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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第五章
88/117

第九話

「珍しいわね、ジークがこんな時間に学園にいるなんて」


 朝早くから学園の中を歩いていると、学園内を走っていたエリカと会った。


「エンドラさんに呼ばれてな」


 今の時期、高等部の三年生は授業が全て終わっている為、卒業パーティーまでは基本的に自由に過ごしていいのだ。その中で、王都出身の者や屋敷がある者は寮を引き払っていたりするが、エリカのように卒業までは学園でそれまで通り過ごすという者もいる……と言うか、いきなりの呼び出されたりすることもあるので、ほとんどの生徒は学園に残っているのだが……俺の場合、学園の寮に自分の部屋がないので、何かあれば今日のようにヴァレンシュタインの屋敷から通うのだ。


「……今度は何をやらかしたの?」


「好きな時間に来ていいと言われたから、少し早くに来ただけだ。早く終わったら街をぶらつきたいし、エンドラさんの時間が合わなかったら図書室で時間を潰せばいいかと思ってな」


 何故呼び出しの理由が俺のやらかしだと決めつけるのか、不思議……ではないが、失礼なことを言ったエリカに少し強めに抗議すると、エリカは汗を拭きながら笑っていた。


「なんの理由化は知らされていないが、多分タイミング的にこの前の下水道に関係する話だろうな」


 少し前にウーゼルさんの依頼で下水道を調べた結果、人攫いの集団を捕縛することになったせいで、俺と()()()であるフランベルジュ伯爵とエイジは、王城に()()()呼ばれることになった。


 一度目は下水道を調査した日にウーゼルさんへ報告する為だったが、二度目は十数人の貴族の前で俺たちの働きに対して褒める為だった。

 何でもあの時に俺が隠し部屋から持ち出したものの中に、他の犯人たちに繋がる証拠や犯罪に関することが書かれていた書類があったそうで、あの後すぐに十人以上の仲間を捕まえることが出来たそうだ。

 ただ残念なのは、まだその他にも捕まっていない仲間がいるそうで、犯罪者集団の中心人物やそれに近い者は今回捕まえた中には一人もいなかったとのことだった。

 それに、俺が見つけて入り口を塞いだ隠し部屋は、どうやら他にも犯人たちの仲間に繋がる証拠が残っていた()()()のだが、それらが犯人の仲間に持ち去られてしまったみたいとのことだ。

 らしいというのは、俺が塞いだ入り口以外の出入り口が部屋の天井に隠されていたそうで、そこにもう一つ小さな部屋と外に繋がる道があり、俺が出て行った後で出入りしたような形跡が見つかったそうだ。しかも、その小さな部屋には何かを置いていたと思われる棚があったことから、より重要な証拠はそこに置かれていた可能性が高い。


 重要な証拠を失ったかもしれないというのは俺の失態とも言えるが、あの時はそこまで調べる余裕がなかったのは事実だし、貴族である俺や伯爵が捕まっていた子供たちを救出し犯人の一部を捕縛した功績は大きいとのことで、今回の件は公にすることにしたらしい。ただ一般に公表する前に、城にいる事件の処理に関わらなかった貴族たちに前もって知らせると同時に、俺と伯爵に褒美を与えるという名目で呼ばれたのだ。

 ちなみに、ウーゼルさんからの褒美は俺が金貨百枚、伯爵が金貨五十枚で、エイジには直接的に金銭等の褒美はなかったものの、一度目に呼ばれた時に言われたことと同じ言葉を他の貴族の前でかけられていた。


 俺の話を聞いたエリカは、納得したようにうなずきながら、


「こういう言い方はよくないけれど、あれのおかげで我が家は危機を脱したわ。ジークの試験が終わった後しばらくの間は、何度かエイジを処分した方がいいんじゃないかと思ったくらいだったから……陛下とジークのおかげで、そんなことをしなくて済んだけれどね」


 などと怖いことを言っていた。まあ、伯爵家が無くなるよりは、その原因となりそうなエイジを排除した方が立て直しやすいだろうし、幸いなことに長女のであるエリカにはまだ婚約者がいないので、それなりに優秀で婿入りしてくれる貴族を探せばエイジの代わりは十分務まる。


「そういった理由からかお父様は領地に戻るのを止めて、エイジの根性を叩きなおしているわ。ちょうどエイジは中等部の三年だから、この時期は昼で学園の授業が終わるからね」


 エイジは昼まで学園で授業を受け、午後からは伯爵にしごかれているそうだ。そして寮の門限前に戻るという日々を過ごしているらしい。


「なんと言うか……まあ、がんばれとしか言えない感じだな」

「それくらいで済んでいるのだから、がんばるのは当然よ」


 なかなか辛辣だが、俺もエリカと同じ意見だ。

 ただ、別にエイジを嫌っているからとかではなく、もしも下水道でエイジが戦った犯罪者の仲間が俺たちに復讐を考えた場合、一番狙われやすいのは間違いなく一番弱いエイジだ。しかも、伯爵家の嫡男なので、犯人たちのうっ憤を晴らすにはもってこいの存在でもある。

 その時に少しでも生き延びる可能性を高める為に、エイジは少しでも強くなっておかなければならない。


「それで、エイジは今の時間何をしているんだ?」


「エイジなら私と一緒に走っていたけれど……何回か追い抜いた後は気にしないようにしていたから、今どこにいるか……ああ、ちょうどここから反対くらいのところにいたわね。しかも、歩いているわ……ちょっと行って、蹴りでもお見舞いしてくるわね」


 そういうとエリカは、エイジを目標に再び走り出した。

 俺が学園の入りたての頃のエリカと比べれば、体力面では比べ物にならないくらい、それこそ現役の騎士と比べても遜色がないかそれ以上のものになっているみたいだ。

 それに比べてエイジは……どれくらい走っていたかは分からないが、根性に関しては中等部一年の時のエリカよりも劣るようだ。エリカは倒れそうになっても走ろうという気概は見せていたしな。


「おっ! エイジがエリカに蹴りを食らったな。あれは痛そうだ」


 遠くから見ていてもわかるくらい鋭い蹴りがエリカから放たれ、それを尻に食らったエイジは前のめりに倒れている。


「エイジの奴、エリカが竹刀を持っていなくてよかったな。もし持っていたら、後ろから小突かれながら走ることになっていたかもな……仕方がない」


 もし誰かに聞かれていたら、何が仕方がないのかと疑問に思われそうだが、俺の脳内にジャージ姿で鉢巻をして、竹刀を持ってエイジを追いかけまわすエリカの様子が鮮明に浮かんでしまったので、エイジに申し訳ないと思いつつも、竹刀代わりの棒を地面に突き立てて、棒の上部に鉢巻にできそうな包帯を結んでその場を立ち去った。

 もしもエリカがそれらの用途が分からずに放置してしまったとしても、完全に俺の自己満足なので別になくなってしまっても構わない。まあ、エリカが理由を知れば呆れてしまうかもしれないが……こういうのはそうなるかもしれないと想像するだけでも面白いものなので、後でどうなったか忘れずに聞くとしよう。


 結果を直接見ることが出来ないのは残念だが、学園に来ているにエンドラさんを後回しにしたと知られると何を言われるのか分からないので、気持ち歩く速度を上げてエンドラさんが待っているであろう学園長室をノックすると、


「こんなに早く来る必要はなかったのに……」


 俺は少し迷惑そうなエンドラさんに迎えられたのだった。



「それで、ジークを呼んだ理由だけど……もう用は済んだのよね。この後、適当にこの部屋で時間を潰して貰うだけなのよ」


「は?」


 エンドラさんは何を言っているんだ? と、少し混乱していると、


「とりあえず座りなさい。今お茶を入れるわ」


 そう言ってエンドラさんはソファーに座るように言うと、お茶を入れて俺の対面の席に座った。


「こんなに早く来るとは思わなかったけれど、今日ジークを呼んだ理由は、下水道でのことと関係しているわ。実は貴族の間で、ジークが人攫いにあった被害者ではないかという疑惑が出ているそうなのよ」


 いや、なんでそうなる……と一瞬思ったが、それは俺自身やエンドラさんは俺が異界人だと知っているからであって、その事情を知らない奴らからすると、俺は人が住んでいるとは思えない森の中に記憶喪失の状態で突然現れたというのが最初の記録で、その前まではどこに誰と住んでいたかは不明ということになっている。

 しかも今回、下水道に隠されていた部屋を発見したことで、実は人攫いにあってあの部屋にいたことがあるから場所を知っていたのではないかと考えた奴がいるというところだろう。

 その推測をエンドラさんに話すと、


「ええ、そうよ。それで、ジークが犯人の仲間とまではいかないまでも、今回分かったこと以外で犯人たちの情報を持っているのではないかと陛下に進言した人がいるのよ。まあ、隠しても仕方がないから言うけど、カレトヴルッフ公爵のことね。まあ、公爵も本気で思っているわけではなくて、自身の部下たちからしつこく言われて念の為にといった感じだったらしいけどね」 


 確かに、ウーゼルさんにそんなことが言える人間となれば限られるし、それが義理の弟の言うことなら無碍にすることは出来ないだろう。それが例え完全に的外れなことだったとしても、


「私がジークに尋問するように陛下に頼まれたのは、私がジークの事情を知っていることと、いくらジークがソウルイーターを倒した規格外だとしても、もしジークが抵抗したとしても流石に『今代の緑』なら力づくで抑え込むことが出来るだろうという考えからね。そして、私がこの部屋での取り調べを提案したのは、ここなら万が一の場合でも被害は最低限に抑えられるし、私に有利な状況を作りやすいから……と言うことにしたわ」


 場所を指定しておけば事前に罠を張っておくことが出来るし、罠は建物のいたるところに張るので、他の誰かがいると邪魔になる上に、俺だと確実に気が付くはずなので自分一人で俺と会うのが条件だというと、カレトヴルッフ公爵はすぐに了承したそうだ。


「すんなりエンドラさんの出した条件をのんだということは、公爵自身は俺を疑っているわけではないということですね?」


()()()()()()、そう言うことでしょうね」


「……なんで俺、公爵に嫌われているんですかね? 何かをした覚えはないのに、初めて会った時から睨まれているんですよね……」


「多分それは、ジークがソウルイーターを倒した後の処理を公爵が担当したからでしょうね。あの時は、アコニタムの私兵の死体の処理からアコニタム家の私財の差し押さえに関係者の捕縛、ついでに()()()()()()()()()()()()()の責任者もやっていたからだと思うわよ」


 公爵がことあるごとに俺を睨んでいた理由は、俺に原因があったからだとエンドラさんの説明で判明してしまった。


「それは何と言うか……謝罪した方がいいですか?」


「そんなことはしなくて大丈夫よ。苦労はしたみたいだけど、最終的に公爵はそれ以上の利益を得たはずだから。ただまあ、そういった経緯から、ジークは危険な人物でもあると認識しているのでしょうね。それ以外にも、理由がありそうだけど」


 確かに学園の重要な機能を破壊し、一人でアコニタムの私兵を全滅させるような奴は、事情を知らなければ危険な人物と認識して当たり前だろう。俺でもこの話だけを聞けば、そいつはかなりヤバイ奴だと思うはずだ。

 そして、エンドラさんの最後の理由に関しては俺にも思いつくことがないので、エンドラさんも分からないくらい些細なことが関係しているのだろう。


「とにかく、私はジークが誘拐された子供ではないと知っているから、来てもらわなくても口裏を合わせるだけで済ませることも出来たけれど、流石にそれだと会っていないことがばれた場合にまずいことになるから、ここで時間を潰してもらう必要があるのよ」


 そう言ってエンドラさんは、お茶菓子の入っているという箱を開けたが……


「あら?」


 中には何も入っていなかった。

 エンドラさんは、空の箱をまじまじと見つめ、「誰がいつの間に……」なんて呟いているが、俺は中のものを一つも食べていないし、エンドラさんが他の誰かに出していないのなら、中身を空っぽにした犯人はエンドラさんしかいないだろう。


「べ、別のお菓子にしましょうか……」


 俺の視線に気が付いたエンドラさんは、気まずそうに別の箱を取り出して封を開けた……俺の見間違いでなければ、エンドラさんが箱を取り出した棚の中には同じ箱がぎっしりと詰められていたので、このお菓子はエンドラさんのお気に入りなのだろう。それも、とびっきりの。



「本当にこれ、美味しいですね」

「そうでしょう。このお店は私が学生のころから通っているところのものでね。その頃から味が変わっていないのがいいのよ!」


 箱の中身はクッキーだったが、エンドラさんが気が付かないうちに空にするのが分かるくらいに美味しく、俺も手も止まらなかったが……エンドラさんの言葉を聞いて、学生時代とは()()()()()()なのだろうか? と考えてしまったせいで、


「ジーク? 今、何か変なことを考えなかったかしら?」


 エンドラさんの気配が一瞬で剣呑なものに変わってしまった。


「え、え~っと……もし俺がこのお菓子を買い占めたりしたら、エンドラさんは怒るかな~……と思ってしまいまして」


 店を教えてもらって、サマンサさんたちやスタッツに戻った時に配るお土産にしようかと思ったのは事実だが、買い占めまでするつもりはなかった……だが、とっさに誤魔化そうとして出た言葉がそれしかなかったのだ。


「……そうね。そんなことをしたら、私は激怒するかもね。それこそ、ジークを新魔法の練習に使うかもね……って、冗談よ。冗談」


 口では冗談と言いながらも、目は笑っていないのでエンドラさんはマジで俺を実験台に使うかもしれない。

 一瞬背筋に冷たいものが走ったが、


「それに、あの店は例え貴族が相手でも買い占めるようなまねはさせないわ。まあ、私を除いてだけどね」


 エンドラさんとその店には、他の誰にもないような何十……長年の絆が存在するのだろう。


「確か、今は一人三箱までだったと思うけれど、私から紹介状を書いてあげるわ。完全に保障は出来ないけれど、少しくらいなら多めに売ってもらえるかもしれないわね」


「ありがとうございます」


 何とか見逃してもらえたようだが……あれだけで感付かれてしまうのでは、今後エンドラさんと話すときには一層気を引き締めなくてはいけない。


「これを店主に渡すといいわ。それと、これは学園からお店までの地図よ。簡略化しているけれど、分かりやすいところにあるから問題ないと思うわ。店主に会えたら、近々また買いに行くと伝えてちょうだい」


 エンドラさんが地図と紹介状を書き終えるとそれなりの時間が経っていたようで、それらを受け取って俺はそのまま学園長室を後にした。


 そして、来た道を通って学園の外に向かっていると、


「ジーク、学園長との話は終わったの?」


 来た時に会った場所と同じところでエリカとエイジに遭遇した。


「エリカ……やっぱりそれを使ったんだな」


 エリカは俺が置いて行った棒を肩に担いでエイジの前に立っていて、エイジはそんなエリカの前に四つん這いになっている。それだけでも何かヤバそうな雰囲気だというのに、エイジは四つん這いになりながら尻とさすっているので、余計に変な光景になっている。


「あっ! やっぱりこれはジークが置いて行ったものなのね。エイジの尻を叩くのにちょうどよかったから、遠慮なく使わせてもらったわ」


 そう言ってエリカは何かを叩くように棒を振り回し、それを見たエイジは両手で尻を押さえていた。ここまでは俺の思った通りに行ったみたいだが、残念ながらエリカは鉢巻をしていなかった。

 なら、鉢巻代わりにと置いていた包帯は……と思ったら、


(ああ、包帯はエイジが使っているのか)


 尻を押さえているエイジの腕に巻かれているのが見えた。包帯にはうっすらと血が滲んでいるので、棒とは違いまっとうな使い方をされているようだ。


「ジーク、時間があるならエイジの相手をしてくれないかしら?」


 エリカは棒でエイジを指しながら言うと、エイジは驚いた表情でエリカを見ていたが……すぐにおびえたような顔を俺に向けてきた。


「悪いけど、エンドラさんに店の紹介状を書いてもらってな。今からその店に向かうところなんだ」


 というと、エリカは少しがっかりした顔になり、反対にエイジはホッとした顔になった。だが、


「今度でいいなら付き合うぞ。伯爵にしごかれているみたいだから、どんな感じになっているのか興味があるしな」


 という言葉を聞いて、すぐに表情が凍り付いていた。


「へ~……学園長の紹介状がいるお店って、どんなところ?」

「フェアリーピコとかいう名前だったかな?」


 エンドラさんに描いてもらった地図に描かれていた店名で確認したが、間違っていなかったので安心していると、


「ああ、あのお店ね。女子の間でも人気で、すぐに売り切れるからなかなか手に入らないのよ。でも、学園長の紹介状があると取り置きでもしてもらえるようになるのかしら?」


 エンドラさんのお気に入りのお店はエリカも知っている有名店らしく、その店のお菓子は伯爵家のエリカでもなかなか手に入らない代物だったらしい。


「それは分からないけど、エンドラさんはその店と付き合いが長いらしくて、紹介状を持っていけば少しおまけをしてくれるかもしれないからって言っていたな」


「それは羨ましいわね……あっ! でも、本当におまけして貰えるんだったら、今度からジークに頼めばいいのよね」


 いいことを思いついたみたいな感じで言っているが、紹介された身で他の人の分の買い物をしても大丈夫なのだろうか……と思っていると、


「いや、流石に冗談だからね」


 と言われてしまった。エリカのことだから、てっきり本気で言っているものだと思ったが、エリカなりの冗談とのことだ。


「私って、そんなに厚かましい女だと思われているのかしら……」


 などとエリカは少しショックを受けているようだが……俺としては、エリカは割と厚かましいところがあると思っている。そうでなければ、普通はスタッツまでついてこないだろう。まあ、そんなことを面と向かって言うと、次の瞬間にはエリカの拳が飛んでくるかもしれないので言うわけにはいかない。


 これ以上エリカと話していると変なことを言ってしまいそうだったので、そこで話を切り上げてエリカたちと別れて店に向かったが……


「本当に人気の店なんだな」


 まだ開店前だというのに、店の前にはすでに列が出来ていた。

 まあ、列と言っても並んでいるのは十人程なので、後ろに並んで番を待つかと思って店に近づくと、丁度店の中から店員が出てきたので、先に紹介状を渡すことにした。


「済みません。エンドラさんから紹介状を預かってきたのですが」

「エンドラ様からですか? 失礼ですが、紹介状をお預かりしてもよろしいですか?」


 店員は少し怪しんでいたようだが、俺がエンドラさんからの紹介状を渡すと、少し驚いた表情を見せて慌てて店の中に戻っていった。そしてすぐに出てきて、


「申し訳ありませんが、こちらからよろしいでしょうか?」


 そう言って、俺を店の裏手へと案内した。

 その際、並んでいた人たちは驚いたような顔で俺を見ていたが、逆に俺の方が文句が一言も出なかったことに少し驚いていた。


 この件に関しては、エンドラさんの古なじみだという店主に聞いてすぐにその理由が分かったが、結論から言うと、表の店は一般客用で、裏に回る客は店主が認めた特別な客なのだそうだ。

 その特別な客の中には、各方面に強い影響力を持つ者……エンドラさんのように武力に秀でた者から、貴族の中でも全体の上位に含まれる者が多くいるそうで、下手に関わると危険だから見て見ぬふりをするというのが常連の間では常識となっているとのことだった。

 そして、俺が裏に連れていかれるのを見て驚いていた理由は、単純に学生服を着た若い男だったからのようだ。

 なお、その特別な客は十人もいないそうで、俺の知り合いではエンドラさんとウーゼルさんしかおらず、その中でもエンドラさんは特に特別とのことだった。

 そのおかげで、特別とされている客でも個数制限がある限定品のお菓子を、特別に上限を取っ払って買ってもいいと言われたが……欲張ると色々と怖いので、限定品は上限の三個に一つ足した四つのみにし、その分他のお菓子を多めに買って帰ることにした。

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― 新着の感想 ―
「~ジークが犯人の仲間とまではいかないまでも、今回分かったこと以外で犯人たちの情報を持っているのではないかと陛下に進言した人がいる~」←よくそんな発想が出来るなと。ジークさんの公式の個人情報を鵜呑みに…
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