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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第三章
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第十七話

「いえ、俺もそれなりにやり返しましたし、当人たちから謝罪も受けていますので」


 頭を下げた組合長の奥さんたちにそう返すと、


「正直に言いますと、そちらの方はついでです。あれはあの人たちの自業自得でしたので。ローズに無理言ってこの場を設けさせていただいたのは、別のことでお礼を言う為です。ただ、先に私たちからも関係者として謝罪しなければと思っていましたので」


 奥さんは、組合長のしたことに関しては自業自得と割り切っているらしく、それとは別に自分たちも関係者として今回のことで謝罪しなければと思ったそうだが、それ以外にも理由があるらしい。

 この時にはフリックとチーは椅子に座り直していたが、驚いて立ち上がったことをおっさんにからかわれていた。


「今回の加害者()()に対し、賠償を求めないと聞きました。そのことについて、私たちはお礼を申し上げに来たのです」


 と言うのが、今回会いに来た理由とのことだった。

 別に俺としては大したことではないし、礼を言われるほどのことでもないと思ったのだが、


「ジーク、ちょっといい? 自己責任が主流の冒険者だとあまりなじみがないかもしれないけれど、この街だと犯罪者家族も何かしらの罰を受けることがあるのよ。特に今回のように、長期にわたって犯罪を行っていた者が家族と近い場所で暮らしていたり、何らかの恩恵を受けていたと思われる場合は特にね」


 と、ローズさんが教えてくれた。分かりやすく言うと、共犯の可能性があると判断された場合ということだろう。


「連座と言うやつですか? 貴族なら珍しい話でもないですけど、この街では一般人にも適用されるんですね」


「ええ、そうなのよね。ただ、古くからある町や村なんかだと結構ある話ね」


 まあ、村八分と言った感じの古くからある悪しき慣習なのだろう。


「ローズの言う通りです。今回の場合、違う国のジークさんが標的にされたことで、下手をすると国際問題にもなりかねませんでした」


 国際問題は大げさに聞こえるが、ジモンの領主と代理も関わっている事件に巻き込まれている以上、スタッツからも正式に抗議される可能性もあり、そこから国同士のやり取りになる可能性も考えられないことも無い。


「つまり、俺が俺に関する事件について、襲ってきた男の家族は関係ないと言ったことで、連座ではなくなったというわけですか?」


「そうなります。今回の事件で、あの子……ジロは自業自得です。むしろ、命があるだけありがたく思わなければいけないというのは、私たちも分かっています。ただ、それでも昔から……それこそ、産まれた時から知っているジロがあのようなことになったのは、正直言って信じられません。まだ心の整理がついていない者がほとんどでしょう」


 まあ、俺にしてみればあの男と関わったのは二回で、ダイカイギュウが港に現れた時と襲われた時だけだ。

 その為、あの男に関しては俺を殺そうとした奴としか思えないが、組合長の奥さんたちからすると自分の子供に近い感情があるのかもしれない。


「そして、ジロの兄も私たちは生まれた時から見ていますし、二人の母親はこの街の生まれです。そんな二人まで()()()()()()()()()()ジモンを去ることになったら……悲しみのあまり、旦那を捨ててどこかへ旅立つことになっていたかもしれません。皆で」


 それはただの旅行じゃないのかと思ったが……目がマジだったので、組合長を捨てるのは本気のようだ。まあ、もう少し組合長がしっかりしていたら、あの男の犯行は事前に防ぐことが出来ただろうし、少なくともあの男の兄と母親が出て行かなくても済んだかもしれない。


「それに、組合のことは男に任しておけ! とか言って威張っていたくせに、帳簿もまともに付けることが出来ていなかったということですから……そのせいで、ジロが欲を出したとも言えますからね。まあ、ジロが歪んでしまったのは目を光らせていなかった旦那のせいでも、まともに付けられていなかった帳簿のせいでもないんですけどもね」


 元々欲望が強かったところに悪い奴らに付け込まれ、更には不正のしやすい帳簿があったことで犯罪に走ったとしても、全ては誘惑に負けたあいつが悪いのは間違いがない。

 ただ、それはそれとして、納得できない分の憂さを旦那たちで晴らしたいのだろう。


「そのことで、実はジークさんにお願いがあります。厚かましいかもしれませんが、漁業組合に今後の不正防止策として、外部の人間を入れるように提案しているのですが、それに賛同して欲しいのです」


「何故ですか?」


 漁業組合の健全化は俺にとって無関係のことなのだが、何故それを俺に賛同して欲しいのか聞いてみると、


「ジークさんが賛同すれば、旦那たちは負い目がある以上無視することは出来ません。それに今回のことで自分たちに帳簿を管理する能力が欠けていると理解したことで、恐らくはその提案を受け入れないといけないでしょう。そこに私たちが入り込みます」


「あなたたちだと、外部とは言えないのでは?」


 身内が入れば、もっと不正の温床と化しそうな気がするのだが……と思い聞くと、


「どの道、今の状態の漁業組合に外部の人間を入れても、健全化するどころか悪い方に転がる可能性の方が高いでしょう。そうなるくらいなら、私たちが組合で絶対的な立場を得て、旦那たちの根性を叩きなおした方が安全です。まあ、いずれ私たちは立場を放棄しなければならないでしょうが、放棄するころには大分マシな組織になっているはずです」


 確かに、漁業組合に入れる外部の人間となれば、普通に考えると領主か冒険者ギルドか商業組合の人間になるだろうが、前の二つは信用できる奴はいないだろうし、商業組合だと漁業組合が傘下にされかねない。それくらいなら漁業組合の身内でまともそうなのを入れた方がいいという考えだろうが、俺一人が賛同したからと言って決まる話でもない。

 それでも頼むということはすでに別の賛同者を得ていて、俺にその後押しになって欲しいのかもしれない。

 そして、それは当たっていたようで、


「ジーク、新しいお客さんよ」


 誰かがこちらに向かってきている気配を感じたと思ったら、ローズさんが新たに二人を連れてきた。

 その二人とは、


「グランドとアキノが俺以外の賛同者というわけですか……」


 思いっきり漁業長の身内が賛同者だが、確かにこの二人なら冒険者ギルドと商業組合での発言力が高いので、二つの組織も二人の顔を潰してまで漁業組合に介入しようとはしないはずだ。まあ、ある程度は二人を通して要求してくるだろうけど、組織の息のかかった奴が入るよりはマシだろう。


「まあ、ジークの言いたいことは分かるが、漁業組合をいいようにさせるわけにはいかんし、何よりもお義母さんに頼まれると断れなくてな」


 グランドは少し恥ずかしそうに説明しているが、アキノの方は黙ったままだった。

 多分アキノは、母親が相手ということで俺以上に弱みを握られているのだろう。


「そちらに手を貸したとして、何か得るものがあるんですか?」


 身内である二人はともかく、俺としては手を貸したからと言って何かが得られるというわけではないので聞くと、


「それに関してはもちろん用意しております。何でもジークさんは、アキノに色々なものを送って貰うようにしているそうですが、その中に私たちからの贈り物入れさせていただきたいと思います。具体的に言いますと、ジモンや周辺の町や村で作られる特産品になります。あまり高価なものとは言えませんが、少なくとも商業組合が用意するものよりは高品質なものを揃えることが出来ると思います」


 と奥さんが説明すると、アキノが顔を強張らせた。何せ特産品は、アキノと約束したものの一つだ。自分が用意できるものよりも高品質となると、アキノはそれ以上かそれ以外でもっといいものを用意しなければならなくなる。


「この子もジークさんに色々と迷惑をかけたみたいですから、ジークさんの期待に応えることが出来るように張り切っているでしょうし、私どものものと合わせれば、かなり豪勢な贈り物になるはずですが、いかがでしょうか? それと送る期間は、私たちが漁協組合で得た立場を辞するまでと考えています」


 奥さんの言い方だと、送られてくるものの量はアキノよりも少ないみたいだが、期間が長そうなのはかなり魅力的だ。それに、少し協力するだけの報酬としては破格と言える。


「分かりました。喜んで協力させていただきます。ただ、俺が口出すとややこしいことになりそうなので、俺の意見はグランドとアキノの意見と同じということにさせていただきたいです。二人の意見があまりにも突拍子のないものなら困りますが、基本的に俺は口を出さないということでどうでしょうか?」


 あまりにも度が過ぎた内容なら看過しないが、大抵のことは俺の名前を好きに使っていいという意味を込めて尋ねると、奥さんは笑みを浮かべて了承した。

 どうやら奥さんとしても、名前は借りたいが口は出してほしくないと思っていたようで、すんなりと契約をまとめることが出来た。


 おっさんたちはまたもや呆れた顔で俺を見ているが、互いに損はなく犯罪を行うというわけではないので、至極真っ当で有益な取引である。それこそ、俺がこれまで行った取引の中でも、一番と言っていいくらいだ。


 それに最大の収穫として、漁業組合の奥さんたちとはいい友好関係を結べそうだと分かったことだ。

 これでこの街にいる間、海産物を気軽に買いに行くことが出来る。まあ、それを見た組合長たちがどんな顔をするかは知らないが……俺には関係ないし、流石にただの客に嫌がらせをするとは思えないので、買い物に行った際にはゆっくりと店を回らせてもらおう。


「うわぁ……ジークが悪い顔してやがる……よかったなグランド、あの状態のジークが敵じゃなくて。あの状態だったら、体だけじゃなくて尊厳すら破壊されて、心身共に再起不能に追い込まれていたかもしれないぞ」


「いや、流石にそこまではしないと思いますが……」


「甘いわね。あなたはまだジークのことを分かっていないわ。ジークはね、やる男よ!」


 またおっさんがくだらないことを言い、遠慮がちに否定しようとしたグランドに対し、今度はチーが何故か自信満々に格好つけながらよく分からんことを言っていた。

 なんだか最近、おっさんが俺をいじることが多くなった気がするが、わざと俺を怒らせるだけでなく、今回のように周りを巻き込む(巻き込まれたのはグランドだけで、チーは勝手に交ざって来た)など、時折何がしたいのかと思う時があるが……まあ、それだけ俺をからかいたいのだろう。

 なら、俺も()()()応えてやらないといけないだろう。


 というわけで、こっそりとアラクネの糸(大型の熊の身動きを封じるくらいの強度)を芯にしたシャドウ・ストリングを、チーとはしゃいでいるおっさんの背後に回し……


「ぬぁあああーーーー!」

「一丁上がり……ってとこか」


 縛り上げた上で天井の梁から吊るした。ただ、吊るすと一層うるさくなったので、


「これで良し」


 口も猿ぐつわを噛ませる感じでぐるぐる巻きにした。まあ、まだうるさいがさっきよりはマシなので、このままにしておいても問題ないだろう。それに、我慢できなくなったらサンドバッグにして静かにさせればいいし。


 そう思いながら吊るされたおっさんを見ると……おっさんは青い顔をしながら震えていた。ついでにチーとアキノも。


「あ~……まあ、割といつものことだから、気にしない方がいいです……よ?」


 フリックが状況についていけていないグランドや奥さんたちに説明していると、


「ジーク、そろそろ……」

「帰ってくれって、ママが……」

「お母さんはそんなこと言ってないから! アリスは嘘をつかない!」


 いつの間にか仕事に戻っていたアリアとアリスが部屋に入って来た。

 どうやらそろそろ時間が近づいているようで、二人が声をかけに来たようだが……アリスはローズさんの名前を使って嘘を付いた為、皆の前でアリアに怒られていた。もっとも、うるさくしてしまったので本当にそう思っている可能性もあるが、流石にそれを聞くわけにはいかないので真偽は不明のままだ。

 

 しかしながら、これ以上居続けるのは確かに店の迷惑になるので、奥さんやグランドたちと共に店を出たのだが……


「ジーク! おじさん忘れてるよ!」

「おじさん置いて行かれても困るよ!」


 店を出てすぐにアリアとアリスが追いかけてきて、俺は()()()()を忘れていたことに気が付き、店の中に戻ったのだった。



「危うく()を忘れるところだった」


 無事にアラクネの糸を回収した俺は、歩きながら糸巻きにアラクネの糸を巻きなおしていると、


「ねえ、ジーク……その糸って、時々使っているのを見るけど、何の糸なの? 少なくとも、一般的に売られているものじゃないわよね?」


 チーが興味深そうに俺の手元を覗き込んで来た。


「確かに俺も気になるな。バルトロさんはああ見えてかなりの力持ちだし、その動きを完全に封じ込めるとなると、かなりの強度があるということだ。なのに、俺の知っているどの糸よりも細いように見える……」


 それに釣られてフリックも近づいてきたが、糸の正体に心当たりがないようだ。


「つまりは、基本的に市販されることのない糸……魔物の素材ということだろう。でなけりゃ、俺があんな簡単に動きを封じられるか! しかもそれ、聖女の嬢ちゃんとダンジョンに行った時に、俺の動きを封じたのと同じやつだろ? あの時も思ったが、あれほどの強度を持っていて大量に集めることが出来るものとなると……ずばり、芋虫系の魔物の糸だろ?」


 おっさんの指摘に、チーとフリックは、「確かに!」「なる程……」と感心していたが、


「どうだろうな? おっさんが身をもって体験した通り、俺の大事な武器の一つだからな。そう簡単に教えることは出来ないに決まっているだろ?」


 と俺が返すと、


「図星みたいだな」


 などと、勝手に盛り上がり始めた。

 まあ、確かにおっさんの言う通り、芋虫系の魔物の中にはアラクネ程ではないが丈夫で長い糸を吐くのもいるが、芋虫系の魔物の糸は丈夫ではあるものの火に弱くて摩耗しやすいという欠点がある。

 もっとも、それはあくまでもアラクネの糸に比べてということなので、仮に俺がアラクネの糸の代わりに芋虫系の糸を使ったとしても、おっさんを拘束することは可能だ。

 それに、()()本数を変えれば、簡単に強度を上げることが出来る。

 ただし、アラクネの糸と同じ強度を得ようとすれば、元の太さの倍以上になってしまうだろうし、太くするにつれて柔軟性が失われていくので、巻き付けた際に緩みやすくなってしまうかもしれない。

 おまけに一度撚る毎に長さ(もしくは出来上がった際の本数)が半分になっていくし、俺は使う用途によって太さを変えているので、その分だけ大量の糸が必要になってしまうだろう。

 まあ、それでも糸をシャドウ・ストリングで操る戦法は戦闘の基本の一つになっているので、芋虫系の魔物の糸を予備として確保することも真剣に考えた方がいいかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、丁度糸を巻き終わったタイミングで宿に付いたので、俺は受付で鍵を受け取ると、そのまま速足で部屋に戻って鍵をかけて寝ることにした。

 鍵をかけてすぐにドアを何度もノックして来た奴がいたが、そのまま無視して布団に潜り込んでいると、やがて諦めて俺の部屋の前から去って行った。


 そして次の日、朝早くから俺一人で港へ散歩に行ってみると……俺を見つけた漁業組合の奴らが複雑そうな顔をしていた。まあ、それは当然だろう。

 俺自身、あまり歓迎されないだろうというのは分かっていたし、直接何かされそうという感じではないので、今のところは無視でいい。

 それに、今日ここまで来たのは漁業組合に用があるからではない。


「あらジークさん、朝早くからいらっしゃい」

「おはようございます。今日は海産物を買いに来まして……今の時間なら、まだ魚は置いていますよね?」


 俺のお目当ては、組合連中の奥さんたちがやっている店だ。

 最初に会った店とは違うところなので少し道に迷いはしたが、昨日のうちに場所を聞いていたので無事に辿り着くことが出来た。

 この間は加工品しか買えなかったが、今日は舟が出ていたみたいだから何かしらの魚が入ってきているだろうと思っていたのだが……俺の予想は当たっていたようで、奥さんはにっこりと笑って生け簀を指差した。


 その生け簀を覗いてみると、中では生きのいい魚が泳いでいたが……


「思っていたより少なかったですか?」


 奥さんの言う通り、生け簀の中で泳いでいたのは十匹程度しかいなかった。

 すでに売れてしまったのかと少しがっかりしていると、


「実はそこにいるのは今日取れた魚の見本なんです。この場所は海から少し離れているので、ここでは見本となる魚だけを泳がせておいて、残りは海のすぐ傍か海上の生け簀で泳がせているんです」


 と、奥さんは笑いながら説明してくれた。


「なる程……と言うことは、今日の生け簀にいるのはこれくらいの質の魚ということですか?」


 パッと見た感じでは、どれも少しやせ気味かなという感じで、どれもこれくらいの魚なら、少し高くなっても他の店も見てみるか……と思っていると、


「安心してください。ここにいるのは今日取れた中で、下から数えた方が早いくらいのものです。ここで魚の種類と数を選んで代金を払っていただくと、こちらの札をお渡しします。これを持って港に行くと、そこでお買い上げいただいた魚と同じ種類の中から、好きな魚をお選びいただくことが出来るのです」


 この店の仕組みを教えてくれた。

 確かにこの方法なら、魚を長く活かすことが出来るだろう。ただ、魚の中には活〆にした方が美味くなるといわれる種類もいるものの、〆た後で鮮度を保つことが出来ないと意味がないので、全て活かすか加工して販売しているのだろう。

 まあ、俺にはマジックボックスがある為、鮮度の良いうちに活〆にして保存することが可能なのだ。

 なので買えるだけ買っておくというのもいいが……それだと俺はともかく奥さんたちが困りそうなので、何回かに分けて買い集めるのがいいだろう。もっともそれとは別に、加工品の方も買いたいのでこの間のもの以外で何かないか聞くと、イワシの塩漬けがあることにはあるそうだが商品としては未完成だそうで、そのまま数か月位常温で保存すれば魚醤になるそうだ。

 あまり使ったことは無いが、新しい調味料はかなり魅力なので欲しいが……マジックボックスだと発酵が進まないので、俺にとって相性が悪い調味料だといえる。しかも、完成品は丁度売り切れとのことだ。

 しかしながら、スタッツに帰れば拠点があるので何とかなるだろうと思い、一壺だけ買ってみることにした。


 そして、いよいよ本命の活魚を買うことにしたのだが……その半分以上は俺の知っている(前の世界と全く同じ)魚で、名前まで同じだったのには驚いた。

 ただまあ、流石にフグのように毒のある魚は置いていないとのことなので、基本的に生け簀に入れる魚は生でも食べることの出来る種類にしているそうだ。

 その中で俺が選んだのはスズキとブリ、それと大型の黒っぽい魚だ。


 スズキとブリは今回大量だったらしく、いつもより大きな個体も多かったそうだ。ただ、その中でも大きすぎるものは個人では使いにくい為、売れ残りやすい傾向があるとのことだった。

 なので今回捕れたその黒っぽい魚も残っており、味も淡白でくせがないとのことだったので買うことにしたのだ。

 合計で十匹近くの大型魚を買ったわけだが、流石に個人が買うには多かったので驚かれてしまったものの、独自の保存方法があると告げると納得してくれた。


 そして代金を払って引換札を貰い港へ向かおうとすると……奥にいた漁業組合員の身内だという人が案内してくれることになった。

 生け簀の置いてある場所は近いそうなので、道順を教えてくれれば行けると思ったのだが、その生け簀のところにいるのは組合員とのことだそうで、揉めないようにする為だそうだ。後、俺が奥さんたちの方に付いたと知らしめる意味もあるそうだ。


 そしてその心遣いは、十分すぎる効果を発揮した。

 その理由はと言うと、俺が生け簀に近づくと担当をしていた組合員が敵意を向けてきたのだが、ついて来てくれた女性が睨むと一発で大人しくなり、言ってもいないのに一番いいものから見繕ってくれたのだ。

 まあ、その中の何匹かは女性が他のものと取り換えていたがわざとではなかったらしく、担当の組合員は少し落ち込んでいた。

 ちなみに、帰る時に分かったことだが、この女性と組合員は姉弟とのことで、あの組合員は姉であるこの女性に全く頭が上がらないとのことだった。

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