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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第四章
78/117

第十七話

(中はこうなっているのか……あそことあそこの通気口からだったら、外に逃げ出すことが出来そうだな。あの柱の後ろは隠し部屋みたいになっていて誰か隠れているけど、もしかして暗部とか言うやつか?)


「ジーク、あまりきょろきょろするのはよくないぞ」

「王城の中が珍しいのは分かるけど、遅れないようにするのよ」


 城の中に通されて控室に案内されている最中に、物珍しさから少し遅れ気味になっているところを二人に注意されてしまった。

 そんな俺の後ろでは、護衛と言う形でついてきているガウェインが噴き出していた。


 そして案内された部屋でも、


「ガウェイン……王城って、こんなに監視の目があるものなのか?」 


 隣の部屋や天井裏に隠れている奴が何人もいた。


「いや、何度もカラード様たちの護衛として来ているが、ここまで視線を感じるのは初めてだな……ちなみに、何人くらいだと思う?」


 小声でガウェインに聞いても初めてだそうで少し困惑していたみたいだが、すぐに興味深そうに監視の人数を聞いてきた。


「まず、天井に四人で、廊下側に二人、左右の部屋に五人ずつだな。それと、監視かどうかまでは分からないが、廊下に出て少し離れたところに三人いるな」


「マジか……上と隣と廊下は気が付いていたが、少し離れたところまでま気が付かなかった……と言うか、言われても分からないな」


 などと、ガウェインは悔しそうに言っていた。

 前に来た時も監視がいたということは、これが王城の対応としては普通なのだろうが……いい気分はしないので、椅子から立ち上がって部屋の中央に移動し、天井に隠れている奴らのいるところに四度指を差し、次は隣の部屋を指差して反対の指で五を示し、逆の部屋も同じようにした後で廊下を指差してから指を二本立て、最後に三人がいる方向を指差してから三を示した。

 すると向こうは慌てたのか、天井の監視が二人いなくなり、続いて左右の部屋からも人の気配が消えた。廊下の二人は動かなかったものの、離れていた三人は隣の気配が消えてからすぐに移動してどこかへ消えた。


「ジーク、いたずらはほどほどにしておきなさい」

「ジークは初めてだから知らなかったのだろうけど、陛下たちの住まう王城では万が一に備えて来客と言えども監視を付けるというのは当たり前なのよ……まあ、いつもより人数が多かったから、誰かが手を回したのでしょうけれどね」


 つまり、監視自体はいつものことでも人数はそうでは無いので、もしかしなくてもこの王城には俺たちを警戒している奴がいて、しかもそいつは監視の人数に口が出せるくらいには上の立場だということなのだろう。


 相手は誰でどういった立場なのかは分からないものの、王城で直接的な敵対行動をしてくるとは思えないが、万が一ということもあるし何よりもアコニタムの例があるので警戒はしておいた方がいいだろう。

 ただ、一番厄介なのはウーゼルさんが指示していた場合で、何かしらの思惑があってのことならそこまで問題は無いと思うが、本気で俺を警戒してのことならこの国に俺の居場所は無くなるかもしれないという覚悟だけはしておかなければならないだろう。まあ、その可能性はかなり低いとは思うけれど。


 監視していた奴らの数が減ってからすぐに王城の執事とメイドがお茶とお茶菓子を持ってきたが、俺はそれを断り自前のもので済ませることにした。

 一応、監視を増やしていた相手に対し、俺が不快に思っているし警戒しているというのをアピールする目的だったのだが、それはカラードさんたちも同じだったようで、自分たちの目の前に置かれたものを全て下げるように()()()()()()


 俺が断った時、執事とメイドは俺の行動を予想していたのか何のリアクションも見せなかったのに対し、カラードさんとサマンサさんの命令には明らかに動揺していた。

 そこにガウェインが有無を言わせずに追い出したものだから、二人は慌てた様子で部屋から離れて行ったようだ。


「これで監視が居なかったら、あの二人の後をこっそりと追いかけるんだけどな……それでカラードさん、これからどういった感じで動くのがいいんでしょうか?」


「ん? ああ、そうだな……流石にこんなところで私たちに危害を加えようとはしないはずだから、とりあえずは向こうの出方を見るしかないな」


 風の魔法で部屋の外に音が漏れないように細工を施してからカラードさんに尋ねると、カラードさんは少し驚きながら俺が出したお茶を飲んだ。そして、


「ただ、今回のことに関しては、陛下が主導しているとは思えない。まあ、報告くらいは受けているだろうが、もし仮に陛下がジークを本当に警戒しているのだとしたら王城に呼び出さないだろう。もしくは、直接様子を見に来るだろうな。何せ、陛下はジークが今代の黒だと知っている数少ない人物だ。ある意味、この国で一番ジークのもたらす利益を当てにしているお方とも言えるし、ジークに危害を加えようとすれば最悪の場合、エンドラ様の信頼すら失うかもしれないからな」


「そうね。あの人は私を差し置いて、自分がジークの一番の師匠だと言い張っているくらいだから、もしも陛下が一方的にジークに対して不当な扱いをしたと知ったら、隠居するとか言ってこの国を出て行きかねないわね。ところで……ジークとしては、私と師匠……今代の緑のどちらが自分にとって一番の師匠だと思っているのか、聞かせてくれないかしら?」


 サマンサさんは、何故かエンドラさんと張り合ってるらしく、笑顔で俺に迫ってきたが……俺としてはどちらも恩人で師匠だと思っているし、どちらを一番にしても後が怖いので悩んだ末に出した答えが、


「サマンサさんが()()()()()です」


 だった。

 まあ、どう考えてもサマンサさんが聞きたい質問の答えとは違うのは明白だし、案の定サマンサさんは不服そうにしていたけれど、カラードさんが間に入ってくれたことでそれ以上サマンサさんが追及することは無かった。もっとも、この様子だと今後も同じ質問をされる可能性は非常に高いので、何かしらの回避方法を考えなくてはならないだろう。


 しばらくの間、新たに控室に近寄ってくる者がいなかったのでゆっくりとお茶を楽しむことが出来たが……そんな優雅な時間は、一人の乱入者によって壊されてしまった。

 その乱入者とは、


「あれ? アーサー……だよな? 久しぶり」


 少し乱暴にドアを開いたのは、この国の王太子であるアーサーだった。

 ただ、目の前のアーサーは俺の記憶にある人物と少し違っているし、なんだか顔つきも険しかった。


(まあ、最後に会ってから六年以上経っているからアーサーも成長しているし、記憶と違うのは当然だとしても……なんか怒ってないか?)


 ドアのところで動かないアーサーに違和感を覚えながらも、とりあえず久々の最下位なので挨拶しようと近づくと、


「何で手紙の一つでも寄越さな、かっ……」

「あっ! ヤバ……」


 アーサーが急に殴りかかってきたので、思わずその一撃を躱して反撃を食らわせてしまった。

 しかも反射的に顎を狙ってしまい綺麗に命中したので、アーサーは意識を飛ばして膝から崩れ落ちていた。


 幸い、床に倒れる寸前で抱きとめることが出来たので、顎以外にダメージは負っていないみたいだが……流石に王城で王太子相手にこれはまずいだろうと思い、カラードさんたちの方を見てみると、カラードさんは目を閉じて天を仰ぎ、サマンサさんは頭を抱えてテーブルに突っ伏し、ガウェインは……笑いをこらえていた。

 ガウェインはともかく二人の反応が()()()に対してのものなのか判断が付かなかったので、とりあえずアーサーをソファーに寝かせようと運んでいると、こちらに向かって複数人が小走りで近づいているのに気が付いた。

 

 まだ少し離れたところにいるようだったが、数人が纏まって小走りしていたのでガウェインやカラードさんも気が付いて少し警戒していたが、現れた人物を見てすぐにサマンサさんと共に敬礼をしていた。


 新たに現れたのはサマンサさんと同い年くらいの女性とその護衛と思われる騎士で、騎士たちが俺とアーサーを見て身構える中、女性は一度部屋の中を見回した後、手を二度叩いた。


「何があったか報告しなさい」


 手を叩いた後で女性がそう言うと、天井裏から黒装束で身を固めた性別不明の人物が降りてきて女性に耳打ちした。

 その報告を聞いた女性が頷くと、黒装束の人物はまた天井裏へと戻っていったが……天井に飛び上がる寸前に俺を睨みつけていたので、姿が見えなくなるまで手を振って見送り、ついでにそいつが先程とは違う場所に移動して動きを止めたところで、その場所に向かってもう一度手を振ってあげた。


「ひでぇ奴だな……分かっていても気付かないふりをしてやればいいのに……なぁ?」


 などと、ガウェインが言っているのが聞こえたが……そんなガウェインも俺ではなく別の場所に隠れている奴に向かって話しかけているので、ガウェインもガウェインで俺をダシにして挑発しているのだろう。


「ジーク、ガウェイン……」


「ごめんなさい!」

「すんません!」


 少し調子に乗り過ぎてしまったらしく、カラードさんがいつもより低い声で名前を呼んだ瞬間に、俺とガウェインは即座に謝っていた。


「えっと……サマンサ、あなたからも何があったのか教えてもらえるかしら?」


 そんな俺とガウェインをしり目に、女性はサマンサさんに説明を求め、しばらく二人で話し合っていた。

 その間に俺はカラードさんから注意を受けたが、それは主にアーサーへの対応についてであり、監視していた奴らに対してはカラードさんもあまり良くは思っていなかったようで、もう少し上手くやれと言った感じの軽い注意のみだった。

 ちなみに、ああいった場合カラードさんならどうするのかと聞いたところ、返ってきた答えは、


「この部屋を出る時まで気が付かないふりをして、帰り際に隠れている奴らに挨拶をし、迎えに来た奴に軽い嫌味を言う」


 だった。その方が、バレていないと思っていた奴らには効果的とのことだ。


「それで、あなたがジークね」


 女性はすでにサマンサさんとの話を終えていたらしく、俺たちの話が終わるのを待って声をかけて来た。


「はい、そうですけど……えっと……」


 声をかけられたので返事をしたものの、名前は教えて貰っていないのどう呼べばいいのか分からずに戸惑ってしまった。まあ、どことなく雰囲気がサマンサさんに似ているところがあるし、アーサーを追ってここに来た時点でその正体に目星は付いているわけなのだが。


「そう言えば、挨拶がまだだったわね。私はこの国の王妃で、そこで寝ているアーサーの母親のアナよ。よろしくね」


「ジーク・レヴァ……ヴァレンシュタインです。こちらこそよろしくお願いします」


 危うく偽名の方を名乗りそうになったが、何とかヴァレンシュタインの方で挨拶することが出来た。

 それにしても、もしかするととっさに出るくらいには偽名の方に愛着がわいているのかもしれない。まあ、二年以上もの間使い続けていたらそうなってもおかしくは無いか。

 などと、少し王妃様から気を逸らしていたら、いつの間にか一歩近づかれていて顔を覗き込まれていた。


「うん……目と髪の色も近いし、本当の親子……はちょっと無理でも、遠い親戚から養子に取ったと言えば十分通用しそうね」


 何を言っているのだろうかと思っていると、


「サマンサ、実家の古い資料に、条件に合うような没落して途絶えた家を()()()()ましょう。最近になってその家の直系が見つかって、あなたが引き取ったとすれば問題は無いわ」


「ありがとう、アナ様」


 などと王妃様は言い出した。

 サマンサ様がお礼を言っているということは、事前に相談していたことなのかもしれないが、いまいちよく分からない。


「当のジークが分かっていないようだから、陛下に呼ばれるまでに軽く説明……」


 とアナ様が言ったところで、アーサーが意識を取り戻しそうとしているのか呻き声を出した。


「そう言えば、私がここに来たのはアーサーが飛び出して行ったという報告を受けたからだったわね」


 と言った具合に、俺どころか母親であるアナ様にも忘れ去られていたアーサーだった。


「とにかく、説明するから席に着いてちょうだい。ああ、アーサーも起きたのなら早く席に着きなさい。それと、ジークに言いたいことがあるなら私の話よりも先に済ませなさいね」


 アナ様に急かされて席に着いた俺とアーサーだったが、アーサーは少し気まずそうにしていた。それでも、このままだとアナ様の横槍が入るかもしれないと思ったのか、


「ジーク、何故連絡の一つも寄越さなかった。直接来るのが難しいというのなら、手紙でも出せばよかったのではないか?」


 と聞いてきたので、


「あの時点だと侯爵を殺したと思っていたし、そんな奴がカラードさんたちと連絡を取っていたと知られれば、敵対勢力の標的にされると思っていたから連絡は出来なかったし、不義理をして縁が切れたと思っていた。それに、カラードさんたちにすら連絡をするのは危険だと思っていたのに、アーサーならもっと悪いことになると判断するのは当然だろ?」


 そう答えたら、アーサーは黙ってしまった。そこに、


「話は終わったわね? それじゃあ、ジークの系譜に関してだけど、もしこのままジークを養子にするとなると、絶対に怪しむ者たちが現れるわ。もしこれが、ジークの生まれがはっきりしているのなら理由はどうとでもなるけれど、今のところのジークは生まれも育ちも不明な怪しい存在なわけよ。これが家臣として加えるというのなら問題ないけれど、貴族の一員に名が連なるとなると話が変わるわ。もっとも、ジークが今代の黒だと公表するのなら貴族に列するのに何の問題もないのだけど……今のところその予定はないのよね」


 とのことだったので、アナ様の質問に頷いて答えた。

 するとアナ様は、


「それなら、()()()()納得しそうな理由を作ろうというわけよ。幸い、私の実家は侯爵家でサマンサの実家は伯爵家、どちらも同じ一族を基とする血筋で歴史は長く、これまでにいくつもの分家が生まれては消えてを繰り返して来たわ。その消えた分家も、何代か続いていれば家系図が残っていたりするものだけど、悲しいことにひっそりと消えた家も存在するわ。そう言った家の中で、ジークのような直系が残っていてもおかしくないような家を探し出すか、無ければ作ればいいというわけよ。もちろん、訝しむ者は当然現れるでしょうけど、同じようなことは多くの家でもやっているし、王家が承知の上で侯爵家が行うことに文句を言うのは、例え公爵家でも無理だから安心していいわよ」


 と続けたのだが……サマンサさんとカラードさんが承知しているのならいいかと思い、


「それじゃあ、よろしくお願いします」


 とあまり深く考えずにお願いした。


「ジーク、お土産のことを今ここでお話ししたらどうかしら?」


 ここで今出来ることは無くなったからなのか、サマンサさんがお土産の話を振って来た。確かに本来の予定では、お土産の話はウーゼルさんに会った後でアナ様に相談するはずだったのだが、アーサーのせいで順番が入れ替わったのでここで聞いた方がいいだろう。


「実は、個人的な知り合いに対してのお土産のつもりでドラゴンの肉を持ってきたんですが、正式に渡そうとすると色々な決まりごとがある上に、ものがものだけに大騒ぎになりそうだと言われてどうしようかと思っていたんですけど……」


「ああ、それを深読みする輩がうるさそうだから、何かいい方法は無いかということね。そのドラゴンの肉と言うのは、ジークが自力で倒したものという認識でいいのかしら?」


「はい」


 俺が肯定すると、アーサーは驚いた顔をしていたがアナ様はそう言った表情の変化は見せずに少し考えて、


「ジークはドラゴンを倒したことを周囲に知らしめて、それを王家に献上して名声を得ようとかは思っていないのよね?」


「そうです」


「それなら、私が個人的にヴァレンシュタイン家から貰ったということにしておきましょう。万が一ドラゴンの肉の情報が洩れて周囲に知られたとしても、ヴァレンシュタイン家からということにしておけば、周りは勝手にヴァレンシュタイン家の騎士団が倒したものをサマンサを通して私に送ったと勘違いするでしょう。まあ、それなら隠さなくても大丈夫だと思うけど、もし何か言われたとしても、周りに邪推するのをヴァレンシュタイン家が嫌ったからだと言えばいいわ。幸いにして、サマンサは私の従姉妹で、カラードは陛下の親友というのは有名な話ですからね」


 それなら俺のことをよく知っている人以外は、ドラゴンを倒した人物が俺だと結びつけることは無いだろう。

 カラードさんとサマンサさんもアナ様の提案に頷いていたので、二人は初めからこの筋書きになるだろうと予想していたのかもしれない。


「でもジーク、今回は大丈夫だとは思うけれど、いつかはジークの真実が明らかになる時が来るという覚悟はしておきなさい。それがいつになるのかは分からないけれど、もしかすると明日かもしれないのよ。その時になって後悔するのはジーク自身なのだから、そのことだけは常に頭に入れておきなさい」


「……はい」


 俺としても、いつまでもこのままでいられるとは思っていないが、もしかすると一生バレずに暮らせるのではないかという期待が無いわけではない。

 アナ様は、バレても大した問題ではないと思いながらも、バレて面倒事に巻き込まれたくないという俺の甘い考えを見抜いているからこそ、少し厳しいことを言ったのだろう。

 ありがたいことだと心の中で感謝していると、


「あっ! ドラゴンのお肉だけど、もしよかったら実家の分も貰えるかしら? 実家にもそれなりのものを渡しておかないと、後になって何か言われるかもしれないわ。それと、感謝しているのなら、その分お肉の量を増やして頂戴ね」


 その分の対価を求められた。


「母上……」


 その言葉に真っ先に反応したのはアーサーだったが、アナ様は聞こえないふりをしていた。


「ジーク、アナ様はこういった感じのお方だから、知り合った以上は覚悟しておきなさいね」


 知り合わせたのはサマンサさんだろうと思ったが、別に敵意を向けてくるわけではないし、逆に対価を求められた方が分かりやすいので、その方が俺としてもやりやすいのかもしれない。


「ジーク、すまんな。母上はこういった性格だから、嵐に巻き込まれたくらいにでも思ってくれ」


「いやまあ、貴族の席を用意してくれるんだから、ドラゴンの肉を多く渡すくらい何でもないからな。そもそも、ドラゴンをほぼ丸々一匹保存しているから、アーサーたちに渡すのを百kgから二百kgくらいに増やしても問題ないし、侯爵家に渡しても誤差の範囲みたいなもんだからな」


「ひゃ……こほん」


 謝るアーサーに気にしていないと言った感じで答えると、アナ様の驚くような声が聞こえた。

 流石にお土産でドラゴンの肉が百kgも送られるとは思っていなかったみたいだし、それがさらに倍になるとは思っていなかったのだろう。まあ、驚いてくれないと、お土産に予定していた量から大幅に増やした意味が無くなるところだった。


「あっ! 侯爵家へのお土産は、百kgくらいでいいですかね?」

「え、ええ、それはありがたいけれど、それだと逆に多過ぎるから、その半分……くらいでいいと思うわ」

「それじゃあ、王家へのお土産と一緒に渡しますので、アナ様の方から侯爵家へ送ってください」


 侯爵家へはサマンサさんにお願いしてもいいかもしれないが、それよりもアナ様からの方が確実でより効果があるはずだ。


「分かったわ。私が責任を持って実家へ持っていくわ」


 肉の量で動揺させることが出来たというのに、もうアナ様は元に戻ってしまったようだ。それどころか、先程よりも警戒させてしまったみたいでもある。

 まあ、侮られるよりはいいか。アナ様とはこれからも付き合いがあるだろうし。


 話がまとまるとアナ様はすぐに調理場の責任者を呼び寄せて、俺が取り出したドラゴンの肉を運ばせていた。

 その際、肉は牛でいうところのサーロインやリブロース辺りのよさそうなところを王家へは百kgずつ、侯爵家へは同じ部位をニ十五kgずつ渡した。

 流石にアナ様は驚いてくれなかったが、アーサーは実物を見て無言で驚いていたし、渡された責任者は震えていたのでそれで良しとしよう。


 お土産を渡し終えると丁度ウーゼルさんの準備ができたということで係が呼びに来たがアナ様は同席しないようで、一足先にアーサーが護衛と共に部屋を出て行き、少し遅れる形でウーゼルさんのところへは俺とカラードさんにサマンサさん、それと何故か護衛としてついて来ていただけのガウェインも向かうことになった。

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