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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第五章
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第十三話

「ジーク、また来たわ。これで四組目よ」


「ちょっと多いね……ここからだと、俺たちが来た街よりも、ガウェインが向かった町の方が近いはず。なのに、その方向から雨の中を移動しているのが四組目……ディンドランさん、今こっちに向かってきているのはどんな人?」


「見た感じ、商人っぽいわね」


「じゃあ、話を聞いてみようか。俺の家紋入りの旗を見せて、強引にでも止めて話を聞いてきて」


「分かったわ」


 朝、日が昇ると同時にガウェインが次の目的地に向けて出発すると、ほどなくして雨が降り出した。俺たちも後を追うようにすぐに出発したものの、馬車の速度に合わせて移動していた為に、ほぼ同時に出発したガウェインとは大きく離れているはずだ。もしかすると、ガウェインはすでに次の町に着いている頃かもしれない。


 街を出てから一時間ほどで天気は小雨から大粒の雨に変わり、土砂降りとまではいかないものの視界はかなり悪く、おまけに時間が経つにつれて道の状態がかなり悪くなってきたので、予定よりも到着が遅れそうになっているのだ。


 そんな中で、道の半ばまで来た時に最初の一組目とすれ違い、その少し後に二組目、そこから数十分後に三組目と続き、それから一時間程して四組目が正面に見えた。


 最初の一組目二組目を見た時、俺たちと同じ状況で町を出発し、途中で雨が強くなったから急いで次の目的地に向かっていると思っていたのだが、三組目は雨が強くなり始めた頃に出発したことになるので少し疑問に思い、正面に見える四組目は確実に雨が酷くなった後に出発しているので、もしかすると俺たちの向かっている方向で何かがあったのかもしれないと考えたのだ。


「ケイト、念の為馬車はここで止めて、ロッドは私と一緒にあの馬車のところに行くわよ。私が話を聞いている間、少し離れたところで警戒しなさい。キャスカとマルクは、馬車の近くで警戒。ジークは万が一が起こるまでは、馬車の中で待機。顔も出さないで。分かったわね?」


 そう言ってディンドランさんは皆に指示を出すと、ロッドを連れて正面の馬車へと向かった。

 いきなり止められて驚くだろうが、こちらは貴族の旗を掲げているので素直に応じるはずだ。仮に強引に突破しようとしても、すぐにディンドランさんに行動不能にされるはずだ。


 だが、向こうの馬車は貴族に止められた意味をちゃんと理解していたようで、もめ事を起こすことなくディンドランさんと話をしていた。

 そしてすぐに向こうの代表らしき人を連れてやってきて、


「男爵様、今日の朝方、私たちの目的地の町に魔物が出たそうです。町の中での被害は家畜の牛や馬が数頭やられたみたいで人は犠牲になっていないとのことですが、町から逃げ出そうとした旅人や町人が犠牲になったそうです。詳しいことは、この者からお聞きください」


 馬車のドアを開けて簡単な説明をし、商人を俺の前に進ませた。


「お初にお目にかかります、男爵様。私は行商人をしているダモンと申します。男爵様はこの先の町に向かう予定とのことですが、お止めになった方がよろしいかと存じます。朝方、我々は町が騒がしいことに気が付き目を覚ましたのですが、情報が全くない状況だったのでしばらくの間様子を見ることにし、騒ぎが収まった後に情報を集めたのですが、それによると三頭の熊の魔物が家畜を襲ったとのことでした。熊は執念深いことが知られており、食い残しを回収する為にまた町に現れることが予想されましたので、我々はすぐに町を出ることにしたのですが、我々とほぼ同時に町を出た者たちが町の外で待ち構えていた熊の魔物に襲われたのです。運のいいことに、我々はその者たちが犠牲になっている間に逃げることが出来たのですが……襲われた者たちは、熊に薙ぎ払われて宙を舞っているところが見えましたので、恐らくは生きてはいないかと……」


 そこまで一気にしゃべったダモンは、乱れた呼吸を整えながら、時折後ろを気にしている様子を見せていた。


「そういう事情があったのか……忠告感謝する。だが、仲間の一人が先にその町に向かっているのでな。引き返すわけにはいかない。それと、これは呼び止めた詫びだ。街に着いたら、これで体を温めてくれ」


 そう言って俺は、ダモンに金貨を一枚握らせた。

 これが情報の対価として適正なのか分からないが、少なかったとしても渡さないよりはましだろう。


「皆、急ぐぞ。あいつなら大丈夫だとは思うが、もしかすると予想外のことで足止めを食らっているかもしれないからな」


 ガウェインなら、例えその魔物がかなわない相手だったとしても、どうにかして逃げ切るだろうという確信があるが、何らかの事情で引き返すことが出来ないかもしれない。

 もしもこのまま進んで引き返してきたガウェインと合流出来たら別の町に進路を変えてもいいし、もしもできないのなら当初の予定通り町で合流してから後のことは考えよう。


「了解しました、男爵様。少し急ぎますので、揺れにお気を付けください」


 そう言うとディンドランさんは、ダモンを少し下がらせて馬車を発進させるように合図を出した。

 そして、ダモンたちから大分な離れ、姿が見えなくなったところで、


「ジーク、馬車をマジックボックスに入れてちょうだい。ここからは速度重視で進むわ。ケイト、キャスカ、あなたたちは出来る限り身軽な状態になって、二人乗りでついてきなさい。他の皆は、ケイトたちの速度に合わせて移動するわよ」


 これは元々考えていた作戦で、道中何らかの理由で速度を上げないといけないときの為に考えていた方法だ。

 ディンドランさんが指示を出すと、俺は外套を羽織って馬車の外に出て、御者をしていたケイトはすぐに馬車から馬を外して、二人乗り用の鞍を乗せていた。


 馬が外れたのを確認して馬車をマジックボックスに入れると、キャスカが俺の前に馬を持ってきたのでそれに乗り、キャスカはケイトの後ろに乗った。

 これだと、二人乗りの馬の速度があまり出ないものの馬車を引かせるよりは速いので、これまでの倍近い速度が出せるはずだ。



 俺たちは雨に濡れながら道を進み、途中一度だけ小休止をとってガウェインのいるであろう街を目指した。そのかいあってか、商人に事情を聴いた場所から馬車で三時間はかかるだろうというところを、およそ二時間で町が見えるところまで来ることが出来た。ただ、


「熊に襲われている奴がいるな。あのままだと、餌にされるぞ……仕方がないな。ディンドランさん、情報収集を兼ねて、あの熊を狩ります。俺が突っ込んだ後で、皆は馬車のところまで移動して、ディンドランさんとロッドとマルクは周辺の警戒、ケイトとキャスカは被害者の状態の確認。以上!」


 街から逃げ出そうとしたらしい奴らが、二頭の熊に襲われているのが見えた。

 それを見た俺は、皆に指示を出して馬から降りて足の裏に魔力を集中させ、


「ジーク、ちょっと待ちなさい!」


 というディンドランさんの言葉を無視して、足の裏に集めた魔力を爆発させるようにして空を跳んだ。

 元居たところから熊までは数百mあったので、一度の跳躍では距離が全く足りなかったが、勢いがなくなったところで再度足の裏で魔法を爆発させて距離を詰めた。しかし、三度目で届いたものの、熊の真上を通り越しそうになってしまった。


「『シャドウ・ストリング』」


 まあ、これは予想通りだったので、俺はすかさずアラクネの糸を使用したシャドウ・ストリングを熊の腕に巻き付けて強引に空中で勢いを殺し、


「まずは一つ」


 熊が暴れた勢いを利用して接近して、アルゴノーツで熊の頭を切り飛ばした。

 そして、着地すると同時に、


「『エアカッター』」


 風魔法を放ち、もう一頭の熊の喉を切り裂いた。


「襲われていた人は……駄目だな。頭が潰されている」


 恐らくは熊の一撃をまともに食らってしまったのだろう。男性と思われる被害者は、遠目からでもわかるくらい悲惨な姿をしていた。


「ジーク! まだそいつは動いているわよ!」


 駆け寄ってきたディンドランさんが叫ぶが、あの一撃で熊の首の骨も断っているので、暴れるほど動くことは出来ないはずだ。ただまあ、


「念の為だな」


 熊とは言え魔物なので、回復魔法や俺の想像を超える回復力を持っていないとも言えないので、ディンドランさんの忠告通り完全に頭を落とすことにした。


「ディンドランさん、周辺に他の熊は?」


「見える範囲ではいないわね。むしろ、ジークが気配を探った方が確実じゃないかしら?」


 雨は大分弱まってきていたがまだ降っているので、視認するだけでは限界があるのは確かだ。


「いや、俺の方でも感じられない」


「それなら、この近くにはいないと思った方がいいわ。それよりも、あっちの壊れた馬車の中に、まだ生存者がいるみたいよ」


 ディンドランさんに言われて馬車の方を見ると、馬車の近くに移動していたケイトとキャスカが、壊れた馬車の中から何かを引きずり出そうとしていた。


「ロッド、マルク、この二頭以外に、このあたりに熊はいないみたいよ! あなたたちも、ケイトたちの手伝いに回りなさい!」


 ディンドランさんが叫びながら馬車の方へと近づくと、呼ばれた二人は剣を鞘に収めてケイトたちの手伝いを始めた。

 ただ、完全に馬車が潰れている為、中から人を引きずり出すのに苦戦していたので、


「ディンドランさん、そっちを支えていて」

「分かったわ」


 邪魔だった馬車の外枠を、ディンドランさんに支えてもらっている間にアルゴノーツで大まかに切り分けた。


「怪我の状態は?」


 中に四人いた怪我人を運び出したケイトとキャスカに尋ねると、


「外傷は大したことがないように思われますが、馬車をひっくり返された際に全員が体のどこかしらを強く打っている可能性が高いので、専門家に見てもらわないと私たちでは判断が出来ません」


 騎士として仲間の怪我を見ることもある二人は俺よりも怪我の知識が上なので、二人がそう判断したのならここで俺たちに出来るのは、安静にした状態でなるべく早く医者のところに運ぶくらいしかないだろう。


「ロッド、マルク、二人はあの町に先に行って医者の手配と、担架もしくは怪我人を運べるものと運び手を探してきてくれ。ディンドランさんにケイトとキャスカは、テントを怪我人のいるところに張ってくれ」


 これは運動会などで使うような布製の屋根と鉄製の骨組みしかないテントで、馬用にと持ってきていたものだ。四方を囲む壁がないが、今の状況なら上からの雨だけでも防いだ方がいいだろう。


 俺は三人がテントを準備している間に、


「ヒール」


 意識の戻らない四人に対して、回復魔法を使うことにした。

 俺の回復魔法でどれだけの効果があるのかは不明だが、目に見える変化がなくても使っておけばその分だけ命が助かる可能性が上がるはずだ。


「ジーク、テントを移動させるわ」


 回復魔法を使い始めてすぐに、ディンドランさんがテントを組み終えて、怪我人たちの上に移動させてきた。

 これで多少はマシな環境になったが、ひどい状況から多少マシになったくらいなので、熊の仲間が来る前にすぐにでも移動させた方がいいのは間違いない。


「それにしても、あの二人は遅いわね。担架が見つからなかったとしても、運び手くらいはこっちの様子を見ていた野次馬に声をかければすぐに集まりそうなのに」


 医者の手配と担架を探すのに苦労したとしても、二人いたのだからどちらかは人を集めて戻ってくればいいのにと、ディンドランさんが町の方を睨んでいると、


「ようやく誰か来るみたいね……って、あれは団長? それに、騎士か兵士みたいのが数人出てきたわね」


 ディンドランさんの視線に気が付いたかのようなタイミングで、ガウェインが鎧を着た騎士のような男たちを引き連れて出てきたのだった。


「ガウェイン、やっぱりあの町にいたのか……それで、その人たちは?」

「男爵様、熊を任せてしまって申し訳ありません。別の領地でヴァレンシュタイン家の騎士として命令なしで勝手に動くことが出来ず、傍観するしかありませんでした。この者たちはあの町の騎士と兵士たちですが、私と同じく()()()()()()者たちです。ロッドとマルクが男爵様が人手がいると言っていたので、近くにいたこの者たちを連れてきました」


「そうか、分かった。おい、そこの怪我人たちの搬送を頼む。それと、あっちの方に熊に襲われて命を落とした者が残されている。その者も運んでやれ」


 畏まったガウェインの態度に笑いが出そうになったが、こいつらの前だからという以外でも何か理由があるのだろうと思い、怪我人を理由に遠ざけることにした。

 しかし、ガウェインが連れてきた騎士と兵士たちはなかなか行動に移そうとしなかったので、


「聞こえなかったのか? それとも、もしかするとお前たちは、俺よりも爵位が高いのか? そうでないとしたら、あの町を治めている貴族に、熊に襲われた被害者は見捨てるようにという命令でも受けているのか?」


 と、テラーを使いながら凄むと、騎士たちは怯えた顔をしながらようやく怪我人の方へ視線を向けた。


「くれぐれも、雑に扱うなよ? 分かっているとは思うが、お前たちの運び方次第で、怪我人たちが生きるか死ぬかが決まるかもしれないんだからな」


 最初の態度からすると、早く仕事を終わらせるために怪我人を乱暴に扱う可能性が高かったので、もう一度念を押す形でテラーを使って指示を出した。


「あ~……ようやく行ったか。むかつく奴らだったぜ」


 俺たちはテントを片付けるふりをしてその場に留まり、騎士と兵士たちが怪我人を連れて行ったのを見送った。その際、ガウェインがいかにも疲れたという感じで肩を回し、口調と態度も先程とは違ういつもの感じに戻った。


「それで団長、なんで熊が人を襲っているのに、黙って見ていたんですか?」


 ディンドランさんは、少しイラついた様子でガウェインを問い詰めると、


「さっきも言っただろ、俺がジークから受けた命令は宿屋の確保だけだったし、カラード様からも勝手なまねはするなと命令されている。それに、あいつらは俺をいいように使う気だったからな。カラード様からもジークからもそういった命令は受けていなかったし、あんな奴らの為に動く必要はないと俺が判断した。まあ、被害にあった奴らは可哀そうだが、それも危ないから出て行くなと言う騎士たちの命令を無視した結果だしな。ついでに言うと、例え命が助かったとしても、もうあの町では暮らすことは出来ないだろうな。何せ、同じ町の奴らを見捨てて逃げようとしたようなもんだしな」


 ガウェインは少し冷酷な雰囲気を漂わせながら答えていた。


「まあ、それなら仕方がないな。それに、俺もあの騎士たちの態度は気になったしな。よそ者の命令は聞きたくないって態度が見え見えだったし」


「そういうことだ!」


 俺が同意すると、ガウェインは笑いながら俺の背中を何度も叩いてきた。


「痛いからやめろ! ……それで、宿は確保できたのか?」


「おお! そっちは問題なく確保できたぜ! 何せ、朝早くに何組か逃げ出して、急に部屋の空きが出たそうだからな! まあ、その内の何組が生きて離れることが出来たのかは知らんがな!」


 今のところ、雨はかなり弱まってはいるものの、空の様子を見る限りでは一時的にといった感じなので、宿が確保できたのはありがたい。ただ、


「ガウェイン、ディンドランさん、宿には泊まるけど、部屋では野営のように交代で寝るようにして、最低でも常に一人は起きているようにローテーションを組んで。それと、宿に着いたら逃走用の経路と馬小屋までの経路の確認。それと、馬にはかわいそうだけど、寝る前に鞍をつけさせて、いつでも乗れるようにしておいて。馬車はこのまま俺のマジックボックスに入れっぱなしにしておくから」


「「了解」」


 何が起こるか分からない以上、いつでも移動できるようにしておく必要がある。その上、あの町の騎士たちが信用できないのならなおさらだ。


「それがいいな。宿なのに完全に休めないというのはどうかと思うが、何があるか分からない以上は正しい判断だな。それにしても、流石()()()の領地だ。端っことはいえ、教育が行き届いているな」


 ガウェインの言う()()()とは、カレトヴルッフ公爵のことだ。

 あの町……と言うか、今俺たちがいるところや朝出発した街も含めてカレトヴルッフ公爵家の領地なのだ。

 ガウェインと公爵の仲が悪いのは重々承知だったが、今回の旅で会うことはないと思っていたので安心していたのだが……その部下の部下の……どれほど下かは分からないが、公爵の部下とも諍いが起こるとは思わなかった。まあ、あれに関しては公爵家側の落ち度なので、今回のガウェインの憤りは仕方がないだろう。俺も少し頭に来たし。


「それはそうとして……熊はどうなるかな?」


「話に聞いた限りだが、あの町を襲った熊はかなり……と言うか、熊の魔物とは思えないくらい頭がいいらしい。さっきもそうだが、町から逃げ出してきたところを待ち伏せくらいは普通にするらしい。それに、ジークが倒した熊とは別の個体がまだ数頭いて、その内の二頭は他の熊の倍以上の大きさらしい」


「熊なのに団長よりも頭がよくて、おまけに複数いるのですか……あの騎士たちでは、町の住人ごとお腹の中でしょうね」


「おい! 誰が熊以下の知能だ、こら!」


 あまりの言いようにガウェインが凄むが、ディンドランさんはどこ吹く風と言った感じで無視していた。


「まあ、熊に関しては、騎士たちに頑張ってもらうしかないな。勝手に俺たちが手を出したら、何言われるか分からないし」


「だな。成功したら自分たちの手柄で、失敗したら俺たちのせいにされるだろうからな。まあ、失敗することはないだろうが、()()()()()失敗とするかによるだろうけどな」


 ガウェインの言う通り、ただ熊を倒せばいいというものではない。確かに倒せば成功と言えるだろうが、その過程で町が破壊されたり人死にが出たりすれば、熊を倒しても失敗と言われる可能性があるというわけだ。

 特に、公爵の嫌いなガウェインと、ついでに何故か敵視されている俺が関わっているとなればなおさらのこと。


「これは、明日も朝早くに出ていくことになりそうだな」

「そうね。ジーク、食料はまだ大丈夫だと思うけど、あの町で買い足す?」

「だな。俺も明日にはジークたちとお別れだろうが、帰りは少し大回りで王都に向かうとするか」


 二人は当然のように受け止め、ディンドランさんは食事の心配をし、ガウェインは帰りの心配をしていた。


「食料は買い足さなくてもいいかな。さっき熊肉が手に入ったばっかりだし、このままスタッツまで補給無しで行っても大丈夫なくらいは用意しているから。ガウェインも、そうした方がいいかもしれないな。帰りに何かされるとは考えにくいけど、念を入れるに越したことはないな。カラードさんも、理由を知れば怒ることはないだろうし」


 などと話しながら、俺たちはゆっくりとガウェインの手配した宿屋へと向かった。なお、途中で合流したロッドとマルクもここに来るまでに嫌な思いをしたのか不機嫌そうな顔をしており、明日の朝早くに出発することを告げると、理由を話す前に賛成していた。


 そしてその夜、


「ジーク! 団長!」

「分かっている! ジーク、どうする?」

「向こうの出方次第だが……まあ、まずは()()()()だな。向こうがどういうつもりか走らないが、こちらから手を出せばヴァレンシュタイン家に迷惑がかかるからな。交戦は向こうが手を出してからでも遅くはないだろう」


 夜、そろそろ日付が変わるというところで、俺たちの泊っている宿に数人の騎士がやってきた。

 訪問の理由が何かは分からないが、十中八九俺たちに用事があってのことだろう。


 夜中にいきなり集団出来ているので、身の安全の為に先手を打っても言い訳は出来そうな気がするが、どうせなら向こうから手を出してもらってからの反撃の方が色々とやりやすい。それに、昼間の騎士たちを見る限り、先手を取らせても俺たちが負けることはないはずだ。


「それじゃあ、出迎えるか。ガウェインは俺と一緒に正面からの出迎えで、ディンドランさんたちは身を隠して、もしもの時の為のサプライズ要員と言うことで」


「おう!」

「りょーかい……」


 ガウェインは面白そうに笑って俺の隣に移動し、ディンドランさんは不満そうに返事をして、キャスカたちを連れて身を隠した。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 うわぁ、ロクでもないなぁこの町の騎士ども…。正面から殺りにくる熊さん達のがまだ高潔かも?
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