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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第三章
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第一話

「新入り、いいこと教えてやる、ちょっとこい……なぁに、別にそれで金を取ろうとかしないって。むしろ、お前が知っておかなければ俺たちも巻き込まれるかもしれない話だ」

「はぁ……」

「いいか、この街には……まあ、どの街でもそうだが、敵にまわしちゃいけねえ奴ってのがいる。代表的なのが、ギルド長のジュノー、商業組合のベラドンナ、スラムの顔役のモニカだ。冒険者がギルド長を敵にまわしちゃいけねえってのは、言われなくても分かるな? 商業組合も何となくわかるだろ? あいつらに嫌われたら、日々の暮らしがきつくなるからな。それでモニカだが……考えようによっては、こいつが一番厄介だ……あまり理解できていないみたいだが、お前、一般人とスラムの住人の区別がつくか? そりゃあ、ボロボロの服でいかにも貧乏ですって恰好ならいいが、中には普通以上の暮らしが出来るのに、わざとスラムに住んでいる奴もいる。そう言った奴は大抵訳ありで、スラムでしか住処を得ることができないような危ない奴らだ。そして、そう言った奴らを含めて、スラムの住人の横の繋がりは強い。似た者同士の仲間意識と言うのもあるが、スラムが無くなれば寝るところすらなくなるから、外からの敵に対してはどれだけ激しい殺し合いをしていても、一時中断してまでスラムを守ろうとすることも珍しくない程だ。ここまで言えば、そんな奴らの顔役に何かあれば、スラム全体を敵に回すかもしれないと言うのは分かるな」

「はい。アドバイスありがとうございました」

「いや待て、最低でもその三人を覚えておかなければならないが、冒険者にも危ない奴がいる。まあ、冒険者で危なくないとかいう奴の方少ないかもしれないが、このギルドで特に気を付けるのは二人だ。一人は五つ星のバルトロ。こいつはギルド長の兄貴だが、全てにおいてギルド長の味方をすると言うわけではない。むしろ、冒険者たちの側に立つことの方が多いが……それでも、完全に冒険者の味方というわけではない。この国でもトップクラスの実力者が敵に回ることになれば、余程運がよくなければ生き残ることは出来ないだろう。だから、それを頭に入れておけば危なくはないし、それどころか色々と勉強になる」

「はぁ……まあ、確かにそうですね。それで、もう一人は?」

「ああ、そいつは……丁度来たな。あいつだ。あの灰色の髪の男だ」

「灰色の髪の……若くないですか? 俺とそう変わらないみたいですが?」

「ああ、バルトロが話しているのをちょろっと聞いただけだが、歳は十七くらいだそうだ。このギルドでも、下から数えた方が速いくらいの若さだな。だが、多分あいつが一番ヤバい」

「そのバルトロさん……よりもですか?」

「多分な。あいつはソロで動くことが多いせいで、誰かと組んで依頼をこなすことはほとんどないから、実際に戦っているところ俺は見たことが無いが、組んだことのある奴は揃って強いと言うな。中でもバルトロは、自分よりも強いとまで言って、それを隠すことなく周囲に広めている。まあ、大げさに言うこともある奴だから、どこまで本当のことか分からないが……話によると複数の属性魔法をかなりの威力で使えるらしく、さらには接近戦にも強いそうだ。複数の冒険者の証言だから、バルトロの言っていることも完全な嘘ではないはずだ」

「へ~……天才って、やっぱりいるんですね」

「まあ、確かに才能はすごいものを持っているんだろうが、結局のところはそれを活かせるだけの努力は必要だから、ジークが才能に頼っているだけの奴とかいう変な勘違いはするなよ。だが、ジークがヤバいのはそれだけでなく、最初に言ったベラドンナとモニカにかなりの影響力を持っているというところだ。その二人はジークを妙に気に入っているし、ジークも二人に対してかなり気を許しているみたいだからな。下手にジークを敵に回すと、その二人もいい気はしないだろう。それと、本当かどうかは知らんがギルド長の弱みも握っているらしい」

「うぇっ! それって、この街の支配者にもなれるんじゃ……」

「まあ、なれないことも無いだろうな。ただ、本人はあまり他人とつるむのは好きじゃないらしいし、むやみやたらに周囲に対して喧嘩を吹っ掛けるような奴じゃないから、関わらないか普通に接していれば問題は無い」

「そうなんですか。でも、怖いからあまり関わらないようにしようかな……なんて」

「まあ、それでもいいと思うが、顔を合わせたら挨拶くらいはするようにしろよ。でないと、ジークだけでなく、他の冒険者ですら誰も助けてくれなくなるからな」

「はい、そうします。ありがとうございました」





「ジーク、ちょっと長期の依頼を受けて貰えないかい?」


 クレアの騒動から一年以上経ったある日、ばあさんが唐突にそんなことを言いだした。ちなみにクレアたちは、ダンジョン攻略から一か月以上もスタッツに滞在して、それなりに信用を回復することができていた。


「半年くらい前から研修に来ている双子を、そろそろ戻そうかと思ってね。その護衛をお願いしたいのさ」


 ばあさんの話では、知り合いの店から預かっている双子が戻るのと同時に、この娼館で働く数名がその店に移籍するので、道中の護衛を俺に頼みたいそうだ。一応、ギルドで他にも数人の冒険者を募集するそうだが、顔見知りが一人でもいた方が安心するだろうとのことだった。

 長期と言うのは、その知り合いのところまで数百kmはあるらしく、馬車で移動しても片道二週間以上はかかるからだそうだ。


「最低でも一か月はかかるのか……別にいいけど、その依頼を受けるとなると、多分俺は一か月では帰ってこないと思うぞ」


 この辺りの依頼や探索には最近少し飽きていたので、丁度行動範囲を広げようと思っていた。なのでこの話は、俺にとっても渡りに船と言ったところだ。


「それは構わないよ。例えジークが数か月帰ってこなかったとしても、向こうとは定期的に手紙でやり取りしているからどうなったかは知ることは出来るからね。ただ、帰ってこないと、成功報酬は渡せないよ」


 依頼料は金貨四枚(日本円で、大体四十万円くらい)で、前金で金貨二枚が払われるそうだ。

 冒険者を一か月近く雇うにはかなり安い金額だが、道中は基本的に整備された道を移動するので危険は少ないし、食料などもある程度用意してくれるそうだ。それに、道中では護衛に支障がない範囲で他の依頼も受けてもいいらしい。まあ、高額の依頼は受ける暇はないだろうが、それでもやりようによってはかなり稼ぐことも可能だろう。例えば、目的地の途中にある街への配達や、行商人のようにその土地の名産品や特産品を他の街に持っていくなど。ただ、後者は下手をすると商人などに目を付けられる可能性もあるので、目立ち過ぎないようにしないといけないが……それでも儲けは期待できるし、何よりもバレなければいいのだ。


(マジックボックスがあれば長期保存が可能だから、この際そっちの商売も始めようかな?)


 ばあさんに頼めば、商人の組合に加入することも出来るかもしれない。そう思って相談すると、


「そう言うと思って、知り合いに頼んで推薦状を書いてもらったよ。これに名前を書けば、ジークは冒険者兼商人だね。まあ、商人に関しては見習いと言ったところだし、やり過ぎれば目を付けられるのは変わらないから、十分気を付けるんだね」


 すでに俺が名前を書けばいいだけの書類が用意されていた。まあ、ばあさんにとっても俺が商人の組合に入るのは好都合なところがあるんだろうし、冒険者と商人を兼業する者はそう多くはないものの、そこまで珍しいと言う程でもないそうだ。

 そして何よりも、俺にとって最大のメリットが他にもある。それは、


「ジーク、これで商人としての()()()を得たわけだけど、くれぐれも悪用するんじゃないよ。もし悪用すれば、すぐにでもこの国の商人に悪事が知れ渡るし、他の国にも広がるからね。それに、私の信用にもかかわる……分かったね」


 冒険者以外の身分を、正式に持つことができると言うものだ。まあ、ばあさんに迷惑をかけない為にも、阿漕な商売は出来ないが……バレなきゃ問題ない。もっとも、阿漕な真似をしてまで商人として金を稼ごうとも思わないけどな。


「それで、組合に入って商人になれたのは分かったけど、税金とかはどうなっているんだ?」


「ジークの場合、三年に一度身分証の更新義務が発生して、更新時に金貨三枚が必要になるね。これは分割も出来るから、一年に金貨一枚必要と思っていたらいいよ。でも、更新してすぐに身分証をはく奪されたとしても、金は戻ってこないから気を付けな。後、店を構えた場合も別に発生する。これは出店であっても同じだよ。ただ、税率は変わるけどね」


 はく奪に関しては、組合の信頼を大きく損ねるような行為(主に年単位で投獄されるような重罪)などを犯した場合だが、組合の幹部たちの話し合いによって決まるので、明確な基準があるわけではないそうだ。

 店に関する税金も店の規模や売り上げによって変わるので、組合に要相談とのことだった。


「それと、組合でも販売や買取りをやっているから、利用する時に税金がかかるね。ただ、何かあった時は組合が間に入るから、トラブルを避けたいときは便利だよ。まあ、そう言った時の為のものだね」


 ある程度のベテランになるとあまり利用しなくなるそうだが、新人は買い叩かれたり高値を吹っ掛けられたりする心配がないのでよく利用するらしい。

 まあ、この街に関して言えば、俺のこと(ばあさんとの関係)を少しでも知っている奴がぼったくろうとするとは考えにくいが、ばあさんの依頼を受けるとなると色々と役に立ちそうではある。更新料も一般的には高額な部類ではあるものの、考えようによってはもう一つの身分が一年で金貨一枚の計算で手に入るのは安いとも言える。

 

「それで、ギルドに出す依頼だけど、これはジークが持っていっておくれ。この依頼を受けるとなると、ジークもギルドに報告する必要があるんだから、丁度いいからね。そのついでに、もしギルドにジークから見ていい人材が居たらスカウトしといてくれ」


 確かに、依頼を出すとなればばあさんかその代理がギルドに依頼書を提出しなければならないし、その依頼を俺が受けることも報告しないといけないので、俺が依頼書を持っていって手続し、その時に依頼を受ける旨を伝えれば手間は省けるが……省けるのはばあさんだけで、俺のやることは増えるのだが……と思っていると、


「組合の登録の方は私が手続するんだから、それくらいで文句を言うんでない!」

「いや、思いはしたけど、文句は言っていないんだが?」

「あんたの目が文句を言っていたよ。仮にも見習いとは言え商人になるんだから、もうちょっと腹芸を覚えて思っていることを顔に出さないようにしな」


 などと言われてしまった、まあ、そんなこと言われてもとは思うが、確かに手続きの方は書類に名前を書いただけで他はやって貰えるみたいなので、それくらいは引き受けるのが当然かもしれない。


「それじゃ、ちょっと行って来る。募集する人数は、俺の他に四人くらいでいいか?」

「まあ、それくらいが妥当だろうね。ただ、ジークが推薦する冒険者によっては数が減ってもいいけど、最低でも女性の冒険者を一人は入れるんだよ。いいね、絶対だよ!」

「ああ、分かっている」


 そう答えて俺はギルドへと向かった。確かにばあさんの言う通り、いくら顔見知りの俺がいるとはいえ、他が男ばかりというのは精神的な負担も大きいだろう。何せ今回の目的地であるばあさんの知り合いの店は、ばあさんの店と違って女性が性的な接待をすることが禁止されている店なのだそうだ。

 そんな場所に移籍するということは、そういった仕事に疲れたか出来なくなったかと言ったことが考えられる。出来なくなったのが年齢的なものなら、ばあさんもあそこまで念を押すことはないと思うので、考えられるのは精神的なものによる可能性が高い。

 実際に俺も、この店で働いているのにもかかわらず男性が苦手で、単独の仕事をやりたがらないという従業員を何人か知っているし、男に触られて嫌がっているところを見たこともある。

 そう言ったことから、女性をいれなければならないと考えたわけだが……


(問題は、女の冒険者で俺がある程度信用できると言う奴が、一人しかいないということなんだよな……最悪、おっさんかギルド長に頼むか。借りを作るのは嫌だけど)


 この街で……と言うか、俺が知っている全ての女性の冒険者で一定以上信用できるのはチーしかおらず、チーはチーでそれなりに忙しそう(主に、ギルド長の手駒として)な奴なので、一か月近い拘束は難しいかもしれない。そして女性以外でも、俺がチーくらいに信用できそうなのはフリックくらいだ。その下におっさんが来るけれど、あれはギルド長が何らかの理由を付けて依頼を受けさせない可能性が非常に高い。


(こうやって考えてみると、冒険者の知り合いが非常に少ないな……いや、もしかすると、俺が知り合いと思っているだけで、チーとフリックは関わりたくないと思っているかもしれないし……)


 そんな考えが頭をよぎったが、とにかく依頼は出さないといけないのでギルドへ行くと……


「ジ~ク~、なんか面白いことないか~……おっちゃん、暇でな~」


 いつものおっさんが、ギルドで飲んだくれていた。いくらギルド長の兄でこのギルドでトップの冒険者だからと言っても、こんなの迷惑なおっさんは人に迷惑をかける前に外に放り出しておいて欲しい。


「ない」


 手短に答えて、俺はおっさんを無視して受付で預かって来た依頼を出すことにした。すると、


「なんだ、ジーク? 何か困りごとか? って、危なっ!」


 俺が依頼をギルドに出すのが余程珍しいのか、おっさんが背後から忍び寄ってきて俺の手元を除き込もうとした。まあ、近寄ってきていたのは分かっていたので、振り向かずに裏拳を叩き込もうとしたが、惜しくもギリギリのところで躱されてしまった。


「これはばあさんに頼まれた依頼だ。別に俺が出すわけじゃない」


 そう言いながら、書類に必要事項を書き込んでいると、


「面白そうだから、俺も受けてみるかな?」


 などと、おっさんが言い出して、依頼の手続きをしようとしていたが、


「認められるわけないだろう!」


 ギルド長がいきなり現れて、俺が書類を書き終えるのを待っていたおっさんに向かって叫んだ。まあ、ここまでは予想通りだ。ギルド長が俺がギルドに来た時から気配を殺して様子を窺い、依頼書の内容をいち早く職員から報告を受けていることも含めて。ただ、予想ではおっさんはここで引き下がるはずだったのだが、


「ジュノー、俺が冒険者として依頼を受けることに、何の問題があるんだ? 他所の街のギルド移籍するわけじゃないんだから、別にいいだろ?」


 おっさんは引き下がるどころかギルド長に反論し、強引に依頼を受けようと依頼書に名前を書き始めたのだ。

 これには、俺どころか様子を窺っていた職員や他の冒険者たちも驚いていた。何せおっさんは、これまでギルド長の言うことにあまり反論せず、依頼に関してはギルド長の意向を優先していたからだ。まあ、それは俺がこの街に来てから感じたことなので、それ以前ではあったのかもしれないが、職員や他の冒険者の反応を見るからに、珍しいことには違いがないようだ。


「ジークもそう思うよな? ジュノーは兄弟であっても、親ではないんだし」


 そう言っておっさんは同意を求めてきたが、俺は思わず、


「親じゃなくても、保護者みたいなもんじゃないのか?」


 と言ってしまった。兄弟間で、普段どういったやり取りを行っているのかは知らないが、俺がおっさんを見かける時はだらしがない状態であることが多いので、イメージとしておっさんはギルド長に私生活を管理されていると言うのがしっくりくる。そのような考えから出た言葉だったのだが、


「「「ぶふっ!」」」


 ギルドで聞き耳を立てていた多くの職員と冒険者たちにはかなり受けたようだ。よく見れば、ギルド長の口元も緩んでいるように見えた。まあ、すぐに俺の視線に気が付いてそっぽを向かれたので、見間違えという可能性もあるが。


「ジーク……ジュノーが俺の保護者だなんて、あるわけないだろ!」


 そうおっさんは怒っていたが、周りの反応からするとこのギルドでは俺と同じように感じていた奴の方が多かったということだろう。


「くそっ! とにかく、俺は俺の判断でジークの依頼を受けるからな!」

「俺からの依頼じゃなくて、ばあさんからの依頼だからな」


 おっさんはギルド長の言うことを完全に無視し、強引に依頼を受けてしまった。職員としてはギルド長の言う通り、おっさんが依頼を受けない方がよかったみたいだが、おっさんが依頼を受けることに対して正当性のある断る理由が無かったせいで、最終的には受理せざるを得なかったようだ。それに途中から、ギルド長も諦めていたみたいだし。


「よし! これで俺も参加決定だな。ジーク、後何人必要だ?」

「二人は欲しいな。それと、そのうち最低でも女性が一人はいる」


 おっさんはその場の勢いで参加を決めたせいで、ろくに依頼内容に目を通していなかったらしく、女性が必要な理由を話すと、


「それじゃあ、チーが適任だな。確か昨日泊りがけの依頼から帰って来る予定のはずだったから、そろそろギルドに報告しに来るだろう」


 そう言っておっさんは職員の方を見ると、その職員は束ねられていた書類で確かめてから頷いていた。

 

「何でおっさんがチーの予定を知っているのかは聞かないが、チーがこの依頼に適任と言うのはどういうことだ?」

「いた、そこは聞いてくれよ。でないと俺がチーのストーカーみたいじゃないか……ちなみに、チーの予定はたまたま本人から聞いたから知っているだけの話だ。そして、何でチーが適任かというと、単純に目的地がある国がチーの出身国だからだ……だよな?」


「ああ、そうだ」


 おっさんがギルド長に確認すると、ギルド長は少し不機嫌そうな顔で頷いた。まあ、ギルド長からすると、このままだとおっさんに加えて、自身の手駒であるチーも依頼を受けてしまうからだろう。

 しかしおっさんはさらに、


「ついでだ。フリックも誘おうか! あいつならジークも知り合いだし、前に依頼を共にこなしたこともあるから安心だろう」


 まあ、確かに知らない奴と組むよりは、フリックとチーなら不安は少ないしばあさんも納得するだろう。


「俺の方はその人選で問題は無いが……二人がやると決まったわけじゃないだろ? それと、ギルド長の許可は……」


 さっきからおっさんに鋭い視線を向けているギルド長が気になったので聞いてみたが、


「んなもん、あの二人ならやるだろうよ! ……って、まあ確かに聞いてみないと分からないか。だけど、ジュノーの許可などいらんだろ。何せあの二人は、()()()冒険者なんだからな」


 おっさんは二人がギルド長の手駒でああり秘密にしていることを逆手にとって、ギルド長が干渉できないように周囲にアピールした。もしこれで二人がこの依頼を断りでもしたら、ギルド長が何かしらの圧力をかけたと勘繰られるかもしれない……って、それだと、何気にあの二人も断りづらくなってないか?


「ジークもジュノーも、ちょっとこっちに来い……いいか、確認だが、この依頼はベラドンナからのもので間違いないな?」

「ああ、ばあさんから直接頼まれたし、提出した書類の中にはばあさんが書いたものもある」

「それは私も確認した。ベラドンナからのもので間違いはないだろう」

「と、言うことはだ……ここでベラドンナが納得できる奴を出せば、それなりに恩……は感じないかもしれないが、悪く思われることは無いだろう。むしろ、敵対とまではいかないまでも、あまり仲の良くないと思われている相手に対しても、ギルド長は変な制限をかけずに公平な扱いをしたと思われるかもしれないだろ? そうなればベラドンナが何も思わなかったとしても、他の依頼主にはいいアピールになると思わないか?」

「確かに、その可能性はあるが……チーはともかく、バルトロやフリックはこのギルドでも主力と言える冒険者だ。それが二人同時に抜けるのは……」

「それも別に大丈夫だろう。脅威となりえた聖国も、ジークが聖女と懇意にしてくれたおかげで今のところ動きはないし、東の帝国は少しきな臭いがスタッツからは遠く離れている。な、問題ないだろ?」


 俺がクレアと懇意にしていると言うのは大きな間違いなのだが、おっさんとギルド長は気が付いていないようだ。そして、


「分かった、好きにしろ」


 最終的にはギルド長が折れた。


「よし! これであとはチーとフリックに話を通すだけだな!」


 などと言いながらも、おっさんは勝手に二人の名前を依頼書に書き込もうとして、ギルド長に止められていた。

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