第一話
「やはりこの街で間違いないようです」
「この街のギルド長には我々のことを秘密にし、この後の作戦に関しても口外しないようにと伝えて納得させました」
「それなら後は、どうやって確保するかだな……単純な手だが、一番確率が高そうなので行くか。おい、もう一度冒険者ギルドに行って、指名依頼を出してこい。内容はこの街から少し離れたところにある森での採集……いや、調査の方が指名依頼っぽいか。とにかく、ギルド長にそんな感じで話を付けて来い。残っている奴らは、保存のきく食糧の確保だ。この街の近くまで来たという連絡が来たら森で待機するが、相手の行動によっては数日は森の中で過ごす羽目になるかもしれないからな。その時に備えて、全体の食料を十日分、個人用でも数日分は用意するぞ」
「少しいいですか?」
「何だ?」
「森の中は相手の得意とするところ……少なくとも私たちよりは適性が上だと思いますが、森に入る前に囲んだ方がいいのではないでしょうか? もしくは、森の中でも人数を活かせる場所で待ち伏せする……とか?」
「確かに一理あるな……だが、森の手前だと隠れる場所がないし、下手をすると街まで逃げられるか応援が来るか……おい、ギルド長に森の中で待ち伏せと戦闘に適しているところが無いかも確認してこい」
「「はっ!」」
「よし、各々行動開始だ。あまり一度に買い過ぎると怪しまれるだろうから、少量を何度かに分けて集めるんだ。それでも聞かれた場合は、次の目的地への食料だとでも言っておけ」
「「「了解しました!」」」
「問題なくバルムンク王国まで来ることが出来たが……おっさん、ここからどうする? 行きで通った道は、まだ荒れているかもしれないから、場合によっては少し遠回りした方が速く帰れるかもしれないし、追手がいたとしても目くらましになるかもしれないぞ?」
行きの時と同じ道を通ってバルムンク王国に入ったところで、御者を変わるついでにおっさんに質問してみた。
出発時の予定通りに、山越えの道が使えるのが一番早く危険が少ないと思われたが、道が破壊されてから一ヵ月も経っていないので、流石にまだ利用できる状態ではないとのことだった。
「そうだな……確かにこのままバルムンク王国を北上して、マーノ国の真ん中か上の方を通ってスタッツに帰るという手もあるが……バルムンク王国も今代の雷のせいで警戒を強めているかもしれないからな。まずは行きの時と同じ道を通ってマーノ国に入るとするか。その先からは、道の状況を聞いてから決めた方がいいだろう」
ということで、しばらくは来た時の道を通ってマーノ国を目指すことになった。
バルムンク王国に入り御者を交代したことで、緊張が緩んだせいか普段とは違う疲れを感じた。今回の騒動の原因となった、もしかすると同郷かもしれない今代の雷が敵かもしれないという情報は、自分でも知らないうちにストレスになっていたようだ。
そのまま馬車に揺られながらうとうとしている間にいつの間にか本当に眠ってしまったようで、起きた時には太陽がもうすぐ山に隠れるところだった。
「おっ!? ようやく起きたか! 珍しく深く眠っていたな。まあ、ジークの番の前に今日の宿泊地に着きそうだし、道中も特に問題は無かったけどな」
例えそうだったとしても、御者以外でも道中の警戒などの仕事があるので、ずっと寝ていていいというわけではない。
そのことで一応謝っておこうかと思った時、
「おっさん、次の宿泊地にしては着くのが早くないか?」
太陽は山に隠れかけてはいるものの、その山はそれなりに高そうなので、まだ先に進もうと思えば進めるはずだ。
「ああ、そのことだが少し変更した。その理由は二つあって、一つは予定していた街はここからだと少し遠くて、道中で何かトラブルがあれば日があるうちでの到着が難しくなりそうなのと、もう一つはもしかするとこの山を突っ切ることが出来るんじゃないかと思ってな。地図に載っていない小さな村だが、予定していた街に着くのが微妙なら、小さい村でも早めに寝床を確保して情報収集した方がいいからな」
「そうだったのか……まあ、それでも道中の仕事をしなかったのは悪かった」
予定を変えて宿泊地に早く到着したとは言え、それと俺が仕事をしなかったのは別のことなので謝罪すると……
「ジーク……熱でもあるの?」
俺とおっさんの会話を黙って聞いていたチーがそんなことを言いだした。
どう意味だと思いながら自分の額に手を当ててみたが、当然熱などは出ていない。
そんな俺の様子を見て笑うおっさんとチー……フリックは声こそ出していないが、御者席で肩を震わせている。
「いや悪い、ジークがそんな素直に謝るなんて珍しいと思ってな」
「珍しいどころか、私は初めて聞いた気がするわよ!」
おっさんの言葉には少し納得しかけてしまったが、チーは絶対に嘘だろう……いや、もしかすると、チーには謝ったことがないかもしれない。ただそれは、俺がひねくれているというよりも、チーに問題がある気がする。
そう思った時、
「バルトロさん、この村は思った以上に小さいみたいです。多分宿などは無いでしょう」
フリックが馬車を停めて、後ろを振り返って聞いてきた。
「確かにそうみたいだな。あっても、期待できそうにないな……とりあえず、この村の代表に挨拶して、村の中かすぐ近くを使わせてもらえるように交渉するか。少し行って来る」
おっさんが少し面倒くさそうに言いながら、馬車を降りて一人で村に向かって行った。
こういった小さい村だと、余所者を嫌って村に入ることすら拒む場合も珍しくない。ただ、全てがそうだとは限らないので、おっさんはなるべく村人を刺激しないように一人で交渉に行ったのだろう。
「チー、周辺の警戒をしてくれ。ジークはそのまま馬車の中で待機だ。顔は出すなよ」
おっさんが離れて行くのを見て、フリックがすぐに指示を出した。
「了解」
「分かった」
それを聞いて、チーはすぐに馬車を降りて周辺の警戒を始め、俺は先程と同じように馬車の中で横になり、頭から布を被って気配を消した。
チーはどうだか分からないが、もしかするとフリックは遠くから俺たちに向けられている視線に気が付いたのかもしれない。
(気配を感じ取れる範囲内で敵意を向けている奴はいないみたいだけど……気を付けるに越したことは無いか)
そのまま横になって過ごしていると、
「戻ったぞ。結論から言えば、村の中で寝泊まりしていいそうだ。ただ、宿がないしから村の奥の方になるそうだが……どうする?」
森の奥なら獣などに襲われる心配は少なくなるが、何かあった時には逃げにくくなってしまう。
そう言った意味で聞いているのだとしたら、おっさんもこの村には何かおかしいと感じるところがあったのだろう。
「俺たちの戦力なら、奥でも問題は無いと思いますが、何があるか分からない以上は、入り口の近くか外を借りるのがいいのではないですか?」
フリックの言う通り、少しでも危険を回避するのが冒険者としては当たり前の行動だが……おっさんはそれとは別に気になることがあるようだった。
「どうもここの村長とその取り巻きが気になってな」
「それだけでですか?」
チーと同じように俺もそれだけでと思ったが、
「怪しいのは、どちらかというよりも取り巻きの方だ。一見すると粋がっている若造と言った感じだったが、そいつらが村長よりも偉そうにしているように見えたし、村長もどことなく怯えているような雰囲気があった。それに何よりも、目つきがカタギの人間には見えなかった」
おっさんがそう言うなら、まともな村ではないのだろう。ただ、それならこの村をさっさと去ればいいはずだ。それをしないということは、
「バルトロさんは、この村の奴らを助けたいのですか?」
フリックの言う通りということなのだろう。
それに対しておっさんは頷いたが、フリックとチーは反対という態度が透けて見えていたし、俺も当然フリックたちと同じ考えだ。
「三人が反対なのは分かるし、俺も通常なら見捨てて行くところだが……どうやら、俺たちがこの村に来た時点で相手は動き出したみたいでな。俺が村長の家にいる間に、村長の家から数人がこっそりと移動していた。用足しの振りして便所に籠って神具を使って周囲を探ったが、どうやら相手は襲ってくる気満々のようで、聞かれていないと思って俺たちを襲う計画を話していた」
「余程金目の物を持っているように見えたんですかね? ただそうなると、俺たちが居なくなったら、腹いせに村人たちに危害を加えるかもしれませんね」
フリックの言う通り、俺たちが逃げれば当てが外れた奴らが村人を殺すかもしれないが、正直言ってそれは俺たちに関係のない話でもある。まあ、同情はするが、面識のない奴の為に面倒事に巻き込まれてやる理由にはならない。
「ジークは興味なさそうにしているが、少なからず俺たちにも関係するかもしれないぞ」
俺が真面目に聞いていないことに気が付いたおっさんがそんなことを言いだしたので、俺たちにどんな不都合なことがあるのかと思っていると、
「何人いるのかは知らんが、村を支配するような奴らが俺たちを逃したと知ったら、村の異変を報告されて討伐隊を組まれる前に、証人となる村人は全員殺した上で姿を晦ませるだろう。その場合、俺たちが容疑者と疑われる可能性が高い」
「確かに、この村に来る前に何人もの商人や旅人とすれ違いましたし、この村の情報もそんな旅人から仕入れたんでしたね」
「これで村人が皆殺しになんかされたら、確かに私たちが一番怪しいわね……つまり、助けないよりは助けた方が面倒事は少なくなるということ?」
「かもしれないというだけだ。ただ、チーの言う通り一番怪しい……と言うか真っ先に目撃情報が上がるのは俺たちになるはずだ。すれ違った商人たちには、ジモンの方から来たと言っちまったから、簡単に俺たちの素性はバレるだろうな」
おっさんの言う通りになった場合、怪しまれる一番の原因になるのは俺だろうな。何せ、今の俺の大半は自分で作った仮初のものばかりなのだ。流石に今代の黒やヴァレンシュタイン家のことまでは気が付かないだろうが、万が一ということもある。
「確かに、助けた方が面倒事は少なそうだな……それで、おっさんはどうするつもりだ?」
気は進まないが、過去のことがバレる可能性が出るよりはマシだろうと思い、おっさんに作戦を尋ねると、
「それなんだが……正直、あまりよさそうなのがない。一番いいのはこの先の街で助けを求めることだが、証拠がない状況では相手にされないだろう。かと言って、先手を取って敵だけを倒そうにも、どこにどれだけいるのかが不明だ」
「そうなると、多少の犠牲には目を瞑って、出来る限り多くの村人……最低でも俺たちが無実だと証明できる程度の人数を確実に助けるしかないということですか?」
「可哀そうだとは思うけど、それしか出来ないのかしら……」
今回の場合、俺たちは巻き込まれただけなので、まずは自分たちのことを第一に考えながら、犠牲が出るのは仕方のないことだと割り切った上で、出来る限りの村人を助けるしかないと三人は考えているようだ。
確かにその考えは、俺も同じである。ただ、
「なるべく犠牲を出したくないと思っているなら、俺の案を試してみるか?」
俺ならその犠牲を極力減らすことが出来るはずだ。
「あれが村長の家か……人数は五人だな。一人は村長で、おっさんが怪しいと言ったのが三人、残りの一人が敵かどうかだが……まあ、それは直接聞けばいいか」
太陽のほとんどが山に隠れてしまったので、村の中の大半は影が出来ていた。
俺はその影の中を潜りながらおっさんに聞いた村長の家を目指し、一度誰もいない小屋の中で様子を窺ってから、もう一度影に潜って村長の家に侵入した。流石に家の中は影が少なかったので屋根裏に出ると、すぐに家の中で動きがあった。どうやら村長が一人で行動するようだ。
(どこに行く気だ? 怪しい三人の内、誰もついて行こうとしないからすぐ近くだとは思うが……まあなんにせよ、俺にとっては都合がいいけどな)
村長が向かった先は家のすぐ近くの小さな小屋……恐らくは便所だろう。丁度いい具合にドアもあるので、これなら姿を見られる心配は少ない。
「動くな。変な動きをすれば首をかき切る。大人しく俺の話を聞くのなら危害は加えない。分かったなら首を縦に振れ」
村長が小屋に入りドアを閉めたところで、俺は影から出て背後から村長の口を塞ぎ、反対の手で首を触った。
村長は混乱した様子を見せながらも、俺の言う通り大きな音を立てずに首を縦に振った。
「お前がこの村の村長で間違いないな?」
おっさんから聞いた特徴と完全に一致しているが念の為確認すると、村長は頷いた。
「今この村は、余所者もしくはならず者が支配しているのか?」
そう聞くと、村長は少し躊躇した様子を見せながらも頷いた。
「手を放すが、大きな声を出すな。それと、後ろを振り向くな」
俺が手を放すと、村長は俺の言った通りにしていた。
「あんたは一体?」
「俺はさっきの冒険者の仲間だ。そいつがこの村にいるならず者に気が付いてな。襲われると気が付いたから、先手を打とうとしている。それで、どうなってい……いやその前に、お前の家にいるならず者は何人だ?」
あまり時間をかけ過ぎると三人のうちの誰かが様子を見に来そうだったので、先に知りたい情報を聞くことにした。
「あの家には、山賊の仲間が三人いる。家の者は、わしと妻しかおらん」
「この村に、その山賊の仲間は何人入り込んでいる?」
「正確な人数までは分からんが、各家に一人から二人のようだから二十もおらんと思う。ただ、山の方には頭を含めたもっと多くの山賊がいるらしい」
ここにいるのが二十程で、山にはもっと多くいるとなれば、山賊としてはかなり大きな規模になるかもしれない。
「山の奴らとの連絡は?」
「夜になったら家にいる中の一人が向かっている。今回は冒険者が来たと言うことで、早めに行くようなことを言っていた」
それなら、誰かが連絡に行ってから動いた方がやりやすいかもしれない。
「分かった。お前はこのまま戻って、何食わぬ顔して奴らの言う通りにしていろ。ただし、余計なことは一切言うな。その場合は、漏らしたせいで助かる人間が減ると思え」
そう言って俺は、村長を残して屋根裏に戻った。
村長は俺が屋根裏に移動してから少しして戻ってきたが、山賊たちは怪しんだ様子を見せなかった。
それからすぐに、おっさんたちが村長の家に挨拶に来て、村長と山賊の一人が馬車を停める場所に案内に出ると、その間に残っていた内の一人が山の方へと向かって行った。
(作戦開始だな)
俺は、村長の家に残っていた山賊の背後に忍び寄ると、
「きゅ……」
頸動脈を絞めて気絶させ、猿ぐつわを噛ませて縛り上げた。ついでに強めにテラーを使ったので、そう簡単に目を覚ますことは無いだろう。
「あんたが村長の奥さんだな? 俺はこの村に来た冒険者の仲間だ」
その後で、手足を縛られて監禁されていた村長の奥さんを助けた。
「残っていた山賊は動けないようにしているが、近寄らずにそのままにしていろ。もう少ししたら村長が戻って来るはずだから、それまでは部屋の隅にでも隠れていろ」
驚いた様子の村長の奥さんだったが、俺は返事も聞かずに外に出て、
「ダークミスト」
この村を覆うように、魔法で黒い霧を発生させた。
完全に視界を奪う程の濃さではないが、これだけでも俺の仕事は格段にやりやすくなる。
(まあ、並の山賊程度なら、この霧が魔法によるものだとは気が付かないだろう)
そして俺の思った通り、各家に配置されているという山賊どもは、誰一人として攻撃されていることに気が付かずに、一人また一人と俺に無力化されていった。
「馬車はこちらに停めてください。風呂のようなものはございませんが、共同の井戸があちらにございますので、水浴び程度ならできます。トイレは私の家の傍にあるものか、森側の入り口近くにあるものをご利用ください」
「説明は以上だ。ただ、あまり夜に歩き回るなよ」
どうやら村長はジークと接触したようで、こちらに対する態度が大分柔らかくなっていたが、男の方は相変わらず怪しさを隠そうとはしていなかった。
動きがあるとすればそろそろか? ……と思ったその時、
「何だ? 霧か、これ?」
急に黒い霧が、周囲に漂い始めた。
最初こそ、まだ周辺を確認できる程度の霧だったが、一秒ごとに濃くなっていき視界が奪われていく。
「フリック、チー、馬を押さえろ!」
これはジークの仕掛けた魔法だと気が付いた瞬間に俺は二人に指示を出して、霧に意識を取られていた男に襲いかかった。
「村長はその場で伏せていろ!」
「なっ、ごふっ!」
村長に声をかけると、流石に男も迫って来る俺に気が付いたが、気が付くのが遅れたせいで防御にまでは気が回らずに、ほぼ無防備の状態を晒していた。
俺はそんな男の腹に拳を叩き込み、続けて腰が砕けて下がってきた顔面に膝蹴りをかまし、最後に後頭部を押さえて地面に叩きつけると、男は地面にうつぶせに倒れたままピクリとも動かなくなった。
もしこれがイキがっているだけの村の若者だったらただの殺人だが、俺たちを襲うと仲間と話していたので大した問題にはならないだろう。
男を押さえたまま十分が過ぎた頃、
「ようやく霧が晴れて来たな……つまり、この村にいる敵は無力化したということか」
もしかすると、ジークが負けて魔法が解除されたという可能性もあるが……そんな可能性は、万が一もない。
「おっと、こいつはもう死んでいるみたいだな。村長、こいつは敵で間違いなかったな?」
「は、はい」
これで何も問題が無かったと証明されたが、この村にいるのは山賊の一部なので、次は別の問題を解決しなければならない。
「まずはジークと合流するか……フリック、馬に問題は無いな?」
「はい、視界が奪われる前に手綱を押さえたのもありますが……この二頭、かなり図太い性格をしているみたいです。周囲が見えない状態にもかかわらず、地面に生えている草を食んでいましたよ」
なんだそれは? ……と思ったが、馬車馬としては満点だろう。下手に暴れられると、森にいるという山賊たちに異変を気が付かれたかもしれないし、暴れたはずみでフリックとチーも怪我をしたかもしれない。
「それならここに置いておくよりも、一緒に連れて行ってもいいかもな。フリック、ジークと合流するぞ。多分村長の家辺りにいるだろう」
村長の家はこの村の中心辺りに建っているし、何よりも合流するとなれば一番分かりやすいところだろう。
そう思って、村長を馬車に載せて移動したのだが……村長の家にはジークが居なかったその代わり、
「あんた!」
軟禁されていたという村長の奥さんが家の前で待っていた。
多少やつれているようだが、大きく健康を損なっているというわけではないようだ。
「奥さん、喜んでいるところを悪いんだが、もう一人髪の白い奴がいたと思うんだが、そいつがどこに行ったか知らないか?」
「あっ! すいません、その方はその……森の方に行って来ると言って消えまして……あの、本当に少し目を離した隙に消えたんです! それで、他の家に縛り上げた賊がいるから、自分を迎えに来た人たちに回収しておいてほしいとも言っていました」
あの野郎、一人で突っ走りやがって……まあ、どれほどの悪党かは知らないが、ジークが敵に回った時点で運の尽きだったということか。出来れば、盗賊の親玉かそれに近い立場の奴をニ~三人生かしておいてくれると助かるが……ジークの気分次第じゃ、どうなるか分からんな。
「とりあえず、ジークには帰って来てから注意するとして、俺たちはジークの後始末に行くぞ。もっとも、後始末と言っても、この様子じゃ誰も殺していないみたいだけどな」
村長の奥さんの声が聞こえたからか、他の家から次々に村人が出てきた。
その村人たちからは悲鳴などが一切上がっていないので、他人の家の中を血で汚すようなことは起こらなかったのだろう。
「村長、まずは人を集めてくれ。俺から今回の経緯を話す。フリックとチーは、俺が説明している間に各家に放置されていると思われる山賊の一味の状態の確認だ。ジークのことだから動けなくしているだろうが、もしも反撃されそうになったら、引き渡しなどということは考えずに始末しろ」
「「はい」」
もし仮に動ける奴がいたとしても、ジークに襲われた後では大したことは出来ないだろうが、ちょっとした怪我が原因で大事になるというのは珍しいことではない。そうなる可能性があるなら、確実に動けなくした方が安心だ。
「さて、ジークはどれくらいで戻って来るのかね?」
夜でしかも視界の悪い森の中という、少なくとも俺なら絶対にジークを敵に回したくない状況が揃っているわけだが、ジークの存在も含めてそんなことを一切知らない山賊たちは、何人が五体満足でいられるのか少し興味が湧いてきた。
ちなみに、その話をフリックとチーにすると、
「「ゼロ」」
という答えが返ってきて、三人の予想は一致した。