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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第四章
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第十八話

「うむ、皆のもの、楽にせよ……久しいな、ジーク」


 ウーゼルさんの待っている部屋に案内された俺たちは、ウーゼルさんの前でひざまづいて、許可が出てから顔を上げた。まあ、俺はそう言った作法はほとんど知らなかったので、完全にカラードさんとサマンサさんの見様見真似でやっていたのだが……やはり、周りで見ていた貴族にはバレバレだったようで、中には俺を嗤っている奴もいた。


「ふむ……しばらく見ない間に、かなり成長したようだな。これはヴァレンシュタイン家も安泰だな、カラード」


「はい……と言いたいところですが、まだまだ礼儀作法には疎いようで、今後はそう言った内面を鍛える必要があります。ただまあ、この数年の武者修行で、我が家の三枚看板が四枚看板になるのはそう遠くないでしょう」


 ウーゼルさんとカラードさんが芝居がかった口調で話すと、俺を嗤っていた貴族が静かになり、


「ほう、それはめでたいことだな。ガウェインよ、そなたから見てジークはどれくらいの強さを持っている?」


「はっ! それなりに成長しているようではありますが経験が浅く、危ういところがまだあるかと。ただ、我々の控室の周りをうろついていた()()()の駆除程度なら、ジーク一人で事足りるでしょう」


 ガウェインの言葉で一部が焦りを見せていた。


「ふむ、ネズミ……とな?」

「陛下、それに関しては私から」


 ガウェインのネズミという言葉に、ウーゼルさんがとぼけた感じで聞き返すと、ウーゼルさんの一番近くに立っていた男性が話に割って入って来た。


「カレトヴルッフ公爵、発言を許そう」

「ありがとうございます。ガウェイン卿が言ったネズミとは、恐らくヴァレンシュタイン家の皆様に付けていた護衛のことかと」


 カレトヴルッフ公爵ということは、あの男性がエレイン先輩の父親ということか。それにしても、あの人は俺を睨んでいたみたいだけど……敵ではないと思いたいが、正直なところ味方とも思えないので警戒しておいた方がいいだろう。


「それにしてはやけにネズミが多かったようですし、それどころか()()()()も紛れ込んでいたようですが……まあ、どちらにしろ役に立ってはいなかったみたいですがね」


 ガウェインの挑発とも言える発言にカレトヴルッフ公爵は額に青筋を立てているが、公爵は他の貴族が見ている前だからか怒鳴るのは堪えているようだ。


「ガウェイン、止めよ! 申し訳ありませんでした、カレトヴルッフ公爵」


 何故ガウェインがカレトヴルッフ公爵を敵意を向けているのか分からないが、これ以上は流石に個人の問題では済まないと判断されたのか、カラードさんが間に入ってガウェインを叱り、カレトヴルッフ公爵に謝罪していた。


「お主らは本当に相性が悪いな……だが公爵、客人として招いた者たちを不快にさせたのはこちらの手落ちである。思うところはあるだろうが、ヴァレンシュタイン子爵の謝罪を持って手打ちといたせ。ガウェインも、それでよいな?」


「「はっ!」」


 ガウェインと公爵は、不承不承と言った感じだったがウーゼルさんに言われた以上はその命令に従い、その後は睨み合うことはあるものの互いに向けた発言は無かった。

 そんなちょっとしたハプニングの後、ウーゼルさんは当たり障りのない話題を俺とカラードさんに向け、たまにサマンサさんにも話しかけるといった感じで進んでいった。正直、こんな話をするくらいなら、わざわざ謁見と言う形で王城に呼ばなくてもいいのではないか? と思ったくらいだ。



「これを持ちまして、ヴァレンシュタイン子爵家の謁見を終了します。ヴァレンシュタイン子爵家、退室」


 謁見が終わり係に言われて部屋を出ると、部屋の外では別の案内係が待っていた。どうやらこれから、アナ様に挨拶する為の時間のようだ。まあ、アーサーのせいで順番が変わってしまったが……まだ話さなければならないことがあるようだし、王家としても予定を急に変えることはあまりしたくないのだろう。


 案内されたのはこれまでとは違う王城内の区画で、こちらの方にはウーゼルさんやアーサーの部屋などがあるらしく、俺たちはその中の応接室に通された。


「待っていたわよ。予定よりも少し遅かったみたいね」


 部屋の中ではアナ様がお茶を用意して待っていた。

 カップは今いる人数分以外に二つ用意されていたので、後からウーゼルさんとアーサーが来るのかもしれない。


「それにしても、重要な話は陛下との謁見の前に大体終わらせてしまったから、ここからは世間話くらいかしらね?」


「そうですね」 


 と言った具合に、アナ様とサマンサさんはにこやかにしていた。だた、俺たち男性陣は、女性(ふたり)の会話について行くことが出来ないので、こちらはこちらで何か話題でもないかと顔を見合わせていると、


「そう言えば、ジークは家出の最中に何か面白いことは無かったのかしら?」


 急に俺に話が振られたので、否が応でもそちらの話に混ざることになってしまった。

 それに関してカラードさんとガウェインは、話の中心が俺になったことで安堵の表情を浮かべていた。特にガウェインに関しては、先程のカレトヴルッフ公爵との一件があるからか、アナ様の見えないところでガッツポーズまでしている。なので、


「面白い……ですか? パッと思いつくことは無いんですけど……そう言えば、先程ガウェインがカレトヴルッフ公爵と殴り合いでもするんじゃないかと言うくらい互いに敵意むき出しで睨み合っていたんですけど、あれは何だったんですか?」


 まずはその話から入ってやることにした。

 いきなり自分が話題になるとは思っていなかったのか、ガウェインはとても嫌そうな顔をしていたが、アナ様の前で妨害することが出来ないと諦めているようだ。ただ俺としては、嫌がるだろうとは思っていたが声さえ出さなかったのは意外だった。てっきり、話題を逸らそうとするくらいのことはするのではないかと思っていたのだが……まあ、もしかするとアナ様の前だからすべて無駄に終わると思ってあきらめたのかもしれない。


「あら、ジークは知らなかったの? ガウェインとカレトヴルッフ公爵の仲の悪さは結構有名な話よ」


 アナ様は少し驚いた顔で俺を見ていたが……確かに二人の仲が悪いというのが有名だとしたら、双方に縁のある(ガウェインは当たり前として、カレトヴルッフ家とはエレイン先輩を通しての縁)俺が知らないのは不思議なのかもしれない。


「学園では誰もそんなことを教えてくれませんでしたので」


「まあ、確かに大分昔のことだから、今の子たちは知らないのかもしれないわね。公爵の娘も、わざわざそんなことを教えて、ジークとの個人的な縁が失われる可能性を恐れて言わなかったのかもね」


 他にも知っているとすればガウェインと同級生だったブラントン先生やある程度年嵩の教師たちだろうが……ブラントン先生はわざわざ生徒同士を対立させるようなことは言わないだろうし、他の教師たちは下手に騒ぎを起こせば公爵に睨まれるかもしれないので言わなかったのだろう。


「ジーク、簡単に説明すると、ガウェインは入学当初からカレトヴルッフ公爵に勧誘されていたけれど、それを断り続けたせいで関係が悪化したのよ」


 サマンサさんが簡単に説明してくれたが、本当にそれだけなのかと言うくらい内容が簡略化されていた。


「つまり、公爵に逆らい続けたということですね」


「そう言うお前だって、同級生だったとはいえ侯爵家の奴と喧嘩して叩きのめしていただろうが! それにお前の場合は同級生だったが、俺の場合は上級生だったんだぞ! それだけでもあいつが器の小さい嫌な奴だって分かるだろうが!」


 と、俺が思っていた以上にガウェインはカレトヴルッフ公爵が嫌いなのか、アナ様の前だというのに大声で怒鳴っていた。


「ガウェイン、場を弁えろ! それに、いかに嫌いだからとはいえ、相手は公爵なのだ。敬称を付けろ!」


「申し訳ありませんでした……」


 流石のガウェインもカラードさんに叱られてすぐに大人しくなったが、それでも不満気な様子を隠そうともしていないので、あまりこの話題はガウェインの前ではしない方が無難かもしれない。


「あ~…………そう言えば、遠征した時の帰りに盗賊の住処を壊滅したことがあるんですけど、その時にこんなものを見つけたんですよ。一応、かなりヤバい代物らしいので、そう簡単に再利用できないように壊してはいますけど」


 と言って、前にオーガの腕に付けられていたものを取り出してテーブルの上に置いた。その瞬間、


「ジーク! お前、何てものを持ち込んでいるんだ!」


 カラードさんが叫び、俺を除く全員が首輪から一斉に距離を取った。


「カラードさん、大丈夫です。これはほとんどの魔力を吸い取った上で、重要そうなところを断ち切っています」


 悪用するのも悪用したと思われるのも嫌だったので、これを手に入れてすぐにダインスレイヴで残っていた魔力を抜いて、内側に彫られていた魔法陣のようなものの上から真っ二つにしている。この状態では例え縫い合わせて繋げたとしても、効果は出ないだろう。


「確かに、これに残っている魔力はほとんど感じられないわね……それに、一番重要な部分を壊しているから、これを使えるようにするくらいなら一から作った方が速いかもしれないわね。作り方なんて知らないけれど」


 俺の話を聞いたサマンサさんが、恐る恐ると言った感じで首輪を確かめたことで、ようやくカラードさんたちも安心したようだ。


「ただジーク! こんなものは、ちゃんと許可を得てから出しなさい! ジークは知らなかったのかもしれないけれど、これは下手をすると問答無用で牢屋に入れられてもおかしくない代物よ!」


 と、サマンサさんに拳骨付きで怒られてしまった。

 それを見ていたガウェインが、


「まあ、ジークなら牢屋に入れられたとしても、簡単に出てきそうですけどね。前科もあることだし……いでっ!」


 などと笑いながら言っていたが、サマンサさんに睨まれた上、カラードさんに拳骨を貰っていた。


「申し訳ありません、アナ様。ジークは私たちがきつく叱っておきますので、どうかご容赦ください」


「まあ、驚きはしましたが、ジークはこれがどんなものかよく分かっていなかったようですし、一応危ない代物で使えないようにしているとは言っていましたし……それに、何か面白い話をしろと言ったのは私ですから、全ての責任をジークに負わせるのも可哀そうです。なので、今回の件はここだけのものとしましょう。ただジーク、これはこちらで預かります。いいですね?」


 サマンサさんがアナ様に謝ると、ここだけの話だったということで許してもらえるこちになったが、この首輪は没収されることになった。まあ、壊す前に魔法陣は書き写しておいたし、もう一つ残っているのでこれは手放しても問題は無い。


 そう言うことで、首輪は後でウーゼルさんに報告してから渡すということになり、一時的にサマンサさんが預かることになった。

 サマンサさんに渡す際にこれを手に入れた経緯と手に入れた場所を話しはしたが、手に入れた個数までは話さなかったので残りの一つに関してはバレていないはずだ。


 そんな一悶着があったものの俺たちは落ち着きを取り戻し、改めて家出の最中の話をしようとしたところで、


「失礼する」


 ウーゼルさんとアーサーがやって来た。



「久々に会ったと思ったら、なかなか面白……厄介なものを持ち込みよって。まあ、事前に使えなくしておるし、研究用として譲渡する為に持ってきたということにしておけば問題は無かろう。そんなことよりも……ジーク、よく帰って来た。そして、政治的な争いに学生であるジークを巻き込んだこと、申し訳なく思っておる」


「えっと……謝罪を受け入れます? とかでいいんですか? それに、政治的と言われても、正直よく分かっていないし、あれの半分はアコニタムに目を付けられた個人的なものだと思っています。結果的には国を出ることを選びましたけど、元凶には直接やり返しましたので特に気にしてはいないです」


 偉そうな答え方になってしまった気がするが、急に頭を下げられてどう返していいのか分からなかった。それに、バルムンク王国を出てそれなりに面倒な目に会ったりもしたけれど、その分面白いこともあったりしたので、気にしていないというのは本当だ。


「そのことだが、ジークにはソウルイーターの討伐とアコニタムの暴走を止めた報酬が用意されておる。一つは、ソウルイーターに掛けられていた懸賞金、もう一つはアコニタムの所有していた資産の一部だ」


 懸賞金は分かるが、アコニタムの資産の一部と言うのはどういうことなのだろうと思っていると、


「詳しい目録は後で渡すが、そのほとんどは金銭になるな。それと、爵位となる」


「は?」


 ソウルイーターを討伐したことで爵位が貰えるというのなら分かるのだが、アコニタムを殺して爵位を貰えるという意味がいまいち分からずにいると、


「ソウルイーターの件で爵位を与えても良かったのだが、そうするとジークに二つの爵位を与えるか任命権を与えることになってしまう。何せ、ソウルイーターに関する一連の事件の元凶はアコニタムだからな。そのアコニタムも史上最悪と言ってもいい程の悪事を働こうとしていたところを、直前でジークが止めた以上、功績としてはソウルイーター以上のものとしなければならない」


「でも、確か俺の功績は、元侯爵を殺害したものと相殺するということになっていたんじゃないですか?」


「そんなもの、その場しのぎの嘘に決まっている。反対していた連中は、ジークが居なければ自分たちがおこぼれに与れると思っていたのがほとんどだからな。ジークが戻ってくるとなった時点で、あの事件に関する全ての功罪を改めて精査した結果、ジークの罪は学園の重要機材の破壊のみとなった。それに関しても、やむにやまれぬ事情があったからであり、その大半の原因はアコニタムにあると判断したわけだ。ただ、流石に学生に対して報酬とは言え爵位を二つ与えるとなると前例がなくてな。とりあえず一つ与えようということになったというわけだ。ちなみにだが、ジークは現時点でヴァレンシュタイン家の養子であるので、このままいけば将来的にヴァレンシュタイン家の持つ子爵位と今回の爵位の二つを持ちこととなるが、そう言った理由であれば反対する理由が無いからな」


 ウーゼルさんは楽しそうにそんなことを言っているが、俺としては戻ってこなかった方がよかったのではないかと言うくらい、面倒なことになったと感じていた。まあ、今更言えることではないが。


「そう言ったわけで、ジークは子爵家の跡取りでありながら、現時点でも爵位持ちと言うことになる……つまり」


「つまり?」


「モテるぞ。それも、半端なくな」


 どう考えても面倒でしかないように思える。

 ウーゼルさんの言葉に、カラードさんとサマンサさんは苦笑いしているが反対する気はないらしく、ガウェインは大爆笑している……と言うか、この部屋にいる人で笑っているのはウーゼルさんとガウェインだけであり、他の全員は苦笑いしているので、モテるのでゃなく厄介なことになるという考えで間違いないだろう。


「報酬を辞退することは……」

「出来ぬし、させぬ。流石にこれを断られては、王家の威信にかかわるからな。まあ、当面の間はカラードたちに任せておいて、二人が元気なうちに必要な勉強するといいい。それかそれらを任せられる忠臣を探すか育てるか、もしくは出来のいい嫁を貰うことだな。以上でこの話は終わりだ。ここからは、ジークが家出をしていた間の話をしてもらうとするか!」


 と言う感じで、うやむやの内に俺の爵位に関する話が打ち切られてしまった。

 そこからは俺がこの国を出ている間に経験した話をすることになり、色々と皆を驚かせていたのだが、その話の途中で、


「どうした?」

「陛下、ご歓談中のところ申し訳ありません。エルハルト様とエマ様が、お客様方にご挨拶をしたいとのことです」


 扉のところで警護していた騎士が、エルハルトとエマと言う名の人物が訪ねて来たと知らせて来た。

 その二人の名前に聞き覚えは無かったが、ウーゼルさんとアーサーがが複雑そうな顔をし、アナ様の顔から笑みが消えたのを見て、厄介な人物が来たのだと理解した。


「う、うむ、許可する。入って参れ」


 ウーゼルさんが入室の許可を出すと、騎士の後ろから現れたのは……俺よりも年下、恐らく中等部に入るか入らないかくらいの年齢の男の子と女の子だった。


「お、お久しぶりです。へ、陛下……」

「お久しぶりです、陛下、王妃様、兄上様」


 最初に挨拶をしたのは男の子の方だが、緊張しているのかウーゼルさんしか見えていないようだった。それに対して女の子の方は、ウーゼルさんに頭を下げた後でアナ様とアーサーにも同じように頭を下げた。

 二人の態度がやや気になったものの、一番の驚きはと言うと、


「ジーク、紹介しよう。第二王子のエルハルトと、第一王女のエマだ。二人は側室の子で、アーサーの腹違いの弟妹……となる」


 アーサーに弟妹がいたことだった。まあ、一国の王の子が一人と言うのは色々と問題があるし、何なら三人でも少ないくらいだと思うのだが……それにしてはウーゼルさんたちと弟妹との間に壁がある気がする。まあ、今の俺が興味本位で聞いていい話ではないのは確かなので、気が付かなかったふりをした方がいいだろう。


「それで、二人はカラードたちに挨拶をとのことだったが?」


「は、はい! ただ、その……本当はジーク()()に挨拶出来たら……と思いまして……」


 俺に? と思っていると、


「エルハルト兄さんは、学園でジーク先輩の話を聞いたらしく興味があったようで、今日来られると聞いて、居てもたってもいられずに来てしまったのですわ」


 エマと呼ばれた女の子の方が代わりに答えていた。


「え~っと……後輩ってことは、中等部なのか?」


 少なくとも、俺の在学中にアーサー以外の王族がいたとしたら、流石に知らないということは無いだろうから、いなかった間に入って来たということになるだろう。


「はい! いま中等部の一年です!」


 アーサーに聞いたつもりが、聞き耳を立てていたらしいエルハルトが反応して、大きな声で返事をした。

 それまでの卑屈そうな態度からいきなり変化したので驚いたが、俺以上にウーゼルさんたちの方が驚きが大きかったようだ。


「私は来年の入学なので、先輩とは在学期間が被りません」


 興奮するエルハルトとは反対に、エマの方は冷静だった……と言うか、エルハルトの方が兄とのことだが、冷静な分エマの方が年上に見えるな。


「そ、それでは、用事は終わりましたので、これで失礼します」

「失礼します」


 二人は本当に挨拶だけで、あっさりと帰って行った。

 エルハルトのあの興奮具合からすると意外に思えるが、あれ以上居られるとウーゼルさんたちの雰囲気がおかしくなりそうだったのでありがたくはあった。


「すまないな、ジーク。あの二人は悪い奴では……ないんだが、側室の子ということで少し付き合い方が難しくてな」


 アーサーがそう言うので頷いておいたが……アーサーとアナ様はともかくとして、ウーゼルさんは自分の子供であるはずなのにあの態度ということは、思っている以上に難しい問題があるのだろう。俺にはそれ以上分からないが、この件に関しては下手に聞かない方がいいと思う。


「ふ~……まあとにかく、予定外のことがあったけれど、ジークに話の続きをしてもらいましょうか? ジーク、何かとても面白いこと……そうね、私たちがとびっきり驚くような話をしてもらえないかしら?」


 アナ様は邪魔者が去ったとでも言いたそうな雰囲気で、俺に無茶ぶりをしてきた。

 確かにこの雰囲気を一変させるには、何かアッと驚かせるような話をするのが一番かもしれないが……何があるかと記憶を掘り起こし、真っ先に思いついたのが、


「ダンジョンを一つ壊滅させました」


 だった。

 これには戻って来る最中に聞かせたガウェイン以外から驚きの声が上がり、詳しい話を求められたのだが……その話の最中で、


「それで、迷惑なことに聖国の聖女に懐かれてしまいまして……」


 と、何気なく言ったことが、一番ウーゼルさんたちを驚かせることになった。

 しかも、実際に会ったことのあるガウェインが余計なことを言ったせいで、サマンサさんとアナ様がダンジョンの話そっちのけで興奮してしまい、出会いからの話を詳しく追及されることになったのだった。

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