第五話 ご飯にする? お風呂にする?
さて──あいつらがこの世界に来てから次の日。
俺は会社に有給を取り、パーティーメンバーとのこれからの共同生活に向けて、例の亜空間の豪邸で話し合いを行っていた。
「とりあえずこの家には十分な広さも家具もある。生活するにあたって他に困ることといえば、ズバリ食料だ」
「こちらの世界では、ユウトさんはあまり多くの収入を得てはいないんですよね?」
シモンが俺に問う。
「まあな……これから食費もかさんでくわるな……」
今の俺には、正直こいつらを養っていけるだけの収入はない。
食費に関しての追加情報だと、この筋肉ゴリラのローデンはなんと一日5食、しかも毎回アホみたいな量を食べる。
そして食事の話をしたせいか、全員のお腹が凄い音をたててなりだす。
ちなみに昨日は何も食べていない。
「まあ今はとりあえず飯だな! 今日の朝一に食材を買ってきたから、俺がこの世界の食事を振る舞ってやる!」
とその前に──
「お前たち……風呂だ!風呂に行くぞ!」
出会った当初から気になってはいた。
こいつらからとてつもない悪臭が漂ってくる……!
流石は数日、長ければ数ヶ月風呂に入る機会なんてない冒険者と言った所か。
男女問わず、熟成された……なんというか……とてつもない。
と言う訳で。
「銭湯にやってきた!」
流石に男女共同生活の中で、一緒の風呂っていうのは……と言うのは建前で、何せ俺の家には風呂がない!
あの豪邸にも風呂はあったが、火を焚いて沸かすため時間がかかる。
いや、あの家は確かにでかいが、インフラ設備は中世時代のためはっきり言って不便なのだ。
あれ…? もしかしてあの豪邸、あんまり使いものにならない……!?
ま、まあ話を戻そう。
「いいか? 銭湯って言うのはいわゆる大衆浴場だ。まずはお金を払って……」
長々と説明はしてみたものの、全員キョトンとしていたので、まずは実践させてみることにする。
ある程度作法を間違っても、こいつらは見た目が外国人だから、他の客も多めに見てくれるだろう。
「じゃあ行くか」
大きな煙突と古い木造建築の銭湯。
最近ではこういう場所も減ってきた。
懐かしの番台に座るおばさんにお金を払い、更衣室へと向かった。
そして早速問題発生である。
更衣室にいた男たちが、驚いた目でこちらを凝視してくる。
俺はその視線が俺の後ろへ向けられていることに気付き、振り返る。
そこにはエレミアとカルミネの姿が……って?!
俺は慌ててその二人を外へ連れ出す。
「おいお前ら! ここは『男湯』だぞ!? なに普通に入ってきているんだ!!」
「だってアタイらルールとか知らないのよ?」
「それはさっき説明しただろうがっ!」
「アンタの長ったるい説明なんて頭に入ってこないわよ!」
全く困った。
俺が一緒に入る訳にも行かないし──
「あ! 篠山さん!」
後ろからの聞き覚えのある透き通るような声が聞こえる。
振り返るとそこには長い黒髪を一つに束ねた、清楚な女性が立っていた。
「後藤さん!」
彼女の名前は後藤ちさと、俺の会社の後輩だ。
「珍しいですね篠山さん。そちらの外国の方たちは篠山さんのお知り合いですか?」
「ああ、そうなんだ。銭湯に案内してあげている所。後藤さんも銭湯に入るの?」
「はい!」
おっとこれは好都合……
それならば──
「それなら後藤さん。よければこの二人に銭湯の入り方を教えてあげてもらえないかな? 俺じゃあ女湯には入れないからね」
「はい、構いませんよ」
「じゃあ御二方そう言うことで……」
「勝手に話が進んでいった気がするけど……まあいいや。アタイの名前はカルミネ、よろしく!」
「わ、私はエレミアです。 よろしくお願いします!」
「お二人とも、日本語がお上手ですね! 私は後藤ちさとといいます。よろしくね!」
女子組はこれで解決っと……
では改めて、入湯といこう。
脱衣所で服を脱ぎ、いざ。
「ここが『セントウ』ですか」
「広いな! まるで貴族の家の風呂だぜ!」
まずは定番のかけ湯で、体の汚れを洗い流す。
そして赤と青の蛇口を使ってお湯の温度を調整しながら、頭や体を洗っていく。
そして湯につかる。
「なかなかに快適ですね……」
「ああ、冒険の疲れが癒される」
「銭湯、気に入ってくれたか?」
「もちろんですね」
***
「あら? みなさんもう上がってたんですか?」
「ああ、こいつが気づいたらのぼせちゃったみたいでね」
のぼせたシモンを風呂場からの運び出して休んでいると、しばらくして女子メンバーが上がってきた。
「ったくシモン、情けねえぜ」
「そんなこと言われても……」
そんな様子を見て、後藤さんは何かを思いだしたようで。
「篠山さん! お風呂上がりと言えば……ですよ!」
「確かに! おいお前ら、少し待っていろ」
俺が番台近くの冷蔵庫から買ったのはもちろん。
「コーヒー牛ー乳ー!」
某青ダヌキ風に取り出したのは、もちろん定番のコーヒー牛乳。
全員にそれを手渡し、しっかりとコーヒー牛乳を飲む時の流れを教えておいた。
「アタイもこんな飲み物、初めて見るね」
「まあ飲んでみなって。上手いぞ!」
瓶の蓋を取り、腰に手を当て、一気に飲む。
「銭湯最高!」
***
サラリーマン生活をするにあたって、適度に堕落しないようにと、食事は基本料理してきた俺。
少し自信はある。
豪邸のキッチンは豪華だが、何せつくりと設備が中世時代なので、シモンにマンションの部屋に繋いでもらった。
昨日シモンが壊した蛇口は、魔法でしっかりと修理済み。
「さてと──やりますか!!」
***
「おお〜!」
と一同。
今回の食事は白飯と味噌汁、サバの焼き魚とほうれん草の和物、実家から送られて来ていたきゅうりの漬物。
ザ・日本の家庭料理だ。
「これがこの世界の料理……美味しそうです! ユウト!」
目を輝かせて料理を眺めるエレミア。
「見たことない食材だね……」
「これは僕も興味をそそられます」
興味深そうに観察をするシモンとカルミネ。
「うまそう……」
ただ単に食べたそうなローデン。
どうやら喜んではもらえたらしい。
「じゃあさっそく……」
「こっちの世界では食事の前に、言うことがるんでしたっけ!」
「ああ、じゃあみんなで」
「いただきます!!」