまえ』だって。最高ー」
「我ながら、とっさにしてはいいの言えたよね」
「じゃあ、エミコもでしょ」
「えー、私はそういうのやるの、柄じゃないし」
「平気、平気ー。無礼講だって」
「それに、そんないいの思いつかないよ」
「待つから。ほらー」
「うーん、じゃあ……貴様ら人間ごときがわしに勝とうなど百万年早いわ。せいぜい後悔するがよい!」
「いいよー、すごく。ちょっと長いし、『わし』なんて言っちゃって」
「キャッ、恥ずかし」
「ところで、今の……」
「え? なに? ボイスレコーダー? 録音してたの?」
「そう、二人の恥ずかしい音声をね。公にされたくなければ一億円を用意しろ!」
「……」
「って、今のも言いたかったんだ」
「なーんだ。一本取られたー、って、この『一本取られた』も思えば言ってみたかったよー」
「キャハハ。キャハハ」
友達同士のバカ話はずっとやっていられるのだった。