第三話 自宅
さて、どうしたものか……
俺たちは今、非常に多くの視線を浴びていた。
今のの現在地は俺の家──ではなく。
「で? どうしてこんなものを?」
俺たちの現在地は秋葉原の交番、職質を受けているわけだが、魔法の記憶は消したのでそのことではなく。
「いくらリアルなコスプレを求めても、本物の武器を使っちゃだめでしょ。これは没収します」
銃刀法違反になるということで、ローデンのバトルアックス、カルミネの短刀がぼっしゅが没収となった。
「ったく……なんだい? ここの国のケイサツ? ってやつは。野外で武器なんて子供でも持ってるわよ?」
「俺の相棒……」
不満げな表情で警察を睨みつけるカルミネと、お気に入りの武器を失って悔しそうなローデン。
「仕方ないだろ? あっちの世界じゃ魔物もいるし、身を守るための武器がいるけど、比較的安全なこの世界じゃ、武器所持は違法なんだ。外国人でルールを知らないってことにして、没収だけでなんとかなったけど、本当なら牢屋行きもありえるからな?」
「こっちの世界は色々と厳しいですね……」
本当に面倒な世界ではある。
まああっちの世界はスリルはあっても、そのスリルに殺されるってこともあるから、まあどっちもどっちだろう。
それにしてもさっきは本っ当にビビった。
よく考えて見れば異世界人の彼らは、国籍やパスポート、ビザなんてモノは持っていない。
それがバレたら一体どうなっていたか。
交番の人が優しくてよかった。
***
「つもる話はまた後だな。とりあえず家に案内するよ」
それから俺たちは、コスプレ衣装のままとりあえず俺の自宅に戻った。
「ここがユウトの家ですか?立派なお家ですね! 流石はユウトです!」
「ま、まあ……」
彼女は決して俺の狭いワンルームのことを言っているのではない。
きっと彼女は、俺の家をこのマンション全体だと思っているのだろう。
「言っておくが、俺が住んでいるのはあれの一室だけだからな?」
「え?」
自分の部屋の鍵を開け、扉を開く。
中にある光景は、なんの変哲もないただの散らかったワンルーム。
「おお!」
と一同。
「へ〜、異世界の家はこんな感じなんだ!」
「なんだか不思議ですね。僕も王都でもこんなつくりの部屋は見たことがありません」
全員揃って早速いろんな物を漁り始める。
そして早々──
「おいユウト、これはなんだ?なんか取れちまったぞ?」
ブチっという音とともに、その正体を見せてくるローデン。
「おい、何してくれやがる! こんの脳筋ゴリラ! 俺の初任給で買った駄女神フィギアの扇が……! お前ら俺の許可なく物触るの禁止だ!」
***
「おいユウト……物を壊しちまったのは謝るから、この格好はよしてくれないか? さっきから足がピリピリして……」
「この国で他人に謝る時の土下座というものだ。しばらく我慢しろ」
全く……こいつらと再会してから、まだ二時間も経っていないくらいだが、もう先行きが不安になってきた。
でも──
「変わってないな……」
どうやらこっちの世界とあっちの世界では、生物の寿命に差があるらしい。
向こうにいた時、普通の人間も2〜300年は生きると聞いて驚いた。
「ユウトも変わっていませんよ」
「そんなことないって……こんなに老けちゃったしね……」
「いいえ……確かに身体は老いてしまっていますが、それ以外はあの時の人々の英雄、勇者ユウトのまんまです。本当に……よかったです」
そう言ってエレミアはふふっと微笑む。
やだ何これ甘酸っぱい
「そ、そうかな……まあ正直俺も、お前らが変わってなくて安心したよ。まあ一回死んでるらしいけど……」
なんだか部屋の中でこうしていると、向こうの世界の家でみんなで集まって団らんをしていたのを思い出す。
そうだ、そういえば──
「俺の家はどうしてる? 魔王軍幹部の討伐報酬で建てた一軒家」
「いや……えっとそれは」
突然、挙動不審になるカルミネ。
これは……何かあるな。
「僕からお話ししましょう」
そう言って立ち上がるシモン。
「ちょっ!?アンタ!?」
「これはユウトが元の世界へ帰って、いなくなった後の話なのですが、あの家には沢山のレアアイテムや宝石やらが置いてあったですからね。カルミネさんは、『もうユウトが使うこともないし、盗賊としてアタイが頂いちゃうわね』……と、ユウトさんの家に忍び込んで、そのお宝の全てを頂いたと言うわけです」
なるほど、つまり俺の財産は両世界合わせても、ほぼ俺の資産はほぼないと……
俺があっちの世界で貴族にでもなってれば、容赦なく死刑だな。
「シモンさんだってその分前貰ってたじゃないですか?」
突然のエレミアの通知によって、勝ち誇ったような表情をしていたシモンの顔が凍りつく。
「よし! テメエら揃って土下座だ!」
俺はニッコリと笑いかける。
怒ってはいない、怒ってはいないのだが、それ相応の報いは受けさせよう。
もう一度言う、俺はこれっぽっちも微塵も怒ってはいない。
土下座の大名三人と、姫と俺でなんとなく殿様っぽい目線の光景を見下ろす中、ふと姫が──
「そういえば、さっきからユウトの腰の辺りがプルプルいってるよ?」
「ん? なんだ? ……はっ!! これは……!!」
俺の背筋がスーっと凍りついていくのを感じる。
俺の腰の辺りのプルプルの正体は、もう既に分かる人ならわかるであろう。
「今日アキバで商談があったんだったああああああああああ!!」
とにかく急いで出発の準備を進める俺。
かつてないほどの大遅刻だ。
まずい……
こんな形で商談を失敗させたら、下手したら首が飛びかねない。
「ちょっと!? どこへ行くの!?」
「夜には戻る! それまでこの部屋で過ごしていてくれ! 行ってきまあああす!!」
「俺……そろそろ感覚が無くなってきた……」
「この格好いつまで続けるんですか!? 僕もうそろそろキツくなってきてるんです! あ! おいて行かなで! おいて行かないでくださああああああい!!」
悪いがそんな話を聞いている暇はない、三人の悲痛な叫びは、閉まったドアによって、無慈悲に遮られるのだった。
ヒット目指してます!
作品が面白ければ、ブックマークや⭐︎を貰えるとありがたいです!