第一話
「くぁ~……あ~疲れた」
ウーゼルさんたちと会ってからおよそ一か月後、俺は学園で卒業試験を受けていた。内容としては高等部の三年が受ける卒業試験と同じものだが、俺だけ別室で数人の教師が監視する中で試験を受けさせられていた。
一応の教師たちの名目としては、俺はソウルイーターの件で学園に通っていなくても試験に受かれば卒業資格を得るということになっているものの、他の学園生と一緒に扱うわけにはいかないということで別室でということらしいが、実際は俺が試験に受からないようにするつもりだったらしい。
もしも俺が試験で落第点を取れば、俺に卒業資格を与えようとしたエンドラさんやヴァレンシュタイン家が所属する派閥の長であるウーゼルさんの汚点になると考えたそうだ。
ただ、流石にそんな見え透いた思惑が見逃されるはずもなく、俺の試験監督には俺を別室で受けさせると提案した派閥の教師と、サマンサさんに味方する教師、そして俺を別室で受けさせようとした派閥のやり方をよく思っていない教師たちが同時に行うことになり、教師同士が互いに互いを監視するという状況だったのだ。
もっとも、だからと言って俺への監視が全くなかったわけではないので、不正が出来るような状態ではなかった。まあ、やるつもりはなかったし、もしもそんなことを少しでもやっていれば、隣の部屋で待機していたエンドラさんが即座に乗り込んできてその場で退学を言い渡されていただろう。
「さてと……後は実技試験だけか」
今回の試験、これから俺だけ特別な試験が行われることになっている。それが実技と言う名の実戦試験だ。
これも敵対派閥の教師が仕組んだことだが……これに関しては、エンドラさんやウーゼルさんは何も言わなかった。むしろ、馬鹿な提案をしたと薄ら笑いを浮かべていたくらいだ。何せ、実技試験の相手は学生から選抜された三十人なのだ。なお、最初に提案されたのは十人だったが、俺がそれだけで大丈夫なのか? と煽った結果、数が三倍に増えた。
そんなわけで、実技試験に関してエンドラさんから言われたことは、「殺すな。ただし、圧倒的な実力は見せつけろ!」だ。
「さて、どうやって叩きのめすのがいいか……って、なんか注目されているな」
今日の試験は、何故か学園生の前で行うことになっている。
まあ、これも敵対派閥の企みの一つで、俺がソウルイーターを倒せたのはまぐれで、アコニタムやその私兵を片付けたのは別人だったという噂を信じてのことらしい。ちなみにその噂はエンドラさんが流したもので、俺が今代の黒であることを隠す目的があったそうだ。
なので、試験会場に向かう俺が中等部や高等部の生徒に注目されるのはおかしいことではないのだが……それにしても、少しおかしい気がする。
(嫉妬や敵意……それに羨望? みたいな感じがするけど……なんでだ?)
何故だか思っていたのと違う視線が向けられていた。これが見慣れない奴がいるとか、敵対派閥の関係者が敵意を向けている、もしくはソウルイーターとの戦いを知っていて恐れているといった具合の視線だったら分かるが、そう言った感じの視線が少ないのだ。
不思議に思いながら会場に向かっていると、
「ようやく来たわね、ジーク。遅かったじゃない」
途中でエリカが待ち構えていた。
「別に約束をしていたわけでもあるまいし……それに、俺が試験を受けていた部屋はエリカたちの教室よりも遠い場所だったし、何よりも派閥争いが入り込んだせいで、念を入れておかないといけなかったしな」
「……ジーク、変なことしてないでしょうね?」
遅くなった(別に約束をしていたわけではないが)理由を話すと、エリカは訝しんだような目を向けてきたが、別に不正や誤魔化す為の工作をしてきたわけではない。むしろ、自分の身を護る為には必要だった行為だ。
「あのまま提出していたら、後で点数を書き換えられる可能性も考えられたからな。テストの最中に答案用紙とは違う別の紙を用意してもらって、それにもテストの答えを描いただけだ。正規の答案用紙と合わせて三枚も書くのは苦労したが、別の紙に書いたやつはエンドラさんの派閥の教師と中立の教師に渡したから、答えを書き換えられる可能性はかなり少なくなったはずだ」
「あんた、そんなに余裕があったわけ?」
「まあ、あったといえばあったが、分からないところも結構あったからな。どうしても思い出せなかったところは飛ばして後回しにしたが、多分外れているだろうな」
それでも十分合格点に届くとは思うが、高学年になった他の生徒のこれまでの結果を知らないので、中等部の時のような順位はかなり難しいだろう。
「思い出せなかったということは、暗記系が駄目だったということ? 計算系の問題には自信があるというわけね?」
エリカの質問に俺は何も考えずに頷いた。
暗記系の問題に関しては時間の都合上、高等部の三年間の積み重ねを二か月もない時間で覚えるのは難しく、手ごたえとしてはそこそこと言った感じだったが、計算系の試験に関しては前の世界の知識や経験が十分通用したし、何なら前の世界よりも複雑な問題が少なかったので問題なく合格を貰えるだろう。
「ジーク、答えを写した紙って今持ってる? 持ってたら見せて」
「持ってるぞ……ほら」
回答を写した問題用紙をエリカに渡すと、エリカは真剣な表情で答えを見ていき、
「何よ、これ?」
と呟いた。
「何かまずかったか?」
もしかして、根本的に大きな間違いを犯していたのではないか? と心配になりエリカに尋ねたところ、
「まずかったどころか、上出来すぎるわよ。暗記系の問題に自信がないみたいなこと言っていたけど、見た感じだと八割後半くらいの正解率はありそうだし、計算系に至っては九割後半、もしかすると満点も有り得るわよ! 自信なさげなこと言っておいて、この点数はおかしいわ!」
という返答が来た。
「どう、どう、落ち着けエリカ。皆が驚いてこっちを見てるぞ」
「馬じゃないわよ! 全く……とにかく、この答え通りなら問題は無いはずよ。むしろ、これで不合格にされたら、一体何人が卒業に相応しい成績だってことになるわよ。それに私個人の感想としては、今回の試験は暗記系に関しては難しい問題は少なかったと思うわ。逆に計算系の問題に関しては、これまでよりも難しい問題が多かったって皆言っていたわ。もしかすると、ジーク対策だったのかもしれないわね」
「普通に考えたら、学園から離れていた俺は勉強していないだろうから、計算系よりも暗記系で点を稼ぐだろう……とか思われたとかか?」
「そんな感じね。まあ、今回の試験を考えた人じゃないと、本当のところは分からないけれど……ジークの言う通りの気がするわ」
まあ、もしこれが前の世界のレベルの試験だったら、俺は計算系よりも暗記系の問題に力を入れていただろうから、あながち間違いではないだろう。ただまあ、試験を作った奴の想定外だったのは、俺には前の世界の知識と経験があり、その前の世界の算術はこの世界よりも先を進んでいたということだ。
「と言うことは、俺は卒業資格を得た可能性が非常に高いというわけだな」
「まだ実技が残っているけれど……まあ、ジークにとっては座学よりも簡単なことね……って! そのことでジークを待っていたんだったわ!」
何かを思い出したエリカが、急に大きな声を出して俺のみならず周囲も驚かせた。
「ジーク、本当に申し訳ないんだけれど、何を思ったのか知らないけれど、ジークの実戦相手の一人にうちの弟が参加しているの」
「……フランベルジュ伯爵家って、ウーゼル……陛下の派閥だよな? ヴァレンシュタイン家もそうだし……何で?」
仮にこれが普通の授業で相手をするのなら、俺が中等部の頃にもあったことなので分かる。
だが今回の試験は、敵対派閥の貴族に関係する教師が音頭を取っているのだ。当然俺の相手に選ばれているのは敵対派閥か頼まれてしまい断れなかった他の派閥の生徒だ。
もしそんな状況でウーゼルさんの派閥の生徒が参加するとなれば、当然仲間内からはよく思われないだろうし、下手をするとフランベルジュ伯爵家は派閥を鞍替えしたのかと責められることになってしまう。
「誤解のないように言っておくけれど、私もお父様も……と言うかフランベルジュ伯爵家は、陛下の派閥を抜けていないし抜けたいとも思っていないわ。今回の件は、完全に私の弟が勝手に個人で暴走した結果よ! これが前日にでも分かっていたのなら止めることも出来たのだけど……知ったのが試験が終わってすぐのことで、どうしようもないのよ……だからジーク」
「大怪我をさせなければいいか?」
まあ、何かしらの事情があってのことなのだろうから、五体満足で大怪我をさせなければいいだろう。後でその弟君は伯爵とエリカにボコボコにされるだろうし……と思いながら答えたところ、
「いえ、遠慮なくズタボロのボコボコに叩きのめして頂戴。まあ、五体満足で戻して欲しいけれど、骨の一~二本なら砕いても問題ないわ。場所によるけれども」
実の姉から、「遠慮はするな、むしろやれ!」みたいなことを言われてしまった。
哀れではあるが、それなりに痛い目に合わせておかないと、ウーゼルさんの派閥の貴族から庇いにくいというのもあるのかもしれない。
まあ、余程のことがない限り、ウーゼルさんならちゃんと事情を話せば許してくれるとは思うが、ウーゼルさん個人の考えと派閥の長としての考えが同じと言うわけにはいかないだろうから、弟君の為にも骨が折れるくらいは覚悟してもらった方がいいだろう。
「それで、その弟君の実力はどれくらいだ?」
「身内のひいき目なしに、中等部では一~二を争うくらいの強さだと思うけど、私の中等部の時よりは弱いわ」
「なら、骨を砕くまではしなくて大丈夫そうだな」
「そう言うということは、私なら砕くのね?」
エリカよりも弱いということは、少なくともフランベルジュ伯爵家で戦った騎士よりも強いということは無いはずだ。
だが、エリカと同じくらいかそれよりも強ければ、こちらも大怪我をする可能性が出てくる為、確実に動けなくする必要がある。何せ、
「条件付きの訓練だというのに、どこかの誰かさんに殺されかけたからな。危ない奴を相手にするなら、それくらいは当然じゃないか?」
俺は暴走したエリカに殺されかけた経験があるからな。そんな奴の弟なのだから暴走すると考えておいた方がいいし、暴走されないように先手を打つか、暴走されても大丈夫なようにしておくのが無難だろう。
「あれは! ……悪かったとは思っているけど、いきなり押し倒された私も殺されるかと思ったわよ!」
からかい過ぎたせいか、エリカは大きな声で反論しようとしたが言葉が思い浮かばなかったようで、逆切れして人聞きの悪いことを言いだした。
急いで周囲を見回したが、こちらを見ている生徒は多数いたものの、皆遠巻きに見ているだけだったのでエリカの今の発言は聞かれていないようだ。
まずは一安心と言ったところだが、また同じようなことを今度は人が近くにいる状態で言われてはたまらないので、釘をさしておこうとエリカを見ると……エリカは自分が何を言ったのか気が付いたようで、顔を赤くしていた。そこに、
「ジーク……な~にをいちゃついているんだ?」
学園にいるはずのない部外者が現れた。
「不審者か……エンドラさんに報告しないとな」
「残念! エンドラ様に許可を取ってあるんだな、これが!」
と言って、ガウェインは懐から許可証を出して見せつけてきた。
「学園に来る用事があったから、ミックに無理言って用意させたんだ。まあ、めちゃくちゃ嫌そうにしていたが、理由を話した上でエンドラ様の許可があるといったら、すぐに用意してくれたぜ!」
ガウェインは嬉しそうに許可証を見せびらかしてくるが……ブラントン先生はいきなり言われて苦労しただろうな。エンドラさんも事前にブラントン先生に言っておくか、許可を出したエンドラさん本人が許可証を用意すればよかったのに。
「それで、ガウェインは何しに来たんだ?」
「ん? ジークの御供だ」
「ああ、なる程」
そんなものは必要ない! ……と言おうとしたが、それよりも先にエリカが納得していた。
「どういう意味だ?」
「ジークは今、とても特殊な立場にあるのよ。多分だけど、学生の身でありながら世襲とか抜きで男爵になった人は初めてのはずよ。そんな人物が試験とは言え命の危険があるような試合をするのだから、何かあった時の為に助けに入ることの出来る人物を近くに置いておこうというわけよ。表向きは」
「そうだ。エリカの言う通りだ。ただ、助けるのはジークではなく、対戦相手の生徒になるだろうけどな。それに……なりたてとは言え陛下に認められて男爵になったジークに対し、よからぬことを考えている教師がいるらしいからな。分かりやすい戦力がジークの傍に控えていれば、馬鹿なことはしないだろう」
俺のすぐ後ろにヴァレンシュタイン子爵家が居て、さらにその後ろには王家が控えていると分からせる意味もあるみたいだな。
「それにしても……俺が登場する前から、ジークは注目されていたみたいだな」
半分以上は、エリカとガウェインが現れたからだと思うが、確かに二人が現れる前から注目はされていたので間違いではない。ただ、
「ただ、何か変な視線も交じっているみたいでな。それに、結果的にアコニタムの私兵を壊滅させたことで感謝されているのか、好意的な視線も結構あるみたいなんだ」
ここに来るまでエリカ以外は知らない生徒としか周りにいないので、好意的な視線は助けられたと思って感謝されているからかもしれないくらいしか理由が思いつかなかった。
しかし、その質問を聞いたエリカとガウェインは、
「いや、ちが……わなくはないけれど、多分女子から向けられている視線の大半は、突然現れた有望株に対する視線よ」
「陛下が言っていただろ、ジーク……モテるって。ジークが持つ男爵位は、貴族の爵位としては低くみられることもあるが子供に受け継がせることの出来るものだし、何よりも陛下から直々に賜ったというのがデカい。しかも、養父母であるカラード様は陛下の友人、サマンサ様は王妃様の親族でもある。おまけにジーク本人も、アーサー様と仲がいいしな。どう考えても、余程のことがない限りは貴族として成功する未来しか見えない。つまり、平民から同格の貴族令嬢は当然として、上位貴族の令嬢からも目をつけられているということだ。そんな感じだから、男子からの視線は一部を除いて嫉妬のようなものが向けられているんだろう」
なる程と思うと同時に、それなら同じような視線が女生徒からも向けられている意味が分からない。そのことを二人に聞くと、
「それは敵対派閥の女子からよ。ジークが話題になるということは、それだけ陛下の派閥が活性化するということで、敵対派閥に所属する生徒としては面白くないからでしょう」
とエリカは言うが、ガウェインは意地悪そうな笑みを浮かべて、
「確かにそれもあるが、一番の理由はエリカだ」
「私が⁉」
「エリカが⁉」
などと言い出したので、エリカと俺は声を揃えて驚いてしまった。
「よく考えてみろ。エリカも言っていただろうが、ジークは突然現れた有望株だと。そんな有望株を捕まえようと、同じ考えの奴らと互いにけん制しつつ様子を窺っていたのに、エリカは自分たちを歯牙にもかけず、当たり前のようにジークに近づいて親しげに談笑しているんだぞ。ジークを狙っていた側からすれば、エリカが嫉妬の対象になるのは当然のことだ」
いきなり突拍子もないことを言いだすガウェインに俺は呆れ、エリカは腹が立ったのか体を震わせていた。そして、
「もう、知りません!」
怒って先に行ってしまった。
「ジーク! 急いで追いかけろ! ありゃ、脈あり……ぐっ!」
そんなエリカを指差しながらガウェインが俺の肩を抱いてきたので、胸辺りに肘打ちを入れた。
ガウェインは不意打ちにもかかわらずとっさに力を入れて身を守ろうとしたが、肘の入った場所が鳩尾の辺りだったらしく、膝をついて苦しんでいた。そしてそこに、
「ガウェイン! お前、あれほど騒ぎは起こすなと言っただろうが!」
ブラントン先生が鬼の形相で走って来た……と言うか、ブラントン先生はガウェインが何をしたのか分からないと思うのだが、苦しんでいるガウェインを見て何かあったと確信した上で、それが完全にガウェインのせいで起こったことだと確信しているようだ。
「おれ、俺は被害者……」
「の振りをした犯人です」
「だろうな」
在学時のやらかしを身をもって知っているブラントン先生は、ガウェインの言うことなど全く信じずに、即座に俺の言葉に同意していた。
「こんなことになるのは分かっていたんだから、ランスロ―が来てくれればよかったのに……まあ、こんな奴でもいた方が厄介事が……減るのか、本当に? 今のところ、厄介事を増やしただけなんだが……」
ブラントン先生はその後も愚痴を言い続けていたが、すぐにハッとした表情になって俺の方へと向き直った。
「ヴァレンシュタイン……男爵ではあるが、生徒である以上は敬称なしで呼ばせてもらうぞ。それで、実技試験の武器や防具の話は聞いているな?」
「かまいません。武器や防具に関しては聞いています。武器は刃が付いていないもので刺突武器は先を丸くしたものかカバーを付け、鈍器の類は重量制限付き。防具に関しては特に制限は無し……ですよね? 後は飛び道具の類もカバーを付けるか先を丸めるかと聞きました」
これに関して、自前の武器だと使えそうな者が思いつかなかったので、練習用に持っている木剣を使おうと思っている。
「それで間違いないが……相手方は、半数が大盾を装備するとのことだ」
「それで俺の動きを封じるか、鈍器代わりにするつもりですね」
大盾を武器代わりにして殴りつけるのはよく使われる戦法だし、これなら制限付きの鈍器よりも威力が出てルール違反にはならない。
「ヴァレンシュタインも使うか? 使うなら試験場に行く前に探さないと、恐らく会場で普段用意されているものは押さえられていて一つも残っていないはずだ」
一応、大盾もマジックボックスに入っていることは入っているが……
「止めておきます。使い慣れていないものだと、下手をすると手加減に失敗するかもしれませんし、魔法が使用不可と言うわけではありませんから。それに、そんなせこい手を使ったとしても、ソウルイーターには遠く及ばないと思いますから」
「そうか……まあ、確かにそうだろうな」
今の俺なら、ソウルイーター相手でもあの時のような苦戦をすることは無いだろう。つまり、三十人集まってもソウルイーター以下の強さにしかならないのであれば、俺が負けることは無い。まあ、それなりに俺にも制限がかかっているので、多少の怪我くらいはするかもしれないが、致命傷まではいかないだろう。しかし、
「ムカつかないというわけではないですけどね。せこい手を使うのなら、俺もルールを破らない範囲でやり返したいですね」
木剣を止めて素手で相手をしてもいいが、格闘術にこだわって武器を使わない冒険者もいる為、ややインパクトに欠けそうだ。
「気持ちは分かるが、やり過ぎないようにしろよ。敵対派閥の生徒とは言え、完全に自分の意志で戦うと言うわけではない生徒もいるんだからな。それに、俺はこれでも学園の教師だからな。担任としてジークの味方をしているが、かと言って相手方の生徒たちの敵と言うわけではないんだからな」
「了解です。一応、やり過ぎには注意して叩きのめします」
「ミック……ジークに言うだけ無駄だ。こいつはこう見えて、気性は俺より荒いところがあるからな」
ようやく痛みが引いたのか、ガウェインが俺とブラントン先生の会話に入って来て失礼なことを言いだした。
「それは分かっている。ガウェインより荒いかは知らんが、普通の奴がソウルイーターと取っ組み合いの死闘なんかするはずがない」
先生は、呆れながらガウェインに同意していたが……そこはガウェインよりは荒くないと言って欲しかったところだ。
「とにかく、何かいいやり方は無いものか……ん? あれなんかよさそうだな」
とりあえず、歩きながら考えてみて、何も浮かばなければ素手でやればいいか……と思い歩き出そうとしたところで、視界の端にいいものが転がっているのが見えた。
「うん……流石学園の用意したものだけあって、普通のものよりも頑丈そうだな。普段使っているものよりも少し長いが、練習だと思えば問題はなさそうだな」
落ちていたものを拾って軽く確かめてみたところ、強度も申し分なさそうだった。これなら魔法で強化すれば、使っている最中に折れたりすることは無いだろう。
気分的には、『勇者は伝説の武器を手に入れた!』と言った感じだ。
拾った獲物を担ぎ、意気揚々と試験会場に歩き出すと背後から、
「魔王が最凶の武器を手に入れてご機嫌と言った感じだな……相手に同情するぜ」
「まあ、あれならルール違反にはならないだろうが……あれでやられた相手は精神的に大きなダメージを負いそうだな。それに、後々まで笑われることになるかもしれないな……可哀そうに」
などと言った声が聞こえてきたのだった。