第十九話
「あれだけ格好つけておいて、やっぱり戻って来たんだねぇ」
スタッツに戻って俺はおっさんたちと別れ、そのまま娼館の方へ帰って来たのだが……ばあさんと顔を合わせるなり、開口一番にそんなことを言われてしまった。まあ、言われるだろうとは予想していたが、何も最初にそれを言わなくても……と思っていたら、
「まあ、無事に帰って来れたようで何よりだね。お帰り、ジーク。モニカの方にも連絡……しなくても知らせが行くだろうから、呼ばなくてもすぐに来るだろうね。それよりも……後ろにいるのは誰だい?」
ばあさんのせいで、ここまで気が付かないふりをしていた奴らが付いて来ているのを思い出してしまった。
「知らん。俺は少し休憩するから、誰も通さないでくれ」
そう言ってばあさんの横を通り過ぎようとしたら……後ろからベルトを掴まれて進めなくなってしまった。
「ジークさん、ひどいですよ! ちゃんと紹介してください!」
背後からクレアが抗議してくるが、それを無視しようとしたのだが……俺ではクレアの力に勝てず(と言うか、無理したらベルトが壊れてしまうのは確実だった)、仕方なくばあさんにクレア……とその後ろに控えている親衛隊長と女性騎士を紹介することになった。
「ばあさん、こちらは今回の騒ぎの中心になっている聖国の聖女様と、その親衛隊の隊長と騎士Aだ。クレア、こちらは俺が俺が世話になっている娼館の主のベラドンナさんだ。それじゃ!」
足を止めたところでクレアが手を放したので、簡単に紹介してさっさとこの場を離れようとしたが……今度はばあさんに肩を掴まれてしまった。
「ジーク、悦明になってないよ」
と睨まれたところに、
「何でここにこいつらが居るんだい?」
モニカさんまでやってきて騒ぎ、それに反発した女性騎士のせいでかなり混沌とした空間になってしまったのだった。もっともそんな空気の中、原因となったクレアはずっとにこにこと笑っていた。
「つまりクレアたちは、泊っていた宿を追い出されたから、次の宿屋を探している最中ということか……」
何でも、スタッツに残っていた親衛隊の裏切者が宿で騒ぎを起こし、つい昨日追い出されたそうだ。しかも、その際に宿屋の従業員や止めに入った客にけがを負わせ、さらには聖国の威を借りて高圧的な態度で慰謝料と称して金を奪おうとした為、スタッツ中の宿屋から出禁を喰らっているそうだ。ちなみに、その騒ぎを起こした奴らは、騒ぎに気が付いた親衛隊のまともな連中に取り押さえられたそうで、今は身動きが取れない状態で牢屋に転がっているそうだ。
「それにしても、聖国の親衛隊員が地方都市の牢屋に入れられたと言うのは、ちょっとまずいんじゃないかね?」
普通に考えれば、他国のものとは言え犯罪者が牢屋に入れられるのはおかしいことではないが、一応正式な使者である聖女の護衛が牢屋に入れられたとなれば、聖国はどんないちゃもんを付けてくるか分かったもんではない。
そうばあさんが心配していると、
「捕まったのは親衛隊の者だと言うのは、俺も初めて聞いたな。確かに聖国の出身者ではあるようだが、そんな犯罪者が親衛隊にいたという記録はない」
などと、親衛隊長が言い出した。しかも、
「だが、聖国の者が他国に迷惑をかけてしまったのは間違いない。そこで、もしよければ、我々が聖国まで護送しようと思っている。まあ、タダでさえ旅と言うものは危険なものだから、確実に聖国まで連れて行き、裁きを受けさせるとまでは確約できないのが心苦しいのだが……」
とまで言い出した。その言い方だと、親衛隊から出た犯罪者を引き取って無かったことにするつもりとも取れるが……
「そう言えば、いくら強い傭兵団とは言え、慣れないところでは不幸が起こることも珍しくないと聞くけど、あんたらならそんな心配はないんじゃないか?」
と聞くと、
「いや、恥ずかしながら、我々の中には今回の旅が初めてという新参者もいて、そいつらは元からいた者たちとの連携があまり取れていなくてな。勝手な行動も目立つし、どうなることやら……君が言う強い傭兵団がどれくらいのものかは分からないが、それよりも不幸が起こる可能性はかなり高いだろうな」
などと親衛隊長は答えた。不幸が起こるかもしれないと言っているが、この様子だと起こす気満々なのだろう。
「確かに、アンタラに犯罪者を引き渡した方が、スタッツの為にもなりそうだね……面倒くさいが、私からも関係者に話してみよう」
「そうしてもらえると助かります」
親衛隊長の言葉の意味に気が付いたばあさんがそう言うと、親衛隊長は姿勢を正してばあさんに礼を言った。しかし続けて、
「ただ、宿に関しては私が出来ることは無い。私もそっち側の人間だしね」
と、宿についてはけんもほろろに突き放した。
親衛隊長としては、親衛隊から出た犯罪者の話に次ぐ重要事項だっただろうが、ばあさんに全く相手にされなかったのはかなりの痛手だろう。
「それじゃあ、教会の近くの空き地を借りることは出来ないでしょうか?」
続いて女性騎士が、モニカさんにそう提案したが、
「あの辺りを住処にしているとはいえ、あんたらの安全の保障は出来ないね。ただでさえスラムには荒くれ者も多いのに、あんたらは前に揉め事を起こしてくれたもんだから、それをよく思っていない奴らが集まったとしてもおかしくはないね。正直、おすすめはしないし、来てほしくもないね」
と、モニカさんも塩対応だった。まあ、モニカさんにしてみれば、クレアたちは教会を強引にでも取り込もうとしていた輩だから、そんな奴らに近くで寝泊まりされるのは嫌なのだろう。
これで用事は終わったのだろうと判断した俺は、自分の部屋に戻ろうとしたが……
「何でついてくる?」
クレアが俺の後ろにぴったりとついてきた。
「クレアは向こうだ。保護者! 場所が場所だぞ! クレアから目を離すな!」
まだ日が高いので、娼館としての営業開始時間には余裕があるが、その準備に向けて今は色々な人が動き回っている。中にはかなりきわどい恰好の人もいる可能性があるので、部外者をむやみに中に通すわけにはいかない。
俺の言葉に女性騎士が慌ててクレアを回収していったが、クレアは「ジークさんのお部屋で遊びたかったのに……」などと呟いていたが、女性騎士に抵抗することなく元の位置に戻って行った。
強い言い方になったが別に俺は聖国の信者ではないし、親衛隊に払う敬意はこれっぽちも無いので仕方がない。それに、親衛隊は少し前まで敵のような相手だったし。
俺の態度に関して女性騎士は不満気な様子だったが、クレアも親衛隊長も気にした様子を見せなかったので何も言わなかった。
「いつまでいるのか知らないが、寝るところがないなら街の外で野営すればどうだ? 幸い、天気はいいし寝泊まりできそうなテントや馬車はあるみたいだし、何より街の近くなら魔物が出る可能性も少ない。食料は……まあ、何とかなるだろう」
「それしかないか……助言感謝する。邪魔をした」
そう言って親衛隊長と女性騎士は、この場に残ろうとごねるクレアをなだめながら出て行った。
「ジーク、あんた厄介の娘に懐かれたね。まあ、恋愛感情でないだけマシだろうけど」
流石にばあさんは、クレアの行動が恋愛感情からのものではないとすぐに分かったようだ。まあ、
「恋愛というよりは友情……いえ、主人にかまって欲しがる子犬というところですね」
とモニカさんが言うように、あれはどう見ても飼い犬がはしゃいでいるみたいにしか見えない。
「まあ、それもしょうがないのかもしれないね。聖女ともなれば、幼い時から隔離されて、友人……それも同年代で異性、おまけに対等という存在は、教会の上層部が絶対に近づけないでしょうね。いるとすれば、聖女を取り込みたい上層部の子息……もしくは操り人形かしら?」
聖女の血を取り込もうとするなら自分たちの血族か、完全にコントロールできて使い捨てにするのに躊躇うことのないのをあてがうだろう。
「他人のこととはいえ、あまり考えたくない話だな……まあ、そんなことよりも、今は寝ておきたいな」
今回の依頼は多少のトラブルがあったものの、大きな怪我もなく切り抜けられたし新しい魔法のヒントも得ることができたし依頼料もよかった。
そう言った意味では旨味の多い依頼だったと言えるのだが……クレアのせいで精神的にはかなりきつい仕事でもあったのだ。つまり、安全で邪魔が入らないところでゆっくりと寝たい。
「ばあさん、悪いけど起きてくるまで誰も部屋に通さないでくれ」
「はいよ。ゆっくりと休みな」
こうして様々な思惑が混じり込んだ今回の依頼は、収穫はあったもののその代わり変な奴に目を付けられるという結果で終わったのだった。
「ジュノー、今戻ったぞ」
「予定よりもかなり早かったな。もしかして、何か問題でも起こって切り上げたのか?」
ジュノーは冷静を装ってはいるが、俺たちが失敗したのではないかと心配しているようだ。
「安心しろ、全て無事に終わった。まあ、色々厄介なことはあるが、概ねジュノーの期待した通りになった」
「そうか……いや待て、厄介なことがある……だと?」
ジュノーは安心したといった顔をしたすぐ後で、また険しい顔に戻った。
「その前に……ジュノー、人払いをしろ。そして、話が終わるまで絶対に人を近づけるな」
「どういうことだ?」
「いいから、言う通りにしろ」
そう強く言うと、ジュノーは部屋で書類整理をしていた二人と、ドアの前にいた一人のギルド職員に指示を出した。
「ジュノー、上と隣、そして下の奴もだ」
いつもは隣の部屋に一人待機しているだけだったのが、今回は屋根裏と床下にも増えていた。これは俺を警戒しているのではなく、恐らくは親衛隊がらみで用心してのことだろう。
ジュノーが咳ばらいをしてテーブルと数回叩くと三人の気配が消えたが、念を入れて、
「これは、風の結界か?」
風魔法で俺とジュノーの周りに壁のようなものを作った。
「いいか、これから話すのは絶対に秘密にしろ。そして、絶対に守れ」
「どういうことだ?」
ジュノーは俺の言葉に納得出来ていないようだったが、
「いいから、言う通りにしろ。でないと……死ぬぞ。俺もお前も」
軽く殺気を込めて言うと、流石に尋常ではないことが起こったと理解したのか、ジュノーは少し顔色を悪くしながら頷いた。
「まず、調べに行ったダンジョンだが、無事にダンジョン核を破壊することができた。これが証拠だ」
そう言ってテーブルの上に半分になったダンジョン核を置くと、ジュノーはそれを手に取って色々な角度から眺めた。そして、
「これは確かにダンジョン核のようだが、何故半分なんだ?」
「それが俺の取り分だからだ」
そう言うとジュノーは焦った表情になり、
「まさか、残りの半分は聖国に持っていかれたのか!」
と叫んだが、
「いや、陣営で言えば、どちらかというともう半分はスタッツ側が持っている」
「そうか……どちらかというと?」
「ああ、残りはジークが持っている」
そう言うとジュノーは真剣な顔で、
「何か弱みでも握られたか? そうだとしても、パーティーで攻略して得たものを半分も持っていくなど……」
「いや、そうじゃない。ダンジョン核はパーティーではなく、ジークが一人で得たものだ。俺はジークのおこぼれに与っただけに過ぎない」
驚くジュノーに、俺はダンジョン核を体内に隠していたゴーレムの話をした。その際、最初の時は聖女も戦っていたので、俺が先に貰わなければ、最悪の場合この半分は聖国に渡っていた可能性もあるとも。
「つまり、一冒険者であるジークに依頼を出した以上、個人で得たものをギルドが強引に取り上げることは出来ない。しかも、ジークの機嫌を損ねれば、あいつはダンジョン核の半分を聖国、もしくはこの国の上層部に引き渡しかねない……と」
「ああ、そう言うことだ」
俺がジュノーの言葉を肯定すると、ジュノーは少し考えこんで、
「それならバルトロ……ジークを殺して奪い取ることは……」
「不可能だ。俺が絶対に守れといったのは、それに繋がる。もし殺そうと考えているのがジークにバレた場合、俺とお前の命だけでは済まなくなる」
ジュノーの言葉を遮って忠告したが、ジュノーは納得いっていないようだ。しかし、
「ジュノー……ジークの正体は、『今代の黒』だ」
「は? ……なん、だと? 何を言っている?」
さらに続けられた俺の言葉で、ジュノーは思考がついて行かなくなったのか、目を丸くして固まってしまった。
「カロンのことは聞いているな? あいつは力を隠していて、本当は黒のL7だった……らしい」
「らしい?」
ようやく正気に戻って来たのか、ジュノーは俺の言葉に反応して聞き返してきたが、
「本当かどうかは、調べなければ分からんということだ。何せ、ジークに手も足も出ないで負けたからな。マジで、赤子の手をひねると言った感じだった。しかも、それでもジークは全力どころか力の半分も出したかどうかというところだ」
まあ、ジークの方が圧倒的に戦い慣れていたみたいだし、ゴーレムを倒した神具も使っていなかったから、今代の黒としての能力で言えば、半分どころか三割も出していないかもしれないが、実際にジークの戦いを見ていないジュノーには半分と言った方が想像しやすいかもしれない。
「おまけに」
「まだあるのか!」
ジークの正体を知って頭を抱えていたジュノーはまだ続きがあると知って、驚きのあまり椅子を勢いよく倒しながら立ち上がった。
「ジークがゴーレムを倒した時に使ったのは、火の魔法と水の魔法。しかも、見た感じではどちらも最低中級以上の威力で放たれていた」
あくまでも見た感じなので、実際のレベルが中級以上で無い可能性もあるが、それくらいの威力があったのは確かだ。
「ジークは確か……十七だったか? とにかく、本当にジークが今代の黒だとすれば、今代の緑の最年少記録を抜いたわけだ。しかも黒の魔法だけでなく、少なくとも火と水の魔法にも長けていて、武器も体術も人並み以上に使える……さて、ジュノー……一応聞くが、どうやってジークを殺す? ちなみに言っておくが、本当に実行する気なら俺は手伝わないし、逆にジークの方に付く。でないと、この街が滅びかねんからな」
冗談抜きに、今代の黒でなくとも複数の中級・上級魔法を使える奴が全力で暴れれば、街の一つや二つ無くなってしまう可能性がある。まあ、実際には暴れ方によっては街として機能しなくなり、人が去ってしまうことで廃れて消えるという意味だが、ジークの場合は文字通り消えるかもしれない。
それくらい、『今代』とは桁違いの存在であるということだ。
「では、どうしたら……」
「簡単なことだ。何もしなければいい。別にジークを特別扱いする必要はないし、本人も望んでいない。ただ、ジークの正体を誰にも話さずに、過去も探らない。そうすればジークは敵対しない。そう約束している」
もっとも、約束と言っても契約書を使うような正式なものではないので、必ずしも守らなければならないというわけではない……普通なら。
「まあ、俺たちが約束を守ったとしても、ジークが絶対に守るとは限らないが……だからと言って、俺たちから約束を破るという選択肢は絶対に取れない。何せ、ジークが約束を破った時の代償は多少評判が落ちるくらい……まあ、俺たちの命が無くなるかもしれないが、俺たちが破った場合はよくて俺とジュノーの命、悪ければ街の壊滅だからな。しかも代償と言っても、必ずしも評判が落ちるとは限らないからな」
「どういうことだ?」
いつものジュノーなら、それくらいの理由などすぐに分かりそうなものだが、あまりにも想定外のことが続き過ぎたせいで、そこまで頭が回らないようだ。
「簡単なことだ。評判が落ちない方法として、秘密裏に俺とジュノーを始末する……もしくは、俺とジュノーを始末する現場を見た者は全て殺す。今代の黒なら、それくらいは朝飯前だろう」
神具を纏った上で、闇に紛れて背後を付けていたというのに、いつの間にか身動きを封じられた上にナイフを突きつけられていたからな。ジークが本気だったら、あの瞬間に俺は殺されていただろう。
「それは……」
「ジークは後を付けていた俺の背後にいきなり現れたんだが、俺はジークが居なくなったことにも背後に回られたことにも気が付けなかった……神具を纏って最大限注意を払っていたのにな。つまりジークがその気になれば、誰からも見られていない時間が数秒でも出来てしまえば、その数秒で姿を見られることなく俺やジュノーを殺すことができる……かもしれない相手に、本当に喧嘩を売るのか? 少なくともジークはちょっかいをかけなければ何もしないと言ったのに、わざわざ殺される為の大義名分を与える必要な無いだろ」
ここまで言えば、ジュノーも俺たちに残された選択肢がどんなものか分かるだろう。
「確かに、命を握られているようでいい気はしないが……ジュノーはこれまで何度か同じことをやってきているだろ? それが自分に返って来ただけだ。大人しく受け入れろ。でなければ……ジークが動く前に、俺が殺すぞ」
ジークに非があるのなら、ジュノーを守る為に俺の命を懸けて戦うくらいのことはする。その結果、俺とジュノーだけでなく、スタッツの街が壊滅しようとも……だが、この件に関してジュノーから仕掛けるのなら、俺は逆にジュノーを殺してでも止める。そんな馬鹿げたプライドのせいで、スタッツの住人に被害が出るのは我慢ができんからな。
「……分かった。今後一切、こちらからジークに手は出さない。その旨、しっかりとジークに伝えてくれ」
ジュノーが直接言えばいいのに……と思ったが、未だにジークはジュノーのことを疑っている……と言うか嫌っているだろうから、俺から話すのが一番だな。
「それで、ダンジョン核だが……」
「それはジークに返した方がいいだろう。こちらの手元に残しておくよりも、今代の黒が持っていた方が奪われる可能性は低い。それに、何かの拍子にダンジョンのことがバレたとしても、ジークが二つとも持っていれば、スタッツの街とギルドは関係ないと言い張ることが出来るだろう。ただ、くれぐれも手放すことが無いように念を押してくれ。特に、聖国に回すなど間違ってもするな! ……と」
ジュノーから言い出すのは予想外だったが、確かにそれが確実だろうな。ジークはマジックボックスが使えるし、少なくともスタッツ……いや、この国で一番強い言ってもおかしくない存在だ。俺やジュノーが持つよりは安心だし、そんなもんを隠し持っているという重圧から解放されるのはありがたい。
「とにかく、すぐに行ってこようかね? 今だったら、ジークもまだ起きているだろう」
まあ、まだ日は高いし寝る前に飯を食っているかもしれないが、聖女のせいでかなり疲れた様子だったからな。飯も食わずに寝てしまうかもしれないから、速めに行った方がいいだろう……と思って、ジークの下宿先の娼館に来たのはいいが……
「これは……明日にした方がよさそうだな」
聖女はここまでジークについて来ていたらしく、ジークの休まる時間はまだまだ先のようだった。
ちなみに、俺は厄介ごとに巻き込まれる前に、こっそりと退散することにした。流石のジークも、あの状態では俺に気が付くことは無いだろう……と思っていたのに、次の日に再度ジークを訪ねると、
「よく来たね、バルトロ」
「昨日、私たちに聖女を押し付けた上、こっそりと逃げ出したそうじゃない……よく顔を出せたものね」
「いや、別に俺が押し付けたわけじゃ……」
「なら何で、聖女たちの後でこっそりと様子を見ていたんだい? ギルドも聖女に関しては無関係じゃないだろうに」
しっかりとジークにバレていた上、ベラドンナとモニカにまるで俺が黒幕であるかのごとく報告されていたのだった。
その報告を受けたベラドンナは今回の報復として、半年もの間自分の店で使う品をギルド経由で納入させ、おまけにそれらの品に対して仕入れ値よりもかなり低い値を付けたのだ。しかしギルド……と言うかジュノーは、その条件を飲むしかなかった。何故なら、今回の件でジュノーは色々とやらかしているし、何よりもジークにダンジョン核を握られているからだ。まあ、ジュノーとしては何らかの形で借りを返そうとしていたみたいだし、それでも想定を超えた分に関しては俺の貯金やへそくりで補充したので、最終的には予定通りとなったようだ……俺の懐事情を除いて。