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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第四章
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第二話

「お頭、村に置いていた奴が報告に来ました」


「ここに連れて来い」


 見張りに立たせていた奴の知らせを聞いて、俺は餌場(ここ)まで連れてくるように命令した。


「ほ、報告します。村に現れた獲物は三人、男が二人と女が一人です」


「どんな奴だ?」


「中年の男が一人と」

「男なんかどうでもいい! 女の話だ! 死にてぇのか!」


 俺が怒鳴りつけると、この馬鹿は慌てながら、


「若い女のよう……でした!」


 と言った。

 女がいるのなら初回から当たりを引いたと思いたいが……


()()()()()……とはどういうことだ?」


 正確な情報を渡さない馬鹿を睨みつけると、この馬鹿はあろうことか、「遠くではっきりと見えませんでした……」と言いやがった。


「そうかそうか……まあ、いい。お前はいらん」

「へ?」


 それだと、女が当たりかハズレか分からない。この馬鹿は、そんな簡単な報告も出来ない無能というわけだ。

 不要になった馬鹿の喉を切り裂くと、馬鹿は間の抜けた声を出して自分の血の海に沈んだ。


「おい、()()()()()。仲良く()()()()


 馬鹿の死体を蹴り飛ばしながら声をかけると、背後から獣が唸るような歓喜の声が聞こえた。


「そう言えば、人間の肉は一月ぶりだったか? たまには食わさんといかんな……まあ、丁度いい生餌が二匹手に入るし、女の方も使い潰したら食わせればいいか」


 馬車で移動している冒険者となれば、それなりに価値のあるものを持っているかもしれないし、馬が二頭いるだけでも儲けものだ。まあ、馬に関しては肉にするしかないが久々の贅沢だ。

 どういう食い方をするか考えていると腹がなりそうになったが……後ろから聞こえてくる骨をかみ砕く音で我に返った。そして、


「なんだ、霧か? いや、しかし……」


 いつの間にか周辺に霧が出ていて、俺の知っている霧とは違うような気がすると思った時……背後で木が倒れるような音が聞こえた。




「確か、こっちの方だったな」


 村に居た全ての山賊を捕縛した後で、俺は山賊の本体に報告に向かったと思われる男の後を追いかけた。

 男は暗い森の中を歩くのに慣れていないようで、俺よりも十分近く先に村を出た筈なのに、本体に着くよりも先に見つけることが出来た。

 そのまま距離を保ちながら後を追うと、すぐに男は仲間と接触した。山賊は簡易的ながら、村のような拠点を造っているらしい。

 男は見張りと思われる仲間に連れられて、拠点の奥の方にある岩場に行くようだ。

 山賊たちは一応警戒しているように見えるがそれは形だけのようで、そのほとんどは敵が攻めてきているとは思っていないからか、隙だらけで潜り込むのは簡単だった。


「岩場にいるのは男が一人と……あれは()()()か? それも三体もいる」


 冒険者ギルドでのオーガの危険度は、上から三番目の上位となっていて、強ければ上から二番目の下位にされることもある魔物だ。

 個体差はあるものの知能はあまり高くなく(それでもゴブリンやコボルトよりは上と言われている)、物理的な攻撃と防御に特化している。そして、基本的に人には懐かない。


 そんなことを考えていると、山賊の親玉と思われる男が怒鳴り声をあげた後で、急に剣を抜いて俺が追いかけて来た男の首を切り裂き、さらに惨いことに男の死体をオーガに食わせていた。


 オーガは俺の遭遇したことのある魔物の中だと、最初の森で襲われたあのゴリラ……()()()()()()と同じくらいの強さがある。

 そして残虐で血の臭いに興奮しやすいので、あのような状況だと親玉に襲い掛かってもおかしくない。もっとも、それを言うなら背中を向けていた親玉に襲い掛からない時点で変なのだが……まあ、それは関係ないか。そもそも、あの山賊たちが敵なのは分かっていたことだし、たまたまそいつらの仲間の中にオーガがいたというだけだ。

 それに、あのゴリラと同じくらいの強さということは、今の俺の敵ではないということでもある。


「ダークミスト」


 なので、まずは村で山賊を狩った時と同じように相手の視界を狭めると同時に俺の移動をしやすくし……


「一……二……三っと」


 オーガの背後に回って、うなじの辺りに剣を突き刺した。

 生命力の強いオーガも、流石に首の骨ごと神経を断ち切られると即死に近いダメージを受けるようだ。


「何の音……ぶっ!」


 続いて、オーガの倒れる音を聞いて振り返った親玉のこめかみの辺りを殴りつけると、親玉は白目をむいて倒れた。このまま止めを刺すのが一番簡単だが、一応生かしておかないとおっさんたちに文句を言われそうなので、腕と脚を縛った状態で猿ぐつわを噛ませておいておくことにした。

 ここまで手加減して死んだら仕方がないがそれでもおっさんたちには通じないと思うので、念の為他にも数人確保した方がいいだろう。


「この近くで気配が固まっているのは……すぐそこの小屋だな。奥に近い場所にあるということは、山賊の中では上の地位にいる奴らかもしれないな」


 気配を探った結果によると小屋にいるのは三人なので、さっさと確保して残りの始末に向かおうと思い、陰に潜って小屋に侵入した。


「テラー」


 そしてジモンでの経験を活かして、至近距離からのテラーで意識を奪った俺は、小屋の中の奴らも親玉と同じように動きを封じた。

 これで他の山賊たちの生死は特に気にしなくていいだろう。


 流石に警戒心の薄かった山賊たちも視界が奪われたことで異変に気が付いたらしく、拠点の中を慌ただしく動き回っていたが……黒い霧の中では拠点の外へ逃げることが難しいようで、今のところここから離れて行く気配はなかった。


「さて、やるか」


 俺は学園を去った日のことを思い出しながら、慌てふためく山賊たちを一人ずつ狩っていった。




「おっさん、終わったぞ」

「うおっ! ……って、ジークか! 背後からいきなり現れるな!」


 村に戻り、山賊たちを一か所に集めていたおっさんに声をかけると、おっさんは大きな声を出して驚いていた。


「気を抜いていたおっさんが悪いんだろ? そんなことよりも、森の中の山賊たちの拠点を制圧したぞ。一応、親玉とその側近と思われる奴らは確保しているが、残りの生死は不明だ。多分、十人くらいは生きていると思うが、あまり多くても管理が大変だろ? こいつらもいることだし」


 この後どうするのかは分からないが、多分次の街かどこかの警備隊か何かに知らせて引き取ってもらうことになるだろう。そうなると、村人では管理が出来ないだろうから、引き取り手が来るまでは俺たちが見張るというのが一番可能性が高い。

 そうなると俺たちは四人しかいないので、あまり数が多いと色々と面倒くさい。


「そのことだが、ジークが戻ってきたらフリックと村の誰かにこの先の街まで報告に行ってもらうつもりだ」


 ただ、どこまで信じてもらえるか分からないので、早ければ明日中には街から応援が来るだろうが、最悪この村で何日か過ごす可能性があるとのことだった。


「それなら、山賊の親玉の首があった方がいいか?」


 山賊としてはかなりの人数がいたから、もしかすると割と有名な山賊で、手配書か何かが出回っているかもしれない。

 そう思いおっさんに提案したところ、


「ジーク、さっき親玉を確保したと言っていなかったか? もしかして、確保したのは死体なのか?」


 とおっさんが言うので、


「いや、俺が確保した時はちゃんと生きていたし、もしかするともう死んでしまったかもしれないが、運ぶんなら生きたままより首だけの方が楽だろ? だから、もし生きていたら首を落とそうかと思ってな」


 と答えたら、おっさんだけでなく俺たちの話を聞いていたフリックとチーが引いていた。そしてその後ろにいた数人の村人は完全に怯えている。


「ジーク、こんな時まで冗談を言うな! とにかく、森の中に置きっぱなしにしている山賊の回収に行くか。あまり時間を置き過ぎると、生きている奴が逃げ出す可能性があるからな」


 おっさんは、俺が冗談を言っているということにして村人たちを落ち着かせるつもりみたいで、実際に多少の効果はあった。まあ、それでも村人たちは、俺を危ない奴だという目で見ていたけれど。


「村長、荷車のような人を運ぶことが出来るものがあれば貸してくれ。ジーク、拠点までの道はちゃんと覚えているな?」


「ああ、大丈夫だ。ただ、拠点の少し前から獣道になっているから、荷車が入れるのはそこまでだな」


 山賊たちの拠点は、周辺の大半を人の腰から胸くらいの木や草に囲まれていて、それを抜けると簡易的な人の背丈ほどの柵が待ち構えているという作りになっていた。

 さらには水源となる井戸も掘ってあったので、もしかすると昔使われていた隠れ里のようなものを利用した可能性がある。下手に正攻法で攻めようとすれば、地方の街の警備隊程度では返り討ちにあっただろう。まあ、その結果はその警備隊がどれほどの強さによるかは当然だが、少なくともジモンの警備隊だと、グランドたちの協力が無ければ間違いなく負ける。

 それほど山賊たちは、上手く拠点を造っていた。もしかすると、そう言った専門的な知識のある奴が紛れていたのかもしれない。


「そうなると、生きている奴は荷車のところまで運ばないといけないのか……」

「それと、生きているのが何人いるか分からないから、村と拠点を何往復もしないといけないかもしれないな」


 俺が首だけにしようと思ったのは、そう言った理由があったからだ。

 おっさんも俺の言っていた意味が分かったようで、少し悩んでいたみたいだが……流石に村人たちの前で冗談にしたせいで、結局人力で運ぶことに決めていた。俺にとっては大迷惑なことだったけど。



「おっさん、荷車はここまでだ。残りの数百mは歩きだな」

「確かにジークが首だけにしようと思った理由が分かるな……まあ、それは置いといて。これは厄介な拠点……と言うか、これはもう砦だな。それもかなり厄介だ。これはジークでないと、制圧は無理だったな」


 山賊の強さ的には、オーガも含めておっさんなら単独でも制圧は可能だっただろうが、おっさんだと山賊に知られないように侵入するのは難しかっただろう。それに、騒動に気が付いた多くの山賊を逃がしてしまうはずだ。


「この茂みも、大分人の手が入っているようだな。立っていたら頭部が丸見えだし、しゃがんで近づこうにも、上からだと丸見えだ。しかも、茂みの中に盾代わりに出来そうなものがない。攻略するなら、数を揃えた上で盾を構えて強引に近づくのが一番手っ取り早いな」


 確かにおっさんの言う通り、数で攻めるのが一番だが……かなりの被害が出るのは間違いない。


「ああ、そう言えば、おっさんに聞きたいことがあるんだった」

「ん? 何だ?」


 オーガのことを思い出したので、忘れないうちにおっさんに、山賊の親玉が三体のオーガを従えていたことを言うと、


「そいつは妙だな……ジークも知っていると思うが、オーガは基本的に気性が激しくて人の言うことなど聞かないし、あいつらは日とのことを食い物くらいにしか見ていないはずだ。例外があるとすれば、産まれた時から主従関係を叩き込んで育てればもしかすると……というところだが、あいつらは親兄弟でも平気で殺し合いをするからな……ジーク、その親玉はオーガを従える程の強さを持っていたのか?」


「背後からサクッと無力化したから、正確な強さは知らないが……陰で見ていた感じだと、単純な戦闘力はチーより上かもしれないが、フリックより確実に下と言った感じだ」


 戦い方によってはチーでも十分勝ち目がありそうだったので、チーとほとんど互角と言った感じだと思う。


「それなら、ますます腑に落ちないな。フリックくらいの強さがあれば、オーガの三体くらいは苦戦したとしても倒せるだろう。だが、チーはいいとこ一体が精一杯だろう。もっとも、それはチーが弱いというよりは、相性の問題と単純にフリックが強いからなのだが……ん~……正直、ジークの話だけでは分からんな。直接確かめれば何か分かるかもしれんから、後で調べてみるか」


 おっさんも俺の話だけでは分からないそうで、少し興味が出ているようだった。


「オーガには止めを刺したんだろ?」

「ああ、いくら生命力が強いオーガでも、流石に首の骨を断ち切られて生きているとは思えない」

「それなら先に親玉とその接近の回収だな。この辺りで肉食の魔物はいないという話だし、いても狼や熊の類だろう。そいつらだったら、オーガの臭いに怯えて近づかないはずだ」


 確かにおっさんの言う通り、オーガの死体を調べるのは後にして親玉たちの回収を優先した方がいいだろう。

 そう思って、親玉を置いてきたところ……まあ、オーガの死体も置いているところに向かうと、


「おい、ジーク……こいつら、動いた形跡があるぞ?」

「距離は短いが、張って移動した跡が残っている……流石にここが限界みたいだが、念の為首を落としておくか」


 首筋には俺が付けた傷があり、そこから大量の血が流れていた形跡があるので、死んでいなかったとしても動けるような状態ではなかったはずだ。

 これ以上動けはしないだろうが完全に死んでいないみたいなので、これ以上の不測の事態を避ける為に確実に止めを刺すことにした。


「いくらオーガでも、あの傷で動けるはずは……ジーク! オーガの胴体を出してくれ!」


 首を落とすと問題なくマジックボックスに入ったので、オーガが完全に死んだことを確認できた。

 そのオーガ三体分の死体をマジックボックスに入れたところで、おっさんがもう一度出せと言ってきた。


「何か変なところがあったのか?」


 おっさんの言う通りにすると、おっさんは真っ先にオーガの腕を切り落とし、


「やっぱりか……ジーク、オーガが親玉のいうことを聞いていたのと、普通なら動けないはずの状態で動いたのは、これが原因だ」


 おっさんは俺にオーガの腕……正確には、オーガの腕に嵌められていた腕輪を見せて来た。


「これが何か……いや、薄っすらと黒魔法の気配がするな」


 ちゃんと見ないと分からない程度の薄さだが、オーガの腕輪からは黒魔法の気配がしている。ただ、どんな魔法だったかまでは分からないが、おっさんの感じからすると使われた魔法はろくなものではないだろう。


「俺も駆け出しのころに、ちょっと表に出せないような仕事を請け負った時に教えてもらったことだが……ああ、言っておくが犯罪行為ではないからな。その時に回収したのがこの道具で、これは本来首輪なんだ。その時の先輩が言うには、過去の戦争時に使われていたもので、これを首に着けられると、基本的に着けた奴に逆らうことが出来なくなるらしい。その道具の出来や着けられた者の抵抗力などで差は出るそうだけどな」


 おっさんが回収した首輪は出来の悪い部類のものだったらしいが、それでも着けられると判断力が鈍り、着けた者の命令に従わなければならないと思わされるような代物だったそうだ。


「オーガは魔法に対する抵抗力は高い方ではないから、これはその時のものと同等か少し上と言ったところだろうが、それでもこいつは何十年も昔に全ての国で使用が禁止されているような危険物だ。その為、国などが回収を進めて破壊していたはずだが……それらの目をかいくぐったものか、もしくは秘密裏に保管されていたものが盗まれたか横流しされたものかもしれないな」


 そこまで話すとおっさんは一度言葉を切って俺の目を正面から見て、


「ジークなら分かると思うが、これには黒魔法が使われている。そう言った経緯から、黒魔法を嫌う者がいたわけだが……そんなことなど知らない世代が増えたおかげ……と言うか、そのせいで今でも何となくで黒魔法はよくない属性だと思う奴が居るんだと、俺は思っている。ちなみにだが、犯罪に使われることの多い魔法は順に、火魔法、土魔法、風魔法と言われているな。黒魔法は使いこなせる奴が少ないというのもあるだろうが、大体その下に来るらしいぞ」


 おっさんは黒魔法への擁護のつもりか、そんなことを言っていた。

 確かに、火、土、風、水魔法は使う人が多いので、その分犯罪も増えるのだろうが……それでも一番犯罪に向いているのは何かと言われれば、間違いなく黒魔法だろう。それは使っている俺が一番分かっているし、現にそう言った使い方をしたこともある。

 まあ、わざわざそれを指摘する必要はないし、それを言い出したら結局のところ犯罪を行った奴が悪いのであって、魔法に悪い属性は存在しないとなるのがよくある話のオチだ。


「とにかく、この腕輪……じゃなかった、この首輪は別に保管しておいて、ジュノーに相談するのがいいかもしれないな。ジークは嫌がるかもしれないが、ジュノーなら信頼できるお偉いさんに、発見者を誤魔化したまま提出することも可能かもしれないからな」


 そうなるとギルド長はかなり苦労することになるだろうが……まあ、それがギルド長の仕事だし、喜んで引き受けてくれることだろう。


「それじゃあ、山賊たちの回収に向かうか……って、親玉はすぐそこだったな。ん~っと……おお! ちゃんと生きているな!」


 おっさんは倒れたままの親玉を蹴ってひっくり返し、状態を確かめていた。

 心配していたが、ちゃんと生きているようで安心した。これでおっさんたちに文句を言われることは無いだろう……と思っていたが、


「ジーク、流石にこれの後始末は骨が折れるぞ。チーや村の人たちにも手伝って貰いたいが……チーを連れてくると村の山賊の見張りが居なくなるし、慣れていない奴を使うと……精神に異常をきたすかもしれないな」


 オーガの死体の近くにいた山賊は、全員生きていたのだが……その他の山賊たちは、その多くが肉食の獣か魔物に食われていた。


「おっさん、獣や魔物は近寄らないはずって言ってなかったか?」

「普通ならそのはずだったんだが、もしかすると山賊のせいでこの辺りの獲物が少なくなり、空腹状態が続いて普段よりも獰猛になったところにオーガの気配が消えかけてしまったせいで、これ幸いと獣たちが動けない山賊やその死体を貪ったんだろう。親玉や幹部たちが無事だったのは、オーガの気配が消えても臭いが濃く残っていたから、本能的に近寄らなかったんだろう」


 その代わり、他の山賊たちがひどい目に会ったのだろうが……どうせなら、もっときれいに喰ってくれと言いたい。

 もしこの状況が俺が原因で起こったことでなかったなら、このまま見て見ぬふりをするところだが……このままでは獣の群れを村の近くに居座らせてしまう上に、喰い残しが原因の疫病が発生する可能性もある。

 面倒臭いが、後処理はしっかりとしなくてはいけないだろう。


「おっさん、まずは生き残っている奴をここに運んだ方がいいんじゃないか?」

「そうだな……ジーク、悪いが生き残った山賊を回収した後の運搬は俺が担当するから、この拠点の後始末を頼んでいいか? 丁寧に葬れとは言わないが、せめて疫病が発生しにくいように土に埋めるか燃やすかしてほしい」


 確かにそれしかないだろう。

 これだけの食い散らかされた死体を処理しようとすれば、それなりの規模の魔法を何度か使うのが一番早く終わるが、おっさんではそんな魔法を何度も使うのは無理なのだろう。

 だから、運ぶ役はおっさんで処理役は俺になるしかないのだ……が、俺の負担の方がかなり大きい気がする。


「それはいいが……それなら俺の取り分を増やしても問題ないな」

「ああ、まあそれは仕方がない。ただし、村に()()する分を除いた上でだからな」


 そこで損害の補填と言わない辺り、山賊たちの持ち物は報酬として持っていく気満々のようだ。まあ、冒険者としては当然のことだし、元々山賊たちの持ち物に関して言えば、村人たちに与える義務はない。


 それからしばらくの間、俺とおっさんは手分けして生き残っている奴を探し、オーガの死体の近くに集めた。そのついでに山賊の隠していた金目の物も集めて俺のマジックボックスに一時的に保管してから死体の処理を開始した。


 もし俺が土のレベルが高ければ、地形を変えて全ての死体を埋めるという方法も取れたかもしれないが、そこまでの土魔法は使うことが出来ないので、出来る範囲で土魔法を使って死体ごと地面を掘り起こし、それらを水魔法で濡らしてからもう一度土魔法を使って地面をならした。

 こうすれば地面は泥に近い状態になるので死体(の肉片)との密着性が増し、病原菌が増える前に微生物に分解されるはずだ。

 ただ、もしかすると分解される前に獣に掘り返されるかもしれないので、少しでも獣を近づかせないためにオーガの血を振りまくことにした。

 ついでに、ここがならず者にまた利用されないように、残っていた小屋や柵を破壊して井戸も潰した。もしかすると村人が利用するかもしれないと思ったが……こんなところを使う程、今後あの村が発展することは無いだろうし、むしろ今回のことであの村が廃村となる可能性が高いので壊しておいた方が無難なはずだ。



 それから数時間の間、俺は拠点を破壊し続け、おっさんは何往復も拠点と村を行き来した結果、日が昇る前に全ての作業がようやく終わった。

 終わりの方になると、拠点の処理の方が速く終わりそうなことに焦ったおっさんが急に作業速度を上げて対抗しようとしていたが……それでも俺より遅かった上に最後は山賊を運ぶ前にバテて動けなくなり、何故か俺がおっさんと山賊を一緒の荷車に載せて運ぶ羽目になってしまったのだった。

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