第三話
「え~っと……つまり、今代の雷は想像以上のキ……馬鹿で、バルムンク王国の男爵であるジークに危害を加えるかもしれないから、冒険者のジークと貴族のジークが同一人物だと言いふらさないようにしろと言うことですか?」
「ああ、最悪襲われたとしても、スタッツの人間から情報が漏れたわけではないと口裏を合わせることが出来れば、こちらからファブールに対して抗議することも出来るからな。逆に言えば、スタッツにジーク襲撃の協力者がいたとされれば、バルムンク王国から抗議を受けることになる」
「でも、私だけが気を付けたとしても、他の誰かから漏れるんじゃないですか?」
「その時は……まあ、そんな奴はいなかったということになるだろうな」
おっさんの言葉に、チーは面倒臭ごとに巻き込まれたというような顔をしている。
まあ、今代の雷が襲ってきた場合、スタッツは壊滅的なダメージを追う可能性が高いのだ。
それをなるべく小さくするために、冒険者ギルドは知らないふりをしようと言うことなのだが……すべての冒険者に口止めをすることは不可能なので、俺のことをよく知っているチーには特に注意するようにということなのだろう。それと同時に、チーの知り合いの冒険者が情報を漏らした場合、そいつがギルドから消されてしまう可能性が高いというのを知ってしまったことも、嫌な顔をしている原因の一つだろう。
もしも知らなかったら、チーの知らないところで事故にあったか、何かしらの事情でスタッツを離れたと諦めもついたかもしれないが、事情を知った後では知り合いが消えればギルドに消されたと思ってしまう。
それは、このスタッツの冒険者ギルドで長く活動しているチーからすれば、耐え難いことになるかもしれない。
「せめて、仲のいい知り合いにだけはジークのことを秘密にするように言ってもいいですかね?」
「ジーク・レヴァンティンの正体を隠したままで説明できるのならな」
それまでおっさんが話している間黙っていたギルド長が、チーの質問に条件付きで認める発言をしたので、チーは急いで部屋を出て行った。
「バルトロ、念の為チーを見張っていろ。そして、もしチーが情報を漏らすようなまねをした場合……分かっているな?」
「へいへい……全く、嫌な仕事を押し付けるなよ……処分の方法は、俺に任せてもらえるんだろうな?」
「構わん、好きにしろ」
おっさんは嫌そうな顔をしながら、音を立てずにチーを追って部屋を出て行った。まあ、処分が殺すことだとは限らないので、いざという時は何かしら別の方法を使うつもりだろう。そして、それはギルド長も分かっているはずだ。そうでないと、ギルド長最大の手札であるおっさんの信用を失うことになりかねない。
「男爵、そろそろ我々もお暇いたしましょう」
ディンドランさんは、おっさんが居なくなったのに合わせてギルドを去るつもりのようで、俺もいいタイミングだと思い腰を浮かしかけたが、
「ヴァレンシュタイン男爵、もし仮にあなたが今代の雷と戦った場合、被害はどのくらいになると予想していますか?」
ギルド長がそんな質問をしてきたのでもう一度椅子に座りなおし、
「向こうが最初から戦う気でかかってきた場合、真っ向からやりあえばスタッツが壊滅してもおかしくはないと思う」
今代の雷の正確な強さは分からなので、バルムンク王国の軍を退けたという実績とクレアの感覚から推測するしかないが、弱いということは決してありえない。
しかも、今代の雷は薬物中毒者疑惑があり何をするのか分からないので、どういった行動をするのか読めないのも怖いところだ。
あまり考えたくはないが、俺を味方に引き入れるよりも排除する方がいいと判断して、大規模な魔法で街ごと始末しようとする可能性もあり得るのだ。
「なるべく早く接触し、穏便に済ませるように交渉するしかないだろうな。それと、今代の雷の肩書とファブールの後ろ盾に目がくらんで裏切る奴が出る、もしくはすでに出ていると考えて行動しないといけないかもな」
もしもすでに裏切っている奴がいるとすれば、俺の情報が向こうに流れている可能性は高いが、今代の雷が来る前にスタッツを出れば大した問題にはならないだろう。あくまでも、『俺に関しては』だが。
そのことに気が付いているらしいギルド長は、何を他人事のようにと言った視線を向けてくるが、すでに俺はスタッツの住人ではないので所詮は他人事なのだ。
ただまあ、今代の雷のせいでばあさんたちに被害が出るとするのならどうにかしたいという気持ちはあるが、他国の貴族となった俺がでしゃばるわけにはいかないし、被害を未然に防ぐのはこの街の責任者……つまり、ばあさんやギルド長の仕事だ。
スタッツを守るだけならば俺を突き出すという選択肢もあるが、それをやればバルムンク王国を敵に回すし、その前に俺が暴れるので今代の雷が来て問題を起こす前にスタッツが酷いことになるだろう。
「今代の雷には、ジーク・レヴァンティンという男は居ないし、男爵はすでにバルムンク王国に帰ったと伝えるしかないか……ベラドンナたちと話し合う必要があるな」
すでに疲れたような顔をしているギルド長を置いて、俺たちは今度こそ部屋を出て行った。
部屋を出て下の階に降りると、おっさんが入口付近でチーの様子を窺っていたが、特に不穏な空気は纏っていないので、今のところは大丈夫のようだ。
「おっさん、じゃあな。明日は早くに出るつもりだから、見送りなんかはいらないぞ」
「ん? そうか、分かった。元気でな」
おっさんに声をかけ、ついでにフリックとチーにもよろしく言っといてくれと頼んでギルドから出ると、
「ジーク、とりあえず食事にしましょう。こうなった以上、食べれるときに食べておいた方がいいわ」
と、腹が減ったらしいディンドランさんの提案で、俺たちは買い出しを兼ねてスタッツの屋台をはしごすることになった。
「食料も買い込んだし、これで人間側の準備は万端ね」
ディンドランさんは買ったものを指折り数えながら、買い忘れがないかを確認していた。
一応、俺の方でも買ったものを思い出しながら確認したが、致命的な買い忘れはないはずだ。そもそも、最低限のものは常に俺のマジックボックスに入れるようにしているので、最悪買い忘れがあったとしても次の町までどうにかなる。
「問題は馬の状態ね。多少の疲労はあったみたいだけど、怪我をしたというわけではないから少し休めば移動は出来るはずよね。ただ、出来るなら二~三日は休ませた方がいいとは思うけど」
連れてきた馬はどれも軍馬として鍛えているので、普通の馬よりはかなり頑丈だし、長期の任務に耐えることが出来る強さを持っている。
だが、それでもなるべくなら無理はさせない方がいいのは確かだし、スタッツを離れている最中にもしも怪我をして移動に支障をきたすようなことがあれば、今代の雷に追いつかれてしまう可能性もある。
難しいところではあるが、馬たちにはバルムンク王国に入るまで頑張ってもらうしかない。
それが俺たちの出した結論だったが……
「あいつがジークだな? ご苦労だった」
今代の雷はそんな俺たちをあざ笑うかのように、想定以上の速さでスタッツに現れたのだった。
「ヴァレンシュタイン男爵に何か用か?」
俺は驚きを顔に出さないように気を付けつつ距離を取り、その間にロッドがけん制と時間稼ぎを兼ねて前に出た。
「ヴァレンシュタイン男爵? おい、あいつがジーク・レヴァンテインなんだろ?」
今代の雷は、ロッドの言葉に眉をひそめながらここまで案内してきたと思われる男に話しかけていた。
(あいつは……名前は知らないが、冒険者ギルドで見たことがあるな)
交流はなかったが、スタッツの冒険者ギルドに所属している冒険者で間違いないはずだ。
「ええ、間違いないはずです。そばにいる女は、ジークがスタッツからいなくなる少し前に見ました」
案内の男がそう言うと、今代の雷は顎に手をやり少し考えてから、
「まあいい、ヴァレンタインだかシュタインだか知らないが、俺のところに来い! お前の力、今代の雷の俺が使ってやる!」
今代の雷は、芝居がかったそぶりで俺に手を差し出したが、
「今代の雷は爵位を持たない一般人だと聞いたが……他国の貴族に向かって無礼な奴だな。一体、どんな教育を受けて育ってきたんだ?」
俺の居た世界に近い環境だったとしたら、それなりに教育制度や機関が発達している可能性が高いはずだが、あいつの言動からはそういった教養のようなものが感じられない。まあ、俺のいた世界でも、同じ人間かと疑ってしまうくらい話の通じない奴や、自分が全てで他がどうなっても関係ないという自分勝手な奴など様々な種類の人間がいたので、教育の発達は今代の雷には関係なかったのかもしれないが……俺としては、嫌味の一つくらいは言ってやらないと気が済まなかった。
「はぁ? 他国だろうとなんだろうと、男爵風情よりもレベル10の方が上だろうが! いいから俺に従え! その力、バルムンク王国との戦いで使ってやる!」
今代の雷がそういった瞬間、
「今の発言は、バルムンク王国の貴族としては見過ごせないぞ! それに、バルムンク王国を侵略する為の戦力をトーワで集めているということもだ! この件に関しては俺の方からウーゼル国王陛下に伝え、正式にファブールとトーワに抗議していただく!」
俺は周囲に集まり始めた野次馬にも聞こえるように声を張り上げて、俺の身分と非がファブールにあることを知らせた。
「なっ! よりにもよって、バルムンクの貴族だと!」
そのことを知った今代の雷は動揺していたが俺は続けて、
「少し前にバルムンク王国とファブール国の間で戦闘があったと聞いたが、この様子だと原因はファブールがバルムンク王国に侵略しようとしたことが原因のようだな! このこともウーゼル陛下に伝え、ファブールに抗議すると共に周辺諸国にも声明を出させてもらう! 覚悟することだな!」
少し前の戦争に関しても、原因はファブールにあるかのように周囲に聞かせた。
かなり強引なシナリオではあるが、少なくともこの場で今代の雷の発言を聞いた者は、俺の言っていることが正しいのではないかと考えるはずだし、人の口に戸が立てられない以上、調査が入れば信ぴょう性のある話だと判断されるだろう。
「これ以上立場を悪化させる前に、スタッツから去るがいい! そして、ファブールで大人しく反省しろ!」
これで終わりだと話を切り上げようとしたが、
「うるせぇ! 黙って聞いていれば調子に乗りやがって!」
急に今代の雷が激高し、一番近くに居たロッドに向かって電撃を放った。
「がっ!」
まともに今代の雷の魔法を食らったロッドは後ろに弾き飛ばされて壁に激突し、そのまま動かなくなってしまった。
「総員、男爵を守れ!」
マルクの合図で、ケイトとキャスカが俺の前に出て剣を抜くと、今代の雷に付き従っていた兵士たちも剣を抜いて前に出てきて、互いににらみ合う形となった。しかしその場には、ディンドランさんが居ない。
こちらは俺を含めて四人、向こうは今代の雷を含めて十人なので、どう考えてもこちらが数的に不利だった。なので、自然と俺たちはじりじりと下がる形となり、反対に向こうは差を詰めようと少しづつ前進してきたが……兵士と今代の雷の間に距離が出来たところで、
「しっ!」
いつの間にか姿を消していたディンドランさんが、建物の陰から今代の雷目掛けて飛び出してきた。
完璧な不意打ちで、兵士どころか今代の雷も反応できていない。
そのままディンドランさんは愛用の大剣を振り上げ、
「ぐっ!」
急に苦悶の表情を浮かべ動きを止めた。そこに、
「あああぁ! 『ライトニングボルト』!」
「がはっ!」
今代の雷から魔法が放たれ、直撃を受けたディンドランさんは建物の中まで吹き飛ばされた。さらに、
「そこか!」
「ギャン!」
ディンドランさんとは反対の方からベラスが飛び掛かったが、ディンドランさんの時と同じように直前で動きを止めて、今代の雷の魔法を食らい吹き飛ばされた。
「キャスカはディンドランさん、ケイトはロッド、マルクはベラスの救出だ……行け!」
すぐに救出の命令を出すと三人は一瞬戸惑ったものの、急いでそれぞれの担当のところへと走っていった。
その間に俺は、
「まずは二人」
俺たちに向かって来ようとしていた兵士に向けてシャドウ・ストリングでアラクネの糸を飛ばして首に巻き付け、一気に引いて頸動脈を切り裂いた。
相手からしたら俺が手を動かした次の瞬間に仲間の首から血が噴き出たように見えたらしく、二人と同じように前に出ようとしていた兵士たちは動きを驚愕の表情を浮かべて足を止めていたが、今代の雷は驚いた表情を見せていたものの、すぐに後ろに下がって距離を取ろうとしていた。
「逃がすかよ」
俺は今代の雷を逃がすまいと、距離を詰めながら先程と同じようにシャドウ・ストリングを今代の雷に向けて飛ばしたものの、今代の雷は仲間の兵士の後ろに隠れるように逃げたので糸はそいつに絡みついてしまった。
仕方がないのでその兵士の首を切り飛ばし、ついでにアルゴノーツでもう一人の兵士を切り裂いて接近しようとしたが今代の雷の逃げ足は想像よりも早く、最初に対峙した時よりも距離を開けられてしまった。だが、
「『ダークミスト』」
俺がいる位置から今代の雷の周辺を黒い霧で覆い、影に潜って移動すればすぐに距離は縮まる。
「な、なんだ!」
今代の雷は、俺が広範囲に魔法を放とうとしたことに気が付いたようで足を止めて剣を抜いたが、俺の方を向いた瞬間に周囲が黒い霧で覆われたので混乱していた。
そして、
(これで終わりだ)
その隙に俺は今代の雷の背後に回り、剣を振り上げた……が、剣を振り下ろす直前に今代の雷はいきなり後ろを向いて、俺に体当たりを仕掛けてきた。
「何!」
押し倒されはしなかったものの想定外の攻撃を受けた俺はよろけてしまい、それと同時に魔法を解除してしまった。そのせいで俺の姿は丸見えになってしまったが、今代の雷は体当たりの衝撃でバランスを崩していたのでそのまま強引に剣を振り下ろそうとしたところ、
「ぐっ!」
今代の雷に体当たりをされた瞬間に持っていた剣でわき腹を切り裂かれていたようで、痛みで剣先が少し鈍ってしまった。それでも、何とか今代の雷に当たる軌道で剣を振り下ろしたのだが、今代の雷はその一撃を前方に転がることで回避して見せた。
しかし、回避したと言っても今代の雷も体勢を崩しており、ギリギリではあるが剣の届く位置にとどまっていたので、無理やりな体勢からもう一度剣を振ろうとしたが、
「がっ!」
急に全身に電流が流れたかのような衝撃が連続してあり、俺は思わずアルゴノーツを落としてしまった。
「う、うぉおおお!」
今代の雷は、俺が剣を落としたのを見て雄たけびを上げ……全力でこの場から逃げ出した。
今代の雷が離れると衝撃は弱くなり、体が動かせるようになったので銃形態のダインスレイヴを出し、背後から狙い打とうとしたが、
「くそ! 無理か!」
今代の雷が逃げた方向には、今まさにディンドランさんを運び出そうとしているキャスカの姿が見えたので、即座にダインスレイヴでの攻撃を中止した。
「だが、逃がさ……ぐぅ……」
ダインスレイヴで遠距離の攻撃が出来ない為、俺は逃げる今代の雷を走って追いかけようとしたが、切られたわき腹の傷は思った以上に深かったようでその場に膝をついてしまい、次に視線を上げた時には今代の雷の姿はどこにもなかった。
「くそ……他の奴らは……」
今代の雷は取り逃がしたが、目の前にいた四人は確実に殺したので残りの五人のはずだ。そいつらはどうなったかと思い探すと、
「四人は逃げたか?」
近くには一人の兵士が倒れているだけだった。
「とにかく、わき腹の傷をどうにかしないと……」
アルゴノーツを拾い鞘に納めた俺は、右のわき腹に出来た傷を治そうと回復魔法を使ったが、俺の魔法ではしばらく時間がかかるくらい傷が深いようで、このままだと血が流れ過ぎて危ないかもしれない状態だった。
「それでも、魔法を続けないと……」
内臓まで傷が届いているかは不明だが、もしそうならかなり危険な状態だろう。
いっそのこと、火魔法で傷を焼いて血だけでも止めるか……そう思った時、
「何事ですか!」
クレアが金棒を振り回しながら突進してきたのが見えた。
そして、運のいいことに俺と目が合いこちらに走ってきたので、
「今代の雷にやられた……すまないが、魔法を頼む」
「任せてください!」
治療を頼むと、クレアはすぐに俺のわき腹に手を添えて回復魔法を使い傷を治してくれた。
流石に今代の白だけあって、クレアが魔法を使うと俺では出血量を少なくするしかできなかった傷が一瞬のうちに塞がり、痛みもほぼ無くなったのだった。
ただ、流石に失った血までは元に戻ることは無く、立ち上がるとかなりふらつくが気合を入れれば何とかなりそうな状態にまで回復した俺は、すぐにディンドランさんたちの治療も頼み、クレアがそちらに向かったのを確認して、
「とりあえず、骨を折……ったとしても、クレアが治しそうだな。逃げられないように縛っておくか」
残されていった兵士の一人を縛り上げて猿轡をかませた。
「ジークさん! ワンちゃんの治療も終わりました! 皆無事です!」
クレアが呼びに来たので兵士を引きずりながらディンドランさんたちの元へ向かうと、ロッドはまだ気を失ったままだったが、ディンドランさんとべラスは立ち上がれるくらいには回復していた。
「クレア、助かった。正直、今代の雷があそこまで手強いとは思わなかった」
国際問題になりかねないので、こちらから手を出すわけにはいかなかったとはいえ、向こうもそれは同じだろうと考えていたのがよくなかった。こんなことなら、遭遇した時は初めから戦闘を前提に警戒しておけばよかったと思いつつ、どこか正面からでもどうにかなるはずだと甘く考えていたことを痛感しながらクレアに礼を言うと、
「ん~……でも、アレックスさんがジークさんをあそこまで追い詰めたと言われても、ピンとこないんですよね……確かに魔法はかなりの威力を持っているみたいですけど、明らかに鍛えている人の動きでは無かったですし……」
クレアは、今代の雷と前に会った時のことを思い出しながらそんなことを言うが、実際に俺だけでなく不意を突いたディンドランさんにまで対応して見せたのだ。鍛えていないように見えたとしても、相当な強さと実戦経験があるとみて間違いないはずだ。
「確かに、不思議なところはあったわね。完全に不意を突いたはずなのに、寸前で正確に私の方に顔を向けてきたし……」
ディンドランさんが言うには、不自然に動きが止まる直前に今代の雷の視線は、不意を突いたディンドランさんを正確にとらえていたそうだ。
事前に奇襲を予測して罠を張っていたのか、それとも不意打ちに気が付いてから対策したのかは分からないが、ディンドランさんとしては動きを止められるまで特に脅威とは思わなかったとのことだった。
「まあ、情報の少ない相手だったから仕方がなかったけれど、レベル10を相手にして全員命があったことを喜ぼうか? それに、多少は今代の雷の技を見れたし、次はそう簡単にやられはしないはずだ」
ディンドランさんと俺の動きを止めた攻撃について、ある仮説を立てることが出来た。
「恐らくだけど、今代の雷は自身の周辺に設置型の魔法か、探知の為の魔法を展開しているのかもしれない」
探知型の魔法については、あらかじめ無防備になっている方角に展開しておけば、ディンドランさんのように不意を突こうとした相手を罠に嵌めることが出来るし、探知する為の魔法なら相手が見えていなくても、範囲内に入ればどこから襲ってくるのか分かるだろう。
そして、俺のとしては探知型の魔法を使っていた可能性が高いと思う。
「常に探知系統の魔法を展開していたとすれば、ダークミストで視界を奪われた後も正確に俺に体当たり出来て、その後の攻撃をよけたのにも説明が付く」
俺の説明に、ディンドランさんは納得したかのように頷いていたが、クレアはいまいちピンと来ていないのか首をひねっていた。
「クレアが今代の雷と会った時に、なんか嫌な感じがしたと言っていただろう? あれがもしも魔法を展開されていたからだとしたら、相手の魔力を感じて嫌だと思ったというのもあるんじゃないか?」
そこまで言うと、クレアはそんなものかといった感じに頷いたのだった。